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トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~  作者: のみかん@遠野蜜柑


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学園と授業初日


 馬車に揺られてガタゴト。


 体感的に一、二時間ほど。


 俺たちは王都の一角にある王立魔道学園に到着していた。


「ぐああ……身体がバキバキだ」


 馬車を降りて進展運動と屈伸運動を行う。


 遅いわりに振動の激しい馬車の座席は快適とは言い難かった。


「うへえ……ガンガンするぅ」


 リュキアも頭を押さえてぐったり気味だ。


 フッ、どうよ? 俺の乗り心地のよさがわかっただろ? 


 リュキアにドヤ顔を向けると白けた目を返された。


 なんでだよ。


「グレン様、リュキアさん、こちらです」


 身の回りの世話をするためにデックアート家から派遣されたメイドさんが俺たちの身の回り品を詰めたバッグを持って先導してくれる。


 このメイドさんは初日に紅茶を淹れてくれたプロフェッショナルメイドさんだ。


 自分のことは自分でできると言ったのだが、付き人が実質ただの幼女なリュキアだけでは周囲から侮られてしまうと忠告されたのでこうして同行してもらうことになった。


 俺としてはどうでもいい連中から舐められたところで気にしないが、活動に支障がでそうな懸念は少しでも排除しておくべきだろう。


「荷物くらい俺が持ちますよ?」


 メイドさんの細腕にパンパンに張ったバッグを持たせるのはなんだか気が引けるので声をかけた。


 だが、メイドさんは首を横に振り、


「仕事ですのでお気になさらず。あと、私に敬語は不要です、グレン様」


「お、おおう……」


 仕事なら仕方ない。


 ちなみに荷物は王都に来てから購入したものがほとんど。


 学園生活に向けていろいろ買い足したのだ。


 購入費は全部テックアート家持ち。


 ……よく考えたら俺って外に出てからほとんど他人の脛をかじって生きてる。


 やばくね? マジでやばくね? 今度ギルドで雑用の仕事を受けてくるか……。


 でも在学中はできるだけ学園内から目を離したくないんだよな。


 動向を探るのに集中したいし。


 このままだと自分がダメになる気がするけど、難しいところだ。





 敷地内を歩いて行くと白い大理石のタイルに包まれた清潔感のある美しい西洋風の建物がお出迎えしてくれた。


 建物の高さは三階建てくらい。


 本校舎らしき一番立派な大きさのもの、それから規模の縮小されたミニサイズの校舎があちこちにいくつか点在している。


 よく見れば細長い塔のような建物もあった。


 用途に合わせて使い分けているのだろうか?


 ふむ、これが王立魔道学園の校舎……。


 もとの世界にあった古い大学と雰囲気が似ている。学園生活っていうよりキャンパスライフって言葉がしっくりきそうな景観だ。


 魔法の学校というから、てっきり何とかハリーだとかポッチャリーだとかに出てきた不気味な城を想像してたんだけど……。


 普通過ぎて拍子抜けだな、こりゃ。


 ご主人がかつて俺のなか視聴していた映画は所詮フィクションだったか。


 現実が理想と比べてあっさりしてるのはありがちだけど、悲しいことだねぇ。


 それでもリュキアは物珍しそうに校舎をキョロキョロ見回していた。


 きっと彼女の琴線に触れる何かがあったのだろう。


 まあ、楽しんでくれているのなら何よりだ。


「いろいろ見たいのもわかるが、迷子にならない程度にしておけよ?」


「わかったよぉ」


 ホントにわかってるのかな。


 こいつの返事は割と適当だから目を離さないようにしなきゃ。


 はぐれてもリュキアならすぐ会える気がするけど。




「そういえば校門にいた衛兵って何も確認しないで門を開けてくれたよな? あれって立ってる意味あるのか?」


 ただ無言で歩いているのも何なので、俺はメイドさんに会話を振ってみることにした。


 敬語はいらないと言うのでタメ口である。


「ああ、そのことですか……」


 メイドさんはふぅっと息を吐いて遠い目になる。


 学園に入るときにちょっと気になったんだよな。


 テックアート家のときは書状の真偽を疑われたりして散々だっただけに、軽いカルチャーショックだった。


「あれは馬車に刻まれたテックアート家の紋章を確認したから通されたのですよ。登城の際でもない限り、家紋をつけていれば貴族の馬車は誰が乗っているかをその都度訊ねることはしません。それは相手を侮っているのと同じことになりますから」


「侮る?」


「そうです。紋章は貴族の名であり顔です。それを表に晒しているのに誰何することは『お前の家など知らない』と言っているようなものです。それは貴族に対して何よりの侮辱行為に当たります」


