出会い
「うわ」
なんだあれ。
捨てた内臓に、なんかでっかいカニが群がっている。三輪車くらいあるぞオイ。
食えるかな?
いや、食えるかもしれないけど、さすがに何食ってるかわからないからな。
今のところは手出し厳禁だろ。こっちは焼き魚で。
ま、いいか。
コツコツ
見れば、波打ち際のカニ増えてる。
ふむ、あとでアイリスに確認……いや、あれは検索かな?うむ。
つんつん
クウ~ン
それにしても、うまそうなニオイが……って、ちょっとまて。
さっきから、なんか温かいものが足元に?
「お?」
「クウ~ン」
ふと下を見ると、そこには一匹の、子犬っぽい何かがいた。
黒い子犬?
うん、首輪はないな。
しかし、なんか弱ってないか?こいつ?
「……」
顔をあげて結界ってやつを見た。
多分、ちゃんと動いてる。
つまり、こいつはきっと敵じゃない。害意もない。
本当にただの迷い犬?ってことか。
……ま、いっか。
「なんだ、食いたいのか?ちょっとまて」
焼きかけの切り身をちょっと齧ってみた。
予想より塩気がたりない。
「味気ないな……でも、むしろ好都合か?」
俺が食うなら塩気がほしいけど、犬にやるならむしろいいだろ。
「ほれ、食ってみるか?」
ためしにやってみた。
子犬?はくんくんとニオイを嗅いで、そして猛然と食い始めた。
「……おー」
問題なさそうだな。
でもこの食べっぷりじゃ足りないだろうな。
悩んでいるうちにも食い終わったらしく、6つの目をキラキラ輝かせてこっち見てる。
もっとくれー、くれーという声が聞こえてきそうだ。
「肉がないからなあ。でも犬に生魚はよくないだろ、ちょっとまて」
本当はちゃんと熱を通すべきなんだろうが、しかたない。
火力を上げるだけ上げる。アイリスが戻るまでは保つだろ。
切りかけのやつを薄めにぶったぎり、あぶっていく。さすがに完全生魚は心配だしな。
そして、いいだろってやつからどんどんくれてやる。
「うむ」
もりもり食いだしたな。
あはは、おしりフリフリしちゃってまぁ、可愛いじゃないか。
どんどこ焼きつつ世話やいていたら、アイリスが戻ってきた。
「パパ、薪もってきたよー」
「おう、ありがとな。あとすまん、ちょっと調べて欲しいことができた」
「え?」
「こいつなんだが」
俺はナゾのわんこを指差した。
「?」
アイリスはわんこを見て「え?」という顔をして。
それで「えええっ!?」とびっくり顔になった。
「け、ケルベロス?なんで!?」
「おお、まじでケルベロスなのか!」
なんと。
「パパ、まさか普通の犬だと思ってたの?」
「アホか、いくら俺でも首が3つある時点で気づくわ!」
だから「子犬?」だったろ?
「だったらどうしてお魚食べさせてるの?あ、もしかして盗られたの?」
「違う違う、こいつよく見てみ?ボロボロだぜ?」
「え?……あ」
こんどはアイリスも気づいたらしい。
そう。
こいつ、何か知らんけど全身ボロボロなんだよ。
「独り立ちする年頃には見えんし、親も近くにいそうにない。いないよな?」
「ちょっとまって、確認する……たしかにいないね」
うん、とアイリスはうなづいた。
「外でケンカするにしても、子犬すぎないか?何かあったんじゃね?」
「そっか、ちょっとまって。調べてみる」
「あーいや待て、その調査は後でいい」
「え?」
首をかしげるアイリスに、俺は要件を告げた。
「親がいねえってことは、どのみち当面あずかりだろ?
