【9】
プスプスと煙を上げる三頭竜。
完全に絶命したのを確認すると、ういういはナイフを片手に鼻唄混じり。
「ふんふんふ~ん♪ 今回は頑張ったから、絶対に金になる~」
もう上機嫌だ。
一応、素材屋に持って行かないと分からない代物ではあるのだが、確実に良い値段で売れる。
思い、ドラゴンの鱗を何枚かひっぺ返しては、みかんが所持している異空間行きのアイテムボックスの中にヒョイヒョイと入れていた。
程なくして。
「……お」
次の階に繋がる階段と宝箱が。
呼吸をするが如く、当然の様に宝箱を開けて見る。
中には金の固まりが入っていた。
「……金だと?」
ういういはつまらない顔になる。
それと言うのも、この世界における金の価値は希少金属の半分程度しかないのだ。
しかし、それでも金貨の材料になってるだけあり、それなりの価値はある。
見た目ではあるが、時価一千万マールはあるだろう。
当然、頂いて行く。
「よぉ~し! 金目の物はもうないな! 行こうかっ!」
誰もがわかるんじゃないかって位、ハツラツ笑顔のういういがいた。
彼女は、どうしてここまで金目の物にがめついのだろう?
ふと、近くにいたみかんが内心でのみそう思ったのだが、それ以上の事を考えない様にした。
恐らく、この性格は死んでも直らない。
そうと、みかんは思っていたからだ。
「それにしても、後続の人らは来ないねぇ」
そこでみかんはポツンと誰に言うわけでもなく呟いて見せた。
あの溶岩地帯を抜けるのはかなり骨ではあるのだが……しかし、だからと言って誰も追い付いて来ないと言うのは些か不自然だ。
スタート時には三百人はいたのである。
しかし、今はどうだろう?
もう既にみかんとういうい以外に冒険者はいない。
流石に滑稽と感じた。
「何か、下で起こってるんですかねぇ」
「さぁな? それよりも続きだ続き。ぼやぼやしてるなら先に行くぞ?」
「ああ、みかんも行くよ~」
不自然な位にやって来ない後続に幾ばくかの疑念を抱きつつも、みかんはういういを追う様な形で、次の階に続くだろう階段を登って行った。
▲△▽△▲
比較的長い階段を登り切ると門があった。
またもや、ゴツい門だ。
「……まさか、いきなり強いのが出て来るってオチか?」
門を見た直後に、ういういは苦い顔になる。
難易度Sと言うのは、どうやら伊達ではないらしい。
「ま、用心して開けますかねぇ」
言い、みかんはゆっくりと門を開けた。
ギギギィィ………
やっぱり古い洋館の扉みたいな音を出して門が開く。
その先にあったのは塔の外だった。
正確に言うと塔の中腹辺りにある塔のテラスの様な物。
結構な広さがあり、ちょっとした広場の様な場所である。
ついでに、見晴らしが良い。
「おお~~っ! いいね! 絶景だな~!」
テラスの外側に立ったういういは、そこから見える周囲を軽く見据える。
ダンジョン攻略の途中ではあるが、こう言った普段見慣れない物を拝見すると、少しクエストの醍醐味を垣間見る事が出来る。
そんな気持ちにさせられた。
……が、しかし。
グォォォンッ!
重低音の咆哮が上から聞こえた。
明らかにモンスターだ。
しかも、普通のモンスターではない。
「もう出て来るのかよ……」
少しは休ませてくれよと、内心でぼやきたくなるういういがいた。
とは言え、それで本当に休ませてくれる筈もない。
………バサバサッ!
強烈な羽根音。
同時に周囲にけたたましい風圧が生まれる。
「……くっ!」
ういういは思わず風圧に押され、片目を軽く瞑ったまま、腕で顔を覆った。
上空からゆっくりと、二人の前にやって来たのは、全長十メートルはあるだろう、巨大なワイバーンだった。
両手の羽根を大きく広げれば十五メートルは行きそうだ。
もはや飛竜と呼んだ方が良いかも知れない。
「こ、こんなのとやるのかよ」
さっきの三頭竜と良い、こいつと良い……見事なドラゴンのバーゲンセールだ。
もう少し手加減してもらいたいと、心の中でういういがぼやきを入れていた時。
バサバサッ………
上空の方から再び羽根音がする。
「……まさか、な?」
正直、上を確認するのが嫌になった。
一頭だってハチャメチャなのに、この上もう一頭いるとか、もう現実逃避レベルだ。
しかしながら、現実はとても残酷だった。
「その、まさかの様ですねぇ。やってくれるです~」
「双頭竜とでも言いたいのかよ……」
そう言うのは、さっきの三頭竜みたいに、二つの頭を持った竜を指すのが一般的なのだが、当然ながら今回は違った。
普通に二頭いた。




