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トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~  作者: のみかん@遠野蜜柑


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15/28

謝罪と再会


「おいコラ! 貴様、何をやっておるかぁ――ッ!」


 そう言って叫んで走ってきた中年の騎士。


 白髪の混じった男性騎士はひどく慌てたように俺たちの間に割って入った。


「あっ……」


 中年の騎士はぶっ壊された門を見て口を半開きにする。


 いや、なんかすいません。


 でもわざとじゃなかったんです。だってそいつが避けるから!


「ディ、ディーゼル! 一体何が起こったのだ!」


「スタントンさん! 賊が攻めてきたんです! 見てください! このエルフは屋敷の門を魔法で壊して強引に侵入を図ろうとしたんです!」


 門番の青年が早速チクリだす。この野郎、あることないこと言いやがって……。


 それは魔法じゃねえよ!


 いや、ここは冷静に行こう。冷静に状況を分析だ。


 まず青年の名前がディーゼル、それで中年騎士のほうがスタントンというみたいだな。


 やり取りを見た感じ、スタントンが上司にあたるようだ。


 なら、スタントンを説得できればこの場は納められるはず。


「スタントンさん、一緒に戦ってください! あのエルフ、槍で刺しても死なないんですよ!」


 中年騎士は青年門番の声を聞くと、ギギギと首だけを動かして信じられないものを見たような目で青年門番……ディーゼルの顔を見た。


「お前、このエルフを槍で刺したのか……?」


「ええ、なにせこいつ、お嬢様の名前で書かれた書状を偽装までしていましたからね。情状酌量の余地はないと判断しました」


「……そうか」


 中年騎士、スタントンは神妙な顔で俯いた後、渋い表情で俺のほうにスタスタ歩いてきた。


 俺は警戒して身構える。


 腰に差したサーベルを抜いていないから敵意はなさそうだけど、念のためな。


「……エルフの方よ。失礼だが、レグルお嬢様から渡された書状はどちらに?」


 スタントンは予想外にも丁寧な口調で話しかけてきた。


 なんか少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫だろうか?


「それならあそこに落ちてるよ」


 俺は地面に叩きつけられて放置された書状を指で示す。


 ディーゼルによって捨てられた書状は砂埃を被って汚れていた。


 スタントンはそれを拾い上げ、中身を確認すると、みるみる顔を青くさせていった。


 すごいな、人の顔色ってこんなふうに変化できるんだ……。


 人類の無限の可能性に俺は密やかな感動を覚えた。


「……あなたはグレン様で間違いはありませんね?」


「あ、はい」


 俺は頷いた。


 スタントンは静かに息を吐くと、ディーゼルに様々な感情が入り混じった眼を向けて言った。


「ディーゼルよ……この書状は本物だ……」


「え?」


 スタントンの言葉にディーゼルは硬直する。


「先ほどお帰りになられたばかりのお嬢様が我々に仰られたのだ。今日か明日、お嬢様や隊長殿の命を救った大恩のあるエルフが書状を持って訪れると」


「そ、そんな馬鹿な……」


 硬直から一転、ディーゼルはガタガタとバイブレーションシステム搭載かと思うような振動を起こし始めた。


 一家に一台欲しくなる揺れ具合だな。俺はいらんけど。


 というかアレか?


 レグル嬢たちとほとんど変わらずに着いちゃったから話が通ってなかったってことなの? 


