ぶき
「わかった。じゃあ、とりあえず今日はアイリスが何とかするよ」
「何とかって?」
そういうとアイリスは、にっこりと笑った。
「リフレッシュっていう魔法があるの。グランドマスターに使い方聞かないとだめだけど、たぶんいけると思う。それでキレイにしよ?」
ほう、そんな便利なものがあるのか。生活魔法ってやつか?
「いいなそれ。その魔法、俺も覚えたいな」
ぜひとも。
「あー、それは無理」
「なんで?生活魔法ってやつだろ?だったら庶民むけってことだよな?だったら俺だって」
だけど、アイリスは首をふった。
「そういう魔法もあるかもだけど、リフレッシュは違うの。これ、キレイ屋って専門職の使う特殊魔法だよ?」
「そうなの?」
「グランドマスターも、お洗濯や衣類乾燥の魔法は聞いたこともないって」
「……それもそうか」
ドラゴンだもんなあ。物干し竿に洗濯物干したり……しないよな、うん。
「それに生活魔法ってこの世界の人の思考や感覚に合わせたものだよ?だから」
「あー……異邦人の俺には逆に難しいってか?」
「うん」
ああそうか。
なるほど難しいもんだな。
ひとが長旅をするとき、ひとつのハードルといえるのは風呂と洗濯だ。
一泊二泊程度ならどうにでもなるけど、長旅となると「生活単位」の確立が求められる。日常とは違うけど、求められる旅生活のリズムってのが存在する。
めしは一泊でも食べるだろう。でも洗濯は、特殊な旅行でもない限り、長旅じゃないと経験しないことが多い。
逆にいえば。
食事、寝床、風呂、洗濯を初めての土地で解決できるなら、人はどこにだって行けるし暮らせる。
この原則は外国だろうと、異世界だろうと変わることはないはずだ。
「はい、パパ。これでいい?」
「うん、ありがとう」
汚れた服や身体、それに寝袋とマットを魔法でキレイにしてもらった。ありがたい。
さて。
じゃあ次いきますか。
食事はカンタンにすました。
魚の切り身を焼いてラウラに。そして俺はそうめんをふた束煮て、そうめん茶漬けにして食べた。
アイリスは最初いらないと言ったけど、結局俺と同じのを食べた。
ササッと片付け終わり。
「じゃあさっそく、はじめるよー」
「うん」
出発準備を終えたキャリバン号の横で、俺は一晩温めた「俺の武器」を形にする。
威圧効果を狙い、持ち歩くもの……やっぱりここは拳銃だろう。
ただし反動は消耗品の問題もあるし、そもそも俺は見た目はともかく構造を知らない。ということは、細部の再現は魔力で適当に行われるはずだ。
ならば。
どうせ適当に再現されるならいっそ、魔力をエネルギーとして撃ち出せば……?
「……くっ!」
くそ、あったま痛いわ、クラクラするわ。予想以上だな。
覚えてるものを偶発的に呼び寄せちまうのと、自分からイメージを練り上げてゼロから構成するので、これほども違いがあるのか。
これ……やりすぎたら絶対やばいだろ。キャリバン号の時、よく平気だったな俺。
まあ、モノづくりする魔法なんてそんなもんか。
無から有を生じるような魔法がノーリスクなんてあるわけがない、リスクはちゃんと払えと。
ああ、分かってる。
穏やかに生きたい一般人の俺としては、あまり使うべきでないってことだな?
まあ……できれば記憶から普通にポンっと呼び出す方は制御していきたいけどな。
「……ふう」
ようやくおさまった時、おれの右手は金属の光沢のある無骨な銃を持っていた。
回転式拳銃、マテバ2006M。
某機動隊を想像する人がいるかもだけど、俺は昔大好きだったゲームからの採用だ。その作品では主人公の使う武器を選べるんだけど、実用性を無視して回転式拳銃をえらび続けると、途中から使用可能になる一種のボーナス武器だった。
ああ、ちなみにこれ実銃じゃないぞ、念のため。
要はマテバの形をした水鉄砲みたいなもので、発射するのは魔力を破壊力に変換したもの。見た目は純粋に趣味によるものだ。
ちなみに他の候補というと、ご存知アルセーヌ某の三代目の愛銃ワルサーP38、次にくわえタバコの殺し屋のマグナム、それから、どこぞの亀有の不良警官愛用のニューナンブM60と悩んでからこいつにした。
「試射してみる」
「うん」
「ラウラごめんよ、ちょっとうるさいからね」
「ワンッ」
向こうに見える大きめの立木を狙い、一発。
パン、と乾いた音と同時に。
「!」
一瞬で伸びた光が木にぶち当たり、バスっと丸い穴を開けた。
「おー、当たったねえ」
アイリスがにこにこ笑っている。
ふむ。
「よし、ちょっと威力あげてみる」
そう宣言すると、こんどは意識して魔力を込めてみる。ぎゅうううっと。
「!」
アイリスの顔に緊張が走った。
「ちょ、まってパパそれは」
よし、発射
バン!と、耳をつんざくような音がして。
マテバから伸びた強烈な光が木にあたって。
木が、粉々に吹き飛んだ。
「……これは」
耳がキーンってきた。
これでも反動がないのは素晴らしいけど……木が一本、粉々になるって。
これはだめだな。
まあ、意図的に魔力をぎゅっと込めないとこうはならないわけだから、これは禁じ手って事にすれば……まてよ?
