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トラックエルフ ~走行力と強度を保ったままトラックがエルフに転生~  作者: のみかん@遠野蜜柑


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13/28

盗賊と二号さん


 ニッサンの町を出て、俺は時速百キロで街道を爆走していた。


 背中には新しく旅のお供に加わった幼女を乗せている。


 そう、俺は走っている。人を乗せ、山道ではなく、平らな道路を全力で走っているのだ!


 誰かを乗せている重量感と体に纏わりつく風圧は俺に生きている実感を与えてくれる。


「最高の気分だ……」


 リリンと近場の森に行ったりもしたが、長距離走行となるとまた気分が違ってくるものだ。


「どうだ? 心が晴れ晴れするだろう?」


「うえーきぼちわるいよー」


「…………」


 乗客は同じ気持ちではないようだった。


 今世の俺の乗り心地はあまりよくないのだろうか?


 だとしたら軽くショックだ。





 一つ村を通過し、二つ村を通過し、三つ目の村を通過してしばらくした地点。


 対向車の心配もなく、スピード制限もない平和な道。


「くーすぴーくーすぴー」


「…………」


 なんだかんだ言いながら、リュキアは俺の背中で心地よさそうに寝ていた。途中休憩で一度、酸っぱいスプラッシュをしたのがよかったのかな。


 最初に酔っていたのは振動に慣れていなかっただけなのかもしれない。


 そうなら嬉しいんだけど。


「お……?」



 快適な走路で、俺は進行方向の先で停まっている馬車があることに気が付く。


 華美な装飾はないが、しっかりとした造り。


 恐らく貴族かそれに類する金持ちが使用する馬車だろう。


 そして、その馬車は武器を持った薄汚い身なりの男たちに囲まれていた。


 男どもは盗賊だろうか? トラブルの香りがするぜ……。


「つか、どっかで見た展開だな……」


「どうしたのぉ……?」


 眠たげな声を上げ、リュキアが目を覚ます。


「ああ、すまんが、ちょっと厄介なことになるかもしれない」


 俺は徐々に速度を落としながら接近していった。


 最悪の場合、平和な街道で再びトマト祭りが開催されることになる。


 ……ならないといいなぁ。





 そろりそろりと馬車の物陰から覗き込む。


「うへへ、あのメイドはかなりの上物だぜ……」

「馬車に乗ってるのは貴族の令嬢らしいじゃねえか」

「楽しみで仕方ねえぜぇ……!」


 盗賊は十人ほど。


 一方、襲われている馬車の側は護衛の騎士とメイド服を着た女性の二人だけだった。


 二人の会話に耳をそばだてる。


「やれやれ、本当に出てきちまうとはなぁ……」

「お嬢様の命令ですからね、皆殺しは避けるようにしましょう」


 客観的に見れば多勢に無勢。襲われている側が圧倒的に劣勢である。


 しかし、騎士とメイドは実に落ち着いたものだった。


「少し様子を見るべきか……?」


 助っ人に入ることも考えていたが、彼らの態度を見るに勝算がありそうだ。


 なら、ここで介入するのは盗賊をいたずらに刺激するだけかもしれない。


 レグル嬢たちのときと同じく最初は静観してみよう。



「おい、他にも誰かいやがるぞ!」

「赤い髪の男とガキだ! ガキは女だ!」

「男も、ありゃエルフだぜ! 捕まえりゃ高く売れる!」



 …………。


 盗賊たちに気づかれた。


 ゴブリンやオークと違って相手は人間だもんな


 いくら知能が低い盗賊とはいえ、ちらちら顔を出していれば発見されるのは当然だった。


 メイドと騎士もこちらを振り向く。


「むぅ、エルフだと? 困ったな……」

「守り切るのが難しくなりそうですね」


 騎士とメイドがひそひそと語り合う。


 俺たちの身の安全も気にかけてくれるとは……。


 やはりそれだけ余裕があるということか?


