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討滅戦『神』

作者: あしゅき

 その日、アルテンドの街は喧騒に包まれていた。

 笑う者、暴力を振るう者、嘆く者、その中でも目立つのは多くの荷物を抱える者達だ。次々と馬車と乗り込み、壁の外の草原へと抜けていく。それらの表情は皆暗く、希望は感じさせられない。

何かでかい絶望が来るような住民たちの反応に、流石の彼らも異変に気づき始めていた。

 金銭的問題で絶望を背負うとあるパーティーメンバー、彼らは今閑散としたギルドへとやって来ていた。どんな場所であろうといつもは賑わっているギルドには、受付嬢一人だけが掃除に励んでいた。


「ちょいとお姉さん、戦争でもおっ始めるのか?」


「あなたたち、旅の人? ……残念だけど違うわ。今ね、この町には未曾有の危機が迫ってるのよ」


 ぽつりぽつりと女性は訳をこぼし始める。アルテンドの街は主要都市へと向かう際に通る中間都市、主要都市の人口は述べ十万はくだらないため多種多様様々な人が栄光や仕事や金銭を求めて向かう。そのため、アルテンドの街はそれこそ数万の人間で溢れていたのだ。しかしそれも数日前の話、隻腕の巨人が責めてきたことにより事態は一転。並居る強豪の冒険者を薙ぎ倒し、踏み潰し、殴り倒され、ついに残ったのは街の人間だけになり国が介入するほどの問題にまで発展したと言う。


「冒険者の街に国が介入とは穏やかじゃないな」


「それで、介入って何を?」


 感心した表情のグラヴスを尻目にノーカが問う。


「……超巨大魔導砲で消し飛ばすそうよ。この街ごと」


 その言葉を聞いて、各々は口を閉ざす。中間都市を消滅させる、それがどれだけ損を生むことになるか。まさに桁違いの話であった。


「消さなくたってあの巨人がこの近くに住み着くことになるのは確実、街もゴーストタウンになっちゃうだろうし、そう考えると間違ってないんだろうなって思うわ」


 彼らの脳裏に馬車に乗って逃げる人達の表情が過る。


「じゃあ、お姉さんは何してるんだよ?」


「見ての通り、この街と運命を共にしようとしてるのよ」


 質問をしたレオは絶句する。同時に、ものすごく後悔をした。


「今じゃこんなに寂れてるけどさ、いつもはもっと冒険者で溢れてるのよ。それこそ万以上の冒険者がここ付近でパーティーしたことだってあるくらいよ。」


「アーシーがバカしてさ、ンヴァがそれを怒って、シシマが汚く笑うのよ。ズデ、クィー、マルコス、ジーング、フィヤ、エキミ、デミール、イレト。皆腕っぷしの冒険者で、この街の誇りだったの。今じゃ皆栄誉ある戦死よ。」


「きっと、すごく怖かったと思うのよ。理不尽を感じたと思うのよ。腕っぷしだからこそ敵わないってことも分かってただろうし、こんな街の知らない人間のために死んで調査してこいって言われてるのと同じだったもの。だから、私もここを離れたくないのよ」


「笑顔で送り出したのは私なんだから、向こうでも笑顔で待ってないといけないのよ。皆冒険者バカばっかだからさ、私が向こうでも馬車馬の如く働かせてやらなきゃ」


 そう受付嬢が笑うのを見てから、レオは恐る恐る後ろを振り返る。

 柄にもなく、他のメンバーが何かに燃えているのが見える。スポ根系の波動を感じる燃えかたであった。ノーカに至っては泣いていた、こういう話に弱そうだとは思っていたが本当に弱かったのかと戦慄した。レオの額に一筋の冷や汗が流れると、グラヴスがレオの軟弱な肩を掴む。そうしてこう言うのだ。


「やるぞ」


◆◆◆


 腕っぷしの冒険者達が居なくなったとは言え、前線は維持されなくてはならない。そうでなければ巨人が勝手に超巨大魔導砲の射程外に移動してしまうかもしれないからだ。既にチャージを始めていると言うのに外してしまったら、アルテンドの街は無駄死ということになる。

 指揮官の頬に生ぬるいの汗が伝う。勝負は一発、外すことは許されない。チャージまで残り五分、前線部隊の安否も分からぬ状態で、一人の兵士がかけよってくる。


「で、伝令っ! 前線部隊へと、何者かが近づいているとの報告!」


「すぐに止めろ。巻き込まれて消滅するぞと脅しもかけておけ」


「そ、それが……」


 言い出しにくそうにする兵士に、指揮官は初めて目を向ける。信じたくない物を信じなくてはならないような、そんな表情をしていた。


「なんだ?」


「も、目標は止めようにも凄まじい速さで追い抜いていってしまったとのことです。それこそ、ドラゴン並の速さで」


「……なに?」


 作戦室にはますます緊張が走る。


◆◆◆


 前線部隊は正に地獄の状況だった。百はいた国でも有数の精鋭兵も八十の物言わぬ肉塊と成り果て、五人は五体を欠損させて呻き苦しんでいる。蔓延するむせ返るような鉄の匂いが常に思考を狂わそうとしてくる。それでも精鋭兵長は引くことはしないのだ。


