馬鹿な冒険者に福音の到来【8】
「……実はね? 私の学校にあるチア・リーディング部の一人が、いきなり風邪をひいちゃってさ?……それで、一人足りない状態になったんだけど、よりによってその日にチア部の大会があったらしくてね……仕方なく代理をする事になったんだよね……あはは」
地味に言い訳がましく……そして、少し気恥ずかしい気持ちなんぞを持ち合わせながらも、リオへと答えたシリアは、そこでハッ! っと、思い出したかの様な顔になってから、再び口を開いた。
「そう言えば、リオちゃん達って、私の近所にある家に引っ越したんだよね? ふふっ! これからは『通い易くなるから』嬉しいよ」
「……へ?」
シリアの言葉を耳にして、リオはポカンとなってしまった。
密かに、リオはシリアへと引っ越した事実を口にしていない。
言わなければ、暫くはシリアが自宅へと訪ねて来る事も無いだろう……と、考えていたからだ。
軽くセコイ。
しかしながら、シリアはしれっと言って来た。
「だ、誰から、そんな話を聞いたの?」
もしかして、お兄ちゃんか?
あのお喋りめぇぇっ!……とかって、リオが内心でミナトに負の感情を傾けていた頃、
「パインさんに聞いたんだよ?……ああ、そうそう! ねぇ、聞いて? パインさんったらね? いきなり私の家に引っ越し蕎麦を持って来たんだよ? それでさ?『これから暫くはご近所さんとしてお世話になるかも知れない女神のパインです! よろしくお願いします!……あ、もしかしたら短い付き合いかも知れませんけど、やっぱりよろしくお願いします!』って、挨拶してたんだよ? おかしいよねーっ⁉︎」
野良女神かよぉぉぉぉぉぉっっっ⁉︎……って感じで、内心で絶叫するリオがいた。
同時に、思わず四つん這いになってしまう。
もう、驚きと衝撃とやるせなさと、下らない挨拶の仕方に脱力してしまう気持ちが、色々とグチャグチャになってしまって、何処を中心的に考えて良いのかで悩んでしまいそうな心理状態に陥っていた。
「そんなパインさんの挨拶に、最初は家の人間もさ? 普通にフレンドリーな感覚で声を返してたんだけど、ミナトの家にいる人だと分かった瞬間に大騒動! おとーさんなんて、猛剣幕で『ウチのシリアを誑かしたヤツの家族か! 許さん!』って感じで、朝から事件だったよ!」
「……それは、賑やかな朝だったね」
「だけど、そこから始まりの女神様……女神・ココナッツが直ぐやって来てね? どうにか、その場は収まったんだけど、本当……朝から大変だったよ?……ま、私は面白かったから良いんだけどね?」
「そうなんだね……はは」
にこやかな笑みのまま言うシリアの言葉に、リオは口元を軽く引き攣りながら声を返していた。
内心では思う。
シリアちゃんも、言う様になったな……と。
ほんの少し前までは、世間知らずの箱入り娘でしかなかったし……リオとしても、色々とコントロールしやすいお嬢様でしかなかった。
しかしながら、ここ数日の間にシリアの精神状態はリオの予想以上に進化してしまったらしく、現在では気丈かつ強かな性質なんぞまで持ち合わせている。
これはリオなりの予測でしかないのだが……恐らく、パインがやって来てから以降、シリアも気丈かつ強かな精神を持たなければならないと、自分なりに考えたのだろう。
結果、急速にシリアは強くなったのではないのか?
……そうと、リオは分析していた。
実は、そこにリオの態度も含まれていたりもするのだが……余談程度にして置こう。
「……で、さ? そこで、パインさんから色々と話を聞いたんだよ? 破滅の女神についても……ね?」
「……そ、そうなんだ」
比較的温和に……でも、真剣さのある語気で答えたシリアに対し、リオはちょっとだけピクッ! っと反応する。
内心は穏やかでは無い。
なんと言っても、一つ間違えれば大惨事になる所だったのだから。
故に、リオとしても言葉を選んでいたのだが、
「パインさんや、ココナッツさんが言ってたよ? ミナトがこの街を救ってくれたんだ……って! 凄いね! 流石はミナトだよ!」
「……はい?」
リオは、ポカーンとなってしまった。
実際問題、リオはその場に居合わせていた訳ではないので、真実を目の当たりにしてはいないのだが……。
「……おかしいなぁ……私がお兄ちゃんから聞いた話とは、全然違う気がするんだけど……?」
リオは、頭上にハテナを浮かべた状態のまま、シリアへと声を返した。
ミナトの話を耳にする限りであれば……パインではなく、ココナッツが破滅の女神になってしまい……あわや大惨事になる所だったのだが、パインやココナッツの母親がその場を収めてくれた為、大事にはならなかった……と、聞いている。
そこに、ミナトの活躍があるとは思えない話だった。




