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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第10章 アルバ・ローザクローチェの真実
78/91

77.500年後の真実

予定より1日遅れてしまいましたが、投降します。

というか、あそこまで書いておいて、どうして昨日の私は投稿しなかったのだろうか……。











『ルクレツィア!』



 初めてアウローラに名を呼ばれた。ルクレツィアは微笑む。


「私がやっても、病が終息するとは限らない。なら、広めた人物に何とかしてもらった方がはやいわ」

『……なんで私、体がないのかしら。あなたのこと、ひっぱたきたいわ』


 アウローラが重いため息をついてからそう言った。そうは言うものの、ルクレツィアはアウローラと同じなのだ。アウローラも、ルクレツィアと同じように病にかかった人を救うために命を投げ出した。だから、彼女にどうこう言われる筋合いはないと思うのだ。


『でもね、ルクレツィア。あなたが私の依り代になったとしても、本当に病が収まるかはわからないのよ?』

「いいえ。収まるわ」

『……どうして?』


 首をかしげるアウローラに、ルクレツィアは微笑んだ。


「あなたがいるもの」


 ファウストはアウローラに激甘だ。砂糖を吐き出しそうなほどの甘さだ。だから、彼女が病を止めて、と言ったのなら、ファウストは聞き入れる可能性が高い。

 たとえ聞き入れられなくても、アウローラが身をとして病を収めてくれる。ファウストはそうさせたくないから、結局アウローラの言を聞き入れざるを得ないはずだ。



『……本当に嫌だわ。あなた、どこまで私と似ているの』



 アウローラが憤慨したような、呆れているようなどっちつかずの声を出した。ここまで似ていると転生体かも、と疑ってしまうが、アウローラの魂はここにいるので、その可能性はないだろう。

「依り代もそう言っている。アウローラ……!」

 いつでも無表情だったファウストが、興奮していた。アウローラが戻ってくると、喜んでいるのだろう。アウローラはルクレツィアとファウストを交互に見て顔をしかめた。

『まったく。ままならないことばかりね……』

 そう言って、アウローラはルクレツィアの肩に手を置いた。いや、置いた振りで、手はすり抜けたけれども。


『少しでいい。体を貸して』


 そして……アウローラはルクレツィアの体に入り込んだ。ファウストが眼を輝かせる。その様子を、ルクレツィアは自分の目から見ていた。しかし、その体の主導権はすでにアウローラが握っている。


 体に入り込んだからと言って、すぐにその魂と体がなじむわけではない。ルクレツィアとアウローラの場合は、ルクレツィアがすんなりと主導権をアウローラに譲ったために拒絶反応は起きなかったが、通常は拒絶反応が起きるはずだ。

 そのために、必要なのはここでも人工魔法石。人工魔法石の中には、魔法を定着させる習性があるものがある。その習性を利用して、魂と体をつなぎとめるのである。

「君のために作った」

 ファウストがルクレツィア……いや、アウローラに金のネックレスを差し出した。はまっている淡い緑の石は、人工魔法石なのだろう。アウローラはそれを睥睨し、ファウストの手をはじいた。ファウストは驚きの表情を浮かべる。


「アウローラ?」

「勘違いしないことね。私は、この子の体を借りただけ……すぐに出ていくわ。次はあなたも一緒よ」


 ルクレツィアの口で、アウローラはそう言った。アウローラは久しぶりに握った自分の杖の感触を確かめるように何度か振り回した。そう言えば、彼女は魔法剣士でもあるのだった。

 彼女は杖をファウストに向かって振りかぶった。それをやはり『視て』いたルクレツィアは驚く。ルクレツィアも杖を棒術の要領で振り回すことがあるが、本気で杖による肉弾戦を行う魔術師を初めて見た。


「あなたは単純な魔法使いよね」


 アウローラは確認するようにそう言い、さらに杖を振りかぶる。杖が不可視の障壁にぶつかり、障壁は砕けて光の粒となる。

「アウローラ……何故だ。私は、こんなに」

「私は、そんなことを望んでいない!」

 強い口調でアウローラは言った。そう。ファウストの行動は、アウローラの意思を無視した彼自身のエゴだ。アウローラは甦ることを望んでおらず、ただ、自分が守った世界が、平和であればいいと思っている。アウローラといわば同化しているルクレツィアには、それが痛いほど理解できた。


 アウローラは、自分が交わした契約の犠牲者となる人間が生まれないことを望んだのだ。


 アルバ・ローザクローチェの真実を知るものは少ない。しかし、アルバ・ローザクローチェと知られれば、様々なものに狙われる。そう、14代目のように。アルバ・ローザクローチェであるから。それだけの理由で、殺されることもある。

 魔術師たちを束ね、管理する組織体形を作り上げながら、アウローラは魔術師たちが自分の定めた道にとらわれることを良しとしなかった。


「あなたにも、わかっているはずだわ」


 杖を右手に持ち、アウローラはまっすぐにファウストを見た。マルツィオの顔をした彼は、頬に痣を作っている。アウローラに杖で殴られた痕である。

 アウローラは単純な魔術師であり、かつての仲間であるファウストにも容赦はなかった。いざという時に男性より女性の方が非情になれるという話は本当らしい。


「……あなたは、私を理由にして、復讐をしたいだけ。最後に魔術師たちをきり捨てた王家に、復讐したいだけ。ただそれだけ」


 アウローラはそう言いきった。詳しいことは考えないでおこうと思うが、おそらく、魔術師をきり捨てたという王は、初代国王ではないのだろう。ファウストが再び驚きの表情になる。

