食材
精米描写を追加しました。2018/3/27
「ドワーフ、ですか。その方がクラーケンのいる場所の下にいると?」
「うむ、わたしには恩師でもあるし、アリアも教えを受けたことのある方だ。
本来はひっそりとお邪魔するつもりだったが、万が一あのクラーケンが動き出す可能性もないとは言えないだろう。それで役場に声をかけておこうと思ったんだ」
「そういう事でしたか」
カルティナさんの表情が、異人種の俺にもわかるほど引き締まった……いやま、リアル山羊のひきしまった顔なんて知らないし、あくまで山羊人の顔って事だろうけども。
甘える姪っ子の顔から、役人としての顔に変わったというべきか。
「わかりました、お……村長には私から伝えます」
「村長どのはあいかわらずか?」
「クラーケン騒ぎ以来、酒場で皆で話し込む事が増えました。でも就寝時間は変わりません」
「ああ、もしかして寝起き早い?」
「はい、もう寝てます」
漁師は朝の早い家が多い。
これは自然界や生き物を相手にするのだから無理もないことで、当たり前だが対象の魚種や実際の仕事内容、潮の満ち引きなどによって異なる。たとえば沿岸が上げ潮じゃないと獲れないとか、夜明け前の一時間が勝負などだと、その時間にあわせ、朝というより夜中の時間に起きなくちゃならない事もあれば、シーズン中は昼夜逆転に近くなるものすらある。
深夜起きにも等しい早起きのためには当然、早寝するわけだ。
で、出漁できないのに早起きってことは。
「村長さんは養殖をやってない?」
「本人はやっていません。養殖は若手中心でやっていて、村長は養殖を受け入れない年配層との調整役をしています」
「なるほど」
それはそれで大変な仕事だな。
早寝早起きは、今も現役漁師の気持ちでいる世代にあわせてあるのか、それとも本人も未だ現役なのか。
こればっかりは想像してもわからないか。
「それでオルガちゃん、今夜は?」
「ちゃんづけはやめろというのに……幸いにもウチは野営装備が充実しまくっているからな、停車場に泊まるつもりだよ」
「……そう」
ウチ、の言葉でカルティナさんの耳がピクッと動いた。
「私も泊めてもらっていい?」
「まてまて村長夫婦はどうすんだ、かわいい姪っ子が外泊したら大騒ぎになるぞ」
「おばさまはまだ起きてらっしゃるから、今伝えてきます。いいですよね?」
「……わたしは何ともいえん、家主はハチなのでハチに言え」
「はい、ハチさん、すみませんがお願いできますか!」
語尾が「はてな」になってねえぞ。
「そりゃいいが、だとするとキャリバン号じゃ狭いな。オルガ?」
「広さは問題ない、天幕を出すとしよう」
「なら大丈夫だな……っとそうだ」
そこで俺は気になっていたことを尋ねてみることにした。
「カルティナさん、質問なんだが」
「はい?」
「このへんでお米は買えるかな?」
「オコメ?なんですかそれ?」
「このへんで言う米のことだ」
オルガが補足してくれた。
「ああメファスですか、はいありますよ。それが何か?」
「できれば買いたいんだが、どこにいけば買える?」
「通りに保存食店がありますから、そこで買えますけど……」
わずかにカルティナさんが躊躇した。
何かあるのか?
「けど?」
「ここ小さい村なので、メファスは需要のある家ごとに定期購入が基本になってます。
たぶんですけど、小売だとタワラ単位になるかもしれません」
「タワラって」
「メファスの梱包でよく使う、異世界由来の特殊包装だが知らないか?メファス、つまり米を収穫したあとの草の方を材料に作るんだが」
「ああ、マジで俵なのか」
そんなもんが伝わってるのか。
ん、まてよ?
たしか、俵って時代と地域で大きさ違うよな?
昔、戦国時代にタイムスリップする話で、現代の60キロベースの俵作ったところが、なんだこのおばけ俵はって言われた話を読んだ記憶がある。
「その俵の大きさは?時代によっていくつかタイプがあるはずだけど」
「ちょっとまて」
オルガがタブレットで何かを計算しはじめた。
「たぶんだが、ハチの世界の単位の重さで50キロ台から60キロ台の間だろう」
うわ、ほんとに60キロサイズか!