「へぇ、小難しいことを考えるもんだな、人間って」


「ですから、先日のディーゼルのような真似は常識では考えられないことなのです!」


「ああ、そうなんだ……」


 メイドさんはどことなくプリプリ怒っている感じだった。


 俺はそこまで感じなかったけど、人間社会だとそんなにありえないことだったのか。


 学園には貴族も多いらしいし、俺も知らずにタブーを犯さないよう気を付けなきゃ。




「空気に閉塞感があるな……」


 寮まで向かう道で学園の生徒たちと幾人かすれ違う。


 どいつもこいつも覇気のない表情で本を片手に持った青白いモヤシどもばかりだった。


 本を持っていないやつも陰険そうな顔立ちでいけ好かない感じだ。


 もっと背筋をピンと伸ばせよ! なんだその猫背は!


 なんだろう、この何とも言えない雰囲気。


 全体的に活気がないというか、斜に構えた態度の連中が非常に目に付く。


 体育会系のように暑苦しくなれとは言わないが、せめてもう少し若者らしい清々しさを持っていてほしい。


 これじゃまるで搾りかすみたいじゃないか……。


 結局、寮までの道のりでは晴れやかなキャンパスライフを送っていそうな気持ちのいい輩とは一回も出会わなかった。




 寮の部屋はめっちゃ広かった。


 軽いキャッチボールができるくらいの大きさがあるリビングにトイレ、バスルーム、寝室。


 ……それに客間? なぜ学校の寮に客間があるのだ。


 あと、入り口付近には従者用の部屋が別に二つほどあった。


 はえぇ……学校の寮ってこんなすごかったんだ。


 てっきり誰かと相部屋になると思ってたわ。


 家具も備え付けで一通り揃えられている。


 俺の審美眼は大したことないが、多分どれも一級の品々だろう。


 オーダーメイド? とかそういうやつだ。


 なんでこんなに豪華なんだろう?


「ここは貴族の子弟やその関係者に連なる生徒用の寮ですから、それなりのものが用意されているんですよ。なかには自分で好きな家財道具を持ち込む生徒もいますけど」


 不思議そうにしている俺を見てメイドさんが説明してくれた。


 言葉にしなくても読み取ってくれる、さすがプロフェッショナル。


 俺はメイドさんへの尊敬をさらに深めた。


「うはは、わーい」


 キングサイズのベッドでぼふんぼふんと跳ねるリュキア。


 ご満悦って顔だな。彼女も気に入ったらしい。


 でもそこは俺の寝るとこだぞ。



 しかし貴族用の寮ね……。


 大丈夫なんだろうか。


 割と軽い気持ちで入学させろとか言ったけど、こんなに金がかかってそうな寮を用意されてるとは思わなかった。


 これは絶対に何かを見つけて帰らないといけない。


 責任とプレッシャーが大きく跳ね上がった。




「こちらが学園の制服となっております」


 メイドさんから滑らかな生地で作られた漆黒のローブ、真っ白なカッターシャツ、緑色のネクタイ、グレーのスラックスを手渡される。


 俺はその一式を見て、むむっと渋い顔をした。


「ネクタイ……付けなきゃダメ?」


「ダメです。校則ですから」


 結ぶの面倒だし締め付けられるようで嫌なんだけど。


「結ぶのは私が毎朝して差し上げます。品質は最上級のものですから、慣れればそう苦にはなりませんよ」


「ううん……」


「慣れれば大丈夫ですよ?」


 有無を言わさぬ感じだった。くっ、断れねえ……。


「……よろしくお願いします」 


「はい、お任せください!」


 微笑むメイドさん。


 これってお世話係というか、お目付け役じゃね?





 寮に入った翌日。


 いよいよ授業を受ける日がやってきた。


 自室にあてがわれた部屋のベッドで未だ爆睡するリュキアと、俺の身支度を手伝い、見送りまでしてくれたメイドさんを部屋に残して学び舎へ向かう。


 新品の制服をピシっと着こなし、気持ちはフレッシュ。


 教科書もろもろは学用に買った鞄のなかにしっかり詰めてある。


 果たしてどんなやつらが雁首を揃えて待っているのだろう。


 変なやつとは関わりたくないが、奴隷商の協力者が生徒か教師かわからない以上、周りとのコミュニケーションを疎かにすることはできない。


 良識があって人脈の広い人物とお近づきになれればいいんだが。


 いや、打算込みでというのは俺のポリシーに反する。


 その辺は成り行きに任せるとしよう。





 校舎の廊下を歩きながら教室を探していく。


 昨日見かけた連中と同じように、校内には参考書を片手に持って不健康そうに歩いているやつらが多く目立っている。


 稀に複数人で固まって談笑している生徒たちもいるが、それは仲が良くて集まっているのではなく、数の多さで権威を主張するためのような群れ方だった。


 なぜそう思うかって? 


