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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
魔族の女
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同行

 汚れた身体に浄化(リフレッシュ)をかけてもらい、服を着て寝室を出た。

 このゲルもどきは寝室が2つある。家族用だけど俺とオルガの寝ていた部屋は区画まるごと別になっていた。

 理由はよくわからなかったけど……やっぱりそういう事なのかね。

 当たり前なのかもだけど、俺はなんとなく複雑な気分だった。

「おはようパパ」

「おはよう。悪いな、そんな事させちまって」

 いいニオイがすると思ったら、やっぱり。

 アイリスはラウラとササヒメに食事をさせていた。

 そればかりか、どうやら俺とオルガの食事まで。

「いいよ、こっちも懸念事項が解決しそうだし。それよりふたりとも席について」

 え?

 どういう意味だと言おうとしたら、オルガが横で「そうだな」と笑った。

「どういうことだ?」

「アイリス嬢はわたしを君とくっつけたかったのさ、悪意ある別の第三者にハチの身体を狙われないように。そうだね?」

「はい」

 オルガの指摘に、アイリスはハッキリと肯定した。

「わたしが言うのもなんだが、魔族は魔の事に関してはエキスパートだと思う。

 おまけにわたしはハチとつながってしまっているだろう?」

「あ、うん」

 思わず記憶がつながって、自分が赤面するのを感じた。

「何を思い出したのかは後で尋ねるとして、問題は利害関係だ。

 正直いうと、今の状況は魔族としても、いち研究者としてもメリットだらけでね。正直いってハチ、君をどうこうしようなんて頭は全くなくなってしまった。なぜかわかるかい?」

「いや、そもそも利害なんて考えもしてなかったし」

 全くわからなかったので、正直に言った。

「それはそれで問題なんだが、まぁ今はいい。説明していこう。

 ではまずひとつ、今のわたしの身体だ。

 おそらく君が健在である限り、たとえわたし自身の寿命が来てもわたしはこのままだろう。元々わたしも決して短命ではなかったんだが、明らかに上方修正するカタチで上書きされた。

 まだ君はピンとこないかもしれないが、この意義は絶大なのさ」

「えっと、そうなのか?」

「そりゃそうさ、若く美しいままでいたいというのは、女の本能だからねえ」

 ああなるほど。

「ま、この話については今は置いておこう。

 とにかく君のおかげでわたしは相当に長生きして、予定よりうんと研究できるようになったわけだ。これだけでも、いくら感謝してもしきれないねえ」

「時間があるだけでか?」

 俺はオルガの言葉に疑問をなげかけた。

「当たり前だが、俺たちはそれぞれ個人だぞ。都合のいい相手というわけじゃない。長生きする事で予期せぬ問題が出る事もあるだろうし、大事な研究を妨害する事になるかもしれないが?」

 俺は結婚生活というものをした事がないけど、これだけはわかる。

 一人暮らしの長い者は、ひとりで一単位が当たり前になっている。

 そして、それが突然に二人暮らしになるという事は、当然だけど制限やら妥協やらがないと必ず激突するだろう。

 そういうものじゃないか?

 

 だけどそれを指摘すると、オルガはクスクス笑いだした。

「なんだよ?」

「いやいや、なんでもないさ。

 話は飛ぶんだけど、ちょっと相談がある。これなんだが」

 そういうと、オルガは何もない空間から銀色のものを出した。

「あ、それ」

「うむ、壊れてしまったキックボードなんだがどうしたものかと」

 オルガ登場の時のやつだ。確か前輪が壊れたんだよな。

「ちょっと見せてみろ」

 拝見してみると、なんというか全体的にガタガタだった。

「うーん車輪や車軸の消耗がひどいな、浮いてるのになんでだろ?」

「君の車もそうだと思うが、車輪は方向や運動制御の媒体にしているのさ。つまり接地してはいないが、タイヤがついて回転していなくちゃならないわけだ」

「常時回転してるってことか……ってちょっと待て」

「?」

「このキックボード、どのくらい走り回ってるんだ?」

「そうだな。大陸間レベルの長距離移動は別の手段があるが……少なく見て五千キロ以上かな」

 だめじゃん。

「キックボードのタイヤや車軸にそんな強度ないぞ。むしろよく今まで保ったなぁ」

「そうなのかい?んーしかし困ったな。部品もスペアもないんだ」

 それはまずいな。

 軸もタイヤも減りまくってる。地球ならどうにでもなるんだろうけども。

 ……あ。

「お」

「おっと」

 しまった、新品のキックボード出しちまった。

「やっちまったか。オルガ、代わりにこれ使えるか?」

「ちょ、ちょっと待てハチ」

 なぜかオルガは慌てた。

「いくらなんでも、そんなホイホイ簡単にもらえないぞ」

「でも俺はキックボード使わないし」

「代価が払えないと言ってるんだ。異世界の乗り物だぞ、相場いくらになると思う?」

「あー、わかんね」

 そりゃ、ピンきりだろうけどいい奴はそこそこするよな。

 けど俺はいらないし。

「まあ、なんだ。オルガがいらんというのなら捨てるしかないが……」

「な……わ、わかった!わかった貰おう、貰うから!」

「……なんか無理してねえ?」

「そんなわけないでしょ……!?」

 お、今なんか一瞬、すげえ子供っぽい口調になった。

 ふむ?もしかしてそっちが素の話し方なのか?

