ドワーフ博士に会いに行こう
さて。
やっぱりうちに泊まれというカルティナさんの言葉は誘惑だったが、クラーケンに取り憑かれてる研究所にいるという、オルガの恩師らしきドワーフさんが気になる。
何よりオルガが心配そうなので今夜は準備しつつ野営となった。
明日は起きたら、すぐに行けるように。
「久しぶりだなぁ」
オルガのテントにカルティナさんは大喜びだ。
そんなカルティナさんだが、翌日も同行が決まっている。
本来なら役場から他の担当も出すべきだけど、オルガに立ち会うだけだから一人で充分たとカルティナさんは言った。
「それでオルガ、その研究所にはどうやって行くんだ?」
「この村の倉庫からでも行けるが、そっちは避けよう。別のとこを使う」
「倉庫?」
「ああ、遺跡を流用して倉庫にしているんだよ。
そっちの奥からも行ける。
ただ、当たり前だが普段は役場が封印しているはずだ」
「はいはいオルガちゃん、ここに役場の者がいますー」
「ありがとう、でも今はいい」
「なんで?」
「倉庫の食料は皆の共有財産だ。
そこに部外者が入るにはカルティナでなく村長の許しが必要だろう?」
「あ、そっか」
「それに、倉庫の奥は西の遺跡にもつながってるんだ。危ないから封印しといたほうがいい」
「あ、そういうこと」
「そういうことだ」
ほうほう。
そんなこんなで夜をすごして、そして翌朝。
軽い食事だけとった俺たちは、オルガの言う「倉庫よりマシな入り口」の前にいた。
そこは村からも、街道からもだいぶ外れた場所にあった。
「なにもない場所だな」
「あるぞ、ちょっと待て……『◆◆◆◆◆』」
うお、なんだ?
何か言ってるのはわかるけど何語なのか全然わからんぞ。
思わずギョッとしていたらアイリスがつぶやいた。
「たぶんアマルティア語」
「アマルティア語って」
アマルティアって宇宙人なんだよな、たしか。
「宇宙人の言語ってことか?」
「広い意味ではパパも宇宙人」
「いやいや、そんなマクロな概念の話はしてないから」
アホな話をアイリスとしていると、目の前の風景が変わった。
「入り口か!」
さっきまで何もなかったところに立派な入り口が現れていた。キャリバン号でも充分入れる。
「こんなとこに、こんな入口があったんですか……」
カルティナさんは驚いている。
当たり前だ、地元役場の人だもんな。
「2分以内に通過しないと閉まるぞ、頼む」
「わかった、信用して入るぞ!」
「うむ」
そのまま突入した。
中の雰囲気をひとことで言うなら、それは宇宙船の中。
それも。
昔の宇宙活劇映画なんかでよくある、超ハイテク世界なのに結局は宇宙船とか見知らぬ異星が舞台の中世ファンタジー作品でしかないようなモノに出てくるどこか20世紀バブリーな宇宙船の中じゃなくて、むしろエイリアン映画に出てきそうな、適度にボロけて寂れた感のある宇宙船の中っぽい。
その中を走る、俺の軽四……なんというかシュールだなオイ。
「博士のいるラボは遠いのか?」
「そろそろ下り坂になる……ほら、そこだ」
「お」
確かに道が下り坂に変わった。
「そのまま二キロほど行くとラボの玄関前だが、脇見はするなよ」
「え?」
「横に変なのが見えると思うが、一気に走り抜けろ。いいな?」
「よくわからんが、わかった」
そう言いつつ俺はキャリバン号を走らせたんだが、すぐに意味がわかった。
「なあオルガ」
「なんだ?」
「俺、目が壊れたかな?疲れてるのかな?」
「どういうことだ?」
「いや……左右の通路から、えらい露出の高い派手派手しいヘンな女が迫ってくるんだが!
うわぁぁぁこっち見た!キモっ!」
「あれは全部ゴーレムだ、いいから突っ切れ!捕まるぞ!」
「はぁ?」
あれがゴーレム?