「それはちょっと大きいな。置けなくはないけど」
何しろたった二人、アイリスを入れても三人しか米を食べられない。さらにいうと、オルガは米嫌いじゃないかもしれないが、俺ほど好きじゃないだろう。
さすがに一俵は多すぎる。
「わかりました、ちょっと確認してみましょう」
カルティナさんとお店にやってきた。
その店は米屋というより乾物問屋だった。さまざまな食材らしきものを干物にしたものが並べられているが、どうもそれは売り物でなくサンプルらしい。
ブツを確認して、そして量で買うのか……なるほど。
「ティナじゃないかどうしたい?」
なんか、飲んでましたよっておっちゃんが出てきた。鼻が赤い。
つーか、そのステテコと腹巻きっぽい格好なんだよ。日本の下町みたいだなオイ。
あ、おっちゃん目が赤いな。
人間族かと思ったけど、ちょっと違う……変化途上、つまりニュービーってやつの一種か?
「……ティナ?」
「カルティナの愛称だ」
首をかしげていたらオルガが教えてくれた。
あとで聞いたところによるとカルティナの愛称で多いのはルティとカナらしいんだけど、小さい頃のカルティナさんは男の子の格好でルティと名乗り、やんちゃして回る子で、おとなしくさせるために呼び名を変えたそうだ。
おとなしくさせるために名前を変える?
わけがわからないと思ったらオルガが笑った。
「なんだ、名前のしつけを知らないのか。よし、あとで教えてやろう」
「よくわからんが頼む」
どうやら、この世界特有の文化っぽい。
楽しみにしておこう。
さて、肝心の米なんだけど。
「おじさん、この人たちがメファスを小売で買いたいんだって」
「メファスを小売で?ふむ、何タワラいるんだね?」
「いやいや一俵もいらないです!その三分の一、いや六分の一あれば!」
六分の一だって10キロだ。大食らいがいるわけじゃないとおかずもある、充分だろ。
そしたら。
「六分の一だぁ?そったら少量なんて面倒くせえ、売れるかよ!」
あちゃー無理か。
ま、そりゃ仕方ないか。
ところが。
「しょうがねえな、やるよ。袋もってきてるか?」
「……へ?」
今、くれるって言った?
「い、いいんですか?」
「ばかやろ、たったそれっぽっちでいちいち売ってたら逆に面倒だっての!
うちで食うぶんから分けてやるってんだよ!」
「は、はあ」
「なんだ、いらねえのか?」
「い、いりますいります!ありがとうございます!」
話しててピンときた。
つまり、在庫も俵単位で管理しててそれを売ってるんだろうって。
ああ。
こりゃ確かに、小分けして売ってくれなんて迷惑だよな。
「そうだ、どこまで精米すんだ?」
「あ、そっか、白くなるくらいで」
俺はひたすら頭をさげた。
「そんなわけで、オマケも少しずつもらいまして!」
全部ロハはさすがに申し訳ないので、お茶パックを少し置いてきたよ。
ご夫婦でお茶を飲むっていうから、パックの使い方も教えて。
「おまえというやつは……やれやれ」
いや、なんでそこで笑いますかオルガさん?
ああ、ちなみにお米以外にもらったのは以下だ。
『南大陸式味噌』
南大陸ものは少しクセがあるが、味噌煮を作るならこちらがよいとの指摘もある。程度良好。
ついでにお値段も東大陸より少し安い。
『メトラの干物』
海棲モンスター『メトラ』を干物にしたもの。珍味。
なお、メトラは元々へムラという名前だったが、とある異世界人がメトラをメト○イドと呼んだ事から、ヘムラでなくメトラと呼ばれるようになったという。
ああ、わかるよわかる。
俺と同世代のゲーマーだろ名付けたの。メト○イド、わかるなぁ。
「メトラの干物だね。おいしいよねー」
「そうか?」
「ああメトラか、わたしの持ち込んだ食材にもあるぞ。おまえも食べてるはずだ」
「え、マジ?」
「もちろんだが?」
「やべえ……すんません任○堂さん、おたくのモンスター食べちったっす」
「???」
ポンド・ヤード法について
米国以外に使っている国は現在、リベリアとミャンマーのみ。
ただしリベリアは現場じゃもう使われていないし、ミャンマーもメートル法に移行開始している。残っているのは米国だけだそうです。
食材について
食材ゲットです。
まぁ村の備蓄にもあるんですけど、そっちだと買えないですからね。
米→白くなるくらいで
精米描写忘れてたので追加しました。
ありがとうございます。
ちなみに南大陸一般の精米方式は戦前日本の水車式に近いものです。
これは今の精白米より胚芽米に近いと思ってください。
真っ白ではないので、炊いた米は少し味が出ます。




