電力中継プラント
2018/04/17: 更新ミスにより全面差し替えしました
いろいろあったけど、とりあえず出発した。
出発したんだけど。
【パパ、かわいい?かわいい?】
【だから、パンツを見せびらかさんでいい】
ゴーレムの上で退屈しているアイリスは、なぜか次々とパンツ……正しくはドロワーズなんだが、まぁパンツでいいだろ……を履き替えはじめた。
え?どういうことかって?
アイリスが座っているところは、中にいる俺の側からは透過して見えるんだよ。
つまり、俺の方から見上げるとだ。
相変わらず、上に座っているアイリスのパンツが丸見えになるわけなんだが。
【なぁアイリス】
【なぁに?】
【そのパンツ、オルガにもらったんだよな?】
【そうだよ?】
【なんで、そんな可愛いピンポイントが入ってるんだ?】
そうなのだ。
なんかコミカルなクマさんみたいなのとか、やたらと可愛い絵柄が尻に描かれているんだ。
そしたら。
【もちろんアイリス嬢にあわせたんだ、当然だろう?】
【オルガか、どうやって通信に入ってきた?】
【こんなこともあろうかと、通信プロトコルを解析してわたしのタブレットに入れておいたわけだが?】
【……マジか】
さすが天才というべきなのか……チートだなオイ。
あ、ちなみに通信自体はできるんだぞ……古代の賢い通信網が今も生きていて、地球のスマホみたいなのも独自にプロトコル解析して勝手につないでくれるんだと。
うちのネット環境が生きているのもそのせいだ。
でも、これはあくまで通信方式上の話。
ショートメールのたぐいはその上のコンテンツ層の話なんで、そう簡単にはいかないはずなんだけどなぁ。いくら今使っているのが、電話番号さえわかれば無手順で飛ばせる一番原始的なやつだとしても。
これらはやっぱり、オルガが天才って事なんだろうと思う。
【心配はいらないぞオルガ、俺はおまえが可愛いもの好きでも全く問題ない。むしろ大いに愛でてくれ、個人的には眼福で嬉しいくらいだ】
【いやいやちょっとまてハチ、本当に誤解なんだ!】
そんな馬鹿な話をしながら、俺たちは進んでいった。
アイリスに張り付かれたりパンツの話ばかりしていると思われるかもだけど、もちろん問題の設備に向けて移動は続けていた。じゃあ、どうしてそれについてコメントしなかったかというと、俺は螺旋階段を長時間見ているとめまいがしたからだ。
いや……ダメなんだよ。
四時間も五時間も、ずーっと同じ角度と方向に続く螺旋階段とか、とても耐えられない。
そんなわけで、悪いんだがアイに任せっきりだったんだよね。
で、まぁ。
「到着しました」
「おつかれ、ありがとうな」
「言え、とんでもない」
到着しました、電力コントロールセンター。
とはいえ、具体的に何があるかというと。
「螺旋階段の一番下に、ただ装置類があるだけってか?」
階段の下の部分に、まるで上から隠すように装置群が設定されていた。
螺旋階段にはずっと常夜灯程度の明かりがついていたけど、この装置には何もついてない。ただ常夜灯の明かりに照らされて、それが停止状態の機械である事が理解できるだけだった。
「止まってるなぁ……それとも壊れてるのか?」
どっちにしろエネルギーが来てないのは間違いない。
さて、どうしたものか。
『ちょっと待ちたまえ、アイリスに配線図と映像のデータを送ろう』
アイリスの口から、ドラゴン氏の声が漏れた。
「え、すんません」
『かまわない、構造がわからない事には直しようもないからね』
少しまつと、アイリスが「うん」と大きくうなずいた。
「データきたよー」
「おけ、じゃあちょっときくんだけどよ。これ電源というか動力源ってどこだ?」
「ちょっとまって」
そういうとアイリスは、ああでもないこうでもないと機械のあちこちをチェックしだした。
「パパ」
「ん?」
「これ、ちゃんと動力接続されてるよ。もっと根本で切れてるっぽい」
「根本で?」
「うん」
根本ねえ。
けど、それがもっと下だと調べようがない……まてよ?
