いろいろとビックリ
まさかの核融合炉。
しかも、しかもだ。
「それって、遺跡になるほどの時間動いてるってことだよね?」
「おそらく予備動力炉だがな」
「予備動力炉?」
なにその非常用発電機みたいなの。
「ここはアマルティアの設備をドワーフの技術で改装・再利用したものだ。
本来は古代の惑星中央エネルギーシステムとつながっていたのだろうが、このあたりはむかし、大きな災害で軒並み破壊された事がある。
おそらくその際に中央のエネルギーラインとの接続が切れてしまい、それ以降、小型太陽のエネルギーで動かしているんだろう」
「……核融合炉が予備発電機扱いかよ」
どんだけ超絶技術の世界だったんだ、宇宙人たち。
「おまえの言いたい事はわかる。
いわゆる物質反応を利用する炉はその性質上、本来は常設するものであって『予備』に設置するなど不合理だというのだろう?」
「いや、そうじゃなくて」
「む?」
「……いや、かまわない。確かにそれも事実だしな」
「?」
地球人にとっちゃ、そんな日用品感覚で核融合炉を使うなんてオーバーテクノロジーの極みなんだけどな。
でもそんなの。
江戸から大坂を2日で届ける江戸時代の早飛脚の最高料金が約140万円というのを、東京・大阪を二時間でいける交通機関をもつ現代日本人が理解できないようなものだろう。
このぶんだと、ハイパードライブで恒星系を渡るとか、そういう活劇宇宙モノな技術もありそうだからな……その意味では当然といえば当然なのか。
そんな話をしていると、コンコンとドアノックするような音がした。
む、誰だ?
「誰だ?」
『◆◆◆◆◆』
「ありがたいが今は結構だ、我々はここで先生……博士を待っている」
『◆◆◆◆◆』
「うむ、気遣いありがとう」
『◆◆』
うお、またわけわからん言葉が聞こえた。
……あれ?でも、どこかで聞いたような?
「なんだいオルガ?」
「たぶん、博士が使っている小間使いだ。ゴーレムか何か人工物のようだが。
とりあえず博士が来るまで用はないと追い返しておいた」
ああなるほど。
「そんな対応でいいのか?何か頼んだりできたじゃないか?」
「わざわざアマルティア語なんか使わせている点からいって、博士がどんなイタズラをしているかわからない。本人に聞くまで使わない方がいいと思う」
「なるほど」
ホント、いたずら好きなんだなぁ。
しばらく待っていると、博士がやってきた。
「やぁすまぬ、ちょっと考えに浸ってしもうてのう。すまんが茶をもらえるかね?」
「はい先生、それよりちょっと質問なんですが、あのクラーケンはなんです?」
「む?ああ、人工太陽の上に張り付いておるクラーケンかの?」
「はい」
うわ、やっぱりそうなのか。
「あれはエネルギーに惹かれておるが、特に危険はないぞ?
ここは元々エネルギー施設だった場所でな、おそろしいほど頑丈にできておる。
クラーケンは強力な魔獣であるが、さすがにここの防壁には歯がたたんじゃろ」
「そうなんですか先生?」
ちょっと不安なんで、俺はおもわず確認してみた。
「ハチよ、わしは君の師ではない。先生と呼ばず名で呼んでくれるとありがたいんじゃが」
「そうですか、じゃあ博士でいいっすかね?」
「うむ、よいとも」
そこまで博士はいうと、ちょっとだけ笑った。
「ああ、そうじゃな。ハチよ、おぬし本当にわしの弟子になってみるか?」
「え、俺が?」
「そうじゃ」
楽しげに笑う博士に、オルガが眉をしかめた。
「先生、狙いはこの男の魔力じゃないんですか?」
「それはそうじゃが、まあマフワンも聞け……おうすまぬな」
「いえ、どうぞ」
カルティナさんがいれたお茶を受け取り、それをすすりつつ博士は言った。
「ハチ、そなた原型生物というのを知っておるか?」
「いえ残念ながら」
「主に海底に住むんじゃが、太古の昔より変わらぬ不定型の身体をもち、さらには永遠の命をもつ生き物じゃ。
まぁ単細胞生物であるし、永遠の命といっても過酷な環境に置かれるとあっさり死んでしまうわけじゃが」
ほう。
「アメーバみたいなもんかな?」
「アメーバ?」
「ええ。似たようなのが俺の世界にいるんですが」
「そうか。
で、この原型生物はなぜ原型生物というかというとじゃな、魔科学を用いて様々な生き物のベースにするからじゃよ。
ケルベロスにももちろん使われておるし、他にも様々な生き物の元になっておる。
わしらドワーフには、おなじみの生命体というわけじゃな」
「なるほど」
「!」
俺は納得していたが、なぜかアイリスが唐突に豹変した。
あ、たぶんこれドラゴン氏出るぞ。
『ひとつ尋ねる』
「む?おや、もしかして竜どのが眷属を通して話しておられるか?」
『いかにも、我は中央大陸・真竜の森の主だ』
「これは光栄な。
して、真竜の一柱が、わしになんの御用でありましょうか?」
『その原型生物の研究、もしやショゴスをいじっておるのではあるまいな?』
「ショゴスぅ!?」
思わぬ単語のご登場に、思わず口走ってしまった。
「知っているのかハチ?」
「そ、そりゃあまぁ……ショゴスったら、クトゥルフ神話に出てくる不定形のヤバイ化物じゃねえか」
日本のラノベではメイドさんになったり幼女のベッドになったりと大忙しだけど、本来ものすごくやばい存在だよな?
