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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
異世界に立つ
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水くみ

 川べりについたのはいいけど。

「……堤防も道もないな」

 当たり前の話だった。

 大きな川だった。だけど河川敷は広くなくて、川の流れも早そうだった。

 で、だ。

 天然の(つつみ)はあるんだけど、車が降りられない。川が削ったんだろうけど、オーバーハングになっているところさえある。

 これは無理だな。

「うーむ」

 しばらく走らせると、(つつみ)が切れた痕跡を見つけた。今も小さい川が流れ出してる。

 うん、ここから入れそうだ。

 慎重に、その小さい川の河川敷に入れて走らせたんだけど。

「……うわ」

 どうしても一箇所、川を渡らないとダメだった。

 うーむ、ちょっとこれは。

 ん、まてよ?

 ナビはなんて言ってるかな?

「河川敷にいきたい」

『目的地到着しています』

 いけね、ここも河川敷だったわ。

 しょうがないので目的地付近を決めてタップする。大きい川の中州だ。

 そしたら、ナビはえらい遠回りを指示してきた。目の前はダメらしい。

 よくわからないが、ダメというのなら従おう。

 そして、バックしようとしたその瞬間だった。

 ……ばしゃり。

「!」

 いま、すんげー水音したぞ。

 思わず、タブレットに声をかけた。

「何かいるのか?」

『なにか・範囲が広すぎます』

「水中にいる生き物」

『水中にいる生き物・範囲が広すぎます』

「大きさ1メートル以上!」

『以下のようになっています』

 タブレットが表示してきたのは。

「……めちゃくちゃいるじゃねえか!」

 そんなにでかい川には見えないのに、メーター級のデカブツがうようよ。ほとんど魚らしいけど、違うのもいるっぽい。

 その中の、かなり近くにいる、しかも爬虫類(はちゅうるい)マーク。もちろんタップしてみて、そして詳細をみて総毛立った。

 

『ライガーワニ』

 まだ幼体だが、水に近づいたり川を渡るものを襲う危険なワニ。食べるとうまい。

 

 ワニだって!?

 って食うのかよ!

 いや、その前に食われてたまるかっての!

 迷わず∪ターンさせた。

 

 ナビを見つつ戻り、指示通りの場所から降りる。

「おぉ行けた」

 すばらしい。そしてひとつ勉強になった。

 ここは日本じゃない、これからはちゃんとナビに頼ろう。

 途中、浅い水面を通ったけど、水しぶきがあがらない。見れば水面の上を飛んでいた。

 なんというか、わかってても不思議だな。うん。

 地形はあまり関係なしか。

 だけど要注意もあった。

 浅いところにもかかわらず、水面下にいた影がスーっと動いて行った。

 いやあ、多いわ野生動物。

 まじで油断は禁物だな。

 でもそうか、魚も多いんだな。

 釣れるかなぁ。いや、そもそも食えるのか?あとで調べるか。

 今はまず、水を確保する。

「周辺の動物を監視。キャリバン号か俺に近づいてきたら警告して」

『了解』

 だんだんタブレットにも慣れてきた。

 後部左のドアを開けた。

 白いポリタンと、半透明の柔らかいポリタンがある。どっちも10リッターだ。

 そこで問題に気づいた。

「……片方残さないとダメか」

 片方に水を汲む。鍋かなにかで沸かす。で、冷やして片方に詰める。

 万が一を思えば、逆にするのも共用もナシだ。

 ということは。

「確保できる水は10リッターと」

 もともと防災用だから、配給車を想定したものだから20リッターあったんだけど。

 いずれ、バケツとかプラケースを転用するとか、考えないとまずいかもしれない。

 まあ今はいい。

 とりあえず白い方だけで汲むことにした。これでも数日は耐えられるだろうし、今汲みすぎるのも問題かもしれない。

 え?なんでかって?

