62.これは信頼なのか迷うところ
まさかの2日連続投稿。さすがに3日連続は無理なので、明日は投稿しないと思います。
そして、ブックマーク登録件数、150件に迫るどころか、150件となりました……。みなさん、本当にありがとうございます!
これからもぼちぼち続けていくので、見捨てないでください(土下座)
生誕祭当日。ルクレツィアは完璧に『15代目アルバ・ローザクローチェ』としての装いだった。いつもよりやや派手な光沢のある濃い紫のドレスに、黒のマント。手には杖。顔につける仮面を今は外しており、化粧をした顔を曝している。万が一仮面が外れても、できるだけごまかせるようにするためだ。アイスグリーンの瞳は濃いめの緑に見せ、眼尻に泣きぼくろを描いた。
一方のグランデ・マエストロであるヴィルフレードだ。こちらも、仮面を身に着けることになるので手に仮面を持っている。特権として、腰には剣。アルバ・ローザクローチェと対になる彼は、黒の正装で決めている。立ち姿は完璧だ。
「……さすがに似合っていますね、マエストロ」
「ありがとう、ルーチェ。君もとてもきれいだよ。仮面をするのがもったいないくらいだね。ねえ、フェディ」
「……」
話しをふられたフェデーレは、沈黙を貫いた。『夜明けの騎士団』とのつなぎ役で知られるメリディアーニ公爵家の嫡男である彼は、今回の生誕祭はこちら側として参加する。なので、入場はルクレツィア、ヴィルフレード、フェデーレの3人になる。
フェデーレはめったに着ない『夜明けの騎士団』の制服だ。黒を基調とした機能的なデザインのその制服は、長身のフェデーレに悔しいがよく似合っている。
そして、彼の腰にも剣。やはり特権だ。彼は、ルクレツィアの護衛も兼ねているのである。
明らかにルクレツィアよりもシンプルな装いのはずなのに、フェデーレは彼女よりも華やかに見える。元の顔立ちが華やかだからだろうか。仮面をつけなければ、決して隣に並びたくない。
「まあ、それはどうでもいいです。ヴェラたちはちゃんと潜入できてます?」
「大丈夫だよ。さっき、確認してきたからね。フェディが」
笑顔でヴィルフレードはのたまった。しかも見てきたのはフェデーレらしい。何気に押しに弱い彼は、頼まれたら断れなかったのかもしれない。
どうやら、ヴェロニカたちはちゃんと溶け込んでいたらしい。『夜明けの騎士団』の騎士たちの中で、貴族出身者を何人か紛れ込ませ、戦闘力のある魔術師を使用人として配置した。その中に、リベラートの姿もあるはずだ。世話好きの彼は、完璧にボーイの役割を果たしてくれると信じている。
そして、ヴェロニカは本当に男装して乗り込んだ。黒髪を縛り、眼鏡を外し、男に見えるように化粧もした。いや、もともと青年にしか見えないのだが、念には念を入れて。女性にしては長身の彼女は、見事に正装を着こなしていたらしい。
ただ、事前情報によれば、ヴェロニカは杖を持ち込めないことがご不満らしい。魔術師たちにとって杖はトレードマークであり、魔法を補助するための道具だ。なので、なくてもいいのだが普段使っていると、ないときに不安になるのはわかる。
「……外の様子、見てきます」
言葉少ななフェデーレが、そう言って扉を開けて外の様子を見に行った。すでに生誕祭の夜会は始まっているはずで、折を見てルクレツィアたちは入場となる。もちろん、アルバ・ローザクローチェであるルクレツィアが先頭だ。
「ルーチェ。大丈夫だよ」
「ええ。もちろんです」
ルクレツィアはニコリと微笑んで声をかけてきたヴィルフレードに返したが、彼の思惑とルクレツィアの認識は少しずれていた。
それを説明する前に、フェデーレが戻ってきた。
「大丈夫そうですね。そろそろ入場しましょう」
「了解」
