伯爵と対面
学園まで行きませんでしたw
「グレン、さ、様……こうちゃだ、こうちゃだ、です」
良く晴れた日の昼下がり。テックアート邸に到着した翌日。
俺は中庭のテラスにて、従者としての修業を始めたゾフィーに紅茶を振る舞われていた。
洗練された動作でカップに注がれる琥珀色の液体。
整った容姿のダークエルフ少女が行う給仕は実に絵になっていると言えた。
きちっと執事服を着こなし、一挙一動も堂々としている。
とても見習いの従者とは思えない風格があった。
言葉遣いが若干怪しいのは仕方ない。エルフって基本敬語で話さないし。
ジンジャーも奴隷商で覚えさせられたから今は使えるっぽいけど、里にいた頃は話せなかった。
俺だって相手に慣れてくると自然とタメ口が出てくる。
まあ、そんな話は置いといて。
「ありがとな」
俺はカップを手に取り、香りを楽しみながら一口啜る。
本当は香りなんか興味なかったが、せっかく行儀よく入れてもらったわけだし。
こっちもそれっぽくしてあげたいじゃん?
「い、いかがでしょうか?」
「ああ、美味いな……」
素直に感じた感想が口から出る。
紅茶の味なんて大して詳しくない俺でも美味いと思えた。
俺の舌がよほどバカでなければ昨日のメイドさんにも負けてないはずだ。
「よかったぁ……」
俺が口をつける様子を食い入るように見つめていたゾフィーは安堵したように息を吐いた。
「ゾフィーさん、たった数時間でここまでできるようになったんですよ? 言葉遣いは微妙ですが、この子には才能があります!」
少し離れた位置から立って見守っていたメイドがニコニコと満面の笑みを浮かべて言った。
彼女が指導をしたのだろうか?
どことなく誇らしげである。
「覚えることはたくさんあるが、ますが。一日もはやくグレン様のやくにたてるようがんばるぞ。……がんばります」
やはり敬語を扱うのは大変そうだった。
俺は無理をせず自然な口調でいいと言ったのだが、やるからには徹底したいと言うので好きにさせている。
「ゾフィーさん、また言葉遣いが乱れていますよ?」
「むぐぅ、従者のしゃべりかたはむずかしいな……」
ムムムと唸るゾフィー。
早速メイドの指導が入っていた。
ゾフィーはまずメイドから礼儀作法や身の回りの世話を学び、それから従者としての仕事を覚えるらしい。
俺の役に立ちたい一心でそこまでするのか。
……健気だなぁ。
助けた直後に礼も言わず、宿を壊して出て行った連中もいたというのに。
あいつらにはゾフィーの爪の垢を煎じて飲めと言いたくなる。
「偉いぞ、ゾフィー」
「えへへ……」
何となく頭を撫でてやると、ゾフィーは嬉しそうに身を捩ってへにゃりと笑った。
妹もそうだったけど、これくらいの子って頭を撫でられるの好きだよな。
「グレン様、がんばるぞ。がんばりますぞ! もっと紅茶も上手く入れられるようになる、ますぞ!」
やる気に満ち、ふんすと鼻を鳴らしてゾフィーは再度の決意表明。
頑張れよ。
ただ、俺と一緒にいても紅茶を淹れる機会なんてそうそうないだろうけど。
言ったら彼女のモチベーションを削ぎそうだったので俺は真実を紅茶と一緒に飲み込んだ。
ゾフィーとともに午後のひと時をゆったり過ごしていると、レグル嬢がエヴァンジェリンとジンジャーを伴って中庭にやってきた。
どうしたのだろう。何か用かな。そういやリュキアはどこ行った?
あの幼女、何気に神出鬼没だからな……。
「グレン様、つい先ほど父が屋敷に戻りました。それで早速なのですが、父が会いたいと申しておりまして……」
レグル嬢はどこか浮かない顔をしていた。
なんだろ、父親に嫌悪感を持つお年頃なのか?
彼女はそんな性格じゃないと思っていたけど。
まあ、人間っていろんな側面を持つ生き物だしな。
イメージと違うところがあっても不思議じゃない。
「わかった。じゃあすぐ行こう」
いろいろ考えながら俺は了承する。
帰ってきて早々とはアクティブな伯爵だ。
一体、どんな人なんだろう。
「では、こちらに」
レグル嬢に促され、俺は中庭を後にする。
いよいよ貴族の当主と対面か……。少し緊張する。ニッサンの領主?
