最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【16】
「一つ尋ねたい」
ヒャッカはそれとなくみかんやリダへと声を向ける。
「何だ?」
「ほむ、聞きましょう」
みかんとリダは、取り敢えず耳を傾けて見せた。
この二人の態度を見てヒャッカは自分なりの仮説を立てる。
今の所、理由は不明ではあるが、この二人は自分を本当の意味で敵対しようとしている訳ではない。
その理由も、ヒャッカの視点からするのなら全くの不明だ。
長い封印から解かれたばかりのヒャッカにとって、現状と言う物が全く把握出来ていなかった。
彼女の視点からするのなら、五十年前に封印され……そして今になって自由になった。
これだけしかない。
そして、封印から解き放たれ、自由の身になって早々に異様な実力を持つ三人がいた。
当然、ここに至るまでの経緯はあったのだろうが、そんな事をヒャッカが知るよしもない。
久しぶりに外の世界へと出て来る事が出来たので、早速自由気ままに暴れてやろうか!……程度の考えしか持っていなかった。
まずは手始めに、無謀にも自分の眼前にいた三人を血祭りに上げてやろうと思っていた矢先……逆に殺され兼ねない実力の持ち主だったと言う、予想外の顛末に動揺を隠せないでいた。
しかし、どう言う訳か?
向こうはまだ本気で自分を殺すつもりはない模様だ。
上手くやれば逃げる事だって可能だ……と、この時のヒャッカは考えたのである。
一体、何がどんな経緯を経て、今の様なふざけた状況へと発展しているのかなど知らないし、興味もない。
つくづく不条理だと思いはするのだが、現状を打破しない限り自分の自由が訪れる事はないだろう。
眼前にいる謎めいた二人の実力……リダとみかんの能力は、例え単体であっても今のヒャッカを大幅に凌駕しているのだから。
……だが、ここさえ上手に立ち回り、しっかりと逃げ出す事が出来たとすれば、今度こそ自分に真の自由が生まれる。
その暁には、混沌龍らしくこの世界を蹂躙し、勝手気ままに混沌を振り撒いてやろうか。
そうと、心の中でのみ考えたヒャッカは……不思議そうな顔のまま、リダやみかんへと口を動かして行った。
「どうして私を狙う? 私が貴様らに何か悪い事でもしたと言うのか?」
ヒャッカは不思議そうな顔になって尋ねた。
実際、ヒャッカはまだ何もしていない。
強いて言えば、ユニクスを吹き飛ばした程度だろうか?
それ以外は、全くと言って良いまでに文句を言われる様な真似を一切してはいなかった。
当然、そればヒャッカの観点で考えての話なのだが。
「お前の仲間を襲った事は謝ろう……私も、封印が解けたばかりで、少し錯乱していたんだ」
実際は、錯乱などしていなかったのだが、その場しのぎで頭を下げて見せる。
混沌龍ともあろう存在が、まさか人間を相手に頭を下げる日が来るとは夢にも思っていなかったし、正直屈辱でしかないのだが……命あっての物種である。
今はプライドより自分の命を優先すべきだ。
「……なるほど」
リダは、両腕を組みながら頷いた。
何故か、侮蔑の視線をヒャッカに向けていた。
「ほむぅ……催眠魔法が原因とは言え、混沌龍も落ちた物ですねぇ……」
そこから、みかんが嘆息混じりにぼやいて見せた。
ヒャッカは心の中でのみ、歯を食い縛る。
完全なる蔑みに、腸が捻れそうな思いだ。
どう言う訳かは知らないが、この二人は自分がそれとなく命乞いに近い行動に出ていると言う事をすぐに悟った模様だ。
簡素に言うのなら、二人の目には猿芝居をしてまで助かろうと必死になっている、哀れな混沌龍の姿に見えていたのだ。
ヒャッカの精神へと、動揺と怒りが同時に込み上げて来る。
黙れ! 下等な人間ごときが!
貴様らゴミの様な存在が一瞬でも私を罵倒する様な態度など、本来ならあってはならないのだ!
この苦しみ……口惜しさ……いつか万倍にして返してやろう!
次に会った時は、ただでは殺さん……ありとあらゆる絶望を見せた上で、ゆっくりとなぶり殺しにしてやる!
ヒャッカの心中で、憎しみのベクトルがいたずらに増幅して行く。
……その時だった。
「……っ!」
尋常ではないエネルギーが込められた衝撃波が、ヒャッカ目掛けて飛んで来た。
突然の事にふためくヒャッカだったが、なんとか寸前の所でかわして見せる。
衝撃波を放った張本人……ユニクスが、みかんとリダの近くにやって来たのは、そこから間もなくの事だった。
「お~。やるなぁ、ユニクス。あの攻撃を喰らって吹き飛んでたから、しばらくは帰って来ないと思ってたぞ」
ユニクスの姿を確認して、リダは感心する様な声を出す。
完全にジャストミートする形で飛んで行った為、相応のダメージを受けていたと予測していたのだが……リダとみかんの前に現れたユニクスは、見る限り大したダメージを受けていない。
まだまだ戦えると言う事実を無言で語っていた。




