旅のお供?
しかし、異世界ね。
考えていたらドラゴンの方から説明してくれた。
『そう、まずはその君の疑問に答えなくてはなるまい。
もうわかっているようだが、改めて言おう。君の目線で言えばここは異世界だ』
「……そうですか」
確定か。なんてこった。
「何て名前の世界なんです?」
『名前?君は自分の世界に名前をつけているのか?世界は世界、そうでないかね?』
「あ」
たしかに。
「なるほど、自分の住む世界に名前つけるなんて、普通やらないですよね」
あえて言えば地球くらいか?
でも。
『それは惑星の名であって世界の名ではないだろう』
え?
「惑星の概念があるんですか?」
『多元世界の概念があるのだ、天体や宇宙の概念があってもおかしくあるまい?』
「そうでした」
そりゃそうだ、馬鹿か俺は。
それから、ドラゴン氏(仮称)にいろいろ話を聞いた。
ここが別の世界であること。
元の世界とは隣接していて、昔からいろんなものが流れ着いていること。
そして……こちらから向こうに戻る事は、おそらく非常に困難であること。
「そうですか」
ここが違う世界なら予想していたことだったけど……はっきり言われたのは正直ショックだった。
『そのことで、ひとつ警告がある。
この世界には君に似た人間種族がいる。その名も人間族といって、この世界の筆頭種族であるとうそぶく、こまった連中だ。
まあそれはいいんだが、問題は彼らが元の世界へ戻りたいという君らの気持ちを利用し、騙し、奴隷にしようとするだろうってことだ』
「奴隷……ですか」
なんだよそれ?
『君は魔力を持っている。自覚があるだろう?
理解してないと思うが、それは彼らには途方もない価値を持つ。だから狙われるのだよ』
「……」
たしかに自覚があった。でも。
「あの」
『なにかね?わからないことがあれば、なんでも聞いてくれたまえ……いやまてよ?』
ドラゴン氏は急に黙って、そしてフム、と唸った。
『そうだな、いっそ君にはガイドが必要だろう』
ガイド?
『君の疑問に答え、サポートする存在だよ。
それは我の被造物で、眷属みたいなものだ。我とつながっているが個性ある一個体でもある。君と同じ人間の姿をもつ竜族で、人の街でも目立たずに君を助けられるだろう』
「それは……ありがたいですが」
でも、どうしてそこまでしてくれるんだ?
『どうしてそこまで、という顔だな。明白だと思うがね』
「明白、ですか?」
『周りを見たまえ。この好奇心いっぱいのラシュトルたちを』
「あ」
そう言われて、周囲を見渡した。
そうだった。
俺はこいつらに、好奇心いっぱいにまとわりつかれたんだっけ。
『ガイドを通して我は、君らの話を聞くだろう。そして我はそれを、ここのラシュトルたちに聞かせてやることができるだろう。
君は安全と情報を得る。こいつらにいちいち追い回されなくともよくなる。
悪い取引ではないと思うが、どうだろうか?』
「たしかに」
そういうと、ドラゴン氏は言った。
『では、今から眷属をだそう。なにか問題があったら言ってくれ』
「はい」
そういうと、キャリバン号の目の前の空間が陽炎のように揺らいで。
そして、そこに一人の人間が現れた。
「……」
正直に言おう。
俺だって男だ。ファンタジーお約束の展開も想像していた。
ほら。ここはやっぱり美少女のかわいいガイドだろ?うん。
なのに。
なのに、目の前にいた眷属さんときたら……。
「なんでお袋がここにいるんだよ」
なんと。
ドラゴンと俺の間には、もういないはずの母親が立っていた。
『故人だったのか、それはすまない事をした。君の記憶にある親しき者から選び、姿を似せたのだが』
「……なんだと?」
つまりこれは、わざわざ母そっくりに似せたニセモノって事か?
「……」
一瞬、激昂しかかったのを必死に押さえた。
ダメだ、落ち着け俺。
相手はドラゴン、人間じゃないんだ。
何百年生きてるのか知らないが、人間の心の機微がドラゴンにわかるわけがないだろう。つまり彼は、あくまで厚意のつもりでわざわざ母の姿に似せてくれたんだろう。
問題があるなら指摘すればいいだろ?
結果はともかくその気持ちに激昂してどうする?
