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トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~  作者: のみかん@遠野蜜柑


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決闘と成果




 決闘の当日。決闘の会場は学園内に併設された競技場だった。


 さすがは貴族の通う金持ち学校。


 何でも設備が揃ってるぜ。


 客席はすでに満員に近く、大勢の生徒や関係者で埋まっていた。


 意外とギャラリー来てやがる……。


 こいつら暇なのだろうか。




 教員用の特別席にいた魔法実技の教師、ゼブルス教諭と目があう……が。


 それはスルーして。


 その隣にいる金髪の女性に視線を移す。


 彼女の耳は何と鋭く尖っていた。


 まさかエルフなのか……? なぜエルフがいる? ポーンに訊いてみると、


「ああ、ナイトレイン校長だよ。知らなかったの?」


「校長ってエルフだったのか」


「正確にはハイエルフらしいけど……静謐さがあって神々しいよね。あれこそ本当のエルフって感じがするよ」


 ちらっと俺を見て言うポーン。どういう意味だ……?





「うう、人がいっぱいいるわね……」


「緊張してバナナが八本しか食べられなかったよ……」


「胸がどきどきする……」


 ツインテ少女と小デブ、ポーンたちは思わぬギャラリーの多さに萎縮していた。


 ホント、なんでこんなに多いんだろう。


 まるでちょっとした祭りのような盛況ぶりである。


「ラッセル一派やゼブルス教諭があちこちで喧伝して回っていたのだよ? 少しでも多くの観衆の前で我輩たちに恥をかかせるためにね?」


 ラルキエリが眼鏡を気だるそうに持ち上げながら言った。


 なるほど、あの連中に似合いの嫌がらせだな。


 しかし、さらさら負ける気はないので恥とかはあっそって感じ。


 ただ、人間というのは感情という厄介なもんに左右されがちな生き物なわけで……。



「あわわわ……」


「うう、モッチャモッチャ……やっぱりいつもより食べられない……」


「うう、胃が痛いわ……」



 みんなガチガチになってやがる。


 これでは平常時のパフォーマンスを期待できるかどうか。


 せっかく今日までみっちりトレーニングを行なってきたというのに。


 こんな調子で大丈夫かよ。


 ラッセルやゼブルス教諭の目論みとは違う意味で悪影響が及ぶとは。



 先行き不安な空気が漂いつつあったその時――



「みんなぁ! 今日まで頑張って来たじゃない! 戦う前から怖気づいてどうするの!」



 真っ先に声を上げたのは女教師だった。



「うまくやろうと思うから緊張するんだよぉ! 今まで耐えた悔しい気持ちを堂々とぶつけていいところだと思えばいいんだよぉ!?」



 生徒たちを鼓舞する声は以前のグダグダしたものとは違う。


 トレーニングの邪魔ということで短く髪を切り、化粧も薄くなり、香水の匂いもすっかりしなくなった女教師。


 密度の高い筋トレを繰り返し、身も心も研ぎ澄まされた彼女はほんの少しだけパリッとした感じの雰囲気を会得していた。



「な、なるほど。これは高慢な貴族を合法的にブッ飛ばしてやれるチャンスなんだ……!」


「そう考えたら食欲沸いてきた! ハフッハフッ! モッチャモッチャッ!」


「な、なによ! あ、あんたに言われなくてもやってやるんだから!」



 女教師の発破で闘争心を取り戻した生徒たち。


 どうやら萎縮からは解放されたようだな。


 筋トレに参加していなかったら女教師の言葉は彼らに届かなかっただろう。


 同じ経験を共有したからこそ生まれた一体感。


 彼女の努力は少しずつ実を結んでいるんだと俺は思った。





『あいつら、ずっと魔力の通し方も覚えられなかったくせに寵児に挑むなんて馬鹿だよな』


『まあ、生意気な平民の公開処刑だと思えば楽しめるよな?』


『あの自分が偉いと勘違いしてる根暗女の理論がゴミ扱いされるところを早く見たいわね!』



 ふむ……。


 客席にいるやつらの大半は平民生徒たちが無様に負けるところを笑いに来ているらしい。



 だが――



『本当に筋肉を鍛えるだけで平民が英才教育を受けてきた貴族に勝てるのか?』


『僕は才能がないから実家に見限られてしまったけど、努力で伸びる可能性があるなら……』


『この試合でもしも平民たちが勝つようなことがあれば私たちだって――』



 筋トレ理論に僅かな期待を抱き、その真価を見極めに来た者たちも少なからずいる。


 俺たちが勝利すれば努力をしたくても方法がわからなかった者たちにとっての希望になる。


 ここが学園に一筋の光をもたらすかどうかの分水嶺だ。


 絶対に負けられんな……。




 