あれは変態だからノーカンで。
そういやレグル嬢の母親ってどうしてんだ?
昨日は紹介されなかったけど、屋敷にはいないのかね。
ま、そのうち知ることもあるだろう。
「グレン様、行ってらっしゃいませだ! です……」
名残惜しそうにゾフィーが言う。
無理して敬語使おうとしてるから変な口調になってんぞ。
癖にならないといいけど。
彼女はこれからまた修行を再開するらしい。ええ子やな……。しみじみと思った。
「やあ、君がグレン君だね? 私はテックアート家当主のディオス・テックアートだ」
レグル嬢やエヴァンジェリン、ジンジャーと一緒に向かった先の部屋で待っていたのは二十代中盤程度にしか見えない碧眼の美青年だった。
腰のあたりまで伸びたサラサラの金髪、若々しい相貌にキラリと光る白い歯……。
これ、父親なの? レグル嬢の兄貴とかじゃなくて?
この男、エルフの血でも混ざってるんじゃないか……?
「おや、どうしたんだい? ひょっとして私の美しさに見惚れてしまったかな? よく同年代の他家当主にも嫉妬の眼差しを送られて困っているんだが。まさかエルフのお眼鏡にも叶うとは光栄だなぁ!」
歯を見せて笑い、長い髪の毛をファサーっとさせる。
飄々とした雰囲気のディオス氏。なんか思っていたのとキャラが違う……。
違法奴隷の解放とそれを売りさばく組織の捕縛に力を入れているというから、もっと厳格な人物を想像していた。だが、目の前にいるのは若干ナルシストの入った爽やかな軽口を叩く笑顔の眩しい優男である。
「さて、グレン君。君には娘や騎士たちを救ってくれたお礼と、それから謝罪をしないといけないね?」
む? 礼はわかるが、謝罪とは?
「グレン様、昨日当家の騎士だった男が起こした非礼についてですよ」
「ああ、ディーゼル問題のことか」
レグル嬢のおかげで思い出す。
俺のなかでアレはすでに記憶の彼方に送り飛ばされ、過去のことになっていた。
たった一日前のことなのになぁ。
思いのほか俺は彼に興味を持っていなかったらしい。
つか、さり気に『だった』とか過去形になってんよ……。
気にしないでおこう。
「問題を起こした騎士は君とレグルが話し合いで出した通りの処分をすることになったよ。多分、今頃地下室で鞭を打たれてるんじゃないかな? せっかくだし、どんな感じになってるか後で見に行くかい?」
ディオス氏が気軽に散歩へ誘うような感覚で言う。
地下室ってなんだよ。さらっとすごいぞ。
レグル嬢も気にしてない感じだし、これって普通の会話なの?
ジンジャーに目線を送ると、グッとサムズアップされた。
うわぁ、やっぱ貴族怖い、人間怖い。
「……遠慮させてもらう」
俺は首を横に振って辞退する。
俺はそこまで悪趣味じゃない。
というか、俺の趣味は走ることくらいしかない。
いや、走ることはライフウェイだな。エルーシャの食事にあやかって表現してみた。
なら趣味は転生してから始めた筋トレだろう。
……どうでもいい話だな。
「挨拶も済んだことだし、そろそろ本題に入って行こうか。立ち話もなんだから、座ってじっくりとね……」
どことなく熱っぽい視線を俺やジンジャーに向けてくるディオス氏。
うーん、気のせいか?
違和感を覚えつつも俺たちは部屋の中央にあるテーブルに着く。
エヴァンジェリンは何も言わずに壁際に立った。
騎士だから主人と同じテーブルには着かないのだろう。
ジンジャーもメイドの立場を選んだのか、壁際に向かった。
今は私服を着ているが、ニッサンの領主が来たらメイドに復職するつもりらしい。
多分、感覚を鈍らせたくないんだろうな。
まあ、個人の好きにさせておくか。
さて、ここからは真面目な今後の方針を相談する場だ。堅苦しいのは苦手だが、彼らを相手に駆け引きなどはしなくていいはずなので、思うところを素直に意見し合って問題の解決に向けてやり取りを進められたらと思う。
「違法の奴隷商人ども……ああ、ヴィースマン商会という名前が明らかになったんだっけ? 連中がやってることは許しがたいよね!」
ディオス氏がそんなことを言い出し、会話は始まった。一体、何を伝えたいのか。本題へ運ぶための前置きだろうけど。
「知っているかな? 奴隷にされたエルフはその過酷な環境に精神が耐え切れず、本来の寿命より遥かに短く命を落としてしまうんだ」
ふむ、それは由々しき状況である。俺は鷹揚に頷く。
彼は事態の深刻さを伝えようとしているのか?
