最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【21】
蹴りを降りきっていたら、確実に足が黒こげになる所だった。
さっきとは、動きも段違いで早くなっているな……と、ユニクスは内心でのみ呟き、自分からヒャッカの足を離して後方に退いた。
退いたと同時に、反転して体勢を元に戻した混沌龍が再びドラゴンブレスでユニクスへと追い討ちを掛けて来た。
……だが、しかし。
追い討ちを掛ける形で飛んで来たドラゴンブレスが、ユニクスの場所へと到達していた頃には既に彼女の姿はなかった。
追い討ちを掛けて来る事をあらかじめ予測していたユニクスは一手先を読む形で動いており、
ドカァッッ!
素早く混沌龍の背後に回り込んで、渾身の蹴りと放っていた。
「……くはっ!」
一瞬で背後に回り込まれた混沌龍は、ドラゴンブレスを吐き出すと言うモーションを行った分だけ反応が遅れ、ユニクスの蹴りを背中で受けてしまった。
蹴り飛ばされた混沌龍は前のめり状態で吹き飛ぶが、ユニクスは深追いする事なく混沌龍の状態を冷静に見定める。
「……ちっ」
混沌龍は軽く舌打ちした。
追いかける形で追い討ちを掛けて来た時は、すかさずカウンターをしてやろうとしていたのだ。
戦況は一進一退。
実力的にほぼ互角の戦いであったのだが、状況判断の上手なユニクスが若干上回っているかと言う形であった。
「……ぐ、くぅ……くそ……」
大地のエネルギーを吸うと言う、地味に反則的なパワーアップの仕方をしていたと言うのに、それでも劣勢に立たされた混沌龍は、悔しさの余り無意識に歯を食い縛っていた。
誕生したばかりとは言え、やはり勇者は強かった。
その正体は謎ではあるのだが、しっかりと正式な啓示を受けた事で正統勇者の能力を得たユニクス。
街の未来を賭けた勇者ユニクスの戦いも、いよいよ佳境を迎えていく。
「……リダ様! あの技を拝借します!」
ユニクスは大声で叫ぶ。
「……あの技?」
ユニクスの叫び声を聞いたリダは、少しだけキョトンとした顔になった。
……一体、どんな技だろうか?
ふと、そんな事を胸中でのみ考える。
だが、しかし。
「私の技が使えるのなら、使って見ろ……どんな技を指して言っているのか知らないが、見よう見まねで簡単に出来る代物ではないだろうしな?」
リダはニッと挑発的な顔になって言う。
ここらで、リダはなんとなくユニクスがこれから出そうとしている技が何であったかに気付く。
そして、気づいた上で思うのだ。
ちゃんと教えたのならまだしも……この大一番で、見よう見まねのまま出すとか……でたらめ過ぎて面白い!
……良いだろう、やれるものならやって見ろ!
「はいっ! ありがとうございます!」
ユニクスは満面の笑みになった。
彼女にとってリダは友達であり、恋人にしたい相手(後にちょっと色々ある)であり、師匠でもある。
これは、後にフラウもリダを魔法の師として大魔導師へと成長して行く話にも繋がるのだが、Verが違うのでここまでにして置く。
顔を一気に引き締めたユニクスは、
「いくぞっ!」
一つ、大きく吠えた。
混沌龍はビクンッ! と、一瞬だけ身体が跳ねた。
その瞬間、物凄い気迫がユニクスからやって来ていたからだ。
間もなくして、ユニクスは身体が分裂した。
正確に言うと残像なのだが、対峙している視点からするのなら、それは分裂した様にしか見えない。
二人になったユニクスはやがて四人になり……最後に四人が八人になって行く。
八人になったユニクスは一斉に動き出し、混沌龍を取り囲むと……多角面からユニクスの蹴りが飛んだ。
「……は? え?……う、うわぁぁぁぁっ!」
断末魔にも近い叫び声が、周囲に木霊した。
「……アイツ」
リダはちょっと複雑な顔になってしまった。
リダが持つ必殺技の一つ……残像連脚。
奇しくも、この技はリダが剣聖杯の決勝で、ユニクスにトドメを差した時に使ったフィニッシュブローでもあった。
「本当に……見よう見まねだけで、完璧にコピーしやがった」
天才過ぎるだろう……とか、内心でぼやきたくなる。
始祖でもあり、この技を作った元祖でもあるリダではあるが……この技を完成させるのに結構な時間を必要としていた。
こんなに簡単に使われてしまうと、オリジナルでもあるリダの立つ瀬がない。
けれど、思う。
これで、また新しい強力な味方が増えた……と。
ユニクスとは色々あったが、今では仲間だ。
頼もしい、強力な仲間なのだ。
リダの感覚で言うのなら、いっそ自分を越えてくれても構わないと思っている。
まぁ、ちょっと悔しいので、ちゃんと抜かされない様に自分を強くして行くつもりではあるのだが。
けれど、それとは別に、味方が強くなってくれた事への喜びもある。
「早々、遠くない内に……ユニクスは私の強力なライバルになるかも知れないな」
答え、リダは小粋に笑った。