「うむ、そのショゴスじゃ。
まぁ正確にいえばその『く・りとる神話』なるものに登場するショゴスっぽいものを作ってみたというのが正しいがの」
フフフと博士は笑った。
「ちなみに真竜どの、危険性であれば問題はこざらぬ。
いや……ちょっと前の試作品などは確かにまずいものもあったがの」
『今は?何か起きたのか?』
「実は、異世界人の魔力を注ぐ前提の試作品を作ったおったんじゃが……先日の世界異変のおりにちょっと考えたことがあってのう。
確かに、完成体のショゴスの研究は危険が伴う。なにしろ人喰いじゃしのう」
「いい!?」
何やってんだよこのロリバ……博士!
「そこで、むしろ低出力化や部品化を試みることにしたんじゃ……こういう風にの」
そういうと、博士の右手がポウッと光った。
これは魔力かな?
『◆◆◆◆◆』
あ、さっきの声。
「わしじゃ、ちょっとここにくるがよい」
『◆◆』
しばらくすると、コンコンとノック音。
「はいれ」
『◆◆』
そうすると、その『何か』が中に入ってきたのだけど。
「え、博士!?」
そう。
はいってきたのはメイドさんだったんだけど。
なんと。
ミニラ博士に瓜二つだったのだ。
「言語指定、南大陸語に切り替えるがよい」
『◆◆……承知いたしました』
突然に言葉を切り替えると、そのナゾのメイドさんはおじぎをした。
なんか、ちみっこくて可愛いなオイ。
「試作ショゴスの一部を使って改良を施した生体ゴーレムじゃ。
ショゴス本来の機能を大きく抑制しておるが、むしろ汎用人型としては高機能になっておる。
ショゴスも奉仕種族、つまりメイドとして作られたのじゃろ?」
「あー、俺はクトゥルフ神話は読まないので詳しくないですが」
クトゥルフものなんて『妖神グルメ』と『ひでぼんの書』くらいしか知らないし。
ああ、アリス某のアレとか巨大ロボもののアレを含めるならもう少し増えるけどね。
「つまり機能制限版のショゴスなのですね?
先生、それで安全性はどうなのです?」
「問題ないぞ、戦闘力も基本的に皆無じゃしな。
まぁ人間を見ると、いちいち食べていいか聞いてくるのがちょっと困りものじゃが」
「「ダメじゃん!」」
『それはダメだろう』
「先生、それはちょっと……」
俺たちは一斉に突っ込んだ。
江戸時代の早飛脚(江戸→大坂)が140万円
正確には銀七百匁だったそうです。
ネット記事なので正確な金額は話半分で。
なお同じ時代の江戸→大坂の郵便料金は30文、だいたい今の価値で600円くらいだったそうです。こちらは定期便に乗せられるカタチですが、要は待てば届いた。うまく便にあわせて送れば十日で届いたんだとか。驚くべき安さですね。
じゃあ、600円と140万円の差額が生まれる理由はというと。
要は専門のスタッフを大量に使い、夜も昼も、そして雨がふろうが槍がふろうが確実に届けようとしたら、莫大なコストがかかったという事です。
これは現代の郵便もまったく同じなので、驚くべきことでもないでしょう。