ルクレツィアがうなずき、仮面をつけようとすると、フェデーレが唐突に彼女に言った。
「ルーチェ……その、よく似合っている」
思わず、まじまじとフェデーレを見つめるルクレツィアだ。彼の口から、そんなほめ言葉を聞く日がこようとは。
表情には出なかったが動揺したルクレツィアは、戸惑い気味に答えた。
「あ、ありがとう……」
「……」
「……」
「……うん。ラブコメは後にしようか」
なんだか前にも入れられたことのあるようなツッコミを入れられた。ヴィルフレードがすでに仮面をつけているのを見て、ルクレツィアもあわてて装着する。そうすれば、気が引き締まった。ちなみに、フェデーレは元から顔が知られているので素顔だ。
ルクレツィアは控室を出て、夜会が開かれているホールを目指した。開け放たれた扉から、堂々と入場する。
夜だというのに明るいそのホールに足を踏み入れた瞬間、視線が彼女らに集まった。
15代目アルバ・ローザクローチェが人々の前に正式に姿を現すのは初めてだ。あまりかかわりはないとはいえ、デアンジェリスの特徴でもある『夜明けの騎士団』の指揮官である女を、貴族たちはじっと見つめた。
「当代アルバ・ローザクローチェにグランデ・マエストロ、セレーニ伯爵か……」
「なかなかお美しいな、当代は」
「フェデーレ様……素敵……」
こそこそと貴族たちが話す声が聞こえる。前から思っていたのだが、これ、絶対に聞こえるように言っているだろう。
行く手には一段高くなったステージがあり、そこに国王と王妃が控えている。ルクレツィアは、父の顔色が良いことに内心ほっとした。
そこにたどり着くまでの間に、ざっとホールを見渡して仲間たちを探す。すぐに見つかったのは異様な存在感を放っているヴェロニカだ。いや、男装していたが、彼女だとわかるくらい独特な雰囲気を醸し出していた。どうやらシークレットブーツを履いているようで、いつもよりやや視線が高い気がする。壁に寄りかかり、腕を組んで、いつも通りの不遜な態度でルクレツィアたちを見ていた。そんな自分に、数人の令嬢の視線が集まっているなど、彼女は知る由もないだろう。
そして、少し探せばリベラートも見つかった。彼は完全にボーイと化していた。ルクレツィアの視線に気づいて軽く頭を下げたが、すぐに忙しそうに動き回り始める。というか、なじみすぎだろう……。
「こんばんは、アルバ殿。よくお越しくださった」
壇上から降りたクレシェンツィオは娘に向かって他人行儀に挨拶する。ルクレツィアも同じように返した。
「こんばんは、国王陛下。お招きくださり、どうもありがとうございます」
クレシェンツィオは、手袋をしたルクレツィアの手を取り、その指に口づけるふりをした。そのまま彼女の手を引いて壇上に上がる。ルクレツィアが合図すると、ヴィルフレードとフェデーレもついてきた。
「こんばんは、閣下。よくお越しくださいました」
壇上にいたが、立ち上がっていた王妃エミリアーナが微笑んで一礼する。ルクレツィアも仮面に覆われた顔を彼女に向けた。
「こんばんは、妃殿下。相変わらずお美しいですね」
「閣下も素敵ですよ」
「ありがとうございます」
エミリアーナとは握手をすると、ルクレツィアは国王を挟んでエミリアーナと反対側に座る。さらに、国王と反対側のルクレツィアの隣にはヴィルフレード。フェデーレはヴィルフレードの斜め後ろに控えた。
国王とアルバ・ローザクローチェが並んでいるので、壇上にはちらちらと視線が向けられる。近くを貴族たちがうろうろしているので、ルクレツィアは他人行儀に尋ねた。
「そう言えば陛下。体調を崩されていたようですが、今夜は大丈夫なのですか?」
クレシェンツィオが毒を盛られたことは伏せられている。そのため、クレシェンツィオの不調はただの体調不良、風邪だということになっていた。というか、アウグストがそうした。
