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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
げっこう
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閑話・とある異邦人の日記

 本編と直接は関係ありません。短いです。

 

 漂流390日め。

 ずっとメモに数だけ記してきたけど、これを機に日記をつける事にした。

 

 やっぱりここは異世界みたいだ。月が大小ふたつもあるし、太陽の輝きも少し違ってる。

 わたしが生き延びられたのは、魔法が使えると気づいたからだ。

 いや、笑わないでほしい。意思によって発動する得体の知れない能力なので魔法と形容しているだけだ。他にいいようもないし。

 とにかく、わたしはこの魔法によって命をつなぎ、衣装をつくり、旅をはじめた。

 最初に、今まで知った事をはじめたまとめておこうと思う。

 この世界の全容は未だにわからない。ただ入手したデータをまとめてみるに、おそらく統一された世界地図なんてものはない。あるいは一部地域に存在するのかもしれないけど、地球みたいにグローバルな経済圏が存在するわけではないようだ。

 ただし過去には高度な文明があったっぽい。明らかに現代地球以上の、まるでSFに出てくるような都市の遺跡もあるからだ。そこで出会った研究者の方に言葉の手ほどきをうけて、いくつかの注意もいただいた。

 実名をひとに絶対教えてはならない。名前で縛られ奴隷にされるらしく、皆は通名を名乗っているんだそうだ。

 わたしの場合、事情で生まれた時の名と名乗る名前が違っていた。

 両親が離婚したのだけど、父がつけた名を母が嫌い、別の名で呼ばれ始めたためだ。

 聞けば、母が改変した名も役場に登録されたり長年使われている関係上、世界間渡航で拘束力が生まれている可能性があるそうだ。だから、この世界での名前を新たに考えなさいと言われた。

 マナと名乗る事にした。

 昔、いとこに布教されて遊んだ古いノベルゲーってやつに登場したツンデレの女子高生の名だ。

 わたしはマナ。実名は封印。

 うん。

 

 

 漂流401日め。

 わんこ拾った。かわいい。

 それにしてもひどい。

 荒野のど真ん中にある岩に、鎖でつないであった。飢えと乾きで死にかけていた。

 こんな子犬になんてことを。

 大変だったけど、なんとか回復させてご飯食べさせた。

 (いや、わたしの回復魔法もどきって患部を透視しながらやるから神経すり減るんですよぅ、グロ耐性ないし。一応これでも医学を志してたけど、目指してたのは基礎医学で臨床じゃないんだけどなぁ、くすん)

 名付けに迷ったけど、前に父が「犬飼いたいなぁ。チャッピー」となぞの名前を言っていたのを思い出して、チャッピーと名付けた。

 でもチャッピー、ちょっとイヤそう。

 なんで?かわいいと思うけど。

 

 

 漂流406日め。

 元気になったチャッピーをお風呂に入れた。

 やっぱりわんこなのか水を嫌がるようなので、わたしも脱いで先に入り、ゆっくりと入れてあげた。ちょっともがいていたけど、最後にはおとなしく入ってくれた。

 お風呂あがりにドライヤー魔法でフワフワにしてあげると気持ちいいのか居眠りしだした。かわいい。

 ところで気づいたこと。

 チャッピーのちんちん、骨、つまり陰茎骨がない。

 地球の場合哺乳類の多くは陰茎骨があり、ない方が珍しい。たとえばイヌ科で骨がないのはハイエナの仲間くらいだ。

 これは何を意味するのだろう?

 まぁ動物学は専門外だし、ましてや陰茎骨はさっぱりなのでこれ以上の推論は無理だけど。

 そんなことを考えていたらチャッピーがヘンな鳴き声を出し始めたので、あわてて触るのをやめた。

 子犬と思ってたけど、立派に男の子なんだろうか?

 それとも異世界の種だから、このあたりは異なっている?

 謎だらけだ。

 

 

 漂流407日め。

 うわ、わんこつよい。

 わたしが魔法で蜘蛛の化物を倒していたら、ぼくもできるよと言わんばかりにわたしより大きな蜘蛛を倒してしまった。すごいチャッピー。

 ベタ褒めしてたら、しっぽブンブンふりながら甘噛みされた。あはは。

 

 

 漂流470日。

 チャッピーがしゃべった。びっくり。

 実は少し前からしゃべれるようになってたんだけど、ついつい甘えてしまったんだそうだ。ごめんなさいと頭をさげられたけど、まぁわんこだし。

 きけばチャッピーは「狼族」というものらしい。

 古代の人たちが生み出したふたつの種族のひとつで、野生の狼と違って高い知性をもち人間と対話できるように作られたらしい。

 それって人造の種族ってこと?

