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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第8章 生誕祭
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61.※生誕祭は仮装大会ではありません

そう言えば、ブックマーク登録数が150件に迫っております。登録してくださった皆さん、読んで下さっているみなさん、本当にありがとうございます!













 そんなわけで、派遣されてきたのは例によってヴェロニカとリベラートだった。リベラートは真剣に治療に取り組んでくれたが、壁の念写文字を消しに来たヴェロニカにはぶちぶちと文句を言われた。


「まったく。外は大雪なんだ。ここまで来るのにどれだけかかったと思っている」

「はいはい。悪かったわ。水路も凍っているくらいだものね。おかげで私も外に出られないし」


 ルクレツィアはフットワークが軽い。ひょいひょいどこへでも出かけていく彼女が、ここ最近宮殿にとどまっているのは、単純に大雪で外に出られないからに過ぎない。


「だが、『次はお前だ、光の王女!』か。いやはや。君は一体どこで恨みを買ったというのだろうな?」

「うるさいわ」


 どこか面白がるような(無表情だけど)ヴェロニカの言葉に、ルクレツィアは顔をしかめた。

 実際、ルクレツィアが人の恨みを買うとすれば、アルバ・ローザクローチェ関係ぐらいだろう。第二王女としては地味に生活しているので、恨みを買うとはあまり思えない。


 ヴェロニカは伸びてきた髪を無造作に縛り、眼鏡をかけている。相変わらず青年のように見える彼女は、ぐいっと眼鏡を押し上げた。


「アウグスト殿下は君をおとりにするつもりか。まあ、殺してもそう簡単に死なないだろうしな」

「それについては否定できないわね」


 図太いとか、そう言うことではなく、現実問題としてルクレツィアを殺すのは難しいのだ。彼女自身は強力な魔女であるし、彼女の周囲には必ずこの国五指には入るであろう剣士アウグストがいる。近距離遠距離、どちらにも対応可能なのである。



 それに―――――もう一つ、理由はある。ファウストだ。



 アウローラを復活させようとしている彼は、ルクレツィアの肉体を依り代にしようとしている。肉体と魂は直結していて、いくら強力な力を持つ魔女だろうが、生命活動を停止した肉体はただの死体であり、その体に別の魂を入れても体を動かすことができない。アウローラを復活させるには、ルクレツィアは生きていなければならないのだ。

 だから、ルクレツィアが生命の危機に陥れば、ファウストが助けに来る可能性が高い。……まあ、そのままルクレツィアの体が依り代にされる可能性も否定できないが。


「確かに、ルーチェの言うとおり、使われたのは呪毒だろう。あれにもいろいろ種類があるが、話しを聞く限り、即死タイプのものではなかったようだな」


 ヴェロニカもルクレツィアと同じ判断を下したので、これは確かなのだろう。今、リベラートが国王を治療しているので、彼に聞けば何か分かるかもしれない。

 壁の文字はきれいに消えたので、ルクレツィアはヴェロニカと連れ立って現在クレシェンツィオが治療を受けている部屋に向かった。国王の寝室ではなく、医療塔で治療を受けているのだ。


「リベル。お父様は?」

「ん? ああ……ルーチェ……王女殿下」

「ルーチェでいいわよ。ヴェラは思いっきりそう呼んでるしね」


 ここが宮殿であることを思い出したのか、途中で言い直したリベラートに、ルクレツィアは苦笑した。ヴェロニカはこういうところは大概適当であるが、リベラートはきちっとしている。


「それで、お父様は?」

「大丈夫だ。対処が早かったからだろう。おそらく、次に目を覚ませばだいぶ回復しているはずだ」

「そう」


 ルクレツィアはほっとして微笑んだ。国王たる父の口に思いっきり指を突っ込んだ時は苦情を言われたが、その判断は正しかったのだ。


「一応、呪毒について調べたが、詳細は聞きたいか?」


 尋ねられ、ルクレツィアは首を左右に振った。次はルクレツィアであると宣告されているのだ。彼女は、通常の毒物だけではなく、呪毒などもあまり効かない。これに関しては魔力が高いからだと推測される。 

 それに、終わったことを調べるよりも、次に起こることを予測して対処する方が先だ。うまくいけば、犯人が捕まる。そうすれば、調べる必要自体がなくなる。


 ルクレツィアは父のいる病室の方を見て眼を細めた。その様子を眺めていたヴェロニカが口を開く。


「うまく君の泣き所をついてきたな。君は家族のこととなると、冷静さを失う」

「……それも、否定できないわね……」


 そう言って、ルクレツィアは肩をすくめる。自分の身内が絡むと、むきになってしまうのがルクレツィアだ。

 と言っても、彼女の認識は少し変わっていて、何かが起こると、『この私の領域で!』となるのである。自分の力の及ぶ範囲で何かが起こることを良しとしないのだ。魔女としての矜持である。