 俺がもう少し遅くついていればこのイザコザは回避できてたのか……。


 不幸な行き違いだった。誰も得をしないっていう。


「ディーゼル、なぜお前は書状を持って現れた客人に武器を向けたのだ? そうするだけの何かがあったのか?」


「そ、それは……書状が偽物だと……」


「書状はどう見ても本物だ。どこにも怪しい点はない。それとも貴様はそんなことも見分けられない無能だったのか?」


「あ、その……」


 言い淀むディーゼル。野生の勘とか言ってたよな。


 しかしここであのドヤ顔を披露する度胸はさすがになかったようだ。


「どうした? もっとはっきりした口調で答えたらどうだ?」


「あ、あわ……あぐ……オレは……!」


 氷点下にまで下がったスタントンの態度に何かがプッツンしてしまったのだろう。


 プレッシャーに押し負けたディーゼルは目を見開いて叫び出した。


「だ、だって、エルフ風情が貴族の家に客で来るなんて思わなかったんだ! 普通は偽物だって思うだろ! オレは悪くない!」


 あっ……言っちゃった。理屈の通らない主張をぶちまけたその瞬間、ディーゼルはスタントンに殴られてブッ飛ばされた。


「たわけが! 家紋入りの書状を一介の門番が疑うなど言語道断だ! 身の程を知れ! 貴様は伯爵様の名前に泥を塗るつもりかッ!」


「わ、わたしはただ、テックアート家のためになると思って……」


 ディーゼルは殴られた頬を押さえて言い訳めいた言葉を吐いたが、スタントンにギロリと睨まれると沈黙した。


 まあ、オレの手柄になれとか普通に言ってたしな。嘘はいかんよ、嘘は。一足飛びに手柄を立てようとするからそうなるのだ。


「この度は部下が大変失礼致しました。私、スタントンからも深く謝罪をさせていただきます。この者の行動は独断で、テックアート家の総意ではございません。我々一同はグレン様を客人として丁重にお迎えするつもりです」


 スタントンが頭を深く下げ、ディーゼルに目配せする。


 ディーゼルは渋々といった感じで地面に手をつき、土下座の姿勢になった。


「……大変、申し訳ありませんでした。どうか御無礼をお許しください」


 恨みのこもった目で見上げられながら謝罪されてもな……。ぐぎぎって歯を食いしばっててかなり怖いんですが。


 これ、闇討ちとかされそうな勢いで憎まれてるぞ。逆恨みでここまで怒れるってある意味才能なんじゃないだろうか。


「この者の処遇はレグルお嬢様や伯爵様に報告の後、決まり次第お知らせすることになると思います。恐らく極刑になるはずですのでご安心ください」


 スタントンが言った。


 極刑だから安心しろってなんやねん。


 意味がわからんぞ。


 別に闇討ちしてこないように注意してくれればそれで構わないんだが。


「ええと、罰ってどんな感じになるんですかね?」


 気になったので試しに訊いてみる。


「主君筋の人間が招いた客人に武器を向けたのですから、よくて打ち首ぃ……ですかね?」


 スタントンは当然のようにそう答えた。


「…………」


 ええ……ディーゼル君、死んじゃうん? 


 怒られるどころの話じゃなかったわ。


 しかもよくてそれって他には何があるんだよ。


 反省文とか食事抜きとかみたいな、里の悪戯した子供の罰を基準に考えていたら、とんでもないのがぶち込まれてきた。


「うーん、確かに面倒臭かったけど、そこまですることはないような?」


「いえ、そういうわけにはいきません。家紋入りの書状を蔑ろにし、伯爵家の客人に武器を向けたのですから。軽い罰ではテックアート家が侮られてしまいます」


 俺の言葉にスタントンは断固とした口調で言った。そういうもんなのか? それが貴族の常識ってやつなら俺は口を挟めない。


 まあ、俺だってムカついたのは確かだし。


 必死になってまで庇ってやることもないかな?


「一応、俺は打ち首にするのは乗り気じゃないってことは覚えておいてもらえます?」


「かしこまりました。では、そのようにお伝えしておきましょう」


 俺が言うと、スタントンは恭しく一礼する。


 そして厳しい顔を貼りつけてディーゼルに向き直った。


「ディーゼル、貴様は処分が決まるまで自室で謹慎だ! 代わりの門番はすぐに寄越す。そいつらが来るまでの間くらいは問題を起こさずに役割を務められるよな?」


「……はい」


 ディーゼルは消え入りそうな声で答えた。


 彼のこめかみは、恥辱のせいかピクピク震えていた。


 あんまり煽らないで欲しいんだよなぁ……。


 マジで爆発する数秒前って感じじゃん。


 こっちに飛び火してきたら困るんだけど。




 俺たちはディーゼルをその場に残してスタントンの案内で屋敷に向かうことにした。


 ところで途中からリュキアがすっかり空気になっていたんだが。


 ……一体どこ行ったんだ?



