最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【14】
……とは言え、このまま後手に回ってばかりいては、こちらの身がもたない。
相手を弱らせる程度の攻撃をするしか、現状の選択肢は残されていなかった。
「……能力的に、前の混沌龍は参考にならないです……けど、五十年前に封印する目的で戦った混沌龍の能力を基礎にして、その全てのステータスが倍加されている筈」
誰に言う訳でもなく呟いたみかん。
現状では有力な予測だと考えている。
伝承の道化師が良くやりそうな手だと思った。
みかんと伝承の道化師との因縁は深く……そして、長い。
長い長い歴史の一頁を追って行くと、みかんと伝承の道化師は幾たに及ぶ激戦を繰り広げていた。
これについては、リダVer(第二編・リダさん、死闘の果てに!)にて少しだけ語られているので、気になった方は軽く見てみよう。
閑話休題。
問題は……どの程度の倍加が加わっているかであった。
動きを見る限りだと、軽く二倍は倍加されている。
しかし、必ずしも本気であるとは限らない。
そうなると、三倍程度の倍加であろうか?
かつての混沌龍にあった能力の三倍相当の生命力があるのであれば、みかんが放つ超魔法を受けても死ぬ事はないだろう。
だが、これが二倍程度であったのなら?
実は生命力的なステータスは一切の倍加がなされておらず、他の能力だけを倍加されていたとするのなら?
みかんの中で大きな葛藤が生まれる。
「……くぅ……」
苦い顔になって苦悶の表情を浮かべる。
果たして、みかんが下した決断は……相手の耐久力がどの程度であるのかを、地道に見抜くと言う物だった。
一気に決める必要はない。
ここは、致命傷には至らない攻撃で、チクチクとダメージを与えて行き、相手の能力値を正確に分析して行く事が、結果的に解決への近道になると考えた。
そこまで考えた時、みかんは右手を混沌龍へと向ける。
他方の混沌龍は、負傷したリダを先に始末しようと、執拗にリダを攻め立てていた。
リダも応戦はしていたのだが、右腕が使えない状態では上手に立ち回る事が出来ず、一方的に防戦する形を取っていた。
……様に見えた。
実際は少し違う。
この時のリダは、わざと右手を回復させないでいた。
簡素に言うのなら、その気になれば自分で自分に回復魔法を施す事は可能だった。
だが、それをしなかった。
理由は実にシンプルだ。
みかんが何かを考えていた様に見えたからだ。
ここからリダは、機転を利かせる形で敢えて自分から囮役をやって見せたのだった。
リダはリダなりに、みかんへと絶大な信頼を持っていたのである。
そして……みかんも、その信頼に応える必要があった。
炎熱爆破魔法!
ドォォォォンッッッ!
みかんの放った魔法は、混沌龍を完全に捉える形でクリーンヒットする。
しかし、混沌龍の堅い鱗に弾かれて、全くと言って良いまでにダメージを受けていない。
「……ほむ」
なるほど……と、みかんは心の中でのみ頷く。
その直後、攻撃魔法を受けた混沌龍がみかんへと攻撃を開始するかと思いきや……やはり、その矛先はリダのままであった。
恐らく、ノーダメに近い攻撃魔法は取るに足らない為、無視する考えなのだろう。
それよりも、負傷しているリダを先に倒して置く事を優先した物と思われる。
「……なんか、バカにされた気分で一杯なのはどうしてでしょうねぇ……?」
思わずぼやきがみかんの口から出てしまう。
反面、これは大きなチャンスだとも考える。
攻撃の意思がリダだけに向いていると言う事は、みかんは完全フリーな状態で立ち回る事が可能と言う事になる。
言うなれば、一方的に攻撃魔法が撃てると言う事だ。
「上位魔法レベルならビクともしないって言うのなら、この魔法を受けても大丈夫な筈です」
答えたみかんは、頭の中に魔導式を紡ぎ出し……ゆっくりと右手を向けた。
それは、リダが良く使う超魔法。
実は、この魔法。
みかんがリダへと教えた魔法でもある。
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォンッッッッ!
先程とは比較にならないまでの超火力で、混沌龍が大爆発した。
少し前に放った炎熱爆破魔法が、逆に良かったのかも知れない。
限りなくノーダメに終わってしまった為、混沌龍が大きく油断したからだ。
この油断により、混沌龍は全く避ける素振りも見せなかった。
それが、大きな命取りになる事も知らずに。
『グガァァァァァッ!』
混沌龍が大きな叫び声を放った。
先程の一撃ではビクともしなかった鱗が見事に陥没していた。
陥没した鱗からは、どす黒い血の様な液体が流れる。
「……おふぅ……少しやり過ぎたかもです」
混沌龍の一部が見事に消し飛んでいた状況を見て、みかんは思わず眉を歪めた。




