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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
コルテアを東へ
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どうしようか?

「難しいな」

「そうか」

「できないとは言わないさ。

 けど、安易な実装をするのは良くないからねぇ……ほれ」

「おう」

 キャリバン号の二階、通称ベッドルーム。

 毛布からは爆睡するアイリスの足がはみ出してるわ、彼女の左右にはケルベロス二匹が丸くなっているわと若干カオスな感じだ。

 ちなみにアイは下で周囲警戒しつつ休息中なので、ここにはいない。

 ベッドの横で俺とオルガはキャンプ定番の鹿番長のミニアルミテーブルを広げ、軽く晩酌しつつ話をしていた。

 テーブルの上には酒を小分けした銀色のシグボトルに、コッヘルがふたつ。

 ちなみにアウトドアでおなじみのシェラ某ではなく、ロッキーカップというやつだ。1/2パイント入る深底のやつ。

 カルティナさんにもらった酒、これ美味いわ。

 蒸留酒で、名前は望郷酒ギルガメッシュだっけか?

 名前はすごいが、中身はどうやらスコッチに近い感じだ。

 うん、これはいい感じなんじゃないか?

「ときにハチ、この平たい小魚の焼いたのは何かねえ?」

「ニロギだよ」

「ニロギ?」

「俺の故郷でよく釣れる小魚だな。不味いか?だったら別のにするが?」

「いや、いい……ふむ、適度に香ばしくて良いな」

 オルガはそういって、どこか上機嫌に微笑んだ。

  

「ズバリ聞くけど、キャリバン号の警報システムを向こうに通じるようにはできないか?」

「できないとは言わんが材料が足りん、一度わたしの研究室に戻らんと無理だ。

 あと、技術的問題もある」

「技術的問題?」

「アイの行った空間接続方法はわたしの知らないものなんだ」

 オルガはのんびりと酒を味わい、そして微笑んだ。

「先生の技術つまりドワーフのものなのはわかる、だがそれだけだ。

 こういうものは、うかつに共存させると何が起きるかわからないのだねえ」

「ああなるほど、技術体系が違うのか」

「ギジュツタイケイ……ああ技術の系列だな、うん、まさにそういう事になる」

 オルガは納得げにうなずいた。

「わたしは確かに学生時代、先生にドワーフ技術の基礎も学んだ。

 しかし、わたしには技術として知る事こそできたものの、自分で応用・工夫できる生きた技術として取り入れる事はできなかったんだ。

 ……といえば理解できるかねえ?」

「言わんとすることはわかる……こういう理解でいいか?」

 

 かつて日本の小説家や小説マニアたちが、近代米国生まれのホラー小説を土台とした架空の神話体系と遭遇したことがある。

 これらは多くの作家が世界観の土台にしたり、同じ系列の作品をこしらえたりして楽しんできた。

 ところが、中には奇妙な組み合わせや解釈で魔改造を行い、とんでもない奇作をこしらえる者が続出した。

 異界の怪物すら料理する男を描いたり。

 魔導書をゴスロリ幼女、しかもヒロインにしてしまったり。

 それはもう、いろいろと。

 

 だが異質なものの出会いは多くの場合、複雑で予測のできない化学変化を起こす。

 それが小説みたいな文化作品ならいい。ぶっちゃけ、ただの文化交流だ。

 でも。

 空間をいじるような技術でそれが起きたら?

 ……それは、とてもおそろしいことではないだろうか?

 

 俺の話を聞いたオルガは、悲しげにためいきをついた。

「ああ、その理解で正しいとも……情けない話だがな」

「オルガ」

「ああいや、すまん、おまえが気にする事じゃない。これは学者としてのわたしの問題だ」

「……そうか」

 オルガは、コホンと咳払いをした。

「とにかくだ。

 わたしはドワーフの技術、特に空間系の技術については、読み取ることはできるし何であるかは理解もできる。

 だが応用はできない。

 こういう技術はな、ハチ。無理に併用させると問題が起きる可能性があるんだ。

 事実、ケラナマーの実験室では起きたしな」

「なるほど」

 俺はちょっと考え込んだ。

「異質な技術の併用は、できたとしてもクリティカルなもんになりかねないってわけか……。

 んー、仕方ないとはいえ、もったいないな」

「もったいない?」

「ん?だってそうじゃないか?」

 俺はためいきをついた。

「このままだと当面、あっち側は洗濯物と干物を干すくらいしか使えないことになるからな。

 中でリゾートするのは魔族領にいってからのお楽しみにするとして。

 せっかくの熱源が扉の向こうにあるのに、もうちょっと有効利用できないもんかなってな」

「熱源?有効利用?」

 首をかしげているオルガに俺は言い切った。

「ん?おかしいか?

 魔法陣や暖房機械で擬似的に作らんでも、すでにある温かい空気を暖房に使えたらなと思ったんだが」

「なるほど……しかし扉の向こうといっても見た目だけで、実際は見知らぬ異空間だぞ?」

「しかし現実に空間をつないで使ってるわけだろ?

 だったらさ。

 あれをこう、もうちょっと小細工というか改良というか、うまくできないもんかな、と素人的には考えてしまうわけなんだよな、電磁波だけ通せないかとかエアコンみたいに熱交換とか……どうよ?」

「……どうせ空間をつないでいるのだから、そこを改良して暖かさを取り込めないかと?」

「そそ」

「……」

 オルガはしばらく考え込んでいた。

 そして。

「ふふ……そうか、そうきたか……フフフ……ハハハ!」

 な、なんだ?