 口元は笑っているのに目が笑ってねえんだよ……。


 顔立ちや雰囲気から察するに貴族の子弟たちだろう。


 ……派閥とかあるのかな。


 できればそういうのには巻き込まれたくない。


 だけど、目的を果たすにはきっと完全に無関係でいるわけにはいかないんだろうなぁ。


 お前らもっと走れよ。


 風を受けて走れば心が爽快になって表情も明るくなるし、心から笑い合えるピュアなマインドを取り戻せるはずだ。


 理屈は単純なのに、実行に移せないのは人間の性ってやつか。


 難儀なものだねえ。




 教室に着いた。


 王立魔道学園の授業は単位制というやつらしい。


 決められた分野ごとにそれぞれが好きな授業を選択し、必要な単位に合わせて自分自身で時間割を組むというシステムである。


 俺もメイドさんにアドバイスをもらいながら興味のある学問を卒業要件に見合うよう選んだ。


 卒業まではしなくてもいいんだけど、あまり適当にとって怪しまれるのも困る。


 学期は前期と後期にわけられていて、幸いにも今は前期の授業が始まったばかりだとか。


 これなら授業の遅れもさして気にしなくて済む。


 俺ってば、持ってるエルフだな。こういうのを神がかってるというのか? 


 実際に女神様と会ってここにいる俺が言うと嫌味っぽいギャグになるな……。


 今のは取り下げよう。


 教室は教壇から一段ずつ高くなっていくように長机が並べられている。


 これなら前のやつがデカくて黒板が見えなくなる心配もない。


 エルフ里のちっこい教室とは収容数が段違いだ。


 一体何人がここで同時に授業を受けられるのだろう。


 百人は軽く収まりそうである。


 現在は始業十分前。しかし、すでに席はポツポツ埋まっている。


 勉強熱心なやつらだ。


 自由席らしいので俺もどこか適当に選んで座るとしよう。


 教室全体を見渡して、手頃な空席を探す。


 すると、最後尾の列の端の席に知った顔を見つけた。


「あ、ルドルフだ」


 そこにいたのはくすんだ金髪の男、ルドルフだった。


 やつは不遜にも机に両足を乗せ、ふんぞり返ったスタイルで分厚い本に目を通していた。


 そういやあいつもここの学生だったっけ。


 それで結構な優等生なんだっけ? 


 なんとか童だか、童なんとかと持て囃される存在だったと記憶している。


 強制連行されたのにちゃんと学校に来てるってなんか面白いな。


 真面目に通ってるふりして、いずれニッサンの町に戻ってやろうとか思ってるんだろうか?


「よう、久しぶり」


 リリンの母、マリサの容態を伝える必要もあったので俺はルドルフに声をかけた。


 初めて会ったときはこいつに自分から声をかける日が来るとは思ってもなかったな。


「はあ? 気安くオレに声をかけてくるんじゃ……なっ!? トラックエルフ! お前、その制服は! どうしてここに!?」


 最初こそ刺々しい拒絶の態度を向けてきたルドルフだったが、俺の顔を見て確認するなり慌てて本を置いて立ち上がった。


「今日から俺もここの生徒だ。よろしく頼むな?」


「んなバカな!? ここは亜人種が簡単に入れるようなところじゃ……って、ああ、テックアート家の伝手か?」


「まあ、そんなところだ。よくわかったな」


 ルドルフのやつ、あっという間に察しやがった。


 もっとじらしてみたかったのに。


 つまらん。


「あそこの当主はエルフに甘いからな。エルフだけじゃなくて当主の美的感覚に合えばどんなやつにでも甘いけど」


 ……ディオス氏、やっぱそういう感じの人なんすねぇ。


「で、お前は何でこんなとこに来たんだ?」


「いや、魔法の学校なんだから魔法を勉強しに来たに決まってんだろ」


 ルドルフのやつ、何を当たり前なことを訊いてくるんだ?


「はぁ? エルフのお前が人間の教える学校で今更何を勉強するってんだ? ……おっ、そうか、わかったぜ! そういう体で潜入して、腑抜けた教員どもに強力なエルフ魔法を見せつけて赤っ恥をかかせてやろうって企みだな?」


「そんな性格悪いことはしねえよ!」


 誰もがお前みたいに他人を貶める嫌味な根性はしてないんだよ?