それで確認してほしいんだが、二点ある。
ひとつは、犬の食事でいけるのかってこと。
あと、大きくなったらキャリバン号に乗せられるのかってこと。
悪いが速攻で頼む」
「え」
アイリスの目が丸くなった。
「飼う気なの!?」
「いや、だっておまえ、こんな怪我してるチビ助を放り出せと?」
「……」
足元には、脇目もふらずにシッポふりふり、でっかい魚をむさぼる子犬……ただし三つ首。
それに。
子供だからってこともあるだろうけど……敵意とか害意をまったく感じないし。
「大人になるまで飼えないってんなら、それでもいい。危険だっていうなら、それもあきらめるよ。
でも、だったら行き先とか、誰かに譲渡するとか、そこまではちゃんと世話してやりたいと思うんだが。どうだろ?」
「……わかった。グランドマスターに確認してみる」
そういうと、アイリスはしばし沈黙した。
そして、
「パパ」
「わかったか?」
「パパに懐いているなら問題ないだろうって。ただし野生のケルベロスは基本的にいないはずだから、間違いなくワケアリだろうって」
「つまり、この子をここまで追い詰めた奴が近くにいるってことだな?」
「うん……それと、その子の両親とか兄弟を殺した者もね」
「!」
そうか。
「野生は基本的にいないって言ったな。どういうことだ?」
「あ、うん。ちょっとまって」
アイリスは、キャリバン号の助手席にいくと、タブレットを持ってきた。
「えーと……あ、はいこれ。こっちが早いから」
「おう」
検索結果を見せてくれた。
『ケルベロス』
三つ首の犬の魔獣で、魔族が飼っている他は基本的に存在しない。これは身体能力に劣る魔族が昔、愛犬から創造したからと言われているが、詳しいことはわかっていない。
高い知性、強大な力を持つ。
飼い主と簡単な意思疎通を行い、連携して狩りや防衛戦を行うことができる。
魔族との親和性が高いためか、魔力の豊富なものが大好き。
なお、人間族にとっては魔族領に攻め込む際の最大の障害であり、これを倒せることは勇者の証とされている。
ゆえに、何らかの理由で野生化したケルベロスは人間族に見つかり次第、集団で追い立てられ狩られることが多い。
「……ひでえな、おい」
なんだこれ。
「野生はいないって、見つかったら狩られるせいなのか」
「あと、人間族以外が見つけたら魔族領に通報してお迎えがくるんだって。
魔族はケルベロスをとても可愛がってるからね、連れて帰って大事にされるみたい」
へえ。
「野生化してたらもう、ひとには懐かないとかはないのか?」
「それがね、ケルベロスって魔族には従順なんだよ。敵意がないかぎりね。
だから魔族領では、国民ひとりに一匹って勢いで飼われてるんだって」
ほう?
「そりゃすごい。興味深いな」
「……?」
アイリスの目線が苦笑めいてきた。
何かと思ったんだけど、足元のぬくもりにアアときづいた。
つまり。
「……ありゃ」
いつのまにか魚を食い切ったケルベロス(名無し)が、俺の足にもたれかかって居眠りを開始していた。
「やれやれ、寝かせてや……あれ?」
なんか、磁石みたいにくっついて離れないんですが?しがみつかれてるわけでもないのに?
アイリスに顔を向けたら、当然のように言われた。
「パパの魔力に同調して、吸い上げてるんでしょ?」
「……どういうことだ?」
「パパ、話したでしょ?通常生物と混在生物のこと」
「あ、ああ」
「クロコ・クマロは普通のお魚で、混在生物じゃないの。
つまり、混在生物であるケルベロスにとっては不完全な食べ物なの。魔力が少ない、あるいは皆無だから」
「……それで、俺をデザートにして魔力を吸ってる?」
そうだよ、とアイリスはうなづいた。
「問題はないのか?」
「魔族も赤ん坊の魔獣に自分の魔力を与えて育てるから。心配いらないと思う」
「やっぱ、本来は魔物を食わせるべきなのか?」
「本来はね。でも無理に食べさせなくても、お散歩のついでに野生の魔物に遭遇すれば勝手に狩って食べるって」
「おやつみたいなもんか」
「たぶん」
なるほどね。
「大きさについてはどうだ?」
「自分で判断して、まわりに合わせた大きさで徘徊するから問題ないって。
でも、それに順応しすぎるのはよくないから、外で遊ぶ時は『元のサイズで遊びなさい』って指示してやるのがいいって」
「なるほど。わかった」
まあ犬だしな。
当面はキャンプ生活だろうし、問題ないだろ。




