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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第11章 復活祭
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86.エルシアのジェイムズ王

最終章なので、だいぶふざけております。あらかじめご了承ください。












 ルクレツィアもフェデーレも無反応だった。ルクレツィアはとりあえず笑みを浮かべる。仮面の下の眼は全く笑っていなかった。


「とりあえず、ここではなんですから中に入りましょう」


 ルクレツィアはジェイムズ王をいざない、門の中に入る。前庭を少し歩き、ルクレツィアは仮面を取ってジェイムズ王を見上げた。


「よくお分かりですね。わたくしが第2王女であると」

「最近では結構有名だよ。デアンジェリスの地味姫が、実は彼の国最強の魔女である、とね」


 両手を広げて芝居気たっぷりに彼は言った。ルクレツィアもフェデーレも半眼になる。何、この気障ったらしい男。


「だが、肖像画も人のうわさも信用できんな。あなたのどこが地味姫だというのか。輝く銀髪に知的な瞳。理知的な美女じゃないか」

「……どーも」


 ルクレツィアはどうでも良さ気に返事をした。生返事を返されたジェイムズ王は肩をすくめる。


「冷たいなぁ。一応は求婚者なのに」


 その瞬間、フェデーレが仮にも他国の王である男を睨み付けた。ルクレツィアも内心むっとしたが、フェデーレの方が先に反応したので、とりあえず彼のわき腹を軽くつついた。表情を取り繕え。


「今はわたくしの妹の婚約者でしょう。先触れも出さずに何の用ですか」


 鋭い口調で問うが、10歳年上のエルシア国王はどこ吹く風だ。


「君に会いに来た、と言っただろう、ルクレツィア王女。先触れを出して訪ねれば、君は会ってくれないだろうからな」


 ジェイムズはそう言って肩をすくめた。確かに、彼の言うとおりだ。初めにルクレツィアに求婚し、その後、妹であるフランチェスカの婚約者となった男だ。そんな相手に、通常の方法で訪ねてきて、ルクレツィアが会うとは思えない。


「……まんまとおびき出されたということですか」

「君たちを攻撃する意思はないから安心してくれ」

「当然です。いくらあなたが戦の名手であり、他国の国王という身分であったとしても、わたくしと彼を相手取り、無傷で帰れるとは思わないでください」


 ジェイムズはさすがに何人かの従者と護衛を連れてきている。そうであっても、ルクレツィアは彼に一太刀あびせる自信があった。

 それはともかく、ルクレツィアはジェイムズを応接室に案内する。一応、フェデーレも一緒だ。何かあった時、ルクレツィア一人では不安がある。

王都フィオーレを見て回ってきたが、いいところだな」

「それはありがとうございます」

 やはりどうでもよさ気にルクレツィアは言った。取りつく島もないその態度に、ジェイムズ王は苦笑する。


「王女様、俺に冷たくない?」

「最低限の礼儀を護らない人に払う敬意はありませんから」


 スパッと言ってのけると、ジェイムズは少し考える仕草をした。そして、ソファに座るように勧めるルクレツィアを振り返り、その手を取ろうとして――ルクレツィアがそれを振り払ったので失敗した。


「礼儀を護ろうとしただけなのに」

「わたくしが男性恐怖症だということをお忘れですか」


 ルクレツィアのジェイムズ王への求婚の断り文句は『男性恐怖症なので』だったはずだ。母が勝手に返事をしたのでよく覚えていないが、ニュアンスにさほど違いはないと思う。だから、ジェイムズはルクレツィアが男性恐怖症であることを知っているはずだ。

 そもそも、ルクレツィアが言う礼儀とは、訪問の前に先触れを出すことである。


「……それ、本当だったのか」


 てっきり、縁談を断るための嘘かと、とジェイムズは驚いたように言った。ルクレツィアはソファに腰かけながら眉をひそめる。


「どうしてですか?」

「いや、後ろの彼と一緒にいたからな」

「……まあ、少し大袈裟にお返事したことは認めます。役目の性質上、わたくしはこの国から出ることができませんから」

「あー、それで断られたのか、俺」

「申し訳ありません」


 ジェイムズが納得した様子を見せたところに、メイドがお茶を運んでくる。ルクレツィアは手招きしてフェデーレにも座るように促した。メイドは、ちゃんと三人分お茶を持ってきてくれた。