「……なんで笑ってるのかねえ?」

「いや、なんでも」

 前のアダルトな外見ならともかく、今ならその子供っぽいのも似合うよと言いたいけど……気にしてるみたいだからコメントはよそう。

 そんなことを考えていたら、オルガがコホンと咳をした。

「話がずれたな、メリットの話に戻そう。

 ハチは、パートナーを得るのはいい事ばかりじゃないと言ったし、わたしも一般論では同意するよ。

 しかし思うに、ハチと共にいることはデメリットよりメリットの方が多いと思うんだがねえ?」

「なんで?」

「なんでって、このキックボードさ。

 君は迷いもせずにこれを調べて、修理について検討をはじめた。しかも問答無用で現物まで取り寄せてくれたよねえ?」

「それが何だ?」

「自覚がないようだから言っておくが、この時点でわたしはものすごく恩恵を受けていると思うんだが?違うかねえ?」

「!」

「気づいてなかったのかねえ?」

「……そう言えば、交渉も何もなかったな」

「君はおそらく、身内に入れちまった者には損得ぬきで動くタイプなんだろうね」

 そういうと、オルガは楽しそうに笑った。

 

「で、そのキックボードなんだが……正式に贈り物としてもらっていいかい?」

「ん?ああ、そりゃいいけど?」

 何を言いたいんだろう?

 首をかしげていると、アイリスが耳打ちしてきた。

「パパ、パパ」

「ん?」

「乗り物やペットを無償で贈り合うのって、魔族の習慣でプロポーズの意味があるんだよ」

「なんだって?」

 あ、それで「正式に」とわざわざ言ったのか。

「あいにく、こっちはすぐに渡せる乗り物を持っていないな……ああそうだ、これはどうだろう?」

 そういうと、空中のポケットみたいなところから、でっかいフリスビーみたいな円盤を取り出した。

「な、なんだこれ?」

「これはソーザといって、魔力で浮遊して飛ぶ乗り物さ。ひとり用だし風にも弱いので取扱には工夫が必要だがね」

「へぇ」

 この丸いでっかいお盆みたいなのが乗用なのか。

「……ん?」

 なんだこれ。

 何か模様みたいなのが色々描かれてるな。

「ああ、魔法陣が気になるのかい?」

「魔法陣?」

「その模様さ。魔法のロジックを図形に落とし込んだもので、単に魔力を流し込むだけでいろんな現象を起こせるわけだが。

 ……ふむ、そうだな。魔力があれど魔法のバリエーションの少ないハチにはちょうどいいかもしれないねえ」

 そういうと、オルガは一冊の本とペンみたいなものを取り出した。

「これは?」

「魔法陣の書き方について昔わたしが書いた著書、それと魔力を流して魔法陣を描くペンだ。こっちが書き込みで、こっちが消去だな」

 なんか、後ろに消しゴムのついたシャープペンシルみたいなやつだな。

「魔法陣は、自分に不得手な魔法を発動させたり、いざという時に単に魔力を流すだけで複雑な現象を起こしたりもできる、なかなかに実用性の高いものだ。ぜひマスターをおすすめするよ?」

 つまり、あれか。

 昔やったネトゲで、ゲーム内世界で簡単なスクリプト言語を使えるものがあった。それで自分らの家に自動ドアをつけたりしている奴がいたが。

 そういう事が現実にできるってか。おもしろいな!

「うん、ありがとうオルガ」

「いやいや」

 そういうと、オルガはにこっと笑った。

「というわけで、これでわたしと君は婚約成立だな!」

「あ」

 しまった、ソーザと魔法陣の話ですっかり忘れてた。

 オルガはやさしく微笑むと、俺の肩に手を置いた。

「こんな女だが、どうか末永くよろしく頼むぞ、ハチ」

「お、おう。こっちこそ」

「うむ」

 

 おい。

 まだこっちの世界にきて、ひと月とたっちゃいねーんだけど?

 ぼっち生活してたのが、いきなり旅の相棒にペット、美少女の婚約者までゲットですと?

 

 ……俺もしかして、どこかで頭打って夢でも見てるんじゃないだろうな?

 

「まぁ今後どんな感じで生活するかは後で決めるとして、ハチにはひとつ頼みがあるんだが」

「む、なんだ?」

「おそらくハチたちは、これから南大陸経由で東に向かうのだろう?

 わたしはこの新しいキックボードにこれから術式を刻むわけだけど、こいつは小さいから手間がかかる、とても一朝一夕とはいかないんだ。

 悪いがしばらく同乗させてもらえるかねえ?」

「もちろんかまわないさ。といっても寝床が狭くなるから、キャリバン号で車中泊とはいかなくなるけどな」

 キャリバン号は小さな旧規格の軽四だ。大人二人にお子様ひとり、ペットつきなんて人数で寝る広さはない。

 その話をすると、オルガは「ふむ」とキャリバン号を見た。

「そりゃわたしの天幕があるから問題ないが……すでにあの車、いくつか空間拡張がなされてるよねえ?」

「あー、それは俺がやっちまったんだが」

「なるほど。

 ということは、そろそろ色々と手狭になっちまってるんじゃないかねえ?

 きちんと調査をしてからになるが、家屋の改造についても相談に乗ろうかねえ?」

 あ。

「それは、できれば頼みたい」

「うむ、わかった。わたしとしても、異世界の乗り物をいじれるなんて楽しみだよ」

 そういうと、オルガは楽しげに笑った。


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