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九日目

九日目


昨日はものすごく疲れた。いや、ほんとに。


「だからってこれはないんじゃない?」


呆れたようにハンに言われたが、気にしない。


「そんな日もあるよね」


たまにはこういう日があってもいいと思う。なんてったって今は夏休みなのだ。むしろ夏休みなのになんで毎日毎日早起きせねばならんのか。


「でももうおひさまかなり高いとこにあるよ」


そりゃもう一時ですから。


そう、なんと今日はうっかり寝過ごして、起きたら昼の一時を回っていたのだ。寝ている間に、半日が終わってしまった。なんてこったい。いいけどさ。まあそれはそれとして。


「起こしてくれたらよかったのに」


言ったら怒られた。


「起こしたよ!十回くらいね!」


「……疲れてたんだな」


「まあいいけどさ。で、今日はどうするの?弟に会いに行く?」


「今から?」


もう日はかなり高い。そして暑い。どうせなら家でクーラーに当たりつつアイスでも食べてゴロゴロしたい。


「ムリムリ」


呆れたような声音でいうハンに、しかし反論はできない。なぜなら私の部屋にはクーラーがないからだ。ちなみに、アイスもない。食べたかったら近くの店まで歩いて買いにいかないといけない。おじいちゃんとおばあちゃんには日常的にアイスを食べる習慣がないのである。


そして、クーラーがあるのはこの家の中では台所だけ。だが、そこではたいてい祖母が忙しく立ち働いているし、ごろごろすることはできない。というわけで、アイスを買いに出ることにした。ついでに、ハンの弟にも会うことになった。なんでも、弟くんは近くに棲んでいるらしい。近いならまあ、いいかな、と思ってしまったのよ。


だがしかし。日傘をさして外を歩いている方が多少ましかも、と思ったのが運のつき。


暑い。ものすごく暑い。やっぱり家にいた方がよかった。


後悔先に立たずとはまさにこのこと。


ぶつぶつ言いながらだらだら歩き続けること十五分、お目当ての場所についたときはすでにバテバテでありました。





ハンの弟はアラタというらしい。まあ、名前がどうだろうと結局のところビー玉ですよね。


ハンと同じで目鼻がなく、なぜか細長い蛇のような尻尾がある。……どういうことだろう。まあいい、気にしたら終わりな気がする。しょせんは妖怪。人間の私に理解できるはずもないのだから。


ハンの弟は、ハンがいたのと同じような木の根元に転がっていた。場所はちがうが木の種類は同じらしい。この木もまた、真っ赤だ。緑の木々のなかでこの木だけ、異彩を放っている。


「アラタ、また寝てるの?」


ハンが声をかけると、ゆらり、とビー玉が動いて、コロコロ転がってくる。


「なんだよ、兄貴。別にいいだろ」


「いいけどね。樹、これが三男のアラタ。アラタ、こっちは樹だよ」


「樹?ああ、なるほど。よろしく」


細い手をぴっと上げると、尻尾らしきものもピッと立った。ハンと同じくらい気持ち悪い、と思うのは私だけだろうか。


ともあれ、これで顔合わせは終わり。そのあとも特に話すこともないようで、彼はころころと転がってあっという間にどこかへ行ってしまった。


「……」


「……」


沈黙があたりを支配する。


「ねえ、私、この暑い日差しの中、何のためにここまで歩いてきたのかな」


「……なんか、ごめん。いや、ほんとに」


ハンが申し訳なさそうに謝ってきたが、脱力した私はもうどうでもよかった。暑いのだ。とにかく暑い。早くアイスが食べたいのです。


私はさっさと来た道を引き返すと、お店でアイスを買う。ハンがものほしそうにしていたので(最近そういう雰囲気が伝わるようになってきた。不本意ではあるが)買ってあげることにする。さすがにものほしそうにされつつ一人で食べるほど、意地悪ではない。今日は本当に暑いからだ。ビー玉が暑さを感じるかどうかは定かではないが。


そして外に出たとたんに早速中を開けて食べ始めた。


「お・い・し・い~」


夏はアイスか氷に限る。早くお祭り来ないかな。


「なんでお祭り?」


「だってお祭りといえばメインは屋台だよ?」


「え?」


「え?」


なぜそんなに驚く?


「樹にとってお祭りのメインって屋台だったの?」


「それ以外何があるのさ」


「はあ~、頭痛い」


ちょっと待て、ビー玉。なぜそんなに呆れたように言われなならんのだ。非常に不本意な私である。


今日は暑いし、家に帰ってもうだらだらしよう。


夕方、祖父の野菜畑を手伝って、私はその日は早めに寝床に入ったのだった。










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