9話 RADIO HEAVEN
男を運んでいるとモーリに事件が起きた。
モーリが暴漢の男を担いでいる姿をミロクは見てしまい、悲鳴を上げた。
ナッキから聞いた牛時山のバットを持った男の都市伝説を思い出し
ミロクは、ショックで泣きじゃくっている。
モーリが弁解しようとするが話を聞いてくれず
子供達がバッファローマンの勇士を伝え、キョウヘイやレイコが説明をしやっと納得した。
気絶した男を担ぎ、さらには落ち込んでいるミロクも抱っこする事になり、
モーリの体力は限界に近かった。
松田を呼びに子供達が向かい、空き地で男が目を覚ますのを待った。
松田がやって来る頃には、日が落ち子供達は家に帰って行った。
演奏の時間まで3時間、、。警察に連れて行く前に少しでも情報を聞き出したいと松田は考えていた。
男が目を覚まし辺りを見回すと、シェルターの4人とミロクが立っている。
「くそっ、、。」
暴漢の男は、悔しそうに見回した。
「父の記録に書かれてた通りだよ、、。裏切り者の悪魔たちめ、、、」
「何の話だ、??」
モーリが口を開くと男はビクッと肩を震わせた。
「・・・・・・・・・」
男が黙っている。
「何でレイコちゃんを襲った、、?」
キョウヘイが男に問いただすが、男は何も言いたくないと口を閉じている。
「・・・・・・・・・もう別に良いよ。」
レイコが口を開いた。
男が驚いている。
「演奏しているから、今度キャバレーに遊びに来て、、。」
レイコは、男を縛っている布を解いた。
キョウヘイはレイコの行動に驚いたが、彼女の判断に賛同し頷いた。
「うん、行こう」
キャバレーに向かうレイコの後を追って走り出した。
モーリは何も言わずミロクを肩車し、松田は何かを言いたい素振りをするが
ヤレヤレと頭をふりみんなの後をついて行った。
「うう、、、、。」
男は自由になった手を頭に当て座り込み
泣き続けていた。
シェルターの4人はキャバレーに着くと、早々に演奏の準備をし始めた。
本日の演奏は特別公演。
レコード会社のヨウヘイと名乗る男が企画として持ってきた。
キャバレーメチルでの演奏を録音しながらラジオで生放送する企画だ。
普段と違うライブの為、MCが客に説明をしている。
演奏中は音を出してはいけない。曲が終わったら騒いで良いですと面白おかしく伝えていた。
先ほどの暴漢の男が店に入ってきた。
男の目は赤い。
頼んだ酒に口もつけず、放心しながら椅子に座っている。
自分達の故郷のシェルターとこの町には何か確執がある。
4人は男が自分たちに向けて叫んだ「裏切り者」という言葉の意味を考えていた。
モーリとキョウヘイはアンプにスイッチを入れ
松田は、ドラムの位置を調節している。
レイコは警察から貰った(奪った)拡声器の電池を確認している。
キョウヘイが音を鳴らす。
演奏をはじめると自分達の迷いが薄れていく。
自分たちは間違い無く、今、この時代、この世界で演奏している。
”違う世界の平日”で音を鳴らし、この町の人々に受け入れられている。
音が彼等と町を繋げているのだ。
うねる感情をまとめ上げて音に変えていく。
光を求めながらシェルターから歩き出した。
彼らが手にしたバンドサウンドは探し求めた光だった。
4人は音を噛み締めた。
演奏が終わると割れるような拍手が鳴り響いた。
MCの男が興奮しながら4人に近づきバンド名を聞いてきた。
誰もバンド名なんて考えた事もなかった。
すると先ほどの暴漢の男が泣きながら4人のもとに駆け寄り、
レイコの手を取り跪きながら祈っている。
レイコに危険が無い様にモーリが二人の間に入ると
男はモーリに抱きつきながら、涙を流している。
「バッファロー、、きみたちは、、、きみたちの音は、、」
モーリが困った顔をしてレイコを見ている。
気絶する前に男は子供達が騒いでいたバッファローマンの名前を覚えていた様で
モーリの事をバッファローと呼んでいる。
「ずっと待っていた、。この時代とバッファロー達の音に感謝を、、」
突然のハプニングにMCも焦るが、
ラジオ番組が生放送の為、機転をきかせ、無理矢理番組の締めに入った。
「最高な演奏をサンキュー!!Day and Buffalo(時代とバッファロー)!!!」
「今日の放送はこれで終わりだ!来週もヨロシク!!!」
番組の終わりと客の盛り上がりで全て有耶無耶になったが、
今はこのままで良い。
レイコは客と乾杯をし、
松田も飲みだし、
キョウヘイも酒を飲み始めた。
モーリは今回だけ特別にライブを見ていたミロクのもとへ近づいた。
自分を父と慕う女の子が不安そうに自分を見ている。
モーリはミロクを肩に乗せ踊りはじめた。
男の話を聞いたら、
この町と今までの関係を保つ事が出来なくなる気がしてならない。
4人とミロクは不安を隠すかの様に夜を遊びつくしていた。