 フィールドの真ん中に参加生徒全員で向かい合って整列。


 魔導精神に則り~云々、審判からのありがたい言葉を頂戴する。


「まさか才媛だけではなくルドルフ君までそちらにつくとは。僕らの勝利で全員の目を覚まさせて救ってやろう」


 ラッセルと取り巻きたちは余裕に満ちた顔でこちらを見ていた。


 上等だよ。すぐに真っ青にさせてやるからな……。


 バチバチと視線をぶつけさせ、俺たちは互いの陣地に戻っていった。





「それでは行ってくるのですよ!」


 俺たちの先鋒はフィーナ。


 気合十分に鼻をふんすと鳴らして壇上に上がっていく。


「やってやれ! ぶち殺してこいッ!」


 ルドルフが観客席の最前列で叫んでいた。


 リュキアやエルーシャ、メイドさん、他の筋トレ受講者たちも同じ列で見守っている。


 今日まで筋トレ理論に関わってきた者たちのためにも頑張るぞ!




 フィールドの上で睨み合う、フィーナとマカセーヌという相手の貴族生徒。



「頼んだのだよ……フィーナ……」


 ラルキエリがぎゅっと手を握りしめ、従者であるフィーナの背中を見守る。


 大丈夫だ。相手のペースに飲まれず、こっちの戦い方を貫けば心配ないさ。





「有効と見做されるのは魔法による攻撃だけ。魔法を用いない直接攻撃は禁止です。それでは位置について、互いに礼!」



 審判が注意事項を告げ、試合開始を合図する。



 ワアアァァ――ッ!



 会場の声が沸く。



「うぉおおぉおぉおぉおおっ!」



 ズダダダダダダダッ!


 開始早々、フィーナは全速力で貴族生徒に突撃していった。


 いい走りっぷりだ! スタートダッシュは成功だな!



「な、なにぃ!? 距離を詰めてきただと――ッ!?」



 詠唱を唱えようとしていた貴族生徒は想定外の動きに取り乱す。


 聞いた話だと、決闘のセオリーは適切な距離を取ったまま呪文を早く唱えてどれだけ正確に撃てるからしい。


 いきなり突っ込んできたら意味がわからないだろう。



「まさか勝てないからって暴力で鬱憤を晴らすつもりか!? なんという姑息な……! 早く術を……あれっ? あれっ?」



 貴族生徒は慌てているせいで魔法に集中できないようだ。


 これはチャンスだぞ! 


 あと、こっちは鬱憤も晴らすが勝負を捨てるつもりもない。



「こ、この! 来るな! 来るんじゃない! 直接攻撃は反そ――」



 ボッ! フィーナは拳に炎を纏わせて……。



「おら~っ!」



 強靭な足腰と鍛えた二の腕、体幹が繰り出すストレートパンチが決まるッ!



「ふごへっ!?」



 顔面を殴られた貴族生徒は情けない声を出しながら後方に吹っ飛んだ。



「「「…………」」」



 ぴくぴく……ぷしゅぅ……。


 気絶して倒れた対戦相手ことマカセーヌ。


 開始数十秒でのノックアウト。


 静まり返る競技場。



「ウィィィィイイイィイィイイィイ――ッ!!!!!!」



 どよめきのなか、フィーナは天を指さし勝利の雄叫びを上げた。


 やったぜ。見事な完全勝利。実に圧倒的だった。初戦を取れるとは幸先いいな!