「グレン様、あちらではないでしょうか?」



「くうくう……」



 スタントンに言われて振り向くと、やつは門の柱にもたれかかって居眠りをしていた。


 そういえば退屈そうに欠伸してたっけ……。


 あの騒ぎを前に爆睡とかメンタル強すぎだろ。


 盗賊との戦闘でも平然としてたからいまさらかもしれんが。



「おい、そろそろ行くから起きろよ」

「ぐうぐう……」

「…………」



 起こそうとしてもなかなか目を覚まさない。


 俺は米俵を担ぐようにリュキアを肩に乗せて運ぶことにした。


 そのことにスタントンは突っ込みを入れてこなかった。


 意外とスルースキル高い。





 テックアート家の屋敷は玄関の扉からしてなんかすごかった。


 年季の入った重厚な木の扉に手の込んでそうな緻密な文様が刻まれてたりして、荘厳さ? っていうのが漂っていた。


 俺に芸術は理解できないから、一言で言えば結局のところすべて『なんかすごかった!』で終わるわけだが。


 屋敷に入っても入り口から正面の階段までまっすぐ伸びた高級そうな赤い絨毯や、天井に吊るされた煌びやかなシャンデリアがお出迎えしてくる。


 別に欲しいとは思わなかったが、どれもこれも迫力があるとは感じた。


 廊下の途中に飾ってあった絵画・調度品の類も見る人が見れば唸る一品なのだろう。


 俺には価値がちっともわからんけど。





 応接間らしき部屋まで通されると、スタントンはレグル嬢に俺が来訪したことなどを報告すると言って下がっていった。


『など』と言ったのは、恐らくディーゼル君の打ち首のこともあるからだろう。


 言葉に含まれた裏の意味を知るとなんか嫌な気分になるよな。




 その後の応対は近くにいたメイドが引き継いだ。


 メイドは米俵のようにリュキアを担いだ俺を見ても眉一つ動かさなかった。


 それどころか笑顔で対応してきた。


 さすがだな、こういう揺るがないプロフェッショナルさは尊敬したくなる。



 腰かけることを勧められたソファもやはり細々とした加工がなされていて、これまたいいお値段がしそうだった。


「グレン様、紅茶でございます」


 リュキアをソファの隣に転がし、ソファのクッション性を堪能していると、メイドから熱々の紅茶を出された。


 ズズッと一口、うん美味い。


 これもいい茶葉使ってんだろうな。


 領主のところで味わったやつより数ランク上じゃないかな?


 知らんけど。


「これは美味い。ありがとう」


「勿体ないお言葉です」


 感謝を述べると、メイドは朗らかな表情で答えた。


 だけど、いつの間に用意したんだ?


 部屋にはティーセットもなかったはずなのに……。


 ふと見ると、彼女の隣にティーワゴンがあった。


 彼女はずっと同じ部屋にいたよな?  


 ……これは気にしたらいけないことかもしれない。


 ちょっとだけ落ち着かない気持ちになりながら、俺はレグル嬢がくるのを待った。





 数刻後、レグル嬢はエヴァンジェリンを伴って部屋に訪れた。


 レグル嬢は派手ではないがふんわりとした装飾のついた白いドレスを着ていた。


 エヴァンジェリンは変わらず鎧姿。


 久しぶりだな、二人とも。


 なんか焦ってるみたいだけど、どうしたの?