レグル嬢が『ああ……』と項垂れているのが気になる。
「これがどれだけ愚かな行ないであるか……。エルフは永劫に近い年月を美しくあり続ける尊い存在だというのに! それを虐げて刈り取り、その輝きを台無しにしまうなんて! 手を伸ばして枯れてしまうなら、遠くからひっそり見守って末永く慈しむのが美しきものに対するマナーではないのかい!? 私は美を尊ぶ者として、美しき存在を汚す無粋な真似をする輩どもは看過できない!」
ディオス氏は椅子から立ち上がり、身を乗り出して熱く語り出した。
拳を握って天に突き上げ、カッと目を見開いている。
……こんな自分のポリシーみたいなのを熱弁されても『あっ、ハイ』としか答えようがないんだが。
困って目線を送ると、レグル嬢は恥ずかしそうに顔を覆っていた。
ああ、最初に浮かない顔してたのはこれが原因だったのね。
俺はいろいろ納得した。
貴族の当主って変態ばっかりかよ……。
ディオス氏の熱っぽい視線がニッサンの領主の性癖とは似て非なるものだったのは少し安心できる要素だったけど。
俺の貞操に危険はないってことだし。
どうしてもやるならジンジャーだけにしろ。
「おっと失礼。少々熱が入り過ぎたね?」
落ち着きを取り戻したディオス氏は恥ずかしそうにはにかんで、咳払いを一つ。
今さら取り繕われても変人のイメージは覆らないけどな。
「はあ、そうっすか……」
俺は気の抜けた返事をしてしまう。
だって完全に趣味趣向による私怨が動機だったんだもん。
呆気に取られて力もでねえぜ。
なんかこう、『奴隷制度は許せない!』みたいなエセ人道的な理由によって立ち上がった人かと思ってたのに。
レグル嬢の態度見てたらそう思うじゃん?
いや、ひょっとしてレグル嬢も同じ趣味を原動力に行動してたのか?
巧妙に猫をかぶっていただけなのか?
『美しいエルフは大事にしないといけませんわぁ!』と高笑いするレグル嬢が思い浮かぶ。
これだと、いかにもアホな勘違いお嬢様だ。
俺は想像してニヤけた。
本物のレグル嬢を見ると、彼女は必死に首を横に振って否定の仕草をしていた。
あっ、違うっぽいね。
涙目で悲壮に訴えてくる姿は嘆かわしかった。
よっぽど親父と同類にされたくないんだな……。
気持ちはわかるけど。
まあ、動機はどうあれディオス氏とは利害が一致する。
目指すところも一緒だ。
胡散臭い正義を騙るやつより、こういうわかりやすい欲望的信念に基づいた行動をするやつのほうが信じられる。
ちょっとエキセントリックな趣味の持ち主だけど、悪意はなさそうだし彼に関して心配することはないだろう。
ディオス氏の正体を知るサプライズを経て、話は本筋に戻る。
ディオス氏は大体のことは前もってレグル嬢から聞かされているようだった。
「そちらのジンジャー君がニッサンの町で救われたというエルフだったね? ニッサンの領主がレグルたちの出発した後で君の助けた元奴隷たちを連れてくるという話だったが……。そうそう、密書は拝見させてもらったよ。まさか王立魔道学園に奴隷商の関係者が混じっているなんてね。あそこの校長の目を逃れるとは、大した潜伏スキルの持ち主だ」
把握している情報を次々と喋っていくディオス氏。俺はそれに相槌を打ちながら、持って行きたい話題へのフリをする。
「ところで、学園にいる協力者を探し出す手立てはあるんですか?」
俺が言うと、ディオス氏は腕を組み、
