表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
魔族の女
42/284

詰め寄り

 オルガのお気に入りだという屋台は、駐車場からそう遠くない場所にあった。ただし屋台の集まってい区画からは少し外れていたが。

 メインストリートは人が多いが、当然そいつらにメシを食わせるために飯屋も多い。ただ屋台というのは一軒で膨大なメニューがあるわけじゃないから、まず食べたいもので屋台を選ぶ必要があるんだが。

 なんでだろ?

 日本とは全然違う屋台なのに、どこか懐かしい。

「ここは何の店なんだろ?」

「川エビと白蜥蜴だな」

「いらっしゃい」

 オルガに聞いていたら、店のおばちゃんがやってきた。

「川エビ、白蜥蜴のほかは鳥もできるよ。炒めに焼き物ってとこかね?」

 話を聞いていたらしい。

 む?米っぽいものがある?聞いてみるか。

「チャーハンできる?」

「チャーハン?なんだい?」

「ライスを炒めたもんだ……っていえばわかるかな?」

 翻訳だからな。うまくニュアンスが伝わればいいんだが。

 ちなみに俺が子供のころは、田舎じゃ焼き飯と呼んでた。冷えた古いご飯をベースに再構築するメニューだったわけで、おそらく全国でも似た状況だったろう。70~80年代の間にテレビか何かで炒飯(チャーハン)チャーハン連呼して焼き飯と言わなくなったが。

 まぁ昔話はいいか。

 おばちゃんは「ふむ?」と悩むと、ああとうなずいて、

「カオパットの類かね。ああいいよ、できるとも」

「カオパット?」

「あれさ。見えるかい?」

 おばちゃんが指さした座席を見ると、なんかチャーハンぽいの喰ってるヤツが見える。

 カオパットという名前にその光景。

 ああなるほど。記憶と一致したぞ。

「うん、あれだよ。ということは……おばちゃん、ガイとクンもいれてくれる?」

「ああできるとも。なんだ、あんた具の名前わかるのかい」

「ガイとクンだけだよ。好物なんだ」

 ちなみにガイは鶏肉、クンはエビだったと思う。

 カオパット(焼き飯)といい、なんでタイ語もどきなんだ?面白いけど、わけがわからん。

「それとおばちゃん、こいつにも食べさせたいんだけど、ライスぬきの素材だけ軽く熱かけたのってできる?薄味できれば塩抜きで」

 ラウラを見せてやった。

「ああできるよ、ただし材料の都合で一人前と半分もらうけど、いいかい?」

「もちろん。いくらで?払いは先、後?」

「しめて三人前半で105デナリ、食後におくれ」

「デナリ?」

「中央銀貨一枚で100デナリだねえ」

「じゃあ銀貨二枚で。おつりある?」

「あるよ」

「じゃあ頼む」

「飲み物はいらないかい?どれでも追加で10デナリだけど?」

 指定しようとしたら、横からオルガが口を出した。

「テルルを一杯、それからその、」

「ん?もしかして(テリー)かい?」

「ああ」

「そっか」

 なぜか楽しそうに俺とオルガを見たおばさん。

 って、なんかおばさんの笑顔がキモイ。なんでこっち見てイヒヒって笑ってる?

「よしよしいいとも、銘柄指定はあるかい?」

「魔族領のはある?」

「パララスしかないね」

「パララスか。じゃあ生で」

「わかった、座んな」

「うむ」

 了解と座ろうとしたら、なぜかオルガに止められた。

 そんでもって、奥に引っ込んだ座席に俺は連れていかれた。

 ん?いいけど、なんでわざわざこんな奥の席に?

 うわ、おばちゃんの笑顔がますますキモい。なんか女の子連れて帰ってきた時の母みたいな顔になってら。

 これってまさか……って、まさかだよな、うん。

「よくわからないが、いい屋台だな」

 雰囲気ありすぎだろここ。

 この、どこかビールケースを思わせる箱をひっくりかえした椅子とか。地球の屋台、それも猛烈に下町チックなやつだよ。

 メニューらしきものが壁にあるけど、ひとつずつ手書きなのがまた。

 妙なとこが地球と一緒で、それが何かとても楽しい。

「ハチは屋台慣れしてるのかねえ?この手の雰囲気が初体験じゃないようだが」

「ああ、懐かしいね」

「なつかしい?そういえばメニューも知っていたようだが?」

 不思議そうな顔をするオルガにネタばらしした。

「この屋台とか、おばちゃんの雰囲気とか。まるで昔のバンコクだなぁって思ってたら、料理の名前までタイ語そっくりなんだもんよ。まぁタイ語は読めんから『それっぽい何か』かもだけどな」

 まぁちょっと縁があってね。バンコクなら昔何度かいったんだ。

「なるほど、やはりだったかねえ」

「やはり?」

「いや、以前からこの屋台は異世界人の文化のものだろうと思っていたんだが……手持ちの資料に文化や単語にあたるものがなかったのさ。タイ語というのがそうなのかい?」

「地球のタイ王国って国の言葉だよ」

「へえ、お客さん異世界の人なのかい?」

 オルガの言葉に続けてきたのは、中華鍋みたいなのをガンガン加熱中のおばちゃんだった。

 あ、ちなみにおばちゃんは人間に近い容姿だったけど、まだ何人なのかはよくわからない姿だった。

 オルガに尋ねてみたら、こういう人たちは新世代と言うらしい。

 

