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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第10章 アルバ・ローザクローチェの真実
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80.いざ戦場へ

第10章最終話にしようと思ったのですが、思ったより長くなってしまったので、半分にします。
















 フェデーレたちとそんな会話をしてから3日後。ルクレツィアは宣言通り王都を出て、ラノキアへの街道をひた走っていた。乗っているのは馬に見えるが、馬とユニコーンを掛け合わせた『キーラ』という生き物だ。ユニコーンの特徴である角は短く、馬よりも強く、足が速い。そして、ユニコーンよりよほど扱いやすい。


 まあ、ユニコーンはかなり昔に絶滅しており、この『キーラ』がユニコーンに最も近い生き物となっているのだが。ちなみに、この『キーラ』という命名だが、おそらく、誰かがアウローラの本名である『キアラ』からとったのだと思う。

 『キーラ』は馬よりも足が早い。そのため、通常は5日かかるラノキアへの道のりを、およそ半分の3日で踏破できる。しかし、ユニコーンよりましとはいえ、『キーラ』も馬よりよほど気性が荒い。乗りこなせる人間は少ない。そのため、今回は『キーラ』に乗れる人物ばかりで使者部隊が構成されている。


 まず、ルクレツィア。ユニコーンが女性になつくように、『キーラ』も女性にはやや優しいので、彼女は問題なく乗りこなしている。


 続いて国王クレシェンツィオ。彼は自信の力のみによって『キーラ』を乗りこなしている。


 さらにシーカ伯爵ジリオーラ。彼女は足が悪いので、もしかしたら乗れないかもしれない、とひそかに思ったが、ルクレツィアよりもよほどうまく乗りこなしている。


 それから従軍魔術師としてヴェロニカ。彼女は『キーラ』どころか馬にも乗れないので、エラルドと相乗りしている。相乗りするのに『キーラ』は最適だ。力が強いので、1人でも2人でも、そんなに速さが変わらないのである。かなりの速度で踏破してきたので、ヴェロニカは真っ青な顔をしていた。


 そして、意地でもついてくると言ったフェデーレは、ホントについてきた。彼も『キーラ』には乗れるので、ついてくる分には問題ない。護衛としても有能だ。だが、彼は病み上がりであり、体力が戻っていないはずだ。そのため、ルクレツィアはジリオーラとは別の意味で心配していたのだが、今のところ問題なくついてきている。


 この6人のほかに、5人の護衛がつき、計11名十騎の『キーラ』が街道を爆走中である。


 休憩は最小限にして走ってきたので、もうすぐラノキアだ。ジリオーラにとっては因縁落ちとでもいうべきか。どこまでも平原が続くラノキアを前にして、ルクレツィアは斜め後ろをついてくるエラルドの『キーラ』に乗ったヴェロニカに尋ねた。


「ヴェラ、大丈夫?」

「……これが大丈夫に見えるか……?」


 覇気のないヴェロニカの声を聞いて、ルクレツィアは笑った。

「ま、もうすぐつくから、頑張って」

「それにしても、お前は元気だな。倒れたと聞いたが」

 ルクレツィアと並走しているクレシェンツィオが言った。かなりの速度で爆走しているので、下手をすれば舌をかむが、ここにはそこまで間抜けな人間はいない。

「私はただの魔力欠乏症ですので」

 魔力欠乏症は、魔力が回復すれば自然に治る。ルクレツィアが魔力欠乏症でぶっ倒れた時から既に6日が過ぎているので、彼女は元気だ。まだ万全とはいかないのは事実であるが、少なくともフェデーレや今のヴェロニカよりははるかに元気であろう。


「陛下、姫様。もうすぐですよ」


 親子の微笑ましい(?)会話に苦笑しながら、ジリオーラが言った。


 これまでも平原を走っていたが、そこは緩やかな丘だった。少し上り坂になったその丘の、頂上付近でルクレツィアとクレシェンツィオは手綱を引いて『キーラ』を止めた。それに従い、ジリオーラたちも『キーラ』を止める。


 遠目に、軍隊が展開しているのが見えた。手前にいるのがデアンジェリス軍、奥に見えるのがタネル帝国軍だろう。一色触発の雰囲気だ。それを見て取ったルクレツィアは、クレシェンツィオを振り返った。

「では陛下。お疲れのところ申し訳ありませんが、手筈通りに」

「ああ。無理をするなよ」

「御意に」

 ルクレツィアが笑顔で答えるのを心配そうな表情で見たあと、クレシェンツィオは指示をだし、ルクレツィアと、そしてフェデーレだけを残してデアンジェリス軍に合流しに行った。小さくなっていくその八騎の『キーラ』を見送り、ルクレツィアは『ヴェロニカが大丈夫だろうか』と思った。まあ、たぶん、大丈夫だろう。


「フェデーレ、あなたも向こうに行ってもいいわよ。私一人で事足りるわ」


 ルクレツィアの役目は戦うことではないため、護衛は得に居なくても問題ない。彼女自身がかなり強力な魔女であるため、襲われたとしても逃げ切るのは簡単だろう。


「……いや。一緒にいると言ったからな」

「……そう」


 体調のことは聞かないことにした。それは、王都を発つ前に聞かなければならないこと。そして、彼は自分の意志でついてきたのだから、ルクレツィアに止めることはできないのだ。


「じゃあ、とことん付き合ってもらうわよ」


 目を細めて、ルクレツィアはそう言った。正直、魔法破壊が使える彼がともにいてくれるのは心強い。接近戦にあまり自信がないためだ。


 現在、デアンジェリス最強と言われる魔力を持つ、中・遠距離攻撃を得意とするルクレツィアと、剣術の達人であるフェデーレ。もしかしたら、この二人は最強コンビなのかもしれなかった。

