「急げ!!」
「お、おう」
いやしかし、あの露出狂というかサンバというか、昔あったパロディ○スってゲームのボスキャラよろしく通路を埋め尽くしてやってくる巨大な半裸の女は
「蛇行してるぞハチ!まっすぐ走れ!」
「わかった、わかったって!」
なんだかよくわからないが、必死に走った。
オルガの言うように二キロほど走らせると、もういいぞとオルガに言われた。
キャリバン号を停止させる。
思わず背後をミラーで見ると。
「……通路を埋め尽くしてんですが」
巨大な半裸の女が。
距離をとったらこっちを見なくなったようだが。
「こっちが立ち去るまで警戒してるんだ」
「そうか……しかし、なんつーキモいデザインにすんだよ」
「脅しだからな」
「そうなのか?」
「こっちを見てきて気持ち悪かったろう?さっさと逃げろって事なのさ」
あ、やっぱりそういう目的のデザインなんだ。
「あのとんでもないデザインと動きで脅して、さらに見つめる事で恐怖を煽るのさ」
「確かにキモいわ怖いわ……でもアレはないだろ」
俺ひとりで見たら、腰抜かしたかもしれん。
昔、スクリーンの大画面でバカでかいマザーエイリアンに追われるシーンで総毛立ったのを思い出すよ。
得体のしれないデカブツがこっち見るのが、あんな総毛立つほど怖いとは思わなんだ。
ははは。
「ちなみに、ビビッて失神したり動けなくなったらどうなるんだ?」
「入り口の横に安全な詰め所があって、そこに運ばれるはずだ。外だと風邪をひくからな」
そりゃ、おやさしいこって。
「けど、何度も侵入を企てたら、最終的には警報が鳴り響き、さらに逃げなきゃ殲滅に切り替わるぞ。この手の侵入システムはそうなってるはずだ」
「ほう」
「そもそもドアを破って入ってきた時点で、善意か悪意かの評価をするんだよ」
「そうなのか……ちなみに善意の証明には?」
「それがわかれば最初からそうしたんだがな……博士は定期的に証明法を変えているはずなんだ」
「なるほど」
なんというか。
いたずら好きのドワーフ科学者ってイメージが脳内で固まっちまった。
さらにしばらく走ると、ひとつの大扉があった。
「ここが玄関だ」
「でかいな」
「搬入口にもなっているからな」
「なるほど」
トラックごと入れそうなサイズなのはそのせいか。
ああ、そういえば。
「カルティナさんどうしたの、大丈夫?」
「!」
声をかけると、なぜかビクッと反応した。
「えっと、大丈夫なの?」
「ああすみません、大丈夫です。
ただ、ビックリして……はじめて見るものばかりで」
「あー」
入り口も知らないってことは、中も当然見たことがない。
しかも、あの巨大女の大群だもんなあ……無理もない。
「玄関ってことは、さすがに勝手に入るわけにはいかないんだろ?どうやって本人を呼ぶんだ?」
「こうするんだ」
オルガは微笑むと、右手を扉にポンと置いた。
「……」
動かないけど、何やってんだ?
首をかしげていたらアイリスが教えてくれた。
「パパ、扉に魔力を流して来訪を伝えてるんだよ」
「あー……なるほどね」
インターフォンかカウベルかしらんが、そういう仕掛けが扉にあるのね。
少しするとオルガが壁から手を離した。
「すぐ来るそうだが、四キロほど奥の現場にいるそうだから少しかかるぞ」
ありゃま。
「じゃあ待ち時間があるわけだな……ここでちょっと勉強していいかな?」
「勉強?なんのだ?」
「魔法陣の」
前にオルガに魔法陣の本をもらっていたんだが、全然進んでないからな。
「いいけど炎とか雷はよせ、警備にひっかかる」
「何ならいい?」
「灯火ならいいだろう」
「りょーかい」
キャリバン号から出て、鹿番長印のアルミテーブルを床に置いた。
で、その横に本を置いて手前に座り込んだ。
オルガはキャリバン号の後部横ドアを開き、出口に腰掛けている。
どうやら見物人に徹するみたいだな。
「どこまでやったんだ?」
「ここまでだな」
そういうと、俺は宙から魔法陣の書かれた10センチ角の紙を取り出した。
「まてハチ」
「え?」
「ただの紙ならわかるが、なぜ記入済みの魔法陣を取り出す?今のは空間ポケットじゃないよな?どうやって出した?」
「え?ああ取り寄せたんだけど?」
「取り寄せた?」
オルガは少し考えた。
「つまりそれは、先日自分で描いた自分の魔法陣を、自分で取り寄せたと?」
「そうだよ」
「……上達しているのはいいが、まさになんでもアリだな」
呆れたように言うオルガ。
いやま、実在しない銃とか作れる時点でそういう事でしょ。
「ちなみに、描いてない魔法陣は出せるか?」
「描いてないもの?」
「たとえばこれだ」
「……三色玉発光?」
「ただの発光魔法陣だ、これを瞬時にやれるか?」
「やってみよう」
魔法陣を見ながら意識を鎮め、それを和紙に転写するイメージを。
……どうだ!
「とりあえず見た目はできたな」
「大丈夫そうか?」
「……いいぞ、起動してみろ」
「おう」
ペンでつっついてやると、陣形の上にポンと銀色のピンポン玉みたいなのが現れた。
なんじゃこりゃ。
すると、いきなりキンキラキンキラと七色に光り輝きはじめやがった。
「なんじゃこりゃあ!」
思わず叫んだら、カルティナさんが「ああ」といった。
「プラネトロン?」
「ああ、カルティナは覚えてたんだな」
「えっと?」
「カルティナが小さい頃、天井をこれで七色に光らせるとよく眠ったんだ」
「あはは、今でもお部屋にあるよう」
「そっか」
やさしい言葉のやりとり。
オルガ、いい「おばさん」してるじゃないか。
ふむ。
まぁ、本人におばさん言うと怒るだろうが。
『三色玉発光』
光の三原色のパラメータをランダムに変化させる事で七色のきらめきを作り出す魔法陣。
なんでもない技術だが、光の三原色を知らないと作れない事もあり、なにげに高度。
昔の異世界人が、子供をあやすために作ったという。




