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三日目

三日目


朝である。


今日は家でまったりゆっくりする予定だ。とはいえ、私はあまりテレビは見ないタイプ。本は好きだが、今は読みかけの本もなく、本屋はこの辺りにはない。昨日は溜まっている本でも、と思っていたのだがよくよく見返してみれば全部読んだ本だった。おかしいなあ?新本を何冊か用意していたはずなんだけど、持ってくるとき間違えたかしら。


「うーん、ゆっくりするのはいいけど本ないなあ。買った本、間違って家に置いてきちゃったかな。どうしよう。一日中寝てることはできないしなあ」


「本が読みたいのか?」


おじいちゃんが私の呟きを聞き付けて聞いてきたので、頷く。


「うん、でも本持ってきてないし」


「図書館に行けばいいだろう」


私が本好きなのを知っているおじいちゃんが提案してきた。だが。


「図書館かあ。でも今日は外には出たくないかな」


今誘惑に負けて外に出ると良いことない気がする。こういうイヤな予感って当たるよね!うん、やっぱり予定変更はよくない。


「そうか。隣の町にいい図書館があるんだが……だったらわしの仕事を手伝わんか」


「おじいちゃんの仕事?」


てっきりおじいちゃんは年金暮らしだとばかり思っていた。


「うむ。わしが小さい畑で野菜を作っておるのは知っておるだろう。だから仕事といっても家で食べきれん分を近くの直売所に出しておるくらいだがな」


野菜を採って、出荷するので手伝わないかと言われた。この町には、小さいが近所で畑で野菜なんかを作っている人たちが出荷できる直売所があって、意外と人気らしい。出した分は大抵売り切れて、小遣い稼ぎくらいにはなるぞ、と笑う。


それなら時間も潰せるし変な生き物に会うこともないだろうからいいかな、と私はおじいちゃんの仕事を手伝うことにしたのだった。


畑は家の裏にあり、今は夏野菜を植えてある。


「トマト、なすび、ピーマン…定番だね」


「今はいつでもどんな野菜でも手に入るがな、やっぱり旬のモノはいいぞい。夏野菜は夏に食べてこそだ」


そういうおじいちゃんは、なんとこんにゃくを芋から作っている。うん、私はこんにゃくを芋から作るなんてつい最近しったよ。ついでに豆腐も大豆を育てるところから。美味しいけどね、手作りこんにゃくと手作り豆腐。特にこの町は水がいいからいい豆腐が作れるのだという。おばあちゃんの作るこんにゃくと豆腐は直売所でも人気の一品だ。ついでにつけものも。


いらないことばかり喋りながらも、ちゃんと手は動かしている。野菜を収穫し、袋に入れて値段のバーコードをはる。直売所は、登録すると発券機がつかえるようになり、バーコードがシールになって出てくるのだ。便利だなあ。


それはともかく。


どうやって運ぶのかと思えば、どうやら御近所さんの車に乗せて貰うらしい。


思ったよりも少ない量の野菜を積み込んで、さあ、出発だ。


…………。


「近いなあ」


あっという間についてしまった。車で五分。ビックリする近さだよ!


お店には既にいろいろ野菜が置かれていた。なんか、野菜以外もあるし。


「ねえねえ、おじいちゃん、このおやきって美味しい?」


「む、おお。うまいぞ。外皮はもちもちで、あんこも甘過ぎずいい味だ」


三つ入りだったので、ひとパック……ナゼかついてきた上に私の肩に乗っかっているハンの視線に負けて二パック買う羽目になったのだった。妖怪(?)のくせに雑食かつ大食いなビー玉である。