「あー、もしかして、そんなにバカバカしい提案だったのか?」

「あーいや、違う、違うぞハチそうじゃない。

 そうじゃないが、しかし……ははは……あはははっ!」

 ついにオルガは大笑いをはじめちまった。

 あまりの笑いにアイリスやわんこーずまで、なになに、どうしたのって眠そうな目でこっちを見ている。

 ……アイの目らしきものまで下の階からのぞいてら。

 そして、オルガの笑いが収まってきた。

「ああいや、すまん……ハチ、本当におまえは面白いやつだな」

「……」

「すまない、バカにしているわけじゃない、むしろ逆なんだ」

「逆?」

 うむ、とオルガはうなずいた。

「現時点で両空間がつながっているんだから、その接続条件をいじるのが最も自然。

 まったくそのとおりだ、おまえは正しい。

 正しいんだが……実はな、この世界の学者にとってはそうでもないんだ」

 ほう?

「……おもしろいな、少し事情を聞いていいか?」

 いいともとオルガは笑った。

「ドワーフ技術というのは一枚岩ではないんだ。

 特に空間関係の技術は古代アマルティアも危険視していたらしくて、その詳細まではドワーフにすら開示してなかったようだ。

 取扱いを誤ったら、星ごし消し去ることも可能な技術だからと」

「なるほど……博士やアイは細かい応用技術までは知らないってことか」

「そういうことだ」

 ふうっとオルガはためいきをついた。

「ぶっちゃけるとな、おまえと同じことを考えた研究者は多いんだが……正直、険しいどころの話ではなくてな。現状、学生が挑むといえば教授が全力で引き止めるような案件なんだ。

 ドワーフ技術ですら敷居がかなり高いのに、そのドワーフですら届かないものだから無理もないがな」

「ほほう」

 そんなものすごい技術だったのか。

「なるほどな、それじゃ笑われても無理もないか」

「ああでも、笑ったのはそのためじゃないぞ」

 俺の言葉をオルガは否定した。

「おまえはこの世界の生まれでもないし、正式にこっちの学生として学んでもいない。

 そんなおまえが、先走りすぎた小僧の鼻垂れ学生みたいな回答にたどり着いたんだぞ。

 この事が不思議で、興味深くて。

 考えていたら、思わず笑ってしまったんだ」

「……そういうもの?」

「うむ、そういうものだ。

 先生もおまえの事をずいぶんと面白がっていたが、そういう事だねえ」

 そういって、オルガはにっこりと笑った。

 

「しかし、そういうことだと浜辺の有効利用はまた後日かあ」

「それなんだがハチ、もっと簡単な解決法もあるんじゃないか?」

「ん?」

「誰かにキャリバン号側で見張りをしてもらうのはダメなのか?」

「その手も確かにあるとは思うが……なんかこう、負けたような気がするんだよなぁソレ」

「負ける?」

「うん」

 皆が楽しんでる時に誰かひとりに犠牲を強いる。

 ……まぁその、ファンタジー小説の異世界の旅なら、盗賊やモンスター対策の見張りを交代でするんだろうけどさ。

 キャリバン号で……まがりなりにも『クルマ』で旅をする俺が、同じことをするのはどうだろう?

 技術で生まれた乗り物を駆るなら、技術で生まれた解決法があるんじゃないかって。

 

 え?魔力で浮いて走る乗り物なんて『クルマ』じゃないって?

 あー、その、なんだ。

 そこはその、技術とファンタジーの混血児(ハイブリッド)って事にしといてくれよ。

 

 

 で、だ。

 その翌朝、俺は思わず大笑いする事になったんだ。

 というのも。

「パパ、ほらほら」

「……マジか」

 俺はビックリしていた。

 え、何にって?

 そりゃあおまえ。

 

 笑顔のアイリスが例のドアの中に立ち、扇子でパタパタやってるんだけどさ。

「ちゃんと入ってるな……風」

「うんうん」

 向こう側であおいだ熱風が、キャリバン号側に入ってきてる。

 え、なんでこうなるの?

 目を丸くしていたら、オルガがつぶやいた。

「……そうか」

「?」

 な、なんだ?

 オルガが何か悩みだしたぞ?

 そんでもって。

「そうか、そういうことか!

 あっははは、わたしもハチを笑えないな!ハッハハハッ!」

「……?」

 わけがわからない。

 そしたらオルガは、ぽんぽんと俺の肩を叩いてきた……泣き笑いみたいな顔で。

「いやー悪かったハチ、わたしも大間違いしていたよ」

「そりゃよかったが、悪い、説明してくれるか?」

「うむ、簡単なことさ」

 オルガがにんまりと笑った。

「ふたつの世界をこうやって常設的に結び合わせるのは本来、とても危険なことなんだ。

 両方は自然だとお互いが認識できないほど完全隔離されるべきものであって、行き来できるなんて『あってはならない』事なんだが。

 だがしかし、我々はここを通って行き来できる、そうだな?」

「あ、ああ」

「わたしはこの境界面を、生命体のみ通過できる特殊な仕掛けがしてあるものだと思っていた。

 だが、どうやら違うようだ……そうだなアイ?」

「はい、その通りです」

 俺たちの背後でアイがうなずいた。

「『生命体』のみ特定して往来させるのは極めて困難です。

 またその場合、衣服や装身具も一切通せません」

「あ」

 そうか。

「ただ空気の対流を許しますと、温度や気圧の違いから常に強い風が吹いてしまいます。

 ゆえに全体的には素通しにしつつ、気体むけの結界を施してあるのです」

「……まったく逆のアプローチだったってことか?」

「そういうことだ。ぶっちゃけるとまあ、わたしが深く考えすぎていたという事だな」

 オルガは苦笑いした。


ニロギ:

 たぶん地方名で本来はヒイラギ。

 特に高知県などで昔からよく食べられる。

 近年は他の地域にも珍味として出回る事がある。


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