「俺たちにはお構いなく。自分の身は守れますので」


 足手まといになるのは避けたかったので俺は気にしないよう告げた。


 命がかかってるんだから全力で戦ってほしいじゃん?


「敵意はなさそうだな」

「彼らのことはいないものと考えてよさそうですね」


 あれ? 困ったっていうのは俺を敵だと思って言ったの? うわ、恥ずかしい……。


 自意識過剰じゃねーか。心配してもらってると勘違いして痛いこと言っちまった。


「グレン、おなかすいたの?」


 リュキアがちょっとだけ落ち込んだ俺の背中をポンポン叩いて慰めてくれる。


 優しさが羞恥心を刺激した。やめて、ここはスルーするところだから……。


 まあ、幼女にはわかんないよな。


 切り替えて戦況を見守ろう。果たしてどうなるか。


 馬車の横に佇んでリュキアと高みの見物に回る。


「ジェロム、右端の四人はあなたがやりなさい」

「あいよっ」


 メイドの女が騎士の男に向かって指示を出した。


 ん、騎士が四人? じゃあ残りは誰が……。


「ニゴー家の馬車に手を出したことを後悔なさい」


 メイドが冷たく言い放った。


 メイドの女は小型のナイフを両手に持ち、低い前傾姿勢で盗賊たちに向かっていった。


「なんだぁ、この女!?」

「早えぞ!?」

「叩き潰せ!」


 盗賊たちは這いずるように急接近するメイドに武器を振り下ろそうとする。


 メイドは盗賊たちの目前で素早く体勢を起こし、また沈める。


 盗賊たちはその動作に怯んで腕を高く構えたまま硬直させた。


 激しい上下の変化に盗賊たちはメイドの姿を一瞬だけ見失ったのである。


 その僅かなラグが彼らの命取りになった。


 再び姿勢を低くしたメイドは流れるような動きで盗賊たちの懐に潜り込み、次々と喉元に刃を突き立てていった。


「うげっ……!」

「ぐへっ……!」

「あぱっ!」

「ひぎぃ!」

「あがっ……」


 仲間の死に反応する暇もなく刈り取られていく盗賊たちの命。これは戦いではなく作業と称するべきだな……。それくらい、メイドと盗賊たちには実力差があった。


「ぐぎゃあっ!?」


 最後の一人を顎への回し蹴りで気絶させ、彼女の戦闘は終わった。


 呆気ないもんだったな……。


「さすがだな、サラス。元腕利き冒険者の腕は錆びついてねえ」


 自身が引き受けた盗賊の首をすべて跳ね飛ばし終えた騎士がメイドに声をかけた。


 涼しい顔で剣を鞘に納める彼の足元には無残な姿になった盗賊たちが転がっていた。


 この男も強い。まるで苦戦した様子がない。


「以前より低い姿勢を取るのがきつくなりました。そのせいで刃を入れる角度が甘くなって時間が無駄にかかりました」


 眉間にシワを寄せ、メイドはいささか不満そうに答える。


 いやいや、騎士の倍近い敵を引き受けて同じ時間で片づけるメイドって何者だよ。


 レグル嬢のところにいる女騎士やデリック君では彼女のようにはいかないだろう。


 俺が感心して眺めていると。


「ふひゃひゃ! 魔法使いが隠れているとは思わなかっただろ! こうなりゃ貴族の娘だけでも貰っていくぜぇ!」


 敵はすべて片付いたと思いきや、どこからか下種な男の声が響いてくる。


 辺りを見れば、若干離れた位置からローブ姿の男が馬車に向けて火の玉を放ってくるところだった。


 まだ隠れてたやつがいたのか。


「おっと、危ない」


 俺は飛んできた火の玉を手で払い落とす。


 ……うわ、熱ッ! 当たり前だけど。咄嗟に手が出ちまったぜ。


 攫うつもりなのになんで攻撃するんだよ。バカなのか?


