魔力と精霊分[2]
「まあ仔細はいい、とにかく循環ってのは大事であり、意味があるのさ。
それなのに、その精霊分にしろ、例外の精霊生物にしてもどうだ?説明をきくかぎり流転してない、循環のしくみを持ってないように見受けられるんだよな……」
『それについては、我が直接答えよう』
「!?」
アイリスの口はそのままに、口調だけが変わった。
これはドラゴン氏!?
「あ、どうも」
おもわず挨拶したら、うむとだけ答えてきた。
『さっそくだが、我が言った事を覚えているかね?自己紹介のときだが』
「自己紹介ですか?」
『そうだ』
うん、おぼえているとも。たしか。
『我は真竜。単にドラゴンでもいい。普通の生き物ではなく、この世界の一部といってもいい。
この世界の生き物は我らが管理しているのだ。支配しているという意味ではないが』
「たしか、ドラゴンは世界の一部って話でしたっけ?」
『そうだ』
今、アイリスは目を細めて笑った。
でもそれは人間のそれでなく、ドラゴンが目を細めた感じに似ていた。
『流転していない、循環していないという君の指摘は実に正しい。そして事実をうまく言い表している。
簡単に言えば、精霊分そのものが外から来たもの、外来者なのだよ。君と同様にね。
流転や循環のしくみを持ってないのはそのためだな』
「外来者……なるほど」
もともとこの世界のものじゃないのか。
『伝え聞くところによると、精霊分はある時期、唐突にこの世界に現れたそうだ。
それは……そう、君の語彙にある有毒ガスのようにこの世界に大量に吹き出し、その地域の生命体を根こそぎ滅ぼしてしまったのだよ。
ところが、浸透の境界線付近では少し違った。一部の生命体が微量の精霊分を取り込み変質を起こした。
そればかりか、その生命たちは精霊分によく耐え、生き物としても頑丈になっていたわけだ』
「適応しちまったのか」
毒ガスじみた危険物を取り込んで、逆に糧にしたってか?
すごいな、まさに生命の神秘だ。
『適応もあるが、そもそも精霊分とはそういうものらしい。
好んで生命体にとけこみ、なんらかのカタチで強化する。そうすることで自分の入った個体の生存率を高め、さらに繁殖によって新しい身体を得て、共に増えていく。そうした種類の、まあ、生き物のようなものらしい。
その性質をもって、精霊……生き物のようなものと名付けられたわけだな』
へえ。
『我らを作った者たちは協議を行い、そして最終的に精霊を排除せず、むしろこの世界に組み込んでしまう事にしたらしい。それが無謀な冒険なのか、英断なのかはまだわからないがな』
「……ですね」
外から来た危険なもの。
それを単に排除するのでなく、積極的に取り込むことにしたと?
すごいことを考えるもんだ。
『ただひとつだけ問題があった。つまり無秩序に広まるのは危険だということだ』
「段階的にいかないと、みんな死んじまう?最初の時みたいに?」
『そうだ。
今すぐ全世界に広がってしまったら待つのは大絶滅で、生き残れる生命体は微生物程度になってしまうだろう。最終的には自然の循環に組み込まれるにせよ、まずは時間をかけ、ゆっくりと浸透させる必要があったわけだな』
「はい」
『ゆえに浸透と循環を見守り、操れる生命群を作成した……それが我ら真竜と、そして樹精王というわけだ』
「なるほど……」
最初から目的のあるもの。環境管理システムを司る人造生命ってとこか?