「ええ。ご心配をおかけいたしましたね」
「それはようございました」
ルクレツィアは微笑み、視線をホールの方に向けた。オーケストラの演奏に合わせ、ダンスフロアで踊る人たち。談笑する者、壁の華になっている者、ひたすら食べている者もいる。
しばらく血のつながった身内たちと他人行儀な談笑をしていたルクレツィアは、ふと、この中で完全にアウェーである人間の存在を思い出した。
「セレーニ伯爵。こちらは大丈夫ですから、踊ってきても構いませんよ」
護衛としてついてきたが、はっきり言って戦力的にはルクレツィアとヴィルフレードがいれば十分だ。そのため、気を利かせたつもりだったが、フェデーレは外向きの笑みをうかべて言いきった。
「いいえ。私はアルバ様の護衛ですので」
「……そう」
何となく、フェデーレが怒っているような気がしてルクレツィアは少し引き気味にうなずいた。そこに、アウグストがやってきた。
「こんばんは、アルバ様。よろしければ、私と一曲いかがですか?」
邪気なさそうに微笑むアウグストであるが、さすがにこれは裏があるだろう。
「では、一曲だけお願いしましょうか」
ルクレツィアは首をかしげてアウグストの手を取った。手袋はしたままだが、マントと杖はフェデーレに預けていく。
ダンスフロアに2人が降りると、さっと場所が空けられた。アウグストのリードに従って、ルクレツィアは音楽に乗る。ドレスで着飾っているものの、ルクレツィア……というか、15代目アルバ・ローザクローチェの特徴は長いシルバーブロンドだ。なので、彼女は髪を結っていなかった。そのため、動くたびに長い銀髪が揺れる。
「仮面を外してしまいたいほど美しいね、ルーチェ」
「……お兄様に言われても……」
ルクレツィアは思わず口ごもる。似たような顔立ちで、今日は同じく銀髪だ。2人が並んでいれば、いくらルクレツィアが仮面をしていようと2人が血縁者であることがわかるだろう。アルバ・ローザクローチェは王族から選ばれるので、当然と言えば当然だが。
だが、似たような顔立ちであっても、アウグストは目を奪われるほどの美形であるが、ルクレツィアはそこまでではない。何度も言うが、顔立ちは整っているがそれ以上でも以下でもないのだ。
自分より美しい男に言われても、という意味で言ったのだが、アウグストは違う意味に受け取ったようだった。
「おや? だれか、言ってほしい人がいた?」
「……いや、そう言うわけじゃないですけど」
思わぬ返答が返ってきて、ルクレツィアは内心戸惑った。そんなつもりで言ったわけではなかったのだが。
「それはともかく」
話ながら踊っていると、ステップを踏み間違えた。だが、アウグストが強制的に方向修正したので、周囲にはばれなかったと思う。
「何か作戦はあるんですか?」
「うん。ないよ」
「!?」
再びステップを踏み間違えたルクレツィアは、驚きすぎて倒れそうになった。そんな彼女をアウグストが無理やり引っ張り起こす。やられた本人にとっては無理やりだったが、見ている方には完璧なフォローに見えたはずだ。
アウグストを見上げたルクレツィアは、仮面の向こうで目を見開いた。
「ないって……本当に!?」
「うん。相手も目的もわからない以上、対策のしようがないしね。とりあえず、私とルーチェなら何とかできるかなって」
「……」
信用してくれるのはうれしいのだが、ちょっとハードルが高くないか? 気のせいか? プレッシャーをかけているのか?
「ああ、あと、父上には何も話してないよ」
「……」
マジか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
うう……っ! できれば3日以内に続きを投稿したいところ……ですが、できるかな……。




