しょごすの話
「大丈夫じゃ問題ない。
それにこれは助手で何体も使っておる、ないと困るんじゃ」
「使うなと言ってるんじゃない、安全対策をしてくださいと言ってるんです。
ケラナマーで実験塔破壊したことをもうお忘れですか先生?」
「オルガ嬢、それではわしが考えなしのように聞こえるではないか「考えなしです」なっ!!」
お、なんかオルガ怒ってる。
けどなぁ、なんというか。
絵柄的にはなんか、お姉さんが妹を叱っているようにしか見えないんだけども。
でも実際には逆、というか年下のオルガでさえ百歳超え、博士に至っては千二百歳越えてるんだとか。
なんともはや。
「わたしのことを不注意娘、爆発娘とさんざん言うくせに、爆発どころか周辺区画ごと消し飛ばしたり、死刑囚の遺体でヘンなキメラ作って大顰蹙買ったの誰です?どっちが不注意でどっちが危ないひとですか?」
「む、あのキメラは可愛いからよいではないか。ゆるふわでリボンもあしらえたぞ?」
「だ・か・ら、そもそも可愛いかどうかで決めるなっ!!」
あー、激おこ。オルガ、今日はキャラ崩壊絶好調だなぁ。
ふと気になったので、問題のショゴスもどきさんに話しかけてみた。
「ねえ、俺も質問していいかな?」
「……」
ショゴスもどきさんは俺を見て、博士を見て、また俺を見た。
「食べていい?」
「ダメ」
うわ。
なるほど、これは確かに危ないな。
「なんで人間食べたいの?」
「?」
その質問にショゴスさんもどきは首をかしげた。
「別に食べたくない」
え?
「今、食べていいかって言ったじゃん」
「食べてかまわないか確認してた」
「それは食べたいからだろ?」
「ちがう、何食べていいか指示されてないから」
なんですと?
「じゃあ食べたいってのは何を食べたいんだ?」
「人間の老廃物」
「老廃物?」
「各種分泌物。
具体的には、汗、尿、垢、だ「ストップ!」……」
あぶねえあぶねえ。
あれ?
ということは?
「人間は食べないんだな?」
「命じられれば食べる。大きいからエネルギー変換効率も悪くない」
「食べちゃダメ」
「……博士の指示じゃないから恒久的には禁止できない。今だけでいい?」
「とりあえずそれでいい」
「わかった。
今から24時間、あるいは博士に解除されるまで人間を食べること禁止する」
あー。
もしかしてこれ。
基本的指示ができてないんじゃね?
……やってみるか。
「どうして博士じゃないとダメなんだ?」
「博士が製作者だから」
「製作者の命令しか聞けないのかい?」
「主人および主人が決めた個体の命令なら問題ない」
「主人は誰?」
「未設定」
あーやっぱり。
たぶんこの子、ちゃんと設定されてねえぞ。
でもどうしてだろ?
博士はこういうのの専門家なんだろ?
いやまてよ。
ああそうか、紺屋の白袴ってやつか!
うん、きっとそうだ。
博士、研究にかまけたあげく、道具であるこの子たちは「役に立てば問題ない」で細かい設定が後回しなんだきっと。
しょうがないな。
「主人にはどうすればなれるの?」
「宣言するとなれる」
「なんて宣言するの?」
「名前をつげて、おまえの主人になると言えばいい」
「よしわかった。
俺の名前はハチだ、今からおまえの主人になる!」
「了解ご主人様、よろしくお願いします」
そういうと、ショゴスもどきはふかぶかとおじぎをした。
……あれ?
なんか間違ったかな?
ま、いいか。
「主権限の移行により、24時間人間を食べないという一時的設定の変更が可能となりました。変更しますか?」
「変更する」
「どちらに」
「無期限延長で」
「了解、では以降、人間を食べません」
「食べないことによる不具合はあるの?」
「相手を食べることにより、その容姿を取得することができません」
「なるほど、じゃあ今の容姿は初期設定なの?」
「いえ、初期設定はゼリー状の不定形生物です」
「今の容姿は?」
「作業用に、博士の細胞から取得いたしました」
なるほど高機能。
「細胞から取得ね、具体的には?」
「博士の老廃物に含まれる剥離細胞から取得しました」
「その場合、直接食べた時と比べて問題はある?」
「一回で必要な情報が得られないことがあります」
「その場合は数回繰り返せば?」
「回数を保証できませんが原理としては可能です」
「よしわかった、それじゃ仕事に戻っていいよ?」
「すみません、ひとつお願いがあります」
「なあに?」
「個体識別名が未設定です。名前をください」
「名無しなんだ。
そうか、名前は勝手につけちゃダメ……あれ?どしたの?」
気がつくと、わんこチームを除く全員がこっちを見ていた。
「あれ?なに?」
「おぬし……何をしておるんじゃ?」
「ああ、人間食べちゃだめだよって指示してたんだ」
「は?指示した?」
「あのさ博士」
俺はためいきをついた。
「素人の俺なんかが言うと気ぃ悪くするかもだけど博士、なんでこの子、なんにも設定してないの?」
「なんじゃと?」
「いや、だから未設定だって。
いちいち食べていいかって質問してたの未設定のせいだったよ?」
「!」
オルガたちが、ああと納得顔をした。
そして博士が驚いた顔をした。
「未設定?そんなバカな」
「いやホントだって」
「ちょっと待っとれ、おい、設定モードに移行せよ」
だけど。
「拒否します」
「な!?」
博士が目を剥いた。
「製作者のわしに歯向かうのか!?」
「製作者といえどもご主人様の意向を越えることはできません。
ご主人様、博士に設定モード利用権限を付与しますか?」
「……あー……そういうことね。
うん、とりあえず付与してくれ」
「わかりました、では権限を暫定付与いたします」
ははは。
さっきの「ミスったかな」感はこれかぁ。
……しまった。
博士は渋い顔で設定をあれこれいじっていた。
だけどしばらくがんばって、やがて大きなためいきをついた。
「やられたわい。
見事に全権がおぬしに移行されとるのう?」
「り、リセットとかできないの、かな?」
「機械じゃないんじゃぞ、これでも生命体なんじゃぞ。
そんな都合のいい機能積んどらんわ」
「……いや、すみませんって」
そんな恨みがましい目で見られても。
「いいんじゃ、いいんじゃぞ?
