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YetAnother異世界ドライブ旅行記  作者: hachikun
探索行・中央大陸
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シャリアーゼ側出口

 突然だが、平成世代にはよくわからない話をしよう。

 

 古い車のドアには小さなハンドルがついていて、これを回すと窓ガラスの開け閉めができる。

 これ、正式名をレギュレータハンドルって言うんだってさ。

 俺はこのシンプルなハンドルの名前を、実はわりと最近知った。そもそも俺たちの世代じゃ、ドアにそのハンドルがついているのは水や空気のように当たり前だったから、特に名前なんて考えもしなかったからだ。

 昔はどんな車でも、ひとつひとつの窓につき、ハンドルを回して空ける必要があったんだけど……実はひとつだけ利点があったんだ。蛇足だけど、ちょっとその話をしておこう。

 キミが昭和生まれの性少年で、場面は、彼女さんとのはじめてのデートだと思ってくれ。

 昔のデートといえばクルマがよく使われたわけで、キミはがんばって外車を借りてきた。

 それは小さなフォルクスワーゲン・ゴルフで、車のグレードとしては別にすごくもなんともない。だけどゴルフは別に悪い車じゃないし、わざわざデートのために車を借りてきた、しかも普段乗らない左ハンドルの外車ってことでキミのテンション絶好調。彼女さんだってくだらない野暮は言わないだろう。だから問題ない。

 ところで、昔の日本で左ハンドル車をデートに使うと、ひとつ面白いイベントが起きた。つまり料金所だ。

 ETCなんて無粋な装置もなく、しかも窓をあけるのにハンドルをクルクル回していたこの時代。当然、ナビに人がいたら手伝ってもらう事になった。デートだと彼女さんに頼んでハンドルをクルクル開けてもらって、そんで身を乗り出して払ったわけだ。

 え?彼女さんに手渡して払ってもらえって?

 いやいや待って、そこはホラ、あれですよ。

 そうそう、ドキドキハラハラの接近遭遇ですよ!

 ただし、決してどさくさに彼女さんのニオイを嗅いだり、事故と称して胸に触っちゃいけない。

 そんな事しても許されるのは昔も今もイケメンだけだから。

 キモいと思われたり幻滅されたりしたくないだろ?

 だから、そこは鋼鉄の意思で「ちょっと前ごめん」と普通にやらなくちゃいけないんだ。

『……』

 たとえその、平静を装った演技がバレバレだったとしてもだ。

 キミのやせ我慢を彼女さんが生暖かい目で見ていたとしてもだ。

 ……たぶんきっと。

 

 ってごめん、話をそろそろレギュレータハンドルに戻そうか。

 キャリバン号は古いしかも軽四なんで、当然だがこのレギュレータハンドルがついてる。運転席の横に、窓の数だけ板チョコのかけらみたいな開閉ボタンがついてるわけじゃないんだ。

 何を言いたいかというと、トンネルの出口には猫人族さんたちが待っていた。だから、ハンドルをクルクル回して窓を開けようとしたんだけど。

「……おい」

 なんで、開けようと思った途端に勝手にハンドルが回りやがりますか。音もなくスーっと窓が開きますか。

 おかしいな。

 俺のキャリバン号にパワーウインドウはついてないはずなんだが。

 ま、まぁ、いっか。

 とにかく声をかけた。

「やあ、すみません」

「ハチ様ですね?会長(サイカ)から連絡で伺っております。お疲れ様でした」

「ありがとう、ごめんね急に現れて」

「いえ、とんでもない」

 シャリアーゼ側出口は地下にあり、そこにはサイカ商会のスタッフがたくさんいた。当たり前だけど、万が一、人間族にここを押さえられないように戦闘は警戒の精鋭を集めているらしい。

 

 ちなみに、ここで問題が発覚した。

「え、出口ないの?」

「はい」

 これは想定外だった。

「この入り口は長いこと、奥が封鎖された状態で地下貯蔵庫として使われていたんです。中で時々変な音がすることに気づいた家人が気味悪がっていたんですが、壁の向こうを調べてはならないと家に言い伝えがあったそうで」

