つながり
注意: 18禁にならないように留意しておりますが、性的表現があります。
最近、寝起きがとてもよいのだけど、今朝もとびきり心地よい目覚めだった。
まるで小さい頃、まだ若かった母に抱かれて目覚めた朝のような。
『……ふふふ』
ああ、柔らかい。
目の前のそれを、思わず口に含んだ。
『あ、うん』
いいニオイだなぁ。あたたかいなぁ。
ずっと、ずっと、こうしていたい……。
『……』
ゆっくりと意識が、重い蓋をこじ開けるように目覚めてくる。
そして頭が状況を把握していく。
ああ、柔らかいはずだ。あったかいはずだ。
ついでにちょっと舐めてみる。
『ちょ、こらハチ、まて』
待たない。
頭が回り出してくると、今までの状況がぼんやりと蘇ってきた。
たぶんだけど、酔ってオルガとアイリスに運ばれたんだ。
アイリスはそもそも人間じゃないし、オルガはおそらく腕力強化のような事ができそうだし。まぁ、どうにかなったんだろう。
それで、オルガがいいニオイで……。
ああそうだ、スンスンとニオイ嗅いでたら、どこか臭いかと言われて、いいニオイがするから何かと思ったらオルガだったといったら何故か笑顔になって。
そしたらなぜかオルガに、脱いだ方がいい、なんなら脱がせてやるぞって言われて。
……なんか、変なとこ見てお父様とか言ってたような気がするけど、まぁいいか。
それで後は……うわぁ……。
「どうやら目覚めてきたようだな」
「……」
返事の代わりに抱きついた。
「あー、それも悪くないんだが、そろそろ起きないと」
「……」
うーむ、それもそうか。
このままずっと甘えていたい誘惑を押し殺し、まだ闇の中でやわらかいものをハムハムして「あ、こら」とか言わせてから、シーツの外に顔を出した。
「おはよう」
「ああおはよう、朝から元気だな少年」
誰が少年だ。
しかしオルガに言われるとなぜか不愉快にならない。
不思議だ。
もういない親戚のおばさんズ以外で、ガキ扱いされて不快に思わないなんて。
なんだろう。
会ったばかりのオルガを俺は身内に見ちゃってるんだろうか?
いくら夜を共にしたとはいえ。
早くも独占欲ってやつか?
はは、俺ってそういう奴だったのか……知らなかった。
気をつけよう。マジで。
え、どうしてかって?
ばか、頭使えよ。
ボロの軽四で休みのたびに徘徊していたような男が、女の扱い上手いわけがないだろ?
こうして見ると思うが、どうやら俺は本当にオルガに惚れちゃってるらしい。
失いたくない、奪われたくない。
そんな気持ちが、むくむくと頭をもたげてくる。
だからこそ。
あまり醜い独占欲などむきだしにして、嫌われたくないって気持ちも出てくるわけだ。
オルガはただ笑っている。
まるで、そんな俺の内心を見透かしているかのように。
「……ふむ。だいぶ目覚めてきた」
「思ったより寝起きが悪いようだな。気分は悪くないか?」
「あ、ああ。うん、ありがとな」
礼を言うのも変な気がしたが、他に言葉がみつからない。
そしたら。
「!」
なんか知らんが、オルガもブワッと赤くなった。
なんだ?何か俺、間違えたか?
「……」
「……」
沈黙が重い。
しばらく言葉に困っていたが、やがてオルガがフッと笑った。
「ナ、なんだ?」
「いや、どうやらハチは初物だったようだな」
「……男にその言い方はどうかと思うが」
厳密には男女関係なく、人間に使う言葉じゃないと思うが。野菜か何かじゃないんだから。
「ふむ、ではお互いお初ということか。ならば昨夜のアレも仕方ないことかな」
「おう、お互いに……まてお初!?」
「覚えてないのか?間違えそうになるわ、暴発するわの大騒ぎで……最後はうまくいったが」
「間違えるってなに?」
「聞きたいか?」
「……いや」
まぁ、その、なんだ。
お互いの容姿は見ないふりだったが、思わずオルガの方を見てしまって。
そして。
「……」
「ハチ、またお元気になってるぞ?」
「し、仕方ないだろ!」
「……ふふふ」
ええい、ツンツンすんな、頭ぽんぽんすんな。俺はガキか。
「まぁ男としては主導権をもって誘導したかったのかもしれないが、お互いにビギナーでは仕方あるまい。……しばらくは練習だな」
「ふむ、そうだな。やはり経験が必要……って、しばらく?練習?」
オルガの言葉に目が点になった。
「なんだ?もしやとは思うが、わたしだと不満なのか?アイリス嬢の方がいいと?」
「なんでそうなる、俺はロリコンじゃねえぞ」
「ならば問題ないだろう」
そういうと、オルガはなぜか口元を隠してた。
「問題ないって……それでいいのか?」
「それでいいとは?」
え。
「まさかと思うがハチ。その場の勢いや何やで、昨夜のような事をしたと思っているのかねえ?」
「まさか」
全力で否定した。
「まぁ、その、なんだ……どうせ離れられない関係になったのはわかるだろう?