 さすがにビックリだ。

 でも狼族は、創造主である古代人の求めたものとは違っていたらしい。だから、別に迫害とかはされなかったそうだけど繁栄することもなくて、今では人の中に紛れ込むカタチで生き延びているにすぎないんだそうだ。総数も不明なんだとか。

 なんだか悲しい話だなと思っていたら、泣くなと言われて驚いた。知らないうちに泣いていたらしい。

 わたしがそんな、どこぞの乙女なヒロインみたいな事をやらかすなんて。

 子供の頃、お化け屋敷がバカバカしくて怖がらずにいたら、おまえには神経がないのかと言われたような人間なのに。

 

 

 510日め。

 ちょ、まってチャッ

 

 511日め。

 今日はしとしと雨だは、腰も立たないので連泊。

 チャッピーにもたれて寝る。

 腰がだるいなぁ。

 それに熱っぽい。

 

 512

 ねつ

 

 516日め。

 目覚めたらチャッピーがいた。熱はひいたそうだ。

 

 510~511日めの続きをまとめておく。

 まずチャッピーの人化を目撃した。

 人化といっても「人間に近い骨格をもつ狼」で、わかりやすく言えば洋ゲーの狼頭・けむくじゃらの半獣人。ファーリーって言ったっけ?よくわからない。

 そんでまぁ、あとは書かなくてもわかるよね>>未来のわたし?

 問題はそのあとだ。

 バカ体力に振り回されて腰痛かと思っていたら、そのまま発熱に移行した。

 異世界人同士だし、何が起きるかわからない。わたしのバカ。死を覚悟した。

 でまぁ、無事に今朝目覚めたというのが状況。

 

 チャッピーいわく「種族変換が起きたんだ」という。

 よくわからないが彼いわく、もうわたしは狼族なんだそうだ。

 そんな馬鹿なと思ったけど、次の満月になればわかると言われた。

 よくわからないが、何か通過儀礼でもあるのかしら?

 拒むつもりはない。もう腹はくくった。

 願わくば。

 いまさら遅いかもだけど、どうか命の危険のあるようなものじゃありませんように。

 

 531日め。

 昨夜書くべきだったけど、書けなかったので今記す。

 まさか自分が狼になるとは思わなかった。月夜の下、チャッピーにガイドしてもらって、わたしはひとの姿を捨てた。

 狼の間のことは、記憶している。

 ひとを捨てると思考が異なってしまうらしく、思い出すに恥ずかしい記憶だが。

 

 1***日め。

 狼族になって以降、自分の中の変化が止まらない。日数もわからなくなってしまった。

 これがたぶん最後の日記になると思う。いつか誰かの目に止まることを祈って記す。

 わたしはマナ。元異世界人で、今は狼族の女になった者だ。

 恐怖はない。

 狼族は別に怪物ではなく、むしろわたしにとっては祝福だ。ひとりぼっちの異邦人として野垂れ死にするはずだったのがチャッピーによって救われたのだから。

 そう。

 わたしはチャッピーを拾ったつもりで、むしろ彼に拾われていたんだと思う。

 未来にこの日記を見る人へ。

 あなたが同郷の人なら、注意深くあってほしい。ひとの悪意をかきわけて、守りたい人、守ってくれる人を探してみてほしい。油断せず、そして絶望せず。

 あなたに幸いあれ。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 東大陸の民俗学者によると、これを書いたマナという異世界人と狼族の男性の子孫は、現在も薄まりつつも残されているという。

 彼らは絶滅寸前だった犬人族を助け、その犬人族たちは東大陸の一部に広がり、巨大な犬人族コロニーを築きあげた。

 そして今もそのコロニーの中に忍び込むように、狼族はひっそりと生き延びているようだと結んでいる。ただし特定されることを彼らは望まないということで、報告書には具体名などは示されていない。

 ゆえにこれは、実は都市伝説なのだとも言われている。


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