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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
新・家族旅行?
73/284

屋敷[3]

次は来年になります。

皆様、よいお年を。

 屋敷の中は古いもの、懐かしいものでいっぱいだった。

 あたりまえだがオルガにとっては未知のものばかりで説明を求められたけど、俺でも想像で答えざるをえないものがあった。

「ハチ、この箱は?」

「それは……ああ、冷蔵庫か」

「冷蔵庫?ただの箱だぞ?」

 そのとおり、ただの箱なんだけどな。

「これは上の箱に氷をいれるんだよ。電気以前に使われていたやつだ」

「ほう……なるほどな」

 いや、それよりも。

「それより、冷蔵庫を知ってるのか?」

「知っているというより、こちらにもあるものだからな。こちらでは魔力と冷気の魔石を使うものがよく使われる。

 ちなみに地球製の電気で動く冷蔵庫も知っているぞ。ケラナマーでは研究も行われている」

 研究?

「すでに冷蔵庫があるのにわざわざ?」

「電力で冷気を生み出すという、その動作原理に関心が持たれているのさ。動作原理が理解できたら、今より効率のいいものが作れるかもしれないだろう?」

「なるほど」

 めちゃめちゃ合理的な返答だった。

「でも、研究といっても難しいことはしてないぞ?知恵をこらしちゃいるけど、要は熱を奪うことで結果として冷やしているだけだからな」

「……さすがは科学文明世界の人間だねえ。熱を奪うと簡単に言ってのけるところが」

「そうか?クルマやバイクでも当たり前にやっていることだぞ?」

「ほう。おもしろい、続けてくれるかねえ?」

「ん?なんか釈迦に説法って気分だけど、まぁご要望とあれば」

 なんかリクエストがきたので続ける事にした。

「たとえばガソリンエンジンなんだけどさ。

 燃料を爆発させる事で一気に膨張する力をもってクランクを動かし、それを連続させる事で動力とするわけなんだけど、はっきりいって効率があまりにも悪すぎるんだ」

「効率が悪い?」

「そもそも、爆発の膨張力で重い金属のピストンを押して、それを重りと歯車で回転力に変えるって基本原理がなぁ、アナクロっていうか前時代的なんだよ。

 実際、きちんと運動エネルギーに変わってくれるのは実はわずかなもので、その膨大なエネルギーのほとんどは振動と音・熱に変わってしまう。エントロピーの固まりみたいな不合理な代物なんだ」

「……」

「ちなみに、その無駄なエネルギーはどうしてると思う?」

「いや、わからん。どうしてるんだい?」

「まず振動はエンジン自体を柔らかくマウントして対応してる。でないと振動で車体が壊れるし、長く続くと乗り手にも悪影響があるからな。

 音に関しては消音器をつけて誤魔化してるだろ?

 そして肝心の熱なんだけど……こっちは冷却装置を使って熱を吸い上げて冷やすわけだけど、熱は大気中に捨てたり車内の暖房に使うんだ」

「ああなるほど、再利用もするのだな」

「そりゃそうだ」

 さすがに一発で納得したようだった。

「で、だ。

 どうしてそんなものがずっと使われているかというとまぁ、信頼性と普及量、あとは商売の都合ってやつなんだけどさ。

 ただ、燃料が石油から作ったものでしかない時点で、今後を託すにはちょっと無理があるんだよなぁ」

 俺は頭をかいた。

「確か石油というのは、古代の生物の遺物が変化したものとされているんだったか?」

「たしか厳密には動物の遺物だよ。樹木の遺物は石炭だったと思う」

「ふむ」

「って、そういやこの世界には石油や石炭はないのか?」

「石炭にあたるものはあるが、石油はないな。

 かりにあったとして、古代超文明の時代に取り尽くされたのかもしれないが」

「あ」

 そっちの可能性もあるのか。

「でも石炭はあるのか。取り尽くされてないってこと?」

「どうかな。どちらにしろ我々も燃料としては使わないが」

 え?石炭を使わない?

「使わないのか石炭?もう卒業した?」

「その話はあとでしよう。

 ハチ。

 せっかく地球式の民家の中にいるんだ、地球のエネルギーを知りたいね」

「あー、まぁそれもそうか。何を聞きたい?」

「今、エンジンが古いという話をしてたろう?でも普及していると」

「うん」

「代替えはあるのかい?」

「あるよ。といっても試行錯誤しつつ乗り換え中だけどね」

 俺はうなずいた。

「ふむ。もしかして電気への移行かい?」

「さすがにわかるか。正解」

 学者、しかも地球について詳しいだけの事はあるな。

「試行錯誤ということは、問題があるのかい?」

「ある。

 蓄電のためのバッテリー開発が遅れに遅れていたせいで、スパッと車にチャージできないんだ。充電時間が必要で、これが普及を大きく妨げてるんだよ」

 じつのところ、電気自動車最大の欠点はここだ。チャージに時間がかかりすぎる事。

 走行距離の短さは容量をあげればいいわけで、それは手段がないわけじゃないし、今後もよくなっていくだろう。

 でもそれでも、チャージにいちいち一晩かかっていたら?