 俺は頷きながら称賛の拍手を送った。





 フィーナに瞬殺された貴族生徒マカセーヌは泡を吹きながら担架で医務室へ。


 そのままの勢いで二回戦……は開始されず。


 現在、決闘は中断され、審判団を交えて審議が行われていた。



「だから、さっきのは魔法じゃなくて直接攻撃だろ!? 反則だ! この卑怯者!」


「あれは立派な魔法による攻撃なのだよ!? 言いがかりはやめるのだよ? この浅学者!」


 ラッセルとラルキエリが激しい剣幕で主張をぶつけ合っている。


 負けたからっていちゃもんとは。


 ダサい男め。


 鮮やかな勝利にケチをつけるなんて無粋だぞ。



「フィーナ? もう一回、さっきの術を再現して見せるのだよ?」


「はいですよ! ふんっ!」


 ボッ! フィーナの右拳が魔力で作られた炎で包まれる。


 それを間近で見た審判の魔導士たちはおおっと声を上げた。



「「「ほう! これは!」」」



「この通り、実際に相手に衝撃を与えたのは魔力によって生成された炎なのだよ? これを手に纏いながら叩き込んだのであって、フィーナは決して魔力を用いない直接攻撃を行なったのではないと断言させていただくのだよ?」



 ラルキエリが審判たちに向けて説明を行なう。



「なるほど、これは炎の魔力を纏って……おお、随分と魔力濃度が高いな!」

「むむぅ、フレイムウォールの簡易版なのか?」

「だが、限定的で範囲が狭い……。遠距離に展開することはできないのかね?」

「拙い魔力操作でも実用に耐えられるよう、遠隔的な操作性は排除してあるのでは?」

「なるほど! だから平民の生徒でも無詠唱で即時展開できたのだな」

「この術は繊細なコントロールより、魔力の単純量が肝のような気がするね」

「従来の魔法とは方向性が違うようだな……」



 審判の魔導士たちは審議から次第にフィーナの使った魔法の仕組みや有用性についての談義に移行し始めた。


 彼らも普段は魔術を追求する者。


 今までのアプローチと違う形態の魔法に興味が湧いたのだろう。



 あーだこーだ、あーだこーだ……。



 いや、研究熱心なのはいいんだけどさぁ……。



「そろそろ結論を出してもらおうか!」



 グダグダになりそうだった審議にラッセルが割って入った。



「魔法を武具のように身に着けて自らが前に出て戦うなど魔導士の戦い方ではない! 相手を殴りつけるという野蛮な行為に魔法を介在させるなど、知恵を探求する魔導士に相応しくないのは明白! これを魔法による攻撃と認めるのは我々に魔法を授けてくれた神や精霊に対する冒涜と言っても過言ではない!」



「ほう、では攻撃魔法の定義とは何なのだよ? もし、攻撃魔法が一定の離れた距離から放つものに限定されるというのなら、それは確かに反則ということになるがね? だが、君は使い方が気に入らないというだけで同じ魔法によって生みだした力を差別するのかね? 自分の好みに合わない魔法を魔法と認めないのは驕りではないのかね?」