 遠くでついに戦争の幕が上がったのを見て、ルクレツィアは「お、始まった」とのんきに言った。だが、すぐに顔をしかめる。

「……一時のこととはいえ、気分はよくないわね」

「お前なら、戦争が始まる前に片をつけられたんじゃないか?」

 ルクレツィアの肩越しに戦場を見ながら、フェデーレが言った。彼女は少し顔をしかめた。

「何それ嫌味? さすがに買いかぶりすぎだわ。私にそんな超能力はありません」

「国内一と言われる魔女が、何を言ってるんだよ」

 苦笑してフェデーレがツッコミを入れた。実際の所、国一の魔女の名は、ルクレツィアかヴェロニカか微妙なところである。しかし、黙っておこうか。


 もう一度戦場の方に目を向けたフェデーレが、ふと真剣な表情になる。


「……かなり距離があるが。大丈夫なのか?」

「当然」

 ルクレツィアは不遜な調子でそう答え、腰のホルスターから矢を取り出し、弓につがえた。弓を使うのも久しぶりである。どうしても、持ち歩くには小さい銃の方が便利なのだ。


 ぐっと弦を引く。狙いを定め、やや斜め上に矢を放った。


 その矢は弧を描き、そして――――。


「よっし!」


 矢は、1人明らかに女性とわかる軍人の剣をたたき落とした。我ながら言いコントロールである。さらに矢をつがえ、放つ。今度は彼女の足元に矢が突き刺さる。


「お見事」


 感心したようにフェデーレが声を上げると同時に、ルクレツィアの攻撃を受けた女性がこちらに気付くのがわかった。ルクレツィアは近くに待機させていた『キーラ』の手綱を取る。

「予定通り! 行くわよ!」

「御意!」

 2人とも馬に飛び乗る。接近戦に不安があることで有名なルクレツィアであるが、それなりの運動神経は持ち合わせていた。そもそも、足場なしで馬に乗るのは、コツさえつかめば簡単だ。

 そのまま2人は『キーラ』を爆走させる。背後から銃弾が襲い掛かってくるが、当たる距離ではないのでひたすら『キーラ』を走らせる。


「ルクレツィア!」

「予定通りです」


 そこには、国王クレシェンツィオをはじめとする一同が待ち構えていた。さらに後方には軍の姿。つまり、ルクレツィアとフェデーレは大回りして自軍に合流したことになる。


 さすがに、追ってきたタネル帝国軍たちも、デアンジェリス軍がいるこの付近には近づきたくないらしく、少し離れたところで様子をうかがっているようだ。しかし、おびき出すことはできた。

 ルクレツィアはするりと『キーラ』から降りると、ヴェロニカから杖を受け取り、代わりに弓矢を預けた。

「ありがとう」

「ん。ついて行かなくて大丈夫か?」

「平気平気」

 ヴェロニカがやや心配そうに問うが、ルクレツィアは笑って答えた。矢面に立つのはクレシェンツィオ、ルクレツィア、そしてジリオーラだ。ジリオーラの交渉能力にすべてがかかっている。

「ジル姐さん、足は大丈夫?」

「ええ。これくらいの距離なら、問題ないわ」

 ジリオーラにも確認を取る。使者3人の中で、戦力として純粋に期待できるのはルクレツィアだけという少々過酷な状況である。しかし、準戦力としてはジリオーラも、クレシェンツィオも数えられるだろう。2人とも、優れた魔法剣士である。

「お父様も、よろしいですね?」

「ああ。さっさと終わらせて帰ろう」

「そうですね」

 ルクレツィアは父に微笑み、代表して先に歩き出した。背後には軍隊があるので、最初に歩く人間が一番危険だ。敵軍に向かって歩いて行くのだから。


 それほどいかないところに、彼らは待機していた。中央には甲冑を着た焦げ茶色の髪をした女性が立っている。年はヴィルフレードと同じくらい……つまり、30代後半ほど。小柄だが、剣を持って立つ姿は威風堂々であった。



 おそらく、彼女が女王エジェ



 立ち止ったルクレツィアは口元に笑みを浮かべて、軽く頭を下げた。

「初めまして。わたくしは15代目アルバ・ローザクローチェ。デアンジェリス王国の魔術師の総責任者です」

「……ほう? 貴国の魔術師の総責任者は男性だと思っていたが?」

「先代は亡くなられましたので、わたくしが代わりに」


 女王エジェは口元をゆがめて笑った。


「ほう。女性の責任者か」


 それから女王エジェはルクレツィアとクレシェンツィオを見比べた。

「親子か?」

 クレシェンツィオもシルバーブロンドである。やや父親似のルクレツィアは、見比べると確かに父と似ているかもしれない。

「デアンジェリス国王クレシェンツィオだ。こちらは娘のルクレツィア」

「どうも」

 ルクレツィアは再度頭を下げる。女王エジェは目を見開き、それから面白そうに笑みを浮かべた。


「なるほどねぇ。道理で、私の願いが聞き入れられないわけだ。王女3人のうち2人は婚約していると知っていたが、もう1人は大丈夫だと思ったのだが、そう言うことか」

「ご納得いただけたのなら、兵を引いていただけますか?」


 静かな声で不遜にもそう尋ねたのはジリオーラである。女王エジェは初めて彼女に気が付いたように、まじまじとジリオーラのことを見つめた。

「……あんた」

「ええ。お久しぶりです。九年ぶりでしょうか、女王エジェ。シーカ伯爵を賜っております、ジリオーラと申します」

 彼女は優雅にお辞儀をした。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


必ず次で第10章は終わります!


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