「アイリス」
「なあに?」
「さらに大深度地下から、ここにつながってるエネルギーラインがあるんだろ?それって、どこから引き込んでるんだ?」
「ああ、えーとね……ああこっち」
「おう」
隅っこの方にいくとアイリスが手招きした。
したんだけど。
「暗いな。ちょっとまて」
その向こうは暗くて見えたもんじゃない。
スマホと一緒に持ってきてたLEDランタンを出して、オンにした。
「よし、見えた」
真っ暗だと思ってたところは、細い通路入口だった。
「いけるか?」
「いけるよ、こっち」
「わかった。
アイ、ここで待機しててくれ、そしてもし呼んだ時や、俺たちに危険があれば駆けつけてくれ」
「わかりました」
指示するとアイはうなずいた。
アイリスの先導で、細い道に入っていく。
「こりゃ……あきらかに一般向けじゃない通路だな」
「そうなの?」
「ああ」
表の通路に比べて無骨で、安全基準も低そうだ。
これはシステム区画というか、パンピーが本来入らないとこなんだろう。
明かりをかざしてみると、色々なパイプのようなものが這っているのがわかる。用途がよくわからないが、ここの巨大な設備を支えるための色々なものが這っているに違いない。
その中に、明らかに他と少し異質なパイプがあった。
「あれ、エネルギーラインかな?」
「えっと……うん、そうだとおもう」
「そうか」
LEDランタンをわかざして見てみた。
「さすがに用途がわからないな……異世界の、しかも古代の科学技術なんてめちゃめちゃ興味深いんだが」
トンネルも凄いとおもうが、土木建築物というのは機械とは違う。素材や構造に文化などの違いを見る事はできるけど、それ以上のものではないのも事実だ。
うーむ。
と、そこまで見た時だった。
「……なんだ?」
たくさん這っているラインのひとつに、なにかこう、ズレというか美しくないものが見える。
「なぁアイリス」
「なあに?」
「あのパイプだかラインだか、ひとつだけ変じゃないか?」
「え?どれ?」
「ホラ、あれ。奥のやつ」
「……あれの何が変なの?」
「他のやつがまっすぐなのにあれだけちょっと斜めになってるように思える」
微妙な違いなんだけどな。
「それに、あのパイプだけ汚れてるような気がする」
「……?」
「ああそっか、俺の違和感の理由を説明するよ」
俺はフム、と題材をひとつ選んだ。
「昔、とある250ccのオートバイの話なんだけどな。
こいつのエキパイ、つまり排気管は二本あるんだけど、このオートバイでロングツーリングしてるとな、なぜか二本の汚れ具合が全然違ったんだよな。なぜだとおもう?」
「わかんない、どうして?」
「二本のパイプの片方はダミーだったんだよ。
デザイン上の理由でつけられてたパイプで、熱いエンジンの排気なんか通ってなかったんだ。
すると、雨の中を走るだろ?
熱いパイプの方はかかった水もすぐ乾いて土だらけみたいになるけど、ダミーの方はドロドロのままなんだな。
こういうのが毎日続いて。
で、ロングツーリングで走りっぱなしだと、あからさまに両方の見た目が違ってたってわけさ」
俺はそこまで言うと、一度言葉を切った。
「俺がパイプの違和感を訴える理由、わかってもらえたかな?つまり」
「ひとつだけ壊れてたり、使われてなかったり、そういうのがあるんじゃないかって事だよね?」
「そういうこった。
悪いけどおまえのグランド・マスターに確認頼む」
「わかった」
少しアイリスは黙り込んで、そして顔をあげた。
どうやら、ドラゴン氏に切り替わったらしい。
「……」
ドラゴン氏は俺の指摘したパイプを調べて、そして俺の方を見た。
『どうやら君の指摘が正しいようだ』
「そうなのか?」
『このラインはさらにこの地下を通って外部の大エネルギー源につながっているはずのものだ。
だが、外されている。
これは意図的なものだろう』
「意図的?なんで?」
『推測になるが、いいかな?』
「いいです、頼みます」
『わかった』
ドラゴン氏は少しだまり、そして続けた。
『ここの設備はミニラ博士が引き継ぐより前に、一度破棄されているようだ。
主動力源はこの惑星内部から引っ張っていてね、設備を破棄するなら完全に接続を切ってしまいたかったんだろう。つながっていたら、なにかのはずみにエネルギーを引っ張ってしまうかもしれないからね。
実際、こういう対応は過去に行われていたから、このあたりの推測はおそらく間違いない』
「核融合炉……小型太陽が動いているのは?」
『核融合炉は大した出力のものではない、結局はただの非常電源なのさ。
あれは設備の異常時に自動作動し、最大で4200年ほど動き続けて停止するんだ』
「気の長い非常電源だなぁ」
『そうか?ふむ、そうかもしれないな』
俺はためいきをついて、そして質問してみた。
「なぁ、ひとつ聞きたいんだが」
『何だろうか?』
「もしかしてだけど……ここの電源を戻して反応炉を止められないか?」