「あそこは内部に独立した権力構造があるから、なかなか踏み込んで調査をするのは難しくてね……。人員を送り込むにも、人事や役員に干渉しなければならないから割と手間がかかる。だが、ニッサンの町での出来事を知られれば手を引かれる可能性もあるからのんびりともしていられない。まったく、悩ましいことだよ」
「なら、俺を学園に入学させてくれないでしょうか? テックアート家は王立魔道学園に顔が利くのでしょう? 俺が潜入して直接探ってきますよ。もちろんずっとじゃなくていい。今回の件が片付くまでの期間限定で構いません」
「え、それは……生徒の編入くらいならできるけど、いいのかい? そこまで君が背負うこともないんだよ?」
俺の提案にディオス氏は戸惑ったように確認を取ってくる。
レグル嬢も目を丸くさせていた。
「襲われてるのは俺の仲間たちだぜ? 俺が積極的に前にでるのは当然のことだ。それに学園には話を聞いた時から興味があったんだ。俺って、里では魔法の勉強を疎かにしていたから、ついでにいろいろ学び直したいと思ってさ」
俺が打算込みだということを伝えると、ディオス氏はしばらく考え込み――
「ふむ……。そういうことなら任せてくれ。手配して、数日中に君を学園の編入生としてねじ込めるように手を回しておこう」
「お、お父様! 本気でグレン様を学園に入れるおつもりですか!? 学園には他種族をよく思わぬ貴族もいるのですよ! 無理を通せば彼らが黙っていません!」
「何を言っている。王立魔道学園は身分や種族に関わらず、能力があれば誰でも魔法を学べる場として門戸が開かれているんだ。やつらが何を言ったところで義はこちらにある。何も問題はない」
俺の潜入になぜか否定的なレグル嬢を宥めるディオス氏。へえ、やっぱり人間至上主義みたいな連中もいるんだな。ディーゼル君もそんな気があったけど。
「それは建前でしょう!? 実情は違うことはお父様もご存じのはずです! 彼らとグレン様が接触すればきっと大変なことになりますよ!」
ちらりと俺に視線を送り、レグル嬢は言った。
おお、俺を心配してくれてるのか……。
決して俺が問題を起こすとか思ってるわけじゃないよな?
結局、ディオス氏が何とか言い包めてレグル嬢は折れた。
最後まで納得していない様子だったが、俺なら何とかうまくやるさ。多分ね?
一通りの方針を決め終え、俺たちは部屋を出る。
それぞれの自室に戻るまで軽く雑談を交わし合う。
そのなかで今日の夕飯は歓迎も含めて豪勢にする予定だと言われた。
ほう、楽しみだな。
一応、リクエストを聞かれたので味の濃い、スタミナの付く料理を所望しておいた。
ディオス氏からはエルフなのに珍しいねと言われた。
聞かれなかったらエルフ好みの薄い味付けのラインナップが並んでいたのかもしれない。
廊下をディオス氏らと歩いていると、進行方向側からリュキアがパタパタ走ってきた。
「あ、グレン! やっとみつけたぁー!」
勢いよく飛び込んできたリュキアを腹で受け止めて、抱き上げる。うーん軽い。中身入ってるのってくらい。
「なっ、この娘は一体……!」
登場したリュキアを見て、余裕ぶった態度が主だったディオス氏が初めて狼狽を見せた。
「お父様。グレン様のお連れ様の、リュキアさんです。昨日から屋敷にお泊りになっています」
「レ、レグル、大丈夫なのかい?」
「え、ええ……多分、恐らくは?」
「多分!?」
「グレン様のお連れ様なので……。それに今のところは何もありませんし」
レグル嬢の答えに納得のいってなさそうなディオス氏。
リュキアはたまに謎な言動をするが、いたって普通の幼女だぞ?