ふと横を見ると。
「……」
丸くなって震えているラウラがいた。
しまった!音か!
「あああごめん、ごめんよラウラ!俺が悪かった!もうやらないから!」
クンクン鳴くラウラをなぐさめて、ようやく一息。
ああ、やばかった。まじで要注意だな。
……ん?
「……ねえ、パパ?」
「!?」
うわ、アイリス忘れてた!!
……しばらくおまちください……
「あいたたた……」
「もう!」
アイリスにげんこつ食らわされた。チョーいてえ。
え?子供のげんこつだろって?
ばかやろう、この子素手で人間の頭ふっ飛ばせるんだぞ!
死ぬかと思った……。
「あとの方は使わないこと!わかった?」
「おう、わかった。悪かったな」
「わう……」
とりあえずアイリスとラウラに詫びて、それから最初の方で再度、試射を行った。
そういえば。
「珍しがったりしないんだな?」
「魔力銃のこと?確かに珍しいけど前例あるから」
へえ。
「もっとも、まず使われないけどね」
「使われない?どうして?」
「原理はわかるけど、必要な魔力と効果が全く折り合わないんだって」
アイリスは肩をすくめた。
「能力・制御・威力、全て個人武器そのものなのに、個人の魔力じゃ扱えない。それこそ魔族の一部か異世界人でもないと駆動すらままならない。……まあ、魔力だけはでっかいパパむけの装備だと思うけど?」
そういって、俺のマテバを見るアイリス。
「それ、ろくな使いみちもないのにバカ魔力って言ってるだろ」
「うん」
「少しは否定しろよ」
「えー」
えーじゃない。
「ちなみに、前例ってのはどんな使い手だったんだ?」
「左腕に仕込み銃してたよ?左手がホルスターになってるの」
「……」
サイ●ガンかよ。
誰だ、そんな身体張ったネタ武器使いやがったのは。
「とりあえず、こいつで狩りの練習をするとして。もう一つ問題でたよ」
「問題?」
「呼び出しっつーか、召喚?これの制御」
俺は自分の頭を指差した。
「このマテバ出すの、かなりきつかったんだ。お前の服みたいにぽんぽん出すのは無理だな」
「あー……そりゃお洋服を思い出から引っ張り出すのと、機械を自分で作り出すのは全然違うもの」
「やっぱりそういう事なのか?」
「うん」
アイリスはうなづいた。
「思い出から引き出すのは、すでにパパの持ってるイメージを呼び寄せるだけだもの。相応の魔力を消費するけど、それだけだよ。
でも、その銃は違うんでしょ?」
「ああ。見た目だけで中身は完全に魔改造、いやもう完全にオリジナルだな。でもキャリバン号もそうだろ?」
「キャリバン号を呼んだ時にパパ、具体的に構造指定した?魔力で走れとか浮いてすすめとか」
「いや、してない」
「だからそこだよ」
わかってないなぁとアイリスは笑った。
「つまりね、不条理の穴埋めを誰がするかって話なの。
単に呼ぶだけだと、不合理なところは世界とか因果とか、そういうものが勝手につじつまを合わせるの。だからパパの負荷にならないわけ。でも、その銃は」
「そういう面倒なところも、俺がゼロから指示しようとしたから……当然俺に無理がきたと?」
「何かをゼロから構成するんだもの、そりゃ当然だよ」
俺はイヤな予感がした。
「なあ」
「ん?」
「もし俺が、とんでもないもの……たとえば核兵器みたいなものを、その構造もしっかり指定して作ろうとしたらどうなる?」
気になることだった。
考えるだけで何でも作れる、それは凄いことだけど。
だったら、とんでもない兵器や道具を作ることもできるんじゃないか?
しかし。
アイリスは俺の不安に対し、明日の天気でも告げるように言った。
「できると思う。でもやめたほうがいいよ」
「なんでだ?」
「パパの脳が焼ききれちゃう。一発即死だよ」
「そうなのか?」
「うん」
「……なるほど、気を付ける」
「それがいいよ」
どこまでが大丈夫で、どこまでがいいのか。
俺だって核兵器なんかいらないけどさ、たとえばカフェオレのスティックがアイリスに好評なんだよ。でもあれ、あと七本しかないんだ。
既存の細かいものくらいなら問題ないのか?
このあたり、試行錯誤しないとだめっぽいな。
「それじゃパパ、狩りの練習しにいこっか!」
「練習?どこに?」
「ポリット平原っていうのが近くにあるの。そこなら色々いるから」
「おお、いいね」