これは……予想よりはるかにSFな存在だったんだな。ドラゴン氏。
『幻滅したかね?』
「いや、人知を超えたロマンにファンタジーもSFもないでしょ」
俺は少なくとも、そういう派だ。
『精霊生物が自然の存在ではない、というのはそのためだ。本来ありえないものを無理に生命体にしてしまっているからで、自然界ではありえない形態なのだよ。君がアイリスと名付けてくれた、この子を含めてね。
そして、精霊分が現時点で、自然界を循環していないのもそういうことだ……かなり浸透がすすんでいるものの、今もまだ早すぎる、くまなく循環されては大量絶滅の引き金になってしまうだろう』
「……」
生き物たちの進化をみつつ、どこかのタイミングで組み込むわけか。
なんともまあ、責任重大なお仕事だなあ。
『ご名答だ。そしておそらく、その日は遠い未来ではない。そしてその日こそ、我らの使命も終わるだろう』
「そうなんだ。遠くないってことは、どのくらい未来なの?」
『この星の時間で、そうだな。あと20万年もかからないだろう』
「……なるほど」
そりゃ天体スケールじゃ一瞬だろうけど……尺度が違ったか。
『そういえば、魔族から接触があったのだったな。
この世界の人間において通常生物は人間族だけだ。それ以外のドワーフ、水棲人、獣人、そして魔族、これらはすべて混在生物になる。
モノづくりに特化したドワーフ、水中に特化した水棲人、魔に特化した魔族などだな』
「……なるほど」
人間族が精霊分をとりこむことで、これからの世界に合わせて進化しているわけか。
「質問いいですか?」
『何かな?』
「まず、根本的なことですけど。俺が魔力持ってるのって、どうしてなんでしょう?」
『元の世界では、そんなものもってなかったのに、かね?』
「はい」
『現場を見たわけではないから推測になるが。
どうも問題の精霊分だが、この世界の外側にも、その周囲にまとわりつくように莫大な量があるらしいのだよ。
で、君たち異世界人がこの世界に落ちてくるとき、この精霊分に汚染されるらしい。
本来なら間違いなく死亡するだろう量なんだが、世界間渡航に何か秘密があるのか、君らの多くが、莫大な精霊分を帯びてこの世界に現れるようだね』
「……」
『当然だが、莫大な精霊分はそれに比例する膨大な魔力も呼び込む。一気にね。
そして多くの異世界人は突然の環境の変化に驚き不安に襲われ、無意識にその魔力を使うのだよ』
「魔力を使う?」
『そうだ。
我の推測に間違いがないなら……君はそのクルマ、だったか?それを地球から呼び寄せるのに使ったのではないかな?あと、この世界に合わせた調整も行ったかもしれないな。おそらく無意識にだが』
「!?」
それは。
「なるほど……たしかに、そう言われると辻褄のあう事が多いですね」
そうだ、そうだよ。
俺が先に来て。
そして、クルマがないとパニックを起こした直後にキャリバン号が現れた。しかも、ただのガソリン車だったのに、魔力で動く謎仕様になって、しかも道なき道も浮いて走れるようになってた。
そしてそれは、他でもないこの俺が願った結果であると。
……どうして異世界にきちまったかって根本的な問題は別として、魔力とかキャリバン号とか、今までの細かい状況、全部答えがでちまったな。
「なるほど……考えることもアリそうですけど、よくわかりました。ありがとうございます」
『なんのこれくらい』
「で、もう一件いいですか?
オルガ……接触してきた魔族の女性ですけど、その、アイリスは彼女が俺をその、お誘いしてるって言うんですよ。これについてなんですが」
『ふむ、というと?』
「さっきの話だと、彼女は魔族。種族が違うわけですよね?それって」
『いや、そこまでの違いはないぞ。そういう意味ではどれも人族だし、交雑も可能だぞ』
「こ、交雑!?」
『うん?そういう意味の質問ではなかったのかね?』
「いやいやいやいや!違っ……い、いや、うん、そ、そうなの、かな?」
一瞬、夢にでてきたオルガの身体がちらついてしまった。
ちくしょう、なんかムラッときた。
まて、子連れだぞ俺!
これじゃ発散もできないし……しまったな。
『まあ、こんなところだ。精霊が、精霊分がどういう存在かについては理解できたろうか?』
「はい。だいたいは」
『よろしい。
おなじ情報はアイリスにも与えてあるので、あとで質問があればするといい。ではな』
そういうと、アイリスの身体がピクッとはねた。
「……行っちゃったか?」
「うん」
「そうか」
俺は前に向き直り、ハンドルをにぎり直した。