おう。
ショゴスもどきは全4機じゃからのう、残り3機の権限は今すぐロックするからのう。
……これ、一番古くて一番有能な個体なんじゃがのう」
「すみませんです」
あちゃあ……まるでマンガみたいに落胆してるし。
「うむ、これで先生も被造物の管理をまじめにするだろう。お手柄だなハチ」
「ちょっとひどすぎねえ?」
「いやいや、さすがの大学時代のわたしですら、博士の研究物を、しかも本人の眼の前で堂々とちょろまかしたことはないぞ?そういうことはコソコソとやるものだ」
「……面目次第もございません」
いや、だってよう。
博士は「ふ、ふふふ、ふはははは」と深夜のマッドサイエンティストみたいに薄気味悪く笑うと、やがて肩をがっくりと落とした。
そんで俺の肩をポンと叩いた。
「仕方ない、この個体はおぬしにやろう。連れて行くがいい」
「はあ、どうも……って連れて行く!?」
いやいやいやいやちょっと待てぇ!
「あの、うち乗り物小さいから無理……」
「ほう、手ぇだけつけて乗り逃げじゃと?男の風上にもおけんヤツじゃな」
「ひとを性犯罪者みたいに言わんでくださいよっ!」
困っていたら、背後でボソッと悲しげな声が。
「名前……」
「あ」
そうだった、忘れるとこだったよ。
「そういや博士、この子名前は?」
「つけろと言われたんじゃろ?ぬしがつけてやれ」
「そんな無責任な」
「なにを言っとる、被造物に名前をつけるのは主人の大切な仕事じゃぞ」
「あんたは何してたのさ?……ってそうか。
博士、あんた名前を考えてるうちに別のこと考えて、それっきり忘れてたな?そうだな?」
「……」
「図星かよ、つーか目ぇそらしてどうすんだよ博士っ!」
そうしていると、クイクイと服をひっぱられた。
「……あ」
「名前」
みると、上目遣いにウルウル目でみあげられてた。
博士と同じ身長なので幼女サイズなわけで。
しかし、博士と違って無垢なせいか、異様にかわいく見えた。
「名前」
……ああだめだ。
「そうだな、わかった」
うん、別にこの子は悪くないもんな。
製作者がアホなだけだ。
じゃあ名前つけてやるか。
そうだな……。
「アイというのはどうだろう」
「アイ?」
「米語でアイボリーって言葉があるんだ。
少し黄色がかった白で元々は象牙の意味なんだけどね、実は発音が悪いと I was born free って聞こえたりするんだよ」
自由に生まれた(I was born free)。
昔読んだマンガで、シャールくんってアメリカ在住の少年がこの聞き違い事件に遭遇するんだよな、なつかしいなぁ。
うん、面白いんじゃないかな?
「……アイ」
俺は周囲を見渡した。
「アイリス、オルガ、博士も他に案はないかな?」
「ないよー」
「由来が異世界語なのがいい、おもしろいじゃないか」
アイリスとオルガが同意してくれた。
さて博士は。
「フリー……自由……ああ自由か!」
なんか知らんけど、何かに気づいたように上機嫌になった。
「ほほう、こやつに自由と付けるか!
なんとこれは面白い!
よしよし、わしも賛同しようぞハチ!」
「ありがとうございます。
決まりだ、君は今からアイ。
アイボリーのアイにして I was born free のアイ。わかった?」
「……名前承認・アイ。
意味、地球圏の言語で象牙色、または I was born free。
……名前設定完了しました」
そういうとショゴスもどき……アイは一歩下がり、そして不思議な型のおじぎをした
よくわからないが、とにかく大時代でものすごく古い型の最敬礼のようだ。
そして言った。
「わたくしはアイ。
ご主人様、今後ともよしなに」
「お、おう、よろしくな。
あと、俺はハチでたのむ」
「はい、ハチ様」
やっとのことで、それだけ答えた。
アイ
無印に登場した「マイ」に相当しますが仕様がだいぶ違います。
(一体の強力な個体でなく、四体の姉妹機に分けた)
なお。
メタ表現をしないために本編には記載してないのですが、無印とのアイ登場まわりの相違について。
これは異世界人を巡る状況が大きく変わっているためです。
異世界人から魔力接収する事にリスクを感じた博士は方針を変更、その結果がアイたち四体のショゴスもどきとなりました。
そういうことはコソコソとやるものだ
結局オルガもちょろまかしているんですが、ハチはお人好しなので騙されています。
ある意味、似た者同士ですが




