くまさんとわたし
「…なんで…?ぼくは、ただ」
目の前には、かつて友達だったモノが、息をすることを忘れて転がっている。その中身は、すっかり溢れてしまっていた。
〝友達が、欲しかっただけなのに…〟
濡れた自らの両の手を抱え込んで、ぼくはないた。理不尽な運命と、ぼく自身への怒りと哀しみを込めて、吼えた。
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彼女と出会ったのは、ある森の中だった。
ぼくはクマ。
クマって聞いたら、皆肉食で凶暴な生物だとか想像するかもしれないけど、ぼくは違う。ぼくの主食は、木の実とか果物とか。つまり、生粋のべじたりあんって訳さ。だから、他の熊達みたいに、動物の肉を食べたりしない。
ぼくがこうなったキッカケは、今よりずっと小さい子供だった頃。父さんが狩ってきた動物を、初めて見た時だった。
ほんの何分か前まで生きていたなんて、ぼくと同じように息をして動いていたなんて、信じられない姿だった。無造作に地面に置かれたその生き物だったモノの腹にある醜い傷口から溢れ出している臓物からは、未だに湯気が、仄かに漂っている。その光景を見た瞬間、ぼくの中には確かに嫌悪感と言うものが浮かんだのだ。それも、かなり強いものが。
それ以上見ていられなくて、その時ぼくはすぐさま顔をそらした。
それ以来、である。
ぼくは、ほかの動物の血肉を口にすることが出来なくなった。そのせいで、家族からは疎まれ、変クマ扱いされるようになり、今やぼくはひとりぼっち。
どうしようもない孤独に苛まれながら生きている。
自分がちゃんとした普通の熊であったなら、こんなことにはならなかったのだろうか、と思うと、哀しくなる時もあるが、でもしかし、ダラリと力無く垂れた躰、生気を失った瞳、身体中にこびりついて赤を通り越して黒くなり掛けている血…思い出すのも嫌だ。まして、食べるなんて、もってのほか!!!
こうしてぼくは、森の他の動物達には恐れられ、同族である熊達には嫌悪され続けながら、日々の空腹を満たす為に、木の実や果物を探して彷徨っていた。
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「!……だぁれ?」
白いリボンが、長い茶髪と共に翻った。