我々魔族は魔力過多のせいか妊娠しづらい傾向があってな。
ハチがイヤじゃないなら、その、協力してくれると、助かるんだが」
あの。
俺でもわかるくらい挙動不審で、めっちゃ言い訳くさいんですが。
う、うーむ。
まさかこの俺が、女性に、しかもこんなきれいな子にこんなこと言われる立場になるとは。
……なんだろう。この「生きててよかった」な気分は。
「ハチ?」
「ああすまん、ちょっと昔を思い出してた。
しかしオルガ、協力はかまわないが……変な質問だが本当に俺でいいのか?」
「どういう事かねえ?」
「いやだって、それって最低でもパートナー、もしかしたら夫婦って立場ととられるんじゃ」
「……はぁ?」
オルガは最初、ぽかーんとした顔で俺を見ていたが、そのうちクスクス笑いだした。
「え、あの?」
「ハチ、前提条件を間違えてるぞキミは」
え?
「忘れたのかね、わたしたちの心はつながってしまってるって事を。夫婦というのなら、わたしたちは既に夫婦以上に親しい関係なんだが?」
「それは魔力的につながっちゃったって事だよな?」
「……そうか、そこが理解できてなかったのか」
笑いをこらえるようにオルガは言った。
「当たり前の話だが、心はひとりひとり別のものだ。いくらチャンネルが合ったからって、相手の容姿まで変えてしまうほどに他人に魔力を流し込んでしまうなんて事は、普通は絶対に起こらないんだ。
でも、わたしは君に侵食されてしまった。ここまではわかるかねえ?」
「ああ」
「接続を媒介しているのは、おそらく精霊分だ。異世界渡航者である君も、そして魔族であるわたしも、精霊分はたっぷりと持っているからね。間違いない。
ここで重要なのは、夢でつながる事により、精霊分がわたしと君を同一個体と認識した可能性が高いってことだ。だからこそ接続が切れなくなってしまったんだ。
わたしの肉体年齢が君に合わせられたのもそのためだな。
水は高きから低きに流れる。
魔力がずっと少ないのはわたしの方であり、だからこそ、わたしの方が引っ張られるのは自明の理というわけさ」
オルガは笑うと、さらに続けた。
「ちなみに、これは過去にも事例がある。これに近い状態の存在がいるんだ」
「ほう、できれば知りたい」
「誕生前の子供が、母の胎内ですでに魔力的に覚醒しているケースがある。これはお産のことを考えると危険きわまりない状態なんだが、それでもたまにいるんだ」
「……続けてくれるか?」
「そもそもお産というのは母体に大きな負担をかけるものだ。
考えてくれ。
このタイミングで、肉体の若返りまで起きるほどの魔力干渉が起きたとして、それが母体に悪影響を与えないと思うかい?」
「それは……!」
それは、まずいかもしれん。
「実際、出産前に亡くなったケースもあるんだ」
「……いいことばかりじゃないってか」
「うむ、そうだな」
そこまで言うと、オルガはなぜか俺をじっと見た。
「というわけなんだが、ハチ」
「ん?」
「改めて聞くが……わたしなんかで悪いが、共にあってくれるかねえ?」
「……それは俺の方こそ言いたい。マジで俺でいいのか?」
「くどい。それともわたしに恥をかかせたいのかねハチは?」
「ああわかった、悪かった。答えはイエスだ、むしろ俺の方こそよろしく頼む」
「……ああ、よろしく頼む」
そういうと、やさしく抱きしめられた。
正直なとこ言えば、当たり前だが元の世界に未練がある。
だけど俺は昔、友達とこんな話をした事があるんだ。
「自分のいるべき場所?
それは『おかえり』って言ってくれる人がいるところだよ」
両親もすでにいない。
自分の家族もない。
友達もほとんどいない。
元の世界の俺の立場とは、正直そんなものだ。
なのに。
こっちの世界にきた途端、アイリスという道連れができて。
そしてさらに、事実上の結婚の申し込みまでもらってしまった。
先のことはわからない。
もちろん帰郷の可能性があったら、調べると思う。
だけど。
俺の心はこの時確実に、この世界に引きずられ始めていたんだと思う。