 煮沸は時間がかかるし、だいいち使えるコンロがカセットガスだからだよ。

 何十リッターも煮てたら、たちまちなくなっちまうぞ。

 カセットガスが残っているうちに、別のうまい方法を見つけないとまずいだろうな。

「これで異世界ものの物語だと、突然魔法が使えたりするわけだけど……」

 ふとバカなことを考える。

 でも、そういう検証は今やることじゃない。今は水と食料の確保が第一。

 白いポリタンを掴んで水辺に向かった。

「ほう……」

 きれいな水面だった。

 流れが早く、変なニオイはない。魚が住んでいるということは、すくなくとも水に危険な金属が混じってるような可能性も低いだろう。

 それでも煮沸前提なのは、風土病が怖いから。

 比較的キレイそうなところで、水をとる。ごぼごぼと音をたてて。

 ごみや土をいれないよう注意しつついれていると、なかなか入らない。

「……あれだな、これ」

 20リッタータンクじゃないのを残念と思ったけど、とんでもない。

 周りが気になるわ不安になるわ、20リッターなんて絶対むりだろ。

 

 しばらく頑張ると、それでも10リッターがいっぱいになった。

「もういいか」

 急いでふたをして、栓をきっちり閉めた。

 そして立ち上がり、キャリバン号にもどろうとした瞬間だった。

 ピピピ、ピピピとアラーム音がキャリバン号から聞こえた。

「!」

 急いで水辺から離れてキャリバン号に戻った、その背後では。

「げ!」

 ざばしゃっと派手な水音をたてて、小さいワニみたいなのが現れていた。

 うわああ、あぶねっ!

 キャリバン号は水辺から離していたし、ワニは積極的にずっと追ってはこないだろう。

 だけど冗談じゃない!

 慌ててポリタンを後部座席に突っ込むと、自分も乗り込んだ。

「エンジン始動」

 稼働したキャリバン号を反転させ、外に出る。

 水の煮沸?

 それは、安全で見晴らしのいいとこでやるよ。

 

 川を出て少し走ったところに、丘になっているところがあった。

 危険な生物がいないことを確認してから停止。

 さっきと同じく警戒を指示してから後部荷室に入った。

 窓を開け、カセットコンロと、一番大きい鍋を出した。

 カセットコンロの火は風に弱い。

 キャンプ用風防は持ってるけど、わざわざ外でやる必要ないだろ。なれない環境だし、今はとりあえず車内でやるさ。

 鍋を火にかけた。

 湧くのには時間がかかるから、その間に少し情報を整理しよう。

 

 ぶっちゃけるけど、沸かしても完全に安全なわけじゃない。

 沸騰状態で十分もやれば、水中の危険な微生物は殺せるかもだけど、あくまで可能性だ。それに鉱物みたいな毒素にはどうしようもない。

 魚が住めて微生物もいるなら、高確率で飲める水だろうってのはあるけどね。

 でもさ。

 極端な話、その魚が雷魚やピラルクみたいに空気呼吸する生き物ならお手上げ。そういう魚は極悪な水質でも生き延びるからだ。

 結局のところ、沸かすのは「やらないよりは全然マシ」にすぎないことではある。

 でも。

 やれば回避できたことでむざむざ死ぬなんてごめんだ。そうだろ?

 

「お」

 沸いてきたか。

 変なニオイは……特にないか。

 毒素の有無とか確認できればいいんだけど。

 とりあえず冷やそう。

 このままじゃポリタンにいれられないし、飲むこともできないしな。

「……」

 ちょっと取って飲んでみた。

 うーむ、不安だ。

「携帯浄水器でもあればなあ……?」

そう思った、その瞬間だった。

「?」

 一瞬、クラっと頭が重くなった。

 それは一瞬だったけど、微妙に疲れた感じがした。

 で。

「……えっと?」

 カセットボンベを取り出した箱の中に、何かがあるのに気づいた。

 覗き込んでみると。

「ん?携帯浄水器じゃん」

 これ、覚えてる。母が使ってて、頼まれてフィルターユニットを何度か買ったやつだ。

 あれれ?ここにいれてたっけ?

 ここにあるってことは、母が死んで片付けのときにもらって、そのまま忘れてたってことかな?

 むむむ?

「あ」

 その奥にさらに、記憶にないカセットボンベが三本。

 これ、最近のじゃないよな。イワタニ純正なんて俺買わないもの。母のとこにあったやつか?

 いや、すごい嬉しいけど。

 でも、これと浄水器、けっこう大きいぞ。なんできづかなかったんだ?

 むう?

 でもまさか、あれだよな。何もないところから浄水器が沸いてでるわけないし。

 

 この時の俺は、そのまさかであろうとはもちろん気づくわけもなかった。

 結局、煮沸したものを基本使いつつ、飲水はさらにそのフィルター通したのを水筒にいれて使うようにした。水筒は、ロゴスの飯盒とセットで忘れられてたっぽい懐かしいGIタイプがあったので、これを利用することにした。

 

 これでようやく、俺は水を確保できた。


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