 素手で弾いた俺も大概かもしれんが。めっちゃ熱いよ。


「くたばれ賊め!」


「ぐぎゃ!」


 魔法を放ってきた男は騎士によって斬り捨てられた。


 ノコノコ出てこなきゃ死なずに済んだのに……。


 俺はヒリヒリする手を回復魔法で癒す。さあ、治れ。


「ご協力、感謝します。おかげでお嬢様に危害が加えられずに済みました。心よりのお礼を申し上げます」


 手の痛みを取り払っていると、メイドがいつの間にか傍に立っていた。ハッとするほど綺麗な角度で頭を下げられた。


 気配を悟られずに接近。これがプロのメイドってやつなのか……?


「ああ、どうも……。あんたらは貴族なのか?」


「はい。私とそこの騎士、ジェロムは貴族の家にお仕えしております。」


 ……なんとなくだけど、彼女たちなら俺が何もしなくても馬車の主を守れていたんじゃないかな。


 立て板に水のように答えたメイドを見て、そんなふうに思った。





「サラス、ジェロム。終わったー?」


 馬車の扉が開かれ、干し肉をむしゃむしゃと咥えた金髪碧眼少女が降りてきた。


 二人目の御令嬢の登場だ。どうしよう、レグル嬢とキャラが被るぞ。


 人間の顔と名前はただでさえ覚えにくいのに。


「エルーシャ様。こちらのエルフの方の助力もありまして比較的速やかに賊を無力化することができました」


 メイドが恭しく頭を下げ、主に俺を紹介する。


「ん? エルフの人が協力してくれたの?」


 エルーシャと呼ばれた少女がこちらにブルーの瞳を向けてくる。


 ぺたっとした猫っ毛っぽい金髪をツインテールに結んだ髪型。


 少女は丸っこく幼い顔立ちながら、貴族の令嬢らしく整った容姿をしていた。


「はい、彼が賊の放った攻撃魔法を打ち払ってくださいました」


「へえ……(もぐもぐ)」


 少女が興味深そうに俺を見つめてきた。


 だが、口に咥えた干し肉を離そうとはしなかった。


 どんだけ食い意地張ってるんだよ。


「こちら、我々のお仕えするニゴー子爵家の御令嬢、エルーシャ・ニゴー様です。そして私はニゴー家にお仕えするメイドのサラスと申します」


 メイド……サラスから少女を紹介される。なるほど二号さんか。二人目の御令嬢だから覚えやすくていいな。


「エルーシャだよ。なんか助けてもらったみたいでありがとね?」


 御令嬢二号……エルーシャ嬢はフランクな挨拶をしてきた。


 随分砕けた態度だな。同じ貴族令嬢でもレグル嬢とは印象が随分違う。


 令嬢も人それぞれってことか。こういう違いがあると差別化しやすくて助かるぜ。


「お嬢、生かしておいた賊から拠点の場所を訊きだしましたぜ」


 騎士、ジェロムだったか? が、ズルズルと何かを引きずってきた。


 ジェロムが引きずってきたのは顔面をボコボコにされた盗賊だった。最後に命を取られずに気絶させられたやつか……。


 盗賊は両手を後ろに縛り上げられ、息も絶え絶えな死にかけボロ雑巾状態。かなり激しい尋問を受けたようだな。憐れな。自業自得だから知ったこっちゃないけど。


「ほんと? じゃあ早く残りも全滅させに行こ!」


 エルーシャは手の平をぽんと合わせて嬉しそうに飛び跳ねる。


 目の前の死に体の人間がいるのに気に留めず、無邪気に喜んでいる。


 なんや、こいつ……。


「……なあ、全滅ってなんだ?」


 俺はショートカットの銀髪メイド、サラスにひっそり訊ねた。


「はい、エルーシャ様と我々はこれから盗賊の拠点を潰しに行きます」


『それがなにか?』って続きそうな感じで言われた。


 そんなあっさりしたノリで暴露することじゃねえだろ。


 この世界では違うのか? だったらごめん、


「お嬢、本当にやるんですかい? こんなのは領地を治める貴族か冒険者に任せることですよ」


 確定事項のように語ったメイドと違い、騎士のジェロムは乗り気ではなさそうだった。


 この男は比較的まともな思考をしていそうだ。


 よかった、やっぱり普通のことじゃなかったんだ。


 だが、エルーシャが言う、


「やるに決まってるじゃん! 盗賊がいなくならないとフォンダー村の名産品、フリードフォックスの串焼きがいつまでも食べられないんだよ!」


 ……串焼き?