「……ふう」
しばらく深呼吸して、気持ちを落ち着けた。
オーケイ落ち着いたか俺。そして問題を考えようぜ。
まず、ドラゴン氏は気を遣ってくれている、これは間違いない。ただ方向性がズレているだけなんだ。
だったら話は簡単だ。遠慮せずにリクエストすればいいように思うぞ、うん。
よし。
もう一発深呼吸をすると、俺はドラゴン氏に向かい直した。
『大丈夫か?すまないな、逆に苦しめてしまったか』
「ああ問題ないです、どうも。あくまでこれは俺の問題なんで、気にしないでください。
ただひとつ、すみません。身内のイメージはできるだけ避けてくれませんかね?その……それは悲しくて胸がつらくなるので」
『そうか』
ドラゴン氏はそう言い、そして母の姿が消えた。
『では、君の記憶にある西方の民とやらの容姿で作ろう。これなら身内はいまい?』
「はい、それなら」
お、今度こそ美少女か?
ふわふわ漂っていた光が収束し、そしてその子が現れたのだけど。
「……って、ちょっとまて」
俺は思わずツッコミを入れた。
「ふたつ質問がある」
『何だろうか?』
「まず、なんで裸なんだ?母は服着てたろ?」
そうなのだ。
おもいっきり、すっぽんぽんだった。
『彼女は事前に準備したが、これは今作ったのでな。服は何とかしてほしい』
そうかよ。
「それでもうひとつ。なんで幼女なんだ?」
そう。
現れたのは子供。
それも、北欧系?銀髪の白人幼女だった。
なんで子供?
『君が子供と認識し、なおかつ保護欲を刺激する姿にしてみた』
「なんでまた?」
『彼女は人間ではない。人間の容姿なのは都合上のものだが、万が一にも君のパートナーと誤解されないようにね。これは他人よりむしろ君への配慮なのだが』
「俺への?」
何それ?
『じつは過去、同族が女の研究者に青年の眷属をあてたのだが、なんと眷属に心を寄せてしまったのだよ。
まあ光栄なことであるが、竜の眷属は人ではない。結果として傷つけ悲しませてしまったそうだ』
へえ。そんなことがあったんだ。
『ちなみに彼女、君から見てセクシーかね?』
「は?いやいや無茶いわんでください」
半分赤ちゃんみたいなガキつかまえて何言ってんだよ。
そんなもん子猫もちあげてケツ見てさ、ああオスね、メスねってレベルだろ。
セクシーだぁ?
むしろ、へっぷし!ってクシャミでるわ。
そういうと、ドラゴン氏はフムフムといった。
『ならば問題ないだろう』
まあいいんですけどね。
「でも、どうして女の子なんです?」
そもそも少年なら、ヘンな心配もいらんでしょうに。
『ガイド役は異性タイプをあてるのが昔からの決まりなのでね。君が実は女とか、しかし精神的に女というのなら考えるが?』
「ないです」
おっさんではあるけど、男をやめたつもりはないぞ。
『ならば、これでよいだろう』
「はあ」
いいのかそれで?
改めて眷属さんとやらを見た。
「って、いつまですっぽんぽんでほっとくんですか!」
しかも無表情で何か怖いよ!
ていうか、これじゃ虐待されてる子みたいだろ。みちゃおれんわ!
「おい!」
窓を開けて声をかけた。
「はい」
眷属ちゃん(仮)は、まるでマネキンロボットみたいに見事に首だけ動かしてこっち見た。
なんかこわっ!
「ちょっとおいで、服か何か探してやるから!」
「はい」
そう返事すると、とことこと眷属ちゃん(仮)は歩いてきた……隠しもしないで。
見ないフリしつつ車内に何かないかと探すんだけど。
「……?」
あれ、まただ。何か、頭がクラッとした。
なんなんだ?
いやまて、今はそのときじゃない。
着替えを入れているプラケースを取ろうとした俺なんだけどその時、あっちゃいけないものがそこにあるのに気付いた。
「……なんで?」
その箱は、見覚えのあるもの……たしかに記憶にあるもの。
まさか。
見覚えのある箱を開いてみると……俺のでない服。しかもお子様サイズ。
「あの」
「へ?」
背後からの声に顔を向けると、何故か運転席のドアの外に彼女がいた。
つか、器用に窓のへりにしがみついてた。なにやってんだ。
「ああそっちじゃない、向こうに回りなさい!」
「はい」
助手席側に回ってきたので、手を伸ばして後部ドアを開けてやる。
で、箱をずずっと彼女の方に押し出した。
「中に子供服が入ってる。適当に着れそうなの着てみなさい」
「はい……いいのでしょうか?」
「むしろ着てくれ。たのむ」
「わかりました」