やっぱりサーカスにでも行って、自分の食いぶちくらい稼いできたらいいんじゃないかな、とここ二日でめっきり寂しくなった財布の中身を眺めつつ思う私なのだった。


ついでに隣の道の駅に行って商品を眺めてみる。


「ねえ、おじいちゃん。なんかやたらブルーベリーを使った商品が多くない?」


ブルーベリーそのものに、ジャムにジュースにパイ。


「当然だ。この町には大きなブルーベリー農園があるからな」


「……そうなの?」


「うむ。喫茶店も併設してあって、ほれ、そこにあるドーナツとかソフトクリームとかいろいろ売っとるぞ」


観光園としても開放しているようだ。家の近くのバス停からバスで行けて、予約なしでも大丈夫らしい。ブルーベリー農園の近くには、有名な某企業の水工場もあるとか。意外と色々あるな。


「そうそう、あそこのドーナツ美味しいよ!焼きドーナツだからヘルシーだし、パンみたいだけど、いろんな味があって全制覇したくなるんだよね」


ハンの声が、何を思い出したのかうっとりしている。そんな風に言われると食べてみたくなるじゃないか!っていうか、食べたことあるんだ。毎回私の肩に乗っかってる彼は、一体一人の時はどうやって移動しているんだろう?


「小遣いやるから、一度ブルーベリー狩りに行ってみるといい」


「ええ?!お小遣いなんていいよ!」


慌てて断ると、苦笑されてしまった。


「こういう時には素直にもらっておくものだ。それにな、お前の母さんは田舎なんて、と言って生まれた町を理解しようともせず、都会に夢ばかり見て出ていってしまった。だが、田舎にだって良いところはたくさんあるってことを、お前にも、お前の母さんにも知ってもらいたいんだよ。だから、お前に渡す小遣いはわしらのことを知ってもらうための投資だ。変な遠慮はするな。ここにいる間に、たくさん色んな所を見て、少しでいいからこの町のことも好きになっておくれ」


穏やかに、少し寂しそうに母さんのことを語るおじいちゃん。外に出たくないとか言ってて悪かったな。おじいちゃんのためにもいろいろ見て回るのも悪くないかも。そうおもって、私は笑って頷いた。


「うん、わかった!いろいろ見て回って、帰ったら母さんにも話すよ。母さんの故郷は素敵なとこ、いっぱいあったって」


私達はにこにこ笑いあう。少し、おじいちゃんとの距離が近くなった気がしたのだった。




三日目の夜、私は地図を広げて考えていた。


「うーん」


「なに難しい顔して考えてるの?」


「明日はブルーベリー狩りに行こうと思って」


せっかちかもしれないが、時間は限られている。おじいちゃんと話したおかげか、この町にいる夏休みの間に、出来るだけたくさんの場所を見て回りたいと思った。それに、今日は畑仕事とかしていて思ったのだ。この町を、もっと見て見なくちゃって。理由はよくわからないけどね。


「ブルーベリーかあ、美味しいよね!また、近くにある喫茶店がいいんだよ。雰囲気もいいし、美味しいし」


ふははははは、と笑うハンはやたら詳しい。


「行ったことあるの?」


「知り合いがいるからね」


うん、聞かなきゃよかった。絶対それ、人間じゃないよね。


「それで何を考えてるの?」


「ほら、地図見てよ。ブルーベリー農園って結構山のほうにあるみたい。ここから歩いて行くのも、自転車でもちょっと無理そう」


「ああ、それは無理だよ。ボクなんか歩いたら一年はかかるね!」


ははははは、とまたもや笑うハン。いやいや、笑えないよ!あれ?ということは……


「ハンはどうやってブルーベリー農園に行ったの?」


「だって近くのバス停からバスがでてるもん」


「……あ、そう」


その発想はなかった。どうやらハンはバスに乗っていろんな所に行っているようだ。無賃乗車は犯罪だよ!


ともあれ、私もバスで移動することに。やっぱり、こういう田舎に暮らすなら車がないと不便でダメだなあ。


「でも気をつけて。バスは電車より本数少ないからね。ブルーベリー農園に行くバスは一日に二往復しかなかったと思うよ」


「…………」


意味あるんかなあ。いや、今回利用しようとしてる私が言うことでもないけどね?でもそのバス、ホントに必要なのか!


田舎に来て三日目。


色々考えさせられた日でした。











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