新世代(ニュービー)

 人間族が魔力を受けて変化をはじめた段階の世代。最初の異種族とも言われる。

 種族変換は一代で一気に行われる場合もあるが、まずは人間族から新世代に変わり、そして数世代かけて蓄積させたエネルギーをもって、その子供が別種族になるというパターンの方が一般的である。

 新世代は特殊能力を持たないが、莫大な精霊分を蓄えている場合が多く、また精霊分の濃い土地での耐性も高い。

 

 サナギマンか、などと昔のヒーローネタなんか言ってないで話を戻そう。

「ほい、まず飲み物だ」

「あ、どうも」

 先に出てきた飲み物をもらう。

「ハチはこっちだ。気に入らなかったらわたしのも飲んでみるといい」

「おう。って、これ酒の方じゃないか?」

「いいから飲んでみろ。酒がダメなら薦めないが」

 お、おう。

 チューハイみたいなもんかと思ったけど、飲むとどぶろくに近いな。未知の味だが悪くない。

「へえ、いいな」

「だろう?」

 食前に軽く飲むには悪くないが……やたらと飲みやすいが強いぞこれ。十度越えてるだろ。

 うむ、一応注意しとこう。

「オルガ」

「む?」

「これ、空きっ腹で飲むなよ。足元乱すぞ」

「……君は平気そうじゃないかねえ?」

「慣れてるだけさ」

 元酒飲みなんで、ええ。

 

 話をカオパットに戻そう。

「おばちゃん、このカオパットについて聞きたいんだが」

「質問するとおばちゃんは、わかってるよと言わんばかりに笑顔で教えてくれた。

「まぁ、ご想像の通りさ。

 これはうちの村に伝わる料理だが、最初に作ったご先祖様は別の世界から来たって言われてるね。ほとんどの事は忘れられたらしいけど、料理のレシピと材料の呼び名は当時のまんまなんだってサ」

「ほうほう」

「アタシらは確認のしようもないけど、そんなによく似てるのかい?」

「似てるもなにも、俺が昔あそびにいったバンコクの屋台そのものだぜ。そっかそっか、ご先祖様がタイ人なのか。道理でなぁ!」

「あっははは!」

 おばちゃんの腕が動き始め、炒めものの大きな音、それからいい匂いがただよい始めた。

 ああ、いいなぁ。この匂いも万国共通なんだなぁ。

 俺は、うっとりとしながらタイ風焼き(カオパット)・異世界バージョンの出来上がりをラウラともども待ち構えていた。

 思いもかけぬところで出会った、懐かしき南の国の思い出。

「……ふうむ」

 隣で、色々と考えこんでいるオルガに気づかぬまま。

 

 

 カオパットは実にうまく、食べて幸せな気分になった。

 どうやらガイやクンには精霊分も含まれていたようで、ラウラもご機嫌だった。

「そこまで気に入ってもらえるとはね。連れてきてよかった」

「うん、ありがとう」

 微笑むオルガに礼を言った。

「この店は前からわたしのお気に入りなんだ、まぁ、おかみさんはいつも利用する女とわたしが同一人物とは気づかなかったようだが。

 しかし異世界文化の産物だと推測はしていたけど、これで裏付けがとれたかねえ」

 そういってオルガは笑った。

「ニホン語なら良かったんだが言語の情報がなくてね、助かった」

「日本語なら良かった?おまえ日本語も読み書きできるのか?」

「もちろん」

 オルガはうなずいた。

「わたしの専門を簡単にいえば、各地の魔法・魔術・魔導機械などを分析し、比較する事になる。必然的に広い範囲の知識と技術を求めるわけで、ひとつのテーマを専任で行う技術者よりも特定分野の知識は浅く、また低く見られる傾向があるのも事実だが──」

 そこでオルガは言葉を切った。

「この手の学問は比較魔道学と言われる。

 異世界からの来訪者がおり、古代の遺失文明なんてものが存在する我々の世界では、こうやって各ジャンルを横から切るような種類の専門家はどうしても必要なんだ。良くも悪くもね」

「ああ、わかる」

 SFでよく言われる統合科学者(ネクシャリスト)みたいなもんだろう。

「ネクシャリスト?」

「科学が進むとさ、各部の専門家つまりスペシャリストばかりになるが、その反面、自分の専門分野以外がわからなくなっていくんだよ。

 でもイノベーションってヤツはさ、時に全く異なるジャンルのコラボレーションを必要とするだろ?」

 純粋に正道のみで進んでいる科学者ならば、トラフグと金魚を同じ水槽で泳がせるなんてそもそも考えない。それは正道じゃないからだ。

 でも大きな発見をしようと思えば、異種ジャンルの成果を活かし、組み合わせる事は欠かせないだろう。そして同時に、異なる基盤や文化の産物を比較し、よりよいものを取得したり、立場を越えて採用できる目が必要になるだろう。

 そういったらオルガは、満面の笑みでウンウンとうなずいた。

「やはりハチはご同輩だったねえ」

「ご同輩?」

 なぜかオルガの顔が目の前にあった。

 頭を捕まえられているのに、ようやく気付けた。

「理解しあえる関係、ということさ。ん?」

「……」

 とろん、と目がうるんでいる。

 ああ……これは逃げられない。

 

 気が付いたら、唇が重ねられていた。

 カオパットの香り。

 そして。

 女の子の甘いニオイが広がった。


(・∀・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