あまり疑うような態度はやめてほしいな。
「リュキア、お前一体何やってたんだ?」
俺は抱きかかえたリュキアに訊ねる。
「ちょっとね、ごはんたべてたの。おいしいの、けっこういたからね?」
「「「!?」」」
リュキアの発言でレグル嬢、エヴァンジェリン、テックアート伯爵の間に戦慄が走った。
――ように見えた。
はあ、彼らも幼女にビビる人たちだったのか。
人間の恐れる基準は理解できんな。
「摘まみ食いは夕飯食えなくなるぞ」
「だいじょうぶだよ。ほんとうにちょっとだけだから」
「夕飯は豪華らしいから、もう食べんなよ?」
「うん、わかったー」
「……エヴァンジェリン。一応、点呼を取っておいてもらえるかな?」
「かしこまりました」
「もしもがあれば、その者の身辺調査も頼む。ひょっとしたらがあるかもしれない」
「はい、お任せください」
はっきりと明言することを避けた意味深な会話。
上流階級特有の腹の探り合いというやつだな。
俺にもだんだん掴めてきたぞ。
こういうときは何も知らないふりをして、世間知らずなエルフのフリをして戯れていればあっちで勝手にいいようにやってくれるのだ。
俺はリュキアを高い高いして、彼らの会話を聞き流すことにした。
その日の夕飯は予告通りめっちゃ豪華だった。
そして数日後。
王立魔道学園への編入手続きが済み、俺が学園に通う日がやって来た。
学園には寮があるというので俺はテックアート家を離れてそっちに滞在することになった。
奴隷商人を追いかけてるテックアート家に出入りしていたら協力者に警戒されるかもしれないからな。
「グレン、はやくー!」
学園に行くために用意してもらった馬車へ先に乗り込んだリュキアが俺を急かす。
俺は乗るより乗せたい派だが、王都の街は複雑で入り組んでいる。
迷わず行くために今回は好意に甘えさせてもらうことにしたのだ。
そもそも外の道じゃないと人がたくさんいて全力で走れないからそんなに面白くないし。
あと、リュキアは俺と一緒に学園に行くことになった。
生徒としてではなく、名目は俺の従者としてだが。
リュキア同行にはレグル嬢たちにまたもや尽力してもらった。
『リュキアはどうしようか。寮には一緒に住めるのかな? 無理ならこの屋敷に置いてあげて欲しいんだけど……』
『いえ! 建前として従者という扱いにすればリュキアさんも寮に住めます! こちらでなんとか承認をとるので連れて行って……じゃなくて、安心してください!』
レグル嬢に相談したところ、すごく真剣な口調で言われ、そのようになった。
何から何まで親身になってくれてありがたいな。
まるで自分の命に関わることのような必死さが伝わってくる一生懸命さだった。
そういえばこの数日中、テックアート家では横領や他家の間諜をやっていた疑いのある騎士や使用人が数名行方不明になったらしい。
何があったんだろ。物騒な話だよなぁ。
「グ、グレン様ぁ……ぐぬぬぅ……!」
見送りに来てくれていたゾフィーは涙目だった。
そしてゾフィーは馬車ではしゃぐリュキアを恨めしそうに見つめていた。
建前上とはいえ、従者として俺についていくリュキアに思うところがあるようだった
「まあ、ほら。修行が終わればすぐこっちにこいよ。お前ならすぐ一人前になれるさ」
「は、はい! すぐに追いつくぞ……なのだ!」
ニッコリ笑顔になるゾフィー。
ちょろ……じゃない、彼女には笑顔が似合うな!
「グレン様、くれぐれも他の貴族の子弟とは揉め事を起こさないようにお願いします。もちろん何かあれば当家が全力で後ろ盾になりますが……。何事も起こらないに越したことはありませんから」
同じく見送りに来たレグル嬢が不安そうに言ってきた。
続いてディオス氏も、
「伯爵以下の相手ならテックアート家の名前を出すといい。それだけで直接的に何かを言ってくる相手は減るはずだよ」
……そんなに面倒な連中が多いのか、王立魔道学園には。
話しかける相手には注意しないといけないな。
「ムカついたからって殴ったらダメだよ? グレンのパンチって強いんだから。貧弱な貴族の坊ちゃんが受けたらパーンってなっちゃうよ」
ジンジャーがもっともなことを言う。
そうだな、喧嘩腰の相手は全力でスルーしよう。
俺の走行力なら逃げることも容易い。
「任せとけ、俺のスピードなら簡単に撒けるぜ」
「へ? 何の話ですか……」
きょとんとするレグル嬢にサムズアップして、俺は悠々と馬車へ向かった。
エヴァンジェリンや隊長、デリック君は仕事でこれなかったが、また会う機会もあるだろう。
そのときはいいお土産を持ってこれるといいな。
待ってろよ、奴隷商人の協力者。
俺がすべてを白日の下に晒してやる。
多分、この更新で一万pvに到達すると思われます。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。