「そう、君たちも方向的に通って来たでしょ? 美味しい串焼きで有名なフォンダー村!」


 エルーシャが力説してくるが、全然知らん。


 フォンダー村ってのは素通りしてきた村のどれかかね。


「せっかく王都からここまで来たのに、盗賊がうろうろしてるせいで猟師がなかなか狩りに出れなくて品切れだったの! まったく許せないことだよね!」


 ぷんぷん、と効果音が聞こえてきそうな怒り方。緊張感が一気にそがれるな……。


 しかし彼女は本気で怒りを表しているのだろう。


 幼げな容姿と頬を膨らませた所作のせいで児戯めいて見えるが、やろうとしていることは結構エグイ。


 聞けばエルーシャたちは盗賊をおびき寄せるため、わざと護衛の数を減らして街道をうろついていたらしい。


 まんまと引っかかって撃退された盗賊どもは運が悪いというか、因果応報というか。


 そこまでして串焼きを食べたいのか? 飽くなき食への執着心である。


 エルーシャ嬢にとって、食以外のことは二の次にされるようだ。


 一体、何が彼女を駆り立てるのだろう……。


「美味しいものを美味しく頂き、幸せそうに食べる。それがわたしのライフウェイ……」


 意味がわからなかった。


 だけど彼女のなかでは大事なことなのだろう。


 神妙な顔で語ってるし。



 俺は同調したフリをして静かに頷いておいた。俺だってこれくらいの空気は読める。





「しゃーねえな。オラ、立てよ。アジトまで連れてけ」


 ジェロムは盗賊を無理やり立たせて案内役に駆り立てる。


 エルーシャにいくら言っても聞かないと諦めたようだ。


「グレン、あのひとたち、どこいくの?」 


 おんぶされたままのリュキアが半死の盗賊になぜか興味を示した。


「ああ、盗賊の仲間をやっつけに行くんだってよ」


「アレとおなじのが、ほかにもいっぱいいるの!?」


 アレ呼ばわりとか何気に辛辣な幼女である。


「いるだろうけど……なんでそんなに食い気味なんだ?」


「グレン、わたしたちもいこう!」


「は?」


 謎のテンションアップをしたリュキアに俺は困惑せざるを得ない。


「いや、行く理由がないんだが……」


「いきたい! いきたい!」


 背中でグラインドして暴れるリュキア。おいおい、こんな聞き分けのない子だったか?


「……しょうがねえなぁ」


 俺は根負けする形でエルーシャたちに同行を申し出ることにした。


 まあ、車ってのは運転手の望む先へ運ぶものだし?



『……じゅるり』



 耳元で聞こえた、御馳走を前にした舌なめずりのような音は気のせいだよな……?