 相変わらずだな、こいつは……。


 学校でカツアゲとかしてねーだろうな。


「はぁ、ちげーのか。つまんねー。けど、だったらなおさらお前がこんなところで得るものは何もねーと思うぞ。貴族の坊ちゃん連中は特権意識の塊だからな、きっと不愉快な思いをするだけだぜ?」


 うへぇと舌を出して辟易した顔をするルドルフ。こいつも苦労してるみたいだな。その反動でこんなふうにグレたのかね。


「でも俺って基本的な呪文とかをすっかり覚えてないんだよ。だからそこら辺をきちっと詰めたいと思ってたんだけど」


「……そんなもん、本でどうにでもなるだろ。ここはもっと突き詰めた学術的な魔法の研究を学ぶ場所だぜ? この学校に来るようなやつは元から才能を見込まれて、ガキの頃から家庭教師に基礎を叩きこまれてる連中ばっかりだからな」


「げ、マジで?」


 そんなん聞いてねーんだけど。


 俺、早速落ちこぼれかよ。


「ま、卒業資格と人脈目当てで自分に箔を付けるために通ってるやつらもいるし、気負うこともねーよ。それに基礎魔法をとことん反復する初心者向けの授業も一応あるしな」


「あ、それなら取ってるぞ。『基礎魔法』だろ?」


「選んでんのかよ……。お前レベルの使い手が選択するような授業じゃねえんだが……」


 俺の取った授業のひとつ『基礎魔法』。


 ルドルフの話で名前通りに基礎をやるわけではないのかと危惧したが、それはそのまま普通にやってくれるっぽい。



 ふう、よかった。



 それからリリンやその母マリサのことなどをルドルフに話していると、やがて始業のチャイムが鳴り、頭頂部に光沢のある薄毛の男性教師が入ってきた。



 俺はルドルフの前の列にある席に座ることにした。



 本日一発目の授業は『錬金術師学』。


 かつて存在した錬金術師に対する考察や歴史的な変遷、思想、魔法との違いなどを研究する学問だ。


 直接錬金術を学ぶわけではないが、ちょっと気になったんでな。


 直感でこれを取れとエンジンが囁いたのだ。



「それでは本日の授業を始めマァス!」



 男性にしては甲高い声で、教師は授業を開始した。



◇◇◇◇◇



 俺は自分がエルフ里の学校では居眠りの常習犯だったことを思い出していた。



 ……夢の中で。



 キーンコーンカーンコーン。



「はっ、しまった。眠っていたのか俺は……」



 チャイムと同時に俺は目を覚ました。


 机に突っ伏した姿勢から起き上がると、周囲は教室移動の喧噪に包まれていた。



「……お前、何しにここに来たんだ?」



 ルドルフが冷ややかな目で俺を見ていた。


 彼は不良かと思いきや、意外にも丁寧な字できちんとノートをとっていた。


 ぐぬぬ……リリンに続き、こいつも実はそこそこ頭いい感じのキャラだったのか。


 これでは俺が単体で馬鹿みたいじゃないか。


 初めての授業で俺は言い知れぬ敗北感を味わう羽目になった。





 二時間目の授業は屋外での実技演習だった。


 科目名は『魔法実技』。


 この授業でもルドルフと同じとわかったので、並んで一緒に向かうことにした。



「うそ……ルドルフ様が他の生徒と歩いてる!?」

「あの孤高の神童が……隣の奴は何者だ!?」

「っていうか、あれエルフじゃない?」



 廊下を歩いていると周囲がヒソヒソ囁いているのが聞こえる。


 ルドルフって本当に学園ではすごいやつ扱いなんだな。


 様付けとかクソ笑えるんだけど。



 やがて注目は俺にも向く。



「珍しい、なんでエルフがわざわざこの学校に?」

「冷やかしじゃねえのか?」



 失敬な。本命の目的は別にあるとはいえ、俺は真面目に勉強しに来たんだぞ。


 ……さっきは寝ちゃったけど。




 廊下を出て、グラウンドに繋がる中庭部分を歩いていると、正面から数十人規模の集団でぞろぞろ移動する生徒の群れがあった。


 その群れは先頭を歩く一人の男子生徒を中心に三角形になるように形成されていて、最後尾の列に向かうほど人数が多かった。


 これあれだ、知ってるぞ。『なんとかの巨塔』ってドラマでやってたやつだ!