「ありがとう。さがっていいわよ」

「はい」

 メイドは頭を下げ、ちらっとルクレツィアの顔を見てから部屋を出た。何だ、と思ったが、彼女の銀髪が珍しかったのだろうと結論づけた。


 ルクレツィアは温かいお茶を一口飲んで一度息をつく。自分が落ち着いたのを確認し、ジェイムズに尋ねた。


「それで、何のご用でしょうか、ジェイムズ様」

「ああ。君に用があったのは本当だ。見てもらいたいものがあって」

 その言葉に、ルクレツィアは首をかしげた。

「もしかして、わたくしを名指しして求婚したのは、そのためですか?」

 だが、彼は首を左右に振った。

「いや。単純に、俺が魔術に興味が合っただけだな。魔術と言えば、フェルステル帝国だが、あの国の皇女はわがままで気が強いからな」

 遠回しにおとなしくて気が弱い、と言われたルクレツィアであるが、対外的な噂ではそう言うことになっていることを思い出した。


「あと、デアンジェリスの地味姫と言われている王女なら、簡単に手に入るのでは、と思ったのもある」

「殴っていいですか」


 ぶっちゃけられた言葉に、さすがのルクレツィアも眉をひそめた。それは自分が少々地味なのを自覚しているルクレツィアでも傷つくぞ。

 若干の怒りをにじませたルクレツィアの言葉に、ジェイムズは笑みを浮かべる。


「まあ、今回復活祭に乗じてデアンジェリスの宮殿に乗り込ませてもらったのは、君に見てもらいたものがあるからだよ、王女様」

「……わたくしに見せたいものですか」


 強引に話をそらされたことに少しむっとしつつも、突き詰めても自分の気分が悪くなりそうなので、ルクレツィアはジェイムズの話の先を促した。彼はこくりとうなずく。


「ああ。我が国の魔術師には誰も解明できなくてね」


 そう言うが早いか、ジェイムズはシャツのボタンに手をかけた。


「!」


 フェデーレがさっとルクレツィアの目元を手で覆った。「ちょっと!」と抗議の声を上げるが、フェデーレは彼女の視線を遮り続ける。


「いきなり何してるんですか!」

「いや、服を脱がないと見せられないんだけど。えっと、君、フェデーレ、だっけ?」

「フェデーレ・デル・メリディアーニです! これでもこいつは女なんですよ!」

「別に気にしなくてもいいのに。私、あんたの服を引っぺがしたことあるわよ」

「何故!?」


 フェデーレの手を引っぺがし、会話の間に割り込む。興奮状態のフェデーレにツッコミを入れられ、確かに、今の言葉では誤解を招くなと思ったので付け加える。


「シャツだけよ。脱がせたわけじゃないし」

「一緒だろ……」


 記憶にないらしいフェデーレは力なくツッコミを入れた。まあ、彼が気を失っていた時にやったので、彼が覚えていないのは当然である。ルクレツィアは彼の肩をぽんぽんとたたいた。


「それ以外は何もしてないわよ」


 だが、フェデーレは自分の目元を覆って深くため息をついた。そんなにショックだったのだろうか。


「2人は恋人? だから俺、振られたの?」


 ルクレツィアとフェデーレの一連のやり取りを見ていたジェイムズが尋ねた。ルクレツィアは即答する。


「違います」

「……何か隣の彼、かわいそうな表情になってるけど」


 そう言われて隣を見ると、確かにフェデーレはかわいそうな表情をしていた。だから何故そんなにショックを受ける。

 ルクレツィアはゆっくりとジェイムズに視線を戻した。


「それで、何を見ればいいんですか」


 ルクレツィアが見てわかるとは思えなかったが、とりあえず確認してから『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』の魔術師を呼べばいいだろう。

 ジェイムズはシャツから左腕を抜いて、後ろを向いた。肩甲骨のあたりに黒い模様が浮かんでいた。


「……それ、タトゥーではないんですか?」

「結局君もうちの魔術師たちと同じことを言うな!」


 今度はジェイムズにつっこまれた。今日はよくツッコまれる日だなぁ、と思いつつ、ルクレツィアは「冗談です」と言った。立ち上がり、少し近寄って観察する。


「魔法陣のようですが、生まれつきではないんですか?」


 時折、生まれながらに痣のように魔法陣を体に刻んで生まれてくる人間がいるらしい。ルクレツィアは見たことがないが、先代アルバ・ローザクローチェが話してくれた。


「いや、生まれつきではないな。数週間前に突然現れた」

「そうなのですか……ん?」


 ルクレツィアは自分の魔法の領域内に人が入ってきたことを感じ取った。彼女は立ち上がると、やはり立ち上がっていたフェデーレの腕をつかみ、後ろに隠れるようなしぐさをした。ちょうど、扉が開く。


 入ってきたのはルクレツィアが感知した通り、国王クレシェンツィオとアウグスト。それに、感知できなかったがエミリアーナとフランチェスカもいる。ジェレミアはどうしたのだろう。


「あら、まあ」


 エミリアーナはフランチェスカを連れてそそくさと退場。かわいそうに、半裸の婚約者を見てフランチェスカは真っ赤であった。クレシェンツィオはつかつかと歩み寄り、シャツに腕だけ通したジェイムズの手を渾身の力で握った。


「初めましてですな! デアンジェリス国王クレシェンツィオです」

「お見苦しいところをお見せいたしました。エルシア国王ジェイムズと申します」


 すげぇ。ジェイムズは敵意のこもったクレシェンツィオの挨拶を華麗にスルーした。


「ルーチェ、大丈夫? 何もされてない?」

「あ、大丈夫です」


 アウグストはいまだフェデーレにくっついているルクレツィアに声をかけた。何かされていれば、今頃この部屋は無残な姿になっているだろう。そうなっていないということは、何もなかったのだ。


「大丈夫ですよ。フェデーレも一緒ですし」


 ルクレツィアがそう言うと、アウグストはフェデーレを見た。フェデーレがびくっと体をこわばらせる。本当にアウグストが苦手なんだな……。


「……まあ、彼を連れてきたのは判断的に正解だったかもしれないね」


 それで、とアウグストは怒れるデアンジェリス国王とにこやかなエルシア国王の方を見て言った。


「どういう状況?」


 それはむしろルクレツィアが聞きたい。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


パソコンがとても重いです。そろそろメンテナンスをするべきなのでしょうか。


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