 ラルキエリの煽りは前に食堂で驕りが過ぎると言われた意趣返しだろうか。



「僕は魔法に対する侮辱行為だと言っているんだッ!」


「やれやれ? 屁理屈か? なのだよ?」


「屁理屈は君だろう!」



 ぐぎぎ……と睨みあい、ラルキエリとラッセルは審判団に目を向ける。



「こんなものは無効だろ!?」


「有効なのだよな?」



「「「ふぅーむ……」」」



 そして、結論は下された。





『検証の結果、先ほどのフィーナ生徒の攻撃は有効と見做します』



 魔法による拡声で会場内にアナウンスが流れる。



「あれが魔法だというのか! ただの暴力じゃないかッ!」



 決定を聞いたラッセルは頭を掻き毟りながら悔しそうに地団太を踏んでいた。


 審判の魔導士たち、探求心が上回ったな……。


 否定したら研究対象にしにくくなるからね。


 柔軟な発想の魔導士たちが審判でよかったわ。




 ちらっと教員席を眺める。



「くそっくそっ!」



 そこには苛立った様子で自分の膝を叩くゼブルス教諭がいた。



「…………」


「……はっ」


「…………」


「な、なかなか斬新なことを思いつくものですなぁ!? わははっ!」



 隣に座るエルフ校長が無言で眺めていることに気が付き、彼は脂ぎった髪を撫でながら慌てて取り繕っていた。





 ラッセルの抗議を退け、無事にフィーナの勝利は確定となった。



「フィーナ、よくやったのだよ?」


「はいなのですよ!」


「さすがね!」


「すごいよ……バナナ食べる?」


「僕たちも続かないと!」


「おめでとうだよぉ!」


 俺たちは遅ればせながら勝利の喜びを分かち合う。


 最初に勝てたことで自分たちはやれるという自信が皆に沸いてきた。


 この調子でガンガンいきたいね。



「ところでラルキエリ、もうひとつの効果については説明しなくてよかったのか?」


「ああ、もし審判が納得しなければ開示もやむなしだったがね? そうするまでもなかったし、決闘が終わった後にでもゆっくり報告するのだよ? 勝負の最中にネタをすべて曝け出してやることはないだろう?」


「ふっ、それもそうだな……」

 


 俺たちはニヤリと笑いあった。





 何を隠そう、筋トレ受講者たちの魔力量と出力は密度ぎっしりトレーニングの結果、かなりすごいことになっていた。


 魔力の操作が苦手なのは相変わらずなので、広範囲に展開したり遠距離に飛ばしたりする一般的な魔法の使い方はできない。


 しかし、拳など身体から切り離さずに放つ魔力濃度は相当なもの。


 ぶっちゃけ、凝縮された濃さだけならルドルフすら怯むレベル。


 そんなものをダイレクトに叩き込んだらどうなるか?


 上位の魔導士ならまだしも、ラッセルの腰巾着程度なら一時的な魔力中毒を起こして昏倒させるくらいわけはない必殺技になるのだ。





「フィーナの戦いで我輩は確信したのだよ? 連中が呪文を詠唱する前に距離を詰めることができれば我々が負けることはないと!」


「「「「「うぉー!」」」」」


 ラルキエリの言葉で士気はさらに上がっていく。


 貴族生徒たちが魔法を使ってきたらそれはやはり脅威だろう。


 だが、発動前に懐まで入ってしまえば何も怖いことはない。


 静かに待ってやる義理はどこにもないのだから。


 身体を鍛えることを野蛮な行為と蔑むモヤシたちよ。


 覚悟するがいい。





 二戦目はポーンが出場した。相手は貴族の女子生徒。名前は忘れた。


「わたくしは平民ごときに絶対負けたりしませんわ! 華麗な魔術で粛清して差し上げます!」


「おりゃああ!」


 ズダダダダッ!


「ひっ……!」


 ポーンが目の前で手を振り上げただけで女子生徒は場に縫い付けられたように硬直した。


 パチィーンッ! 


 バシャッ!


「へぶッ!?」


 平手に水を纏わせたポーンのビンタで女子生徒はあっさり意識を失った。


 いや~快勝快勝。




「あへぇ……あへぇ……」


 負けた女子生徒はどことなく恍惚に満ちた表情で担架に乗せられていく。


 なんか、禁断症状的なアレっぽい……。


 濃い魔力の刺激が変なふうに響いちまったのか。


 何かに目覚めないといいけど。


 ポーンも若干引いた顔で叩いた手を握っていた。





 三回戦はツインテ少女が出場だ。


 相手はハムファイトとかいう貴族の男子生徒。


 フィールドを挟んだ向かい側ではラッセルがハラハラした表情になっていた。


 連敗で試合前の余裕が嘘みたいになっちまったな。


 ざまぁない。


 このまま三連勝で俺たちのストレート勝ちかね?


 あらかじめオーダーは提出済みなのでラッセルは大将戦以外で出てくることはできない。


 本当はあいつを完膚なきまで叩きのめしたほうが後腐れなく済むのだが……。



 む……?



 ツインテ少女と向き合った貴族の少年が歪んだ笑いを浮かべているような?


 何やら不穏な気配がする……。



 そして、三回戦が始まった。




次こそはもっと早く……もっと……!

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