「……その言い伝えを作ったひとは、もしかしたら知ってた?」

「詳しくは知らなくとも、何があるかは知っていたのだろうと言われています」

 なるほどねえ。

 音の正体はたぶんあのゴーレムだ。近くに来ていたんだろうな。

 見れば出口付近は明らかに構造も資材も異なっている。

 おそらくそこは後付けで延長した部分で、だからゴーレム側もその先には手を触れなかったんだろう。

 しかし、今はただの地下室か。

 そりゃ少なくとも車両出口があるわけないな。

「えっと、じゃあサイカさんたちの使っている魔動車はどうやって搬入したの?」

「魔動車は通常、専用の亜空間収納に入れてあるんです。燃費が悪いので普段は魔獣車を使い、必要な場面でのみピンポイントで用いるものですから」

「あー……直接出入りできなくても問題ないわけだ」

「はい」

 ケルベロスを入れている肩のポケットと同じ要領だな。

 うーん、それってでも便利だよな。

 要は地球でいえば、便利だけど遠出に向かない電気自動車をポケットに入れて公共交通機関で現地にいって、駅前でポンと取り出してそこで乗っていくってことだよな?

 

 オルガの、ワンタッチで開閉できる大テント。

 サイカさんたちの使っている、必要な時だけ取り出して使える自動車。

 

 おい、めちゃめちゃ便利すぎだろ異世界。

 

「なあオルガ、キャリバン号も収納でき「無理だ」」

 オルガにぶった切られた。

「亜空間収納でコンパクトに入れられるのは、基本的に魔力をもたないものなんだ。魔動車だって魔石を取り出してから収納してるんだぞ?

 まして、おまえの莫大な魔力を飲み込んで動いているこの車は収容不可能だ」

「この穴はどうなってんの?」

 俺は自分の左肩をさした。

 そこの空間ポケットは昼間のケルベロス小屋になっていて、今もラウラの3つ首が眠そうに「わふん?」とか呑気にあくびをしている。

「その穴も確かに亜空間収納だが、空間を畳む処理を一切やってないんだ。

 ケルベロスは自分を小さくできるだろう?」

「ああ、うん」

「だから小さくする必要がないんだ。

 魔力をもつものを入れられない理由は、高魔力をもつものを空間ごと畳めないからなんだ。収納用亜空間に魔力が干渉してしまって、輪が破れてしまうんだよ」

「……なるほど」

 揮発性燃料不可の容器にガソリンいれるようなもんか。

「対抗手段はない?」

「高魔力物体を入れられる亜空間収納か……開発できれば、研究資金にこまる事は当分なくなるだろうな」

 贅沢できると言わないところが、なんとも学者だなぁ。

「しかし困ったな、どうしたもんか」

 悩んでいたら、猫人族さんのひとりが「よろしいでしょうか?」と言ってきた。

「あ、はい、なんです?」

「実は今後のため、車両搬入口を作る計画が進んでいるんです。

 外の建物は先日、商会で押さえました。

 さすがに爆破などの派手な事をすれば外の人間族に気取られる可能性がありますが、ここ地下室からメインホールまでの仮設道路なら明日中になんとかなるかと」

「え、本当ですか?」

「はい。お望みならサイカの方に今すぐ正式許可をとりつけますが、いかがいたしますか?」

「ありがたいが、かまわないか?」

「はい。市街地用の特殊な建設用魔道具を使いますが、そちらも手配ずみですので」

「建設用魔道具?」

 首をかしげているとオルガが教えてくれた。

「派手な作業音を出さない建築機械と思ってくれ」

 え。

「なんだそれ、そんなものがあるの?」

 日本じゃあるまいし、まさかそんな。

 でも。

「市街地で破砕音などたてると、近所に子供や妊婦がいたら迷惑がかかるだろ?」

「……マジか」

 まるで日本みたいな話に、俺はためいきをついた。


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