馬鹿な冒険者に福音の到来【6】
ココナッツを崇拝する信者の恨みを買うのが怖かったミナトが、数秒を必要とせずに根負けしていた頃、
「最初から、素直にそう言ってくれれば良かったの……全く、まさか普通の会話をするだけで、ここまでの事を言う事になるとは思わなかったわ……」
ココナッツは地味に疲れた様な顔になって言う。
ミナト的に言うのなら『むしろ、こっちの方が疲れたのですが?』と、言いたい気持ちで一杯になっていた。
「……それで? ミナトはこの屋敷を出て行くつもりなの? 不満があると言うのなら聞きましょう?」
「いや、特にないよ? むしろ、びっくりするぐらいに不満なんて無いね?」
「……? それなら、別にこの屋敷から出て行く必要なんて無いじゃないの? どうして、元居た自分の荒屋に戻ろうとしているの? 訳が分からないわ?」
「……そうだと思う。きっと、この話を聞いたら、リオだって驚くんじゃないのかな?」
不思議そうな顔になって言うココナッツの言葉に、ミナトも苦笑混じりになって肩を竦めた。
途中、パインが『何を言うのですか、ミナトさん! あの荒屋には沢山の埃と、ビックリするまでのネズミがで満ち溢れているじゃ無いですか!』……って感じの台詞を、思い切り気合を入れて力説していたんだけど……綺麗にミナトとココナッツの二人にスルーされていた。
完全なる空気と化してしまったパインの眉が斜め四十五度になっていた頃、
「そうでしょうっ⁉︎ リオちゃんだって悲しむわ? だって、今日も学校に向かって行く時に『これで、胸を張って友達を自宅に呼べます!……実は、自宅でホーム・パーティとかするのに憧れてたんですよね〜?』なんて言ってたわ? そんなリオちゃんの気持ちを踏み躙る気なの? 兄として、そんな事は出来ないわよね?」
ココナッツはミナトへと口早に畳み掛ける感じの台詞を、猛然と捲し立てていた。
すると、ミナトは目をミミズにした状態のまま答える。
「……あ、いや……リオは別にこのまま、こちらでご厄介になっててくれても……」
「馬鹿な事を言わないで頂戴! もし、そんな事になってしまったのなら……リオちゃんは激怒よ? もちろん、私だって最高の怒りで心が燃え上がるわ?……だって、考えても見て? もし、そうなったのならミナトさんは一人で、あの荒屋に戻ると言う事になるのよ?」
ココナッツは更にヒートアップする形で、遮二無二がなり立てる!
その直後『いや、ミナトさん一人な訳が無いじゃないですか? もちろんパインさんも戻るから、二人暮らしです!』って感じの台詞を言っていたんだけど、ココナッツは意図的に無視していた。
ミナト的には『ああ、そうなるのか?』的な軽い考えでしか無かったのだが、ココナッツからすれば、この上なく都合の悪い話だったので、完璧に両耳を塞ぎたい気持ちで一杯だったのだ。
中々どーして、ココナッツもしたたかな女神である。
「ともかく! 勝手に屋敷から抜け出すなんて……この私が許しません! もし、この屋敷を出て……あの荒屋に行くと言うのなら、パインをこの屋敷に監禁……もとい、屋敷に閉じ込めてからにして貰いたいわ? そして、もちろん私もあなたの自宅について行きますから!」
「コォォォラッッッ! ふざけんなココナッツ! 何処まで身勝手な事をほざいて来るのです!」
更に、瞳をキラキラと輝かせながらも叫んでいたココナッツがいた所で、とうとうパインの怒りが大爆発を起こしてしまった!
そこからは、地味に大変な事になった。
ミナトの自室にて、キータ国の二大女神が無駄に低レベルな取っ組み合いの喧嘩を始めたのだから。
「………」
ミナト無言。
見ている限り、この二人が女神である様には到底見えない。
普通に、相手の髪を引っ張ったり、口をにゅいんっ! っと引っ張ったり、頭を叩いていたりと……まぁ、地味に醜い喧嘩の様子が、無駄に分かりやすく展開されていたのだから。
本当に、この二人は何をやっているのだろうか?
「……はは」
ミナトは苦笑する。
そこには、呆れの感情もそこかしこに含まれてはいた。
……そう。
含まれ『てはいた』のだ。
つまり、純然たる呆れではない。
そこには、ちょっとした安堵も含まれていた。
安堵の念が含まれていたのは他でもない。
「……ま、破滅の女神と恐れられている二人も、こんな感じで喧嘩している分には、単なる仲良し姉妹だな」
苦笑のまま、ミナトは答えた。
どこの誰が言い始めたのかは知らないが、確かこんな言葉があったなぁ……と、ミナトは曖昧ながらに考える。
「喧嘩する程、仲が良い……か」
昔の人は上手い事を言う物だ……そんな事を考えるミナトがいた。
今日もキータの街は、おしなべて平和その物であった。