「当家の騎士が無礼を働いたそうで、大変申し訳ありませんでした!」


 会うなり、レグル嬢とエヴァンジェリンは頭を深く下げてきた。


 ああ、そのことで畏まってたのか。


「別に気にしなくていいですよ。俺も門壊しちゃいましたし。それにアレはアレ、レグル嬢はレグル嬢ですから」


 リュキアに倣って俺もロクでもないやつをアレ呼ばわりしてみる。


 意外とスカッとするなこれ。今度また嫌なやつにあったときに使ってみよう。


「そ、そう言っていただけると助かります……」


 レグル嬢は恐縮しまくりながらも、ゆっくり表情を和らげていった。


 まったく、ディーゼル君のせいでせっかくの再会が慌ただしくなっちまったぜ。


 今度会ったら嫌味でも言ってやるか。





 リュキアはまだ寝ている。


 腹をポリポリ掻き、ヨダレを垂らしながら足をはしたなく広げて爆睡中だ。


 彼女を連れてきたことについては後で説明するとして、俺たちはディーゼル問題の落としどころについて話し合っていた。


「本来なら当該の騎士は考慮の余地なく打ち首にするところですが、なんでもグレン様はそこまで望んでおられないとか?」


「まあ、あんまり大げさにはしたくはないですね」


 俺がそう言うと、対面のソファに座るレグル嬢は怪訝そうに眉を顰めた。


 付き人として彼女の脇立っているエヴァンジェリンも微妙な顔をする。


「……あの、グレン様は槍で突かれたんですよね?」


「はい。脇腹をこう、グサってね。けっこう痛かったけど、もう平気ですよ」


 レグル嬢はさらに複雑そうな顔になった。


 なんでだよぅ。


「それ、普通は死んでいますよね? グレン様でなければ取り返しのつかないことになってますよね?」


 人間が槍で刺されたら普通は死ぬもんな。よくて重傷だ。


 けど、俺は槍程度で貫通されるマシュマロボディではない。


「確かに被害はないですが、不敬にあたるのは事実ですし……ううん……」


 そんなに悩むなら俺の意見なんか無視してくれて構わないんだが。


 そこまでディーゼル君に肩入れするつもりはないし。


「お嬢様、ならば鞭打ち千回の末に放逐というのはいかがでしょうか? 他家にも騎士として仕えられないよう通達を出しておけば面目は保てるはずです」


 エヴァンジェリンが横から折衷案を出してくる。


 レグル嬢の顔が僅かに晴れた。


「そうですね……! 最終的な判断はお父様に委ねることになりますが、グレン様が幸いにも無傷で、当人の強い意向を尊重したということにすれば一応の名目は立つでしょうか……? いいですね、では、そのようにするとしましょう。グレン様もよろしいでしょうか?」


 うんうんと頷き、同意を求めてくるレグル嬢。


 よかったな、ディーゼル君。


 打ち首は回避できたっぽいぞ。


「そうですね、じゃあそういう感じで」


 鞭打ちがどれくらいキツイか知らんが、ちょっとペチペチされるくらい安いもんだろう。


 人間が感じる鞭の痛みをよくわかっていない俺は紅茶を啜りながら満足げに了承した。





「グレン様、御無事に着かれたようでなによりです」

「いやいや、そっちこそ」


 ディーゼル問題が片付いた俺たちは再会の挨拶を仕切り直して行なう。


 せっかく会ったのに謝罪から始まったんだもんな。


 こんな騒動を起こしたディーゼル君はしっかり反省して頂きたい。


 さて、レグル嬢たちだが、聞くところだと王都までの道中は行きと違って盗賊やゴブリンに襲われることもなく無事に辿り着けたらしい。


 ルドルフも実家へ送り届け、彼女たちは特に難もなく旅路を過ごしたようだった。


「ふむ、何事もなさ過ぎて盛大な前振りみたいな気もしますね」


 俺が言うとレグル嬢は苦笑した。


「いやですわ、グレン様。ニッサンの町での出来事が異常すぎたんですよ」


「……はたしてそうかな?」


 里を出た初日に連続でトラブルにエンカウントした俺の予想ではそろそろくるぜ?


 俺はキメ顔で意味深に呟いた。


「は、ははは……グレン様、そのようなことを仰るのはおやめになってください……」


 彼女の持つ紅茶のカップが震え、ソーサーにぶつかってカタカタと鳴る。


「グレン殿、お嬢様を怯えさせるようなことは言わないでほしい」


 エヴァンジェリンに睨まれた。軽いジョークだったんだが。


 冗談って難しいな。





 話題は必然と奴隷商人についてのことになっていく。


 俺がこうして招かれているのもそれがあるからだし。


 なお、レグル嬢の父親であるテックアート伯爵は現在屋敷を留守にしているらしい。明日には帰宅するそうなので、顔合わせはそれからになりそうだ。


 とりあえず俺はレグル嬢に依頼の最中に森で見つけた馬車と、そこに落ちていた密書の話をした。


 現物も持ってきていたので手渡して確認してもらう。


「それで、森で会ったのがこの子、リュキアっていうんだが。なんかついてくるって言ったんで連れてきたけど、一緒に泊まって構わないだろうか?」


「ええ、グレン様のお連れ様なら一向に構いませんが……」


 レグル嬢の関心はすでに密書のほうに集中していた。まあ、リュキアは寝てるし優先事項はそっちになるよな。


「魔道学園に奴隷商人の協力者がいるなんて……。そんなこと、あのナイトレイン校長が見逃すわけが……」


「お嬢様、これは伯爵様に使いを出して可及な限り速やかに報告すべきでは?」


「いえ、ですがここで動きを見せるのは相手に悟られる可能性が――」



 …………。


 二人が深刻そうな感じで話している。


 ややこしい駆け引きみたいな話は苦手なので混ざるのは遠慮しておこう。


 話について行けない俺は茶菓子をモサモサ食いながら様子を見守る。


 ちなみにナイトレイン・トリプルドア。


 王立魔道学園の校長の名前であるらしい。


 覚えておくべきか? 