「なるほど。グレン様は里の風習で世の中を見て回る旅をしている最中だと」


「ああ、その通りだ。いろいろ厄介ごとを抱えてて、それどころじゃないんだけどな」


 俺たちはエルーシャ嬢の一行と盗賊の拠点に向かっていた。


 まあ最初は同行を拒否されてしまったのだが、そこは俺の巧みな交渉術で覆した。



『これはお嬢様の私用ですのであなた方がついてくる必要はないのですよ?』

『いや、うちのお嬢さん(リュキア)がどうしても行きたいって聞かなくて』

『しかし、戦闘中にあんたらは守れないぜ? 俺らはお嬢の護衛だからな』

『大丈夫だ、俺も結構戦えるから』



 そう言って俺はそこらにあった木をいくつか薙ぎ倒して頑強さをアピールした。


 実力のわからないやつに助力を申し出られても不安だろうしな。



『すげえな……』

『これはエルフの魔法によるものなのでしょうか……?』

『わあ、なんかすごい!』



 彼女らは三者三様の反応を見せ、最後には首を縦に振って同行を認めてくれた。


 わざわざ自然破壊した甲斐があったというものだ。


 やれやれ、一仕事しちゃったぜ。


 里の大人にバレたら怒られそうだけど。





 そんな感じで――。



「わははー!」

「ふんふんふーん、じゅるる……」


 先頭を行くのはエルーシャとリュキア。


 彼女らは木の棒を振り回しながらワイワイ仲良く並んで歩いている。


 遠足気分か。


 ちなみに木の棒は俺が倒した木からとったものだ。


 次に続くのが拘束された盗賊と騎士ジェロム。


 最後尾が俺とメイドのサラスである。


 馬車は後から来る他の騎士が拾うらしいので放置していった。


「しかし、驚きましたね。人間を疎むエルフにそのような風習があったとは」


「俺の里では人嫌いのエルフなんかいなかったんだがなぁ……」


 普通に人間と浮気してるアホもいたし。


 たびたび出てくる認識の違いはホントなんなんだろ。


 王都周辺で流行ってる考え方なのか?


「エルフでも地域によって考え方が異なるものなのですね」


 サラスはそういう方向で納得することにしたらしい。


 俺も考えるのが面倒になったのでまあそんなとこだろうなと思うことにした。


 にしても、サラスたちはやたらと落ち着いているよな。


 一応、これから盗賊の一団を相手取るはずなのに。


 そちらに関してはまったく憂慮していない様子だ。


 大した肝の据わりようだが……。


「なにか気になる点でも?」


 疑問が顔に出ていたのだろう。


 サラスが怪訝そうに訊ねてきた。


「いや、知り合いの伯爵家の騎士よりもあんたらのほうが強そうで不思議だなと」


 別に隊長やデリック君たちを貶すつもりはないが、サラスやジェロムの実力は彼らを遥かに凌いでるように見えた。


 戦いを前にした態度や風格がなんか違うもん。


 子爵って確か貴族の階級だと伯爵より下だったよな? 


 家の格からすると普通は逆だと思うんだけど。


「何も不思議なことじゃねえさ。爵位がそのまま手持ちの騎士の練度に直結するとは限らねえんだぜ? 文官の家なら騎士の育成にはそこまで力を入れないだろうしな」


 話を聞いていたのか、ジェロムがこちらを向いて言ってくる。


「そうですね。特にニゴー家は武闘派の貴族ですから。兵の規模では伯爵家に及びませんが、その質は国内有数と自負しております」


「……武闘派だとメイドも強いの?」


 俺はジト目でサラスを見やる。


「普通のメイドはそうでもありません。私はお嬢様の専属メイドですので……」


 それって、そうでもない程度には強いってこと? 


 ……武闘派貴族ってすごいんだな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ヒャッハー! まんまとカモがやってきやがったぜ!」

「撃て撃て! あいつらはたった五人だ! しかもほとんどがガキだ! 楽勝だぜ!」

「女は殺すな! 楽しみが減るからな!」



 ヒュンヒュンと弓矢が俺たちの足元の地面に突き刺さる。


 盗賊の拠点があるという岩場付近に辿り着くと、なんと武装した盗賊たちが待ち構えていた。


 数は二十人はいるだろうか? 


