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最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【15】

 しかし、半死半生状態に追い詰める事だけは成功した。

 これで、リダの催眠魔法が発動すれば全てが終わる!

 ……そうと、みかんが内心で考えていた時だ。


 シュゥゥゥン…………


 妙な音を立て、混沌龍の傷口が塞がって行く。


「……え?」


 みかんは思わずポカンとなる。


「ま、まさか……自己回復スキルとか持ってるです?」


 見る限り、かなり驚異的な速度で……見る間に傷口が塞がって行くのが分かった。


「……こんな能力まであるのかよ」


 物凄い勢いで回復して行く混沌龍を見て、リダも唖然とした顔になる。

 やってくれる……そうと、内心でのみ舌打ちした。


 いよいよ、催眠魔法の発動タイミングが超困難になって来た。


 ただでさえ、殺さず生かさず状態を狙わないと行けないと言うのに、驚異的なスピードで回復までされた日にはたまった物ではない。


「……ま、参ったです」


 みかんはホトホト困った顔になってぼやいた。


 そうこうしている内に、混沌龍の傷が完全に消えた。

 

『よくもやってくれたな……』


 間もなく、混沌龍の口から言葉が出て来た。


「……喋れるんだな」


 リダはちょっとだけ意外そうな顔になった。


 冷静に考えて見れば、元は優しい女性として、この街に溶け込んでいたのだから、人間の言葉くらいは話す事が出来るのだろう。

 そう考えれば合点が行く。


 ……そして。


 間もなく混沌龍の身体がしぼむ様に小さくなり……人間の姿に変化した時、元々のヒャッカと言う女性が五十年前に街のみんなから愛されていたんだと言う理由も良く分かった。


「……人間にもなれるんだな」


 一応、昔の話を聞いてはいたが……唐突に女性の姿になった混沌龍を見ると、一概に信じられない部分があった。

 少なくともリダにはそう感じた。


 ……そもそも?


「なんで、いきなり人間になったんだよ……?」


 怪訝な顔になってリダは言う。


「……さぁ」


 みかんも良く分からなかったらしく、小首を傾げていた。


 そんな中、二人を憎々しい眼差しで睨み付ける混沌龍……ヒャッカが口を開いて行く。


「貴様らは何者だ? どうして私の邪魔をする? この街がどうなろうと、貴様らには何も関係はしないのではないのか?」


「そこは……まぁ、大体当たってる。私らはここの街に何らかの愛着があるとか、愛郷心があるとか、そう言うのはない」


 完全に敵意しか感じられないヒャッカに、リダは一応の相づちを打って見せた。

 そこからワンテンポ置いて、みかんも頷いてみせる。


「そうですねぇ……そこはみかんも同じかもです」


「……なら、どうして私の邪魔をするんだ? お前達にとって、それはどうでも良い事だろう?」


「どうでも良くないから、ここにいるんじゃないかよ」


 再び同じ質問をして来たヒャッカに、リダは嘆息混じりになって返答した。


「そりゃな? ここは私にとってはただの観光先だよ? 言うなればただの余所者よそものに過ぎない。場合によっては地元の人に余計なお節介を焼くなと言われかねない事をしているかも知れない?」


 だが、しかし。


「それでも、放って置く訳にも行かないだろう?……困ってる街の人がいるんだからさ?」


 リダはニッと快活に笑う。


 それは偽善かも知れない。

 余計なお世話かも知れない。

 独りよがりな正義を、勝手に振りかぶっているだけと言われたら、もうそれを否定する事すら出来ないだろう。


 けれど……困ってる人を見過ごす事だって出来ない。


「私の友達の故郷がこの街だ……理由なんて、これだけあれば十分だと思うが? だめかい?」


「みかん的にはそれで良いと思う」


「………」


 二人の言葉に、ヒャッカは無言になる。

 

 少しの時間だけ、周囲に沈黙が生まれた。


「……そうか」


 静寂を破ったのはヒャッカだった。

 彼女はゆっくりと目を瞑り……軽く瞑想する形を取ってから再び口を開いた。


「貴様らの強さは、私の能力を遥かに超越している……さっきの魔法を受けて実感した」


 ヒャッカは俯きつつ、喉から声を絞り出す様に答えた。

 きっと、そこには悔しさと恐怖が混じっていたのかも知れない。


 本当の所は分からないが……見る限りで、そう感じた。


 しかし、それでも敢えて人間の姿になったのには理由がある。


 この時のヒャッカはこう思った。


 自分を殺す気でいたのなら、とっくの昔に殺されている……と。


 けれど、相手はそれをやって来ない。


 活路がそこにあるとヒャッカは考えた。

 つまり、正攻法で物理的に戦っても勝てない為、違う手段を取るべきだと判断したのである。

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