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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第11章 復活祭
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88.たぶんルクレツィアのせい

今回はフェデーレ視点。いつにもまして、彼がかわいそうです。












 今日のルクレツィアの言動はフェデーレにひどくショックを与えた。いや、フェデーレがルクレツィアのことでショックを受けるのは今更だが、今回は今までの比ではない。知らないうちに、彼女に上半身裸に向かれたことがあると知り、羞恥より先にショックを受けた。


 しかも、彼女は異性の裸を見ても無反応な可能性がある。そして、成り行きではあるが『フェデーレの方が好き』と言われたことに、彼は少し浮かれていた。



 ……だが、なぜこうなった。



 フェデーレは出された高級なお茶を飲みつつ思った。向かい側にはルクレツィアとフランチェスカの姉妹。巻き込まれた感がする。まあ、何も考えていなかった自分も悪いのだが……。

「ジェイムズ陛下ってどんな方でした?」

「どんな、って言われても困るけど、一言で言うと変人」

「……お姉様がそう言うってことは、本当に変わった人なのですね……」

「……ちょっとフランチェスカ。あなた、私のことをなんだと思ってるのよ」

 何って、ルクレツィアはフェデーレから見ても変人である。フェデーレの知る中で究極の変人はヴェロニカであるが、彼女と仲がいいルクレツィアも相当変わっている。



 何故自分は、こんな女が好きなのだろうか。



 まあ、好きなものは仕方がない。そうあきらめ、フェデーレはカップに口をつけた。

「常識内の変人なら、わたくしは付き合える気がします」

「悪い人ではないと思うわ。何かあれば、私に言ってくれればいいから」

 ルクレツィアが手を伸ばしてフランチェスカの頭をなでる。フランチェスカは目を細めて微笑んだ。

「遠いですわ」

「ええ。遠いわね。でも、呼べば必ず聞こえるから」

 ニコリと笑ってルクレツィアが言った。これは、最近の彼女の口癖である。『心から呼べば、必ずその声は届く』。

「姫様。王太子殿下がお呼びですが……」

 カルメンが呼びに来た。どうやら、調査が終わったらしい。

「わかった。今行くわ。フェデーレ、行くわよ」

「はいはい」

 当たり前のように自分を呼ぶルクレツィアに苦笑しつつ、信用されているような気がして少しうれしい。

 そのままカルメンと共に部屋を出ようとした2人だが、パッと立ち上がったフランチェスカに呼び止められた。


「お待ちください、お姉様! わたくしも行きます!」


 振り返って目を見開いたルクレツィアは、続いてフェデーレを見上げた。


「……どうすればいいと思う?」

「いや、俺に聞くなよ」


 意見を求められても困る。フランチェスカはルクレツィアの妹なのだから、彼女が判断を下すべきだろう。

 ルクレツィアは「それもそうねぇ」と小首をかしげると、フランチェスカに言った。

「わかった。じゃあ、一緒に行きましょうか」

「はい! お姉様、大好きです!」

「はいはい」

 ルクレツィアは苦笑気味に隣に並んだフランチェスカの頭をなでた。この姉妹、なんだかんだ言って仲がいいな。

 カルメンに案内されて応接間に戻ると、なんだか人が増えている。


「こんにちは、フランチェスカ殿下。ルーチェとフェデーレも」

「こんにちは、シーカ伯爵、ヴィルフレード叔父様」


 フランチェスカがにっこり笑って増員メンバーのジリオーラとその夫ヴィルフレードにあいさつした。ついでのように名を呼ばれた2人も挨拶をする。

「こんにちは。出てきて大丈夫なの?」

「ええ。この非常事態に、出てこないわけにはいかないでしょう?」

 そういうジリオーラであるが、少し顔色が悪い。男のフェデーレには一生理解できないが、つわりとはそんなにひどいものなのだろうか。


「初めまして、フランチェスカ様。先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません」


 ジェイムズがフランチェスカにあいさつしているのが見えた。優雅に微笑みフランチェスカの手を取る彼は、ルクレツィアに変人と言わしめた面影はなかった。その紳士っぷりに、フランチェスカも先ほどの衝撃を忘れて顔を赤らめていた。国王と王太子のジェイムズに対する視線が鋭い気もするが、とりあえず気にしないことにする。


 知っている人間が増えたからか、明らかにほっとした様子のリベラートが「いいですかね」とちらちらとこちらを見る。こちらというか、フェデーレの隣。つまり、ルクレツィアだ。


「……私、何かしたかしら」

「胸に手を当てて聞いてみたらどうだ?」


 わざとまぜっかえすと、大げさに驚かれた。


「ええっ。本当に何かしたかしら……」


 冗談だったのに本気にとられた。ルクレツィアはやや短気なところがあるので、たいていはフェデーレがからかうと怒ってくるのだが、少し性格が丸くなっている気がする……。

「そこ。少し静かにね」

「はい……」

 アウグストに笑顔で釘を刺されて黙る。いや、不用意なことを言って申し訳ありませんでした。

「それで、ですが。ジェイムズ陛下の背中の魔法陣なんですが、精神感応系魔法の刻印ですね」

 この短時間でそれだけ調べられるリベラートは、やはり優秀なのだろう。ヴェロニカのインパクトが強すぎて、その陰に隠れている感じもするが。


「……たぶん、ルーチェ……ルクレツィア殿下、つまり、15代目アルバ・ローザクローチェがひと月ほど前に使用した魔法の刻印だと思うのですが……」

「え? 私のせい?」


 ルクレツィアがびくっとして言った。リベラートは顎に指を当ててうなる。

「うーん……。別に害はないんですよね。こんな魔法を使用しましたよ~っていうしるしみたいなもんです」

「……」


 え、何それ。


 というか、ルクレツィアには精神感応魔法を使う能力がない。その彼女が使用した精神感応系魔法と言えば、ひと月前に起こった魔法病騒ぎを鎮静化させるために使用した魔法だ。つまり……。