「くそっ。魔導砲とやらはまだかっ……!」


 ぎゃっと声が響くと、果実が挟み潰されたような音が嫌でも耳に入ってくる。

 また一人やられた。精鋭兵長は忌々しくそれを見る。

 大きさは街を二つほどひっくり返し縦に積み重ねたほどの巨大さ、神聖さすら感じる純白な肌は気味悪くどす黒い血で彩られていた。表情はダビデの石像のように常に固まっている、そして何よりも特徴的なのはその隻腕。

 『ゼウス』、その大きさから神とまで崇められた魔物。それが今、邪神となって人間を殺戮しているなど笑えない話だった。

 人数は十五を切った。ゼウスには隻腕以外の傷は見当たらない、いやつけられなかった。もはやこれまでと思い瞳を閉じたその時、戦場には似つかわしいエンジン音が聞こえてくる。


「――?」


 ふっと目をやると、地平線の向こうから何かがこちらへと迫ってきているのが視認できた。ゼウスもそれに目をやり、互いに固まること数秒、全貌が見えてくる。


 黒光りに輝く大型バイク、運転するのはゴーグルをつけた紫陽花色の髪をした男、その両肩にはサングラスをつけ葉巻をくわえる小さな男の子二人、後ろには葉巻をくわえサングラスをつけグローブをはめた男。

 さらにその後ろには旗が掲げられており、『仇討上等』と達筆に記されていた。

 その出で立ちを一言で表すのならば、『そういう組会』である。


「ノーカちゃん。これおかしい、絶対おかしい。やめよ」


「何を言うとるんじゃレオ。わしらの目的、忘れたとは言わせへんでぇ」


「なんでそんなノリノリなんだよ! 後ろの旗通りの仇討ちだろ!? だからって俺の両肩に二人乗せなくたっていいだろもうすげぇことになってるんだよ肩甲骨がミシミシ越えてガリッとかビキッとか明らかにしちゃいけない音でやばいんだよ俺の肩甲骨どうなっちゃうの!?」


「わてはちゃーんと精霊で軽くしている……んんっ、しておる」


「いや、いやいやいや。そういうのって普通精霊の力で重力を軽くするとかじゃねぇの。なんでお前服脱ぐんだよさらしがあるとかふんどしつけてるとかそういう問題じゃねぇんだよ!」


「……///」スッ


「いやなにちょっと今更出で立ち気にしてんの!? 恥ずかしそうに腕でさらしを隠すな男がしても気持ち悪いんだよ! ってかそのスラッシュ連打やめろッッ!!」


「……たまとったるけんのぅ」


「あぁよかったお前だけが普通だ! ついでに降りてくれ! ちびのくせに重いとか矛盾孕んでるんだよ!」


「……ぃっちに、ぃっちに」


「ああああああああああああああああああああッッ。やめろッ、ノーカちゃんと協力してスクワットしないで! 悪かったから!」


「……チッ」


「くそっ、グラヴスの野郎……さっさと自分だけ逃げやがって……ぜってぇ覚えてろよ……」


「ん? グラヴスならそこにおるやないか?」


「えっ?」


 ノーカがバイクの側面を指差す。レオがつられて覗くと、グラヴスが側面に槍と一緒にガムテープで接着されている悲惨な現場を目撃する。


「ぐ、グラヴスーーー!」


「……にげようとしたから」


「これはわいら全員での玉取りや。逃亡は許されない……んんっ、許されへんのや」


「作戦はこうや。あのでっかいのにバイクつっこませて爆破させる、これや」


「いやこれやじゃねぇから! それグラヴス死んじゃうから! 俺そんなの嫌だぞ!?」


 グラヴスの顔色を覗こうとするが、グラヴスの顔はガムテープで巻き付けられていてその表情を伺うことはできない。というか息をしていない。


「……あれ、これもう息できなくてグラヴス死んでんじゃね?」


「…………」←ノーカ


「…………」←テルード


「…………」←リゲル


「…………」←レオ


「仇討ちじゃあッ!! 仇討ち合戦じゃあッ!!」


 バイクがより唸りを上げる。それは失った仲間への鎮魂歌か、あるいは奮い立たせる行進曲か。それを知るのはまさに神のみ。四人となったパーティーメンバーは邪神へと進んでいく。仲間が存在したことを、さっきまで確かに存在していたことを天にまで示すために。

 そう、仁義なき戦いは今始まる。


「俺達の戦いは、これからだ!」


 ヤオイ先生の次回作にご期待ください!

レオくん→リーダーのまとめ役兼筆頭役のようなものになりつつあることを最近悩んでいる。


グラヴスさん→その後作戦は成功。ゼウスの中から突き破り生還した。何故ゼウスの中にいたのかは覚えていない。


リゲルくん→作戦終了後、めちゃくちゃ体調を崩した。


ノーカさん→最近レオに見せてもらった映画に魅せられていたが行動するタイミングが見出だせなくて悩んでいた。仇討ちと聞いたときには既に行動は終わっていた。


テルード→二年前から身長が伸びていないのを気にしている。むしろ縮んでいた時は晩ご飯が二キロ以上喉を通らないほどの重症だった。

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