 まさか待ち伏せを食らうとは。どうなっている。



「拠点までの道のどこかに見張りがいたみたいだな。襲撃が失敗したときの保険として移動ルートをあらかじめ示し合わせていたんだろう」


 ジェロムが特に驚いたところもなく言った。


 ちらりと案内役の盗賊を見やると、勝ち誇ったようにニヤついていた。


 なるほど、そういうことか。少しは頭が回るみたいだな。


「ふへへッ。不意打ちができなくて残念だったなァ!? お前らがいくら強くてもこの数は無理だろ……」


 ボコボコの顔で言われても滑稽なだけだぞ。脅威は感じないが腹立つな。


 お前がすごいわけじゃねえだろ。


 ……あ、危ない。



「ぐえっ」



 案内役の盗賊は飛んできた流れ矢が胸に刺さって死んだ。


 小物らしい最期だった……。あっけねえ。


「サラス、あんたらのところのお嬢様は後ろに下げなくていいのか?」


 リュキアとともに未だ先頭にいるエルーシャ。


 女は避けて撃っているようだが、あんまり腕がよくなさそうだし危ないだろう。


 と、思っていると



「『ウォーターバリア』」



 エルーシャが唱え、水がドーム状に俺たちを覆うように発生した。

 盗賊どもの放った矢は水のドームに弾かれ、すべて無効化される。


「エルーシャ様なら心配ありませんよ」


「そのようだな……」


 まさか魔法の使い手だったとは。


「エルーシャ、すごーい!」


「ふふん、これでもわたしは王立魔道学園の生徒なのだぁよぉ?」


 無邪気な称賛を受けたエルーシャがリュキアに対してドヤっていた。


 しかし、リュキアに『おうりつ? なにそれー?』と言われへこんでいた。


 何となく思ってたけど、こいつら精神年齢同じくらいだよな……。



「エルーシャ様は神童や寵児、才媛ほどではございませんが、学園で上位の成績を修めているんですよ?」


 主人の自慢をしてくるメイド。いや、戦闘中だから。そういうのは後にしてよ。


 まあ、仕える相手を誇らしく語りたい気持ちはわかるけど。



 というか王立魔道学園……一度も行ったことないのに関係者によく会うな。





「くそっ、水魔法を使うやつがいるのか!」

「やべえ、矢のストックが切れそうだ!」

「切れるまで続けりゃなんとかなるだろ! もっと撃て!」



「弓での攻撃が収まったら我々も行きましょうか」

「馬鹿ばっかりで助かるぜ」


 サラスとジェロムは前衛としてしばらく待機をするようだ。


 エルーシャの魔法はそれだけ長持ちするということか。


 ここは俺も魔法でどうにかしたいな。


 このままでは魔法を得意とするエルフの名折れだ。


 体当たりで一人ずつ倒してもいいが、あんまり轢き過ぎるのもな……。


 トラックって、人を轢くためのものじゃないし。


「なあ、なんか簡単な攻撃の呪文を教えてくれないか?」


 魔法を展開しているエルーシャに背後から訊ねてみる。


「えぇ? グレンっちってエルフじゃないの? 魔法ならわたしより詳しいでしょ?」


「俺は肉体派のエルフだから呪文を暗記するのは苦手なんだよ」


 グレンっちってなんだろう、っていうのは考えないことにした。


「ぷふっ、肉体派ってなにそれー! おもしろーい!」


 大爆笑されたが、不思議とあまり不快には感じなかった。


 天性の人懐っこさが彼女にはあるんだろうな。羨ましい才能だ。


「なら、一緒に唱えてみる? わたしの後に続けば間違えないよね。そろそろ弓の攻撃もやみそうだし」


「そうしてもらえると助かる」


 やがて、すべての矢を放ったのか盗賊たちの攻撃はぴたりと止まった。


 エルーシャは水のドームを解除すると、俺に目で合図を送った。


「じゃあ、行くよー」


「おう」



『『tellubretaw///……○×▲%$§¶…………』』


 

 追って唱える呪文によって魔力が渦巻くのを感じる。いいぞ、いい感じだ。すごいのをお見舞いしてやるぜ! ちなみにこの呪文、エルフの里で習ったやつだった。テスト前に暗記して、終了後に即忘れたやつ。



「「『ウォーターバレット!!!!』」」



 そして次の瞬間、激しい轟音とともに盗賊団は岩場ごと壊滅した。


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