「その魔法陣、俺にもあるってことか?」


 視線がフェデーレに集まった。立場上、注目を受けることには慣れているフェデーレであるが、この場ではさすがに居心地が悪い。しかも、空気を読めなかったのかわざとなのか、ルクレツィアがフェデーレの服の袖を引いた。


「フェデーレ、ちょっと」

「ちょ……!」


 ルクレツィアに手を引かれて隣の部屋に入る。背後から「ルーチェ、ちょっと待て!」という国王の声が聞こえたが、ルクレツィアはサクッと無視した。ああ、これは後でお叱りを受けるパターン……。


「落ち着けルーチェ。未婚の娘が男と部屋で2人っきりなるな」


 と、やってきたのはリベラートだった。ルクレツィアはあっけらかんとして言う。


「いや、フェデーレだし」

「それ、どういう意味だ!?」


 何故自分ならいいのだ。フェデーレにはルクレツィアに何かする度胸がないと思われているのか!? いや、事実だけど!

「まあまあ。信頼されてるってことだろ。で、ルーチェ。フェディに魔法刻印がないか確かめるんだろ」

「うん。そう」

 リベラートの言葉にうなずくと、ルクレツィアはフェデーレのシャツに手をかけた。フェデーレはあわてて後ずさる。

「何するんだお前!」

「あなたこそ、何してるのよ。私じゃあるまいし」

 若干自虐的に言うルクレツィアであるが、これはフェデーレの方が正しいだろう。見るだけならともかく、脱がせようとするな。


 だが、確認はしてもらわなければならないので、フェデーレはとりあえずシャツを脱いだ。それを好きな女に見られているとか、何この苦行。

「お、ある」

「あ、あるね」

 フェデーレの背中に回ったリベラートとルクレツィアの声がきこえた。察するに、どうやら魔法陣があったらしい。マジか。

「……もう着てもいいか?」

「うん。ありがと」

 ルクレツィアの許可が下りたところで、そそくさとシャツを身に着ける。ボタンを留めながら振り返ると、ルクレツィアが腕を組んで仁王立ちしていた。


「でもさ。魔法病が終結した後の検査では、ああいうのは発見されなかったんじゃないの?」

「ああ。治っていることは調べたが、特に魔法陣が現れている様子はなかった」

「魔法陣の形的に魔法定着用の魔法式を含んでるよね。ってことは、あの時の私の魔法だけでは、魔法が定着しなかったってこと?」

「あり得るかもしれないな。この辺りは、ヴェロニカの専門分野なんだが……」


 それだけ専門が広いんだ、ヴェロニカ。ルクレツィアもリベラートも考え込んでいるようなのでツッコむのはあきらめた。


「……とりあえず、害はないのよね。それに、フェデーレにも同じものが現れているなら、彼を調べればいいわ。ジェイムズ王はフランの婚約者だし、彼女を経由すれば連絡を取り合ってもさほど不自然ではないでしょう」


 連絡を取り合う、と言っても、ルクレツィアの名前ではなく、ヴィルフレードの名前で行った方がいいだろうな……と思いつつ、一番の問題点を指摘する。


「俺、調べられるのか? 生きたまま解剖とかされたくないんだが……」


 ラ・ルーナ城の魔術師たちは、まさにそう言うことを行いそうな雰囲気なのである。さらっとひどい発言であるが、普段からそう言う態度なのだから仕方がないともいえる。

「大丈夫よ。ヴェラに頼むから」

「むしろ不安しかないんだが」

 『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーアきっての変人魔術師ともいえるヴェロニカに調べられるのは遠慮したい。顔をしかめたフェデーレに、「いや、俺がやるから安心しろ」と数少ない常識人リベラートが言った。少し安心する。


「だいたい、誰にも解明できなかったからと言って、この国まで国王がやってくるのが間違ってるのよね」


 ルクレツィアが指摘した。確かに。普通、国王が国許を離れることはめったにないだろう。それがひょっこりやってくるとは。それだけ、エルシアの国家体制がしっかりしているとも考えられるが。


「じゃあ、調査結果だけ知らせて、そのまま丁重にお帰りいただきましょう」


 ぐっと拳を握り、ルクレツィアはそう宣言した。ちょうどその場に、外交担当のジリオーラがいたこともあり、その場は丸く収まったかに見えた。


 しかし、エルシア王ジェイムズ来訪事件は、この後思わぬ方向に転がることとなる。















ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


全体的に、ルクレツィアのせいな回でした。

魔法陣は、魔法痕がしっかり目に見える形で現れたということでひとつ。

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