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最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【12】

 これらの関係もあり、今のゴヒャク池の近くで見守っていたのは、剣聖の護りを発動させているシズと、その隣で固唾を飲むフラウの二人だけになっていた。


「シズさん……勝てると思う?」


 フラウはポツリと尋ねた。

 彼女の知る限り、リダやユニクスは尋常ではない戦闘能力を誇示しているとは思う。

 しかし、相手はドラゴンの中でもかなり上位に位置する超凶悪な混沌龍カオスドラゴン

 一筋縄では行かない事だけは、フラウの目にも分かる。


「う? 焦点はそこではないと思う」


「……? どう言う事です?」


「う? 簡単な事。ただ倒すだけなら、あの三人で十分に倒せる……混沌龍の力が以前の数倍にもなってはいるかも知れないけど、そこを含めても余裕だと思う」


 シズは冷静に分析する形で口を動かす。

 その内容を耳にする限り、然したる問題はなさそうであった。


 ……が、シズの顔はすぐれない。

 明らかに不安の色合いを含ませている。


 それだけにフラウは大きく気になった。


「じゃあ……何が問題だと言うのです?」


「ただ勝つだけではダメだと言う事だ、う~……ズズッ」


「……ああ、そうか」


 神妙な顔になってお茶をすするシズの言葉を耳にして、フラウはハッとなる。

 そうなのだ。


 昨日に行ったリダとみかんの話し合いでは、今の状況は保留になっている二番目のプランに値するのだが、その作戦が開始されていたとするのなら、


「混沌龍を精神的に弱らせないといけないのか」


「そう、そこがポイントなんだ、う~」


「なるほど……確かに難しいですね」


 言ったフラウは、顔でも難しい顔になる。


 実際問題、どのタイミングで混沌龍に催眠魔法を掛けるのが正しいのか?

 精神的に弱っているタイミングと言うのは、余りにも曖昧なのだ。


「う~。リダの放つ催眠魔法がどの程度の魔力を消費する魔法なのかは分からないが、魔力を消費すると言う事は、必ず限界がある……場合によっては一回しか撃てない場合だって考えられる」


 つまり、それはチャンスには限りがある事になる。

 更にシズは、お茶を軽く啜った後に、再び口を開いた。


「だからと言って、本当にギリギリを狙い過ぎたのなら、今度は混沌龍の身体が持たない。場合によっては混沌龍が死んでしまう時だってある」


 これが、単純に倒せば良いと言う訳ではない所以だった。

 力加減を大きく間違えてしまえば、ヒャッカの命を奪いかねない。


 みかん達の目的は飽くまでも混沌龍ヒャッカを元の穏やかな女性に戻すと言うのが最優先事項なのだ。

 

「……そうか、そうなるのか……」


 だからと言って、手加減をし過ぎたのなら、今度はこちらが危険になる。

 向こうは殺すつもりで攻撃を展開して来るからだ。

 微妙かつ絶妙なさじ加減が必須の戦いとなる事は明らかであった。


「状況によっては、リダ・みかん・ユニクスの誰か一人が戦うと言う手段もあるかも知れない……が、これだと、その一人だけに大きな負荷が掛かってしまい、より危険を招く可能性もある……う~。本当に難しい選択を強いられる事になる」


 そして、その一方で……。


「時間もある。これだけの大きな剣聖の護りを長時間展開する事は、私には難しい……う~、申し訳ないが一時間程度でこの護りは消えてしまう」


「しっかりと調整をしつつ、短期決戦を狙わないと行けないって事ですね?」


「そう言う事になる……う~」


 シズは少し申し訳ない顔になった。

 しかし、これだけの大きなバリアを一時間もの間、ずっと展開出来るシズは凄まじい。


 それだけに、フラウは真剣な眼差しを見せてシズに答えた。


「シズさんは凄いです! 流石は剣聖だと思います! 普段はポケ~っとしてるから、本当に凄い人なのかな? って割りと本気で思ってましたけど、違うって事がわかりました!」


「う? うぅ……私はそこまでポケ~っとしていたのか? 次はもう少し気を付けて置こう」


 気合いを入れて称賛したフラウだが、かえってシズをヘコませる結果になってしまった。

 

「あ、いっいや! 何て言うか……その、言葉のあやです! 実際は違うって事が言いたいのです!」


 フラウはふためき加減の顔になって口早に声を張り上げて行く。


 ……その後、しばらくシズがどよ~んとした顔のまま、寂しくお茶を煤っていたのだが、余談程度にしておく。




    ▲○▽○▲



 

 他方、こちらは戦闘サイド。


 遂に戦いの火蓋ひぶたが切って降ろされた。


 地上は、シズが張った剣聖の護りによって完全防備が出来上がっていたのだが……逆に言うと、その外側にいるみかん達はその加護を一切受けない。


 それ所か、逆に弾き出されている状況だった。

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