「見ていたのか……!?」

「死してなお、私はこの世界を見守っているわ。あなたのことも」

 アウローラはそう言って、少し穏やかな表情になる。ファウストのことも見ていたのなら、もう少し早く出てきてほしかったところだ。

 アウローラは、ファウストは復讐をしたいだけだと言い切ったが、ルクレツィアはそれだけではないと思うのだ。彼は、確かにアウローラを愛していた。彼女のことが好きだった、と思う。


 ファウストは、フェデーレと同じことを考えたはずだ。



 失うくらいなら、世界なんて滅びればいい。彼女がやるくらいなら、別の人間がやればいい。



 そう思うくらいには、ファウストにとってアウローラは大切な人間だったのだと思う。ただ復讐をしたいだけなら、ここまでアウローラにこだわる必要はないはずだ。


「だから、行きましょう。私と。この世界がどうなるか、私と共に見定めましょう」


 その誘いに、ファウストの心は揺れたようだ。アウローラと『一緒に』というところが味噌なのだろう。


「……だが……! 私は、お前を……」

「死んだ者は、生き返らない。生き返らせてはならない。たとえ、誰かの体を借りてよみがえったとしても、その人の体はすでに死んでいるのだから、魂は長くとどまることはできないわ」


 理路整然と、アウローラは言ってのけた。お見事である。彼女の言うことは事実で、たとえルクレツィアの体をアウローラが完全支配したとしても、アウローラは長くこの世にとどまることはできない。そう言うことになっているのだ。


「私は、この世界を護りたいと思って、そして死んだの。私の最後の願いを踏みにじるの、あなたは」


 揺れるファウストに、アウローラは追い打ちをかけるように言った。彼女は杖の先を彼の方に向けた。


「あなたが復讐したい気持ちは、わからないではないわ。でも、その答えを出すのは私たちではないの。『今』を生きる、ルクレツィアたちがすることなの。私たちに口をはさむ隙は……ないわ」


 そう。いくらファウストが魔術師を切り捨てた王家を憎んでいても、最終的にどうするかを決めるのは、すでに生きた遺物と言っていい存在のファウストではなく、今を生きる魔術師たちだ。

 過ぎたものは、もう取り返せない。死んだ者が生き返らないのと同じように、過去に起きたことは、もうどうすることもできないのだ。

 だから、ファウストの復讐が成功したとしても、意味がない。彼の復讐心が満たされるだけだ。そして、その後に何が残る? おそらく、むなしさだけだ。


「……私は……」


 顔をゆがめるファウストに、アウローラはルクレツィアの顔で、「大丈夫よ」と微笑んだ。


「ルクレツィアたちが失敗したとき、おのずとあなたの復讐は果たされる。だって、再び魔術師が切り捨てられるようなことがあったら、この国はおそらく、他国に併呑されてしまうもの」


 アウローラが作った魔術師の組織、『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』があるからこそ、デアンジェリスは成り立っているということだ。この騎士団が解体されれば、この国は混乱に飲みこまれてしまうだろう。

 だから、確かに彼女の言うとおり、ルクレツィアたちが切り捨てられるような事態になれば、ファウストの復讐は遂げられる。デアンジェリスは、勝手に崩壊していくのだ。


「あなたがやるべきことなんて、何もないの。誰にも責任はない。だから、今度は、私と一緒に行きましょう」


 アウローラが手を差し出す。その手を凝視したファウストが、そっと手を伸ばしてきた。アウローラの……というか、ルクレツィアの手を、ファウストが取った瞬間、アウローラがファウストを連れてルクレツィアの体から離脱した。急に体の支配権を返されたルクレツィアは、地面に膝をついた。

 一方、ファウストが抜け出たマルツィオは気を失うこととなり、地面に頭をぶつけている。血は出ていないので大丈夫だとは思うが。


 ルクレツィアは膝をついたまま2人を見上げた。


 銀髪の、ルクレツィアによく似た女性。幽霊なので、髪の色は判別しにくいが、おそらく茶髪だったのだろうと思われる青年。少し目つきが悪く、まっすぐの視線は人をたじろがせる力があった。


『ありがとう、ルクレツィア。おかげで説得ができたわ』


 銀髪の女性はそう言って微笑むと、青年と手をつないで金色の階段を上って行く……ように、ルクレツィアには見えた。それを見送りながら、ルクレツィアは力の抜けた体を引きずり、マルツィオの息を確認する。

「……生きてる」

 生きているのなら、放置するわけにはいかない。ルクレツィアは杖を取り、下の部分を地面に打ち付けた。甲高い音が鳴り、地面に魔法陣が展開する。その魔法陣から照明弾が打ちあがった。これで、誰かが迎えに来てくれるだろう。

「……よしっ」

 ルクレツィアは気合を入れて立ち上がった。彼女には、まだやることが残っていた。だって、アウローラもファウストも、病を終息させてから逝かなかった。


 だから、ルクレツィアがやらなければならないのだ。


 自分の頬を叩いたルクレツィアは、力の入らない体にムチ打って、当初の目的地に向けて走り出した。














ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


とりあえず、ファウスト・アウローラ事件は解決。

後は疫病と戦争です。

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