 俺はちょっと興奮した。



「やあやあ、久しぶりだねルドルフ君」



 先頭を歩いていた男子生徒が立ち止まり、ルドルフに気さくな感じで声をかけてきた。


 金髪碧眼で、整髪料を用いたオールバックの髪型。


 男子生徒は背が低い代わりに鼻のでかい特徴的な容姿をしていた。


 自信に溢れる物腰や、集団のトップにいることから恐らく上位貴族の息子だろう。



「あん? お前は……」



 ルドルフも立ち止まり、彼と応対する。いや、応対せざるを得なかった。


 だって彼ら、横にいっぱい広がって道を塞いでるんだもの。


 一列、せめて二列に並んでくれれば素通りできるのに。


 まったく迷惑なことだ。



「ふっ、僕らの間に堅苦しい挨拶はいらないだろう。それより、僕の倶楽部に入る返事はそろそろ貰えそうかな?」



 ニヤっと白すぎる歯を見せて笑うデカ鼻の男子生徒。



「……知らねえな」



 ルドルフはそれに惚けたように答えた。



「神童と寵児が揃って会話をしてるぞ……」

「二人が並ぶと威圧感すげえな……」

「あの二人が近づいたら勢力図が大きく傾くんじゃね?」

「才媛は塔にこもりっきりだからなぁ」



 周りがまたヒソヒソなんか言ってる。


 ああ、これって派閥のお誘いなのか。


 倶楽部とか洒落た言い回しで物々しさを緩和してるつもりですか、コノヤロー。



 ルドルフが何も答えずにいると、男子生徒はフッと口元を上げ、



「ふむ、まだ焦らすのかい? まあいいさ。どうせ答えはわかってる。よい返事を期待しているよ。では、また会おう、我が友よ! ハッハッハッ!」



 高笑いをしながら集団を引き連れ、去っていった。


 集団は滑らかに統一された動きで一瞬だけ一列になって俺たちの横を避けて通って行った。


 おかげで俺たちは道の端まで避けなくて済んだ。


 すごい連帯感だと俺は感心した。




 すっかり彼らが見えなくなった後で俺はルドルフに訊いてみる。


「あいつ、知り合いか?」


「いや、全然知らねえよ。あんな面倒臭そうなやつ……」


 冗談ではなく、本気でわかってなさそうにルドルフは言った。


「我が友とか言ってたぞ」


「きっと人違いだろ。別のルドルフ君と勘違いしてんだよ」


「おいおい……ならあいつ、勘違いしたまま別人に『我が友よ!』とか抜かしてたってこと? あんなキザっぽい喋り方で? やばいやつじゃねーか……」


「ゾッとしちまうよなぁ。まったく困ったバカ野郎がいたもんだぜ。人の顔くらいきちんと覚えとけってんだ」


 やれやれと溜息を吐くルドルフ。


 俺は一拍置いて言う、


「返事を期待しているよ!」


「また会おう! ぎゃはは!」


 俺たちは笑い合った。そりゃあもう、盛大に。


 男子生徒の気取った話し方をマネしながら俺たちはグラウンドに向かった。



 周囲の空気が凍り付いていたのは俺の気のせいだろう。



◇◇◇◇



「僕が考案した魔法式に基づけば、魔力の消費量が二割ほど軽減でき、威力もそれほど損なうことなく術が発動できます。それでは見てください。ファイアクロス!」



 魔法実技の授業は魔法を教えてもらうのではなく、生徒たち自身が考案した新しい術式や研究成果のお披露目会という感じだった。


 発表ごとに教師がアドバイスを送ったり、他の生徒が意見を述べて議論を交わしたりしていくのが全体の流れらしい。


 一人ずつ前に出てご高説を垂れ流し、あれこれ見せつけてくるが、もとになっている呪文やそもそもの基準値を知らない俺は見ていてちっとも面白くなかった。


 あと、話している連中が顎を若干上げて俯瞰しながら語っているのが地味にウザい。


 なんだその得意顔は……。


 鼻の穴を見せつけてくるんじゃねえ! ろくろ回すなよ! この平面顔が!





 俺は今回初参加ということで見学だけで済んだが、次回からは研究したことをまとめてくるようにと教員から言われた。


 何もわからないから教えてもらいにきたのに、なぜ俺がゼロから生み出せると思うのか。



『君はエルフだし、期待しているよ? ふん?』とか、油ぎった黒髪の男性教師に言われたが、知らねえよ!


 

 適当に筋トレのやり方でも披露してやろうか。



『筋肉が増えたら魔法の威力が上がります!』とか言っちゃってさ。



 エルーシャに教わったウォーターバレットを全力でぶっ放して披露すればうっかり信じちゃうやつが出てくるかも。


 それで筋トレが学園で流行れば学園の淀んだ空気も少しは緩和されるだろう。


 よし、そうしてやろう。そう決めた。


魔法学校といえば〇ッターです。

そういう感じでやっていきます。たぶん。

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