 そう。

 残念だけど、まだ純粋な電気自動車を買って年末年始の帰省に使えるとは思えない。少なくとも一般消費者はそう思っているはすだし俺もそう思ってた。

 説明すると、オルガは「なるほど」とうなずいた。

「現状問題ありと。その対応は何かしているのかねえ?」

「充電や容量の問題は今、世界中で研究されているからいずれは解決すると思う。

 だけど大気汚染だの石油の枯渇問題だのは待ってくれないだろ?

 だから、ハイブリッド車というのが色々と研究され、作られてるよ」

「ハイブリッド?」

「うん、つまり両方突っ込んで両者のいいとこ取りをするってことだな」

「ああなるほど」

 俺の簡潔な説明に、オルガもうなずいてくれた。

「たとえばだけど、高回転で使うことを前提にエンジンを設計する。

 高速道路でも低燃費でいけるだろうけど、それじゃ町中や発進、急坂で困っちまう。

 だから、そういう力の足りないとこを電気でアシストし、エンジンが本調子になる領域まで補助してやるって感じかな」

「なるほど」

 オルガは面白がっているようだ。

 俺は調子に乗った。

「最初はこういうアシストの領域から始まるとして。

 これが進んでいくと、最終的にはエンジンとモーターの役割が反転する。つまりエンジンはむしろ発電するだけになって、実際に走るのは電気モーターの方になるわけだ」

「なるほど、徐々にガソリンへの依存を減らしていくわけだな。そうすることで汚れた排気を減らすのかねえ?」

「それだけじゃないぞ。

 エンジンを発電だけに使うようになれば、常に同一回転数であることを前提にエンジンを再設計することもできる。つまり今とは比較にならないくらい高効率でクリーンなものを作る事ができるはずだ」

「なるほど、そういう意味でも無駄ではないと」

「うん」

「となると、最終的には……エンジンをなくす方向に行くのかねえ?」

「たぶん」

 俺は大きくうなずいた。

「ま、今後の動向次第なんじゃないかな。でも追い風も拭いてる事だし」

「追い風?」

「ああ。えっと、EUってわかる?」

「すまない、ちょっとわからないな」

「ヨーロッパ共同体って事だけど、まぁいい。要は地球経済全体に影響のあるひとつの地域だと思ってくれ。

 そこで正式な発表があったんだけどね、ガソリン車を地域から締め出すって」

「ほほう?」

「もちろん今日明日にはできない。でもちゃんと期限をきって動き出してるんだ。

 遠からずEUではガソリン車は売れなくなる、少なくとも、販売はできなくなる勢いで」

「ほほう。

 そこでそのネタが出たという事はおそらく?」

「うん、その通り。各社のハイブリッド化、電化の動きが加速した。まるで水を得た魚の勢いでね」

 ホンダはとうとう、二輪車初のハイブリッド市販モデルを来年売り出す。

 わがキャリバン号を生み出したスズキはというと、マイルド・ハイブリッドのクルマをどんどん増やしてる。スズキは軽四を得意とするメーカーなんで、もちろんその主力の軽自動車に投入しはじめている。

「確かに地球でもハイブリッドは普及し始めていたけど、ちょっといびつな方向に進みかけていたからね。お金持ちがステータスで乗るような事になったり、いつまでも一般人には降りてこなかったんだよ。

 その流れが変わったよ。普及を見据えた方向に」

「ほほう」

 トヨタ・プリウスはハイブリッド車を知らしめるに一役買ったけど、プリウス一強状態が続いたのはまずかった。ハイブリッド車自体の普及にとってはむしろ、回り道になってしまったとも言えるかもしれない。

 できればこの時点では、いろんな方式のハイブリッド車が出て切磋琢磨されるべきだったんだけどね。

「あーでも一応いっとくけど、プリウスが悪なわけじゃないよ。

 むしろプリウスでトヨタが苦労している間に、世間ではバッテリーの進化が加速したんだ。携帯電話やスマホの普及が原因だけど、とにかく電池の性能をあげようって、各社がしのぎを削るようになった。基礎研究も活発になった。

 プリウスの最大の功績はね、この時間を稼ぎつつ最初の実績を積み上げたことさ。

 次世代のクルマなんて好事家のおもちゃで投資の無駄だと思っていた投資家やドライバーたちの目を、まがりなりにも振り向かせてしまった事もね」

「……なるほどねえ」

「ってごめん、なんか暴走しちゃって」

「いや、いいとも。むしろここまで生々しい地球の話が聞けて楽しいね」

「ありがとう」

 オルガは、おつきあいで笑うのでなく、本当に興味深そうにしていた。

 それは彼女が技術者、あるいは学者なんだって事を改めて伺わせるものだった。

「しかし理解が早いな、さすがは本職の学者さんか」

「それもあるかもしれないが、実はこの世界でも身近な問題なんだよねえ」

 え?

「身近な問題?」

 どういうことだろう?


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