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最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【13】

 その気になれば、シズが作った透明な壁の上を歩く事だって出来るレベルだった。


 当然、それより下に行く事は、シズが剣聖の護りを解除しない限り無理だった。


 結果的に逃げ道は空しかない。


 三人は逃げるスペースを確保する為、上空へと混沌龍を誘き寄せる形で飛んで見せる。

 予測通り、混沌龍カオスドラゴンは、三人を追い掛ける形で上空へとやって来る。

 

 だが、ただ追いかけて来るだけではなかった。


 ゴウゥゥッ!


 下から突き上げるかの様な勢いで、強烈な火炎が三人へとやって来た。

 追い掛ける形で高度を上げて来た混沌龍は、三人を射程圏内に捉えた瞬間、口から燃え盛る火炎を吐き出して来たのだ。


「集まるですっ!」

 

 火炎がやって来た瞬間、みかんは声高に叫ぶ。

 同時に、リダとユニクスの二人はみかんの近くに集まった。

 その瞬間、みかんの周囲に球体が出現して、混沌龍のドラゴンブレスを防いだ。


「ふぅ……危ない、危ない」


 みかんはホッと一息。

 

「ナイス、みかん! 助かった!」


「そうですね! 一瞬で混沌龍の火炎を防ぐ魔導壁を張るのは予想外でした!」


 リダとユニクスも絶賛する。

 ……が、悠長な事を言っていられたのは、ここまでだった。


 ドゴォォッ!


 次の瞬間、混沌龍はみかんの展開した球体に体当たりをして来た。

 この一撃によって球体に大きな衝撃が加わる。


「うわぁぁっ!」


 ユニクスは思わず悲鳴をあげた。


「……くそ。直撃よりはマシだけど、結構しんどい衝撃を喰らうな……」

 

「と、とりま、魔導壁は解くです! 今度は四散しましょう!」


 吠える様に叫んだみかんは、間もなく周囲に展開していた球体を消滅させる。

 ほぼ同時に、三人は蜘蛛の子を散らすかの様に分散して行く。


 この瞬間を狙っていたのか?

 混沌龍は、狙いを一点に定めて攻撃を開始する。


 最初に標的としたのはユニクスだった。


 勇者としての啓示を受け、かなりのパワーアップをしたユニクスではあったが……それでも、リダやみかんと対比すると幾分か能力的に劣る。

 これらを本能で察知したのか?

 混沌龍は、真っ先にその矛先をユニクスへと向けたのだ。

 

「……っ!」


 ユニクスは大きく目を見開いた。


 自分の方へと混沌龍が牙を向けた事に驚きを感じていた訳ではない。

 その驚異的な素早さに驚いた。


 目寸法だが、全長三十メートルはあるだろう超巨大なドラゴンだと言うのに、その俊敏性はユニクスの想定を大幅に上回っていた。

 

 一瞬にして、ユニクスの視界はドラゴンの体躯で埋まった。


 圧倒的な体格差もあり、視界がドラゴンの鱗しか見えない状態になってしまったユニクスは間合いを取りに行こうと、素早く後方に飛ぼうとするのだか、

  

 ドカァッッ!


 後方に下がるより先に、混沌龍の手のひらがユニクスを襲った。


 見る限り、それは単なる平手打ちにしか見えない物であったが……大きさと威力は桁違いだ。

 ユニクスの全身を覆う事が出来るだろう巨大な手のひらは、そのまま勢い良く振り抜くと彼女を一瞬で吹き飛ばして見せる。


 この瞬間、ユニクスは音速以上の勢いで吹き飛ばされ、虚空の彼方まで突き進んで行った。


 ……すると、吹き飛んだユニクス目掛けて混沌龍は口を開ける。


 ボウゥゥッ!


 一瞬後、混沌龍の口から巨大な火炎の球が放出された。


「っ! まずいっ!」


 叫んだリダは、放出された火炎の球を弾こうとして、そのまま超速度で火炎球の正面に立ち塞がった。

 

 ドォォォォォォンッ!


 その瞬間、火炎球が大爆発して見せる。


「リダっ!」


 みかんは叫ぶ。

 叫んだ直後に、身体も動いていた。


 爆破されたリダの元に、素早く飛んで行ったみかんは、


「いたたた……ごめん、ドジ踏んだ」


 全身煤すすだらけになりつつ、右腕を庇う様に左腕で押さえていたリダを見つける。

 どうやら、あの爆発はリダも予測出来なかった模様だ。


 本来なら、火炎の球になっている状態で弾き返すつもりだったのだが、その瞬間に火炎球が大爆発してしまい、不意を突かれたリダは逃げる事も出来ずに負傷してしまった。


「すぐ、回復させるです!」


 言うなり、みかんは上位ハイ治療リカバリィを発動させようとするが、


 ブゥゥゥンッ!


 直後、混沌龍の尻尾が飛んで来た事で、魔法の発動を強制キャンセルさせられる。


「……思った以上に大変です」


 苦い顔でみかんは言う。

  

 純粋に倒す事は簡単だ。

 その気になれば、一撃で粉砕する事だって出来る。

 みかんの会得している超魔法やスキルを駆使すれば、それは造作もない事だ。


 しかし、前にもシズが述べていた通り、それだけではダメなのだ。

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