異世界
今日は三話投稿です(2/3)
膝の上に愛用の板を置いて、その上にチキンカツカレー弁当を。
ウーロン茶はドリンクホルダーにおさめた。
で、食べようとしたところで「ああ」と思った。
そうだ、タブレット!
助手席のかばんから7インチのタブレットを出して、ダッシュボードの上に。
仕事中は電源を落としていたので、当然真っ暗。
とりあえず起動。
すぐには使えないので、俺はカレーを食べ始めた。
当たり前だけど、カレーはいつものチキンカツカレーだった。
で、ふと、スマホをポケットから取り出して画面を見た。
「……圏外?」
そんなばかな、ここ東京だぞという気持ち。
そして、まわりの砂漠が現実なら当然だろうという気持ち。
だけど、さらに別のことにも気づいた。
「いやまて、無線LANが生きてる?」
圏外だけど、無線LANにはつながってた。
接続元は「carry-ban-1」つまりこのクルマ、キャリバン号だ。
あ、ちょっと説明。
このクルマには無線LANを仕込んでいる。エンジンがかかるとルータが起動するようになっているんだ。
しかし今、エンジンかかってない。
それに、そもそもキャリアの基地局がどこにある?
だけど、さらにタブレットのほうが起動したのを見た俺は、いよいよ事態がおかしいのに気づいた。
タブレットはSIMフリー版なのだけど、なんと無線LANだけでなくキャリアのアンテナも立ってる。
思わず、ごくっとつばを飲み込んだ。
スマホはやっぱり圏外。どちらもキャリア同じなのに。
この違いは何だ?
スマホは俺のポケットにあったからで、タブレットは車の中だったから?
わからん。
とりあえずスマホはポケットに。
で、タブレットにいつもの合言葉をなげた。
「オーケー」
ぴこっと音がしてタブレットの画面が変わったので、言葉を告げた。
「現在地を教えてくれ」
最近のスマホやタブレットは、これで現在地を教えてくれる……ちゃんと通信できればだが。
無理だろう、そう思った。
こういう機能は電子機器にとってクリティカルなものなので、持てる機能を総動員するものなのだ。
すなわち、対話エージェントは通信できるだけでなく、対話サービスを提供しているホストとつながらないとダメなはずだからだ。
さらに位置の確定にはキャリアの電波、GPS、はては公開無線LANの情報まで使わなくちゃならない。
だからたぶん、エラーになるはず。
でも。
そんな俺の内心を、タブレットの返事は斜め上にぶった切ってきた。
『こちらは旧帝都マンカス周辺部です。中央大陸ケラーナ平原の中央部にあたります。無人地帯なので番地・屋号はありません』
「……はい?」
なんじゃそれ?
意味がわからない。
マンカス?なにそれ?それにテイトって?
ケラーナってなに、南米のどっかか?
「地図を起動」
ピコっという音がして、少し待つと地図が起動した。
起動してきたのだけど、何かおかしい。
「……どこだよこれ?」
少なくとも東京じゃない。
指二本で地図をタップして、縮尺を大きくしていく。つまり、どんどん広域地図に変えていく。
だけど。
「……どこなんだよこれ」
ここは砂漠で、周囲百キロ以内には町がひとつ。西にだいぶ進むと森があるようだけど。
そもそもここ鳥取じゃないぞ。なんでこんな。
どこだ?どこなんだ?
「……おい」
さらに拡大しても日本列島すら見えない。
それどころか、見慣れたいかなる大陸の形もない。
そして、最後にたどり着いたのは。
『惑星名なし。過去に付けられた暫定名「エムレラ」。エムレラはアマルティア語で「希望の里」の意味』
「は……は……」
惑星名?
エムレラ?アマル……なんだって?
なんだよ……なんだよそれ。
「なんなんだよそれ!?」
思わず、小さな車内で絶叫していた。
どれくらい、呆然としていたんだろう?暑さで我に返った。
食べかけで冷たくなったはずのチキンカツカレーが、日照りでまだ暖かい。
助手席に放り出したタブレットに日差しがあたり、熱くなりだしていた。
まずい!電子機器が壊れる!