 いや、直接会うかわかんないし別にいいか。





「……いろいろ懸念はございますが、不当に奴隷にされていたエルフたちを解放できたのは喜ばしいことです。グレン様には助けてもらってばかりですね」


 難しい会話が終わり、レグル嬢がこちらに向き直る。お互い様だろ? みたいなやり取りをして、今度は雑談に近い近況報告を交わし合う。


「なるほど、ニッサンの領主様は予定より早く着かれるのですね。それはきっとジンジャーさんが喜ぶでしょう」


「そういや、ジンジャーたちもいるんだっけ。どこにいるんだ?」


「ジンジャーさんたちは部屋で休まれていますよ。お食事の前にお会いになりますか? ゾフィーちゃんはグレン様にとても会いたがっていたので、できれば早めにお顔を見せてあげてください」


 レグル嬢に聞きなれない名を出され、俺は『ん?』と首を捻る。


「ゾフィーって誰だ?」


「「えっ?」」


 レグル嬢とエヴァンジェリンが呆気にとられた声を上げた。



――ガタンッ



 そして同時にドアのほうから音が聞こえ、



「おんじ……グレンさま。わたしのことをわすれたのか、わすれてしまったのですか?」



 振り向くと、燕尾服を着た褐色肌の少女が扉に縋りつくような恰好でへたり込んでいた。


 長い耳に黒い髪。


 ニッサンの町で解放した召喚魔法使いのダークエルフ少女だった。


 あの時は伸び放題だった髪の毛もスッキリと散髪され、肩にかかるくらいの長さで綺麗に揃えられていた。


 栄養状態も改善されたのだろう。


 髪の毛や肌にも艶が見られ、パッと見た姿は以前より健康的になっていた。


 だが、顔色はすこぶる暗かった。


 やべぇ。彼女の名前がゾフィーだったのか。


 そういや名前覚えてなかったなぁって。


 後の祭りである。



「……しょせん、わたしなど気まぐれに手をさしのべられただけのそんざい。いつまでもおぼえていてもらえると思っていたのが思いあがりだったのだ、のです……」



 幾分か流暢になっているが、未だ口調はたどたどしい。


 しかし、それよりもネガティブ発言と無理して使っているような敬語が気になる。


 ネガティブ発言は俺のせいだけど。


 落ち込み具合から、盛大にやらかしてしまったっぽい。


 どうしよう、挽回の手立てが見つからん。


「そ、その恰好はどうしたんだ? いやほら、似合ってるなって思ってな?」


 とりあえず服を褒めとけと、執事のような服装をしている事情を訊ねてみた。


 これで誤魔化せれば……。


 項垂れるゾフィーに代わって答えたのはレグル嬢だった。


「彼女はグレン様に恩を返したいと思い、グレン様の従者になるために当家で見習い執事として修業することにしたのですよ。……それなのに」


 よよよ、とわざとらしくハンカチで目元を押さえるレグル嬢。


 くそ、彼女はこういう要所でキレのある狡猾さを見せるんだよなぁ。


 ルドルフの親父さんには貸しを作れたんだろうか?


「(なあ、従者ってどういうことだ?)」


「(お嬢様がグレン殿の傍で報いるなら、従者を務めるのが一番いいと話されてな。ゾフィーも乗り気になってしまったのだ)」


 泣き真似をするレグル嬢では話にならんので、スススとエヴァンジェリンのもとにすり寄ってヒソヒソ声で経緯を訊ね、事情を把握する。


 あの敬語は従者の言葉遣いを意識してのものだったようだ。


 ……勝手にいろいろ決めんなよ。悪意からくるものじゃないにしてもさ。


 とりあえず、今は気落ちしてるゾフィーを慰めよう。



「ゾ、ゾフィー? さっきのはほんの戯れだぞ? 俺がお前のことを忘れるわけないだろ?」


「グ、グレン様……」


「俺の従者になろうとしてるだってな? 頑張れよ、期待してるからな!」


「はうぅ~」


 ホントは従者なんていらないんだけど。


 うるうるの涙目で見られてはそんなこと言えない。




「グレンってそういうところあるよね~」


 ジンジャーが扉の影からニヤニヤと覗いていた。いつの間に来やがった。


 ひょっとして最初から見てたのか?


 趣味の悪い奴め。色んな意味で。





 その後、夕食後には隊長やデリック君たちとも顔を合わせた。


 二人とも元気そうだった。


 こうして俺はニッサンの町で出会った人たち全員と再会を果たしたのだった。



 ルドルフ? 知らんな。


学園編はグダるとなろうでは言われてるみたいですけど、どうなんでしょうか。

次話か、次々話くらいから始めようかと思ってるんですが。

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