すぐエンジンをかけて、エアコンを入れた。
ポンコツ車だけど、エアコンはまともだった。
まあこれがないと夏、大変だからな。人間は耐えても道具が壊れる。
「ふう……」
この状況で、さらに機材まで壊れるとか冗談じゃないぞ。
「まだ食えるよな」
とりあえずカレーは食べた。
たべながら、エンジンのかかっているパネルを凝視する。
「……とりあえず、問題は燃料か」
途中で給油するつもりだったんだ。もちろん満タンじゃない。
そして、見渡す限り……このへんにGSがあるとは思えない。
だけど。
「……なにこれ?」
燃料計がおかしい。Fuel Meterのところに『Magic Meter』と書かれている。
「……マジックメーター?」
そういうと、タブレットが唐突にピコッと鳴った。合言葉言ってないのに。
おかしいな。へんな読み取りミスしたかと顔を向けると、検索結果が目についた。
『魔力計。持ち主の魔力を動力源とする機器についている』
魔力だって?
見返すと、燃料系かわってマジックメーターは、半分くらいのところを示している。
「半分か。マジックメーターが半分、これはどういう意味?」
ちらっとタブレットをみながら、これみよがしに言ってみたら。
……検索してるよ、おい。
タブレットも、なんかちょっとおかしいな。
検索結果を見てみた。
「えーとなになに?これはリンクしている持ち主の魔力が半分だということ?」
いや、ちょっとまて。
「俺は魔力なんかないぞったってわからんか。ええい、どう言えばいいんだ?」
そしたら、また検索が動き出した。
キーワードは……『おれは魔力がない』になってら。
検索結果は……検査方法かこれ?
『適切な魔道士にチェックしてもらうのが完璧だが……』
却下。というか魔道士ってなんだよそれ。
次は?
『魔導機器の中には簡単なチェック機構を持つ物がある。これらは本当にアバウトではあるが、いろんな方法で魔力の状態を確認できる。
わざわざ魔力計を装備している機器なら、おそらくは確認可能だろう。キーワードは「報告せよ」である』
ほう?
「報告せよ、ねえ。よくわかんないけど、そんなことで調べられるの……って!?」
その瞬間、タブレットの画面が変わった。
何かと思って見たら、こんな表示があった。
『燃料53パーセント。機関始動中。蓄積中、満タンまで3時間40分』
「……おい」
満タンまで3時間……蓄積中?
いま蓄積中なのか?エンジンかかってるのに?給油もしてないのに?
いや、そういう問題ではなくて。
「……ただのタブレットなのに、なんで?」
クルマの情報を表示するんだ?
いやまて。
「確認してみるか」
タブレットを手に取り、設定画面を開いた。
このタブレットのシステム……OSのバージョンがどうとかメモリーがどうとか、そういう情報のあるところを開く。
「……知らない項目があるな」
OSのバージョン番号は前と変わらないと思うけど、カスタマイズされたことになってる。
しかもその内容が。
「魔力を媒介にする車両システムとの連携……?」
なんぞそれ。
技術ガイドみたいなのがあったので、開いてみた。
初心者ガイドでなくてREADMEになっているあたり、万人むけでないのがモロわかりだ。いちおう理系の俺はわかるわけだが。
「へえ……本当に魔力とやらを媒介にしてるのか」
タブレットとキャリバン号は、魔力を媒介にしてリンクしているらしい。そしてタブレットはキャリバン号の一部になっているので、その接続を切らない限りエネルギーも切れないらしい。
うーむ。
現実にも無接点給電はあるし、Bluetoothによるリンクもあるから驚きはないが……魔力?
それに。
この、外の砂漠の風景と関係あるってこと……だよな?これ?
「お」
そんなことを考えつつ探していると、キャリバン号についての情報を見つけた。
早速読み出したのだけど。
それは、驚くべき内容になっていた。