 それに加え、ルクレツィアにとってクレシェンツィオたちは護るべき対象だ。それに手を出されたのだ。怒らないはずがない。


「……でも、ヴェラやリベル、マエストロやエラルドやフェデーレだって、私の仲間で家族だと思ってるわよ」


 だから、ルクレツィアはヴェロニカやリベラートたちに何かあっても怒るだろう。短気な彼女は本気で怒ると表情が無くなる。


「……それ、今度フェディに直接言ってやれよ」

「嫌よ」


 リベラートに苦笑しながらそう言われ、ルクレツィアはふいっと顔を逸らした。ちょうどそこに、一組の男女がやってきた。


「ああ、ルーチェ。来てたのかい」

「それはこちらのセリフです、マエストロ」


 入ってきたのはヴィルフレードとエミリアーナだ。何となく似ているこの2人は、異母姉弟になる。

 ルクレツィアが招集をかけたのは、ヴェロニカとリベラとだけだ。ヴィルフレードは事情を聞いて自主的にやってきたことになる。


「ルーチェ、陛下は……?」


 不安げに尋ねてくるエミリアーナに微笑み、ルクレツィアは「大丈夫ですよ」と答えた。エミリアーナがほっと息をつく。


「ごめんなさいね……まさか、あんなことが起こるなんて」

「私がそばに居ながら、申し訳ありません」


 いつになく元気のないエミリアーナに、ルクレツィアも少し目を伏せた。エミリアーナは苦笑を浮かべた。


「あなたのせいではないわ。びっくりしたけど、あなたがいなければ、陛下は……」

「……」


 思いつめたようなエミリアーナに、ルクレツィアは何も言えなかった。国王に盛られた呪毒は致死量ではなかったが、それがいったいなんだというのか。国王に毒が盛られ、それを防げなかった。その時点で大事なのだ。すでに、その時の給仕係の数人が解雇されているくらいである。ちなみに、命令を下したのはアウグストだ。さすがに仕事が早い。


「姉上も、そう気を落とさずに。犯人は捕まえますよ。ルーチェが」

「ちょっと、マエストロ」


 さりげなくヴィルフレードがルクレツィアに役目を押し付けてきた。その場の空気を軽くするための発言だと思うが、何となく釈然としない。


「あ、母上、ルーチェ。マエストロも一緒ですね、ちょうどいい」


 さらにアウグストまで乱入してきた。一時的に政権を預かっている彼の口ぶりからすると、この場で政治的合意を行ってしまいそうな様子である。


「あー……俺ら、外に出たほうがいい?」


 リベラートが気まずそうに言ったが、ルクレツィアは止めた。


「別にでなくてもいいわよ。最終的に巻き込まれるんだから」

「なるほど、道理だ」

「ルーチェ、ヴェラ」


 納得を示したヴェロニカに対し、リベラートは半泣きである。まともな精神をした庶民は、王族の中に放り込まれたらこうなる。


 それはともかく。


「じゃあ、2人も聞いて。陛下は、対外的には怪我をしたことになってる。大事を取って医療塔にいるということにした」

「わかりました。次に目覚めれば大丈夫だろうということでしたので、問題ありませんね」


 ルクレツィアがうなずいて補足を入れ、先を促す。


「それで、生誕祭は予定通りに開催します」


 思わず、ルクレツィアは生誕祭までの日にちを数えた。あと10日。その間に、できるだけ対策を練らなければならない。


「ちょ、ちょっと待って。この状態で開催するの? 次はルーチェが狙われるかもしれないのよ?」


 エミリアーナがまっとうな意見を出すが、その意見に同意する常識人は、残念ながらここにはいなかった。


「だからこそですよ、母上。ルーチェが狙われるということは、必ず犯人が再び現れるということ。本当にそうなれば願ったりです」


 にこ、と笑ってアウグストは言い切った。母は沈黙する。腹黒く見える彼女の一番上の息子。だが、これで素なのだからどうしようもない。


「大丈夫ですよ、母上。私はアルバ・ローザクローチェとして参加します。ということは、狙われれば堂々と反撃できますからね」


 アウグストと同じくにこっと笑うルクレツィア。心の中で、「人質が取られなければ」と付け加えているのは内緒だ。


「それは、そうかもしれないけど」


 表情を曇らせる母を見て、やはりこういうところは母親だな、と思うルクレツィアだ。ヴィルフレードが慰めるように言った。


「大丈夫だよ、姉上。ルーチェは強いし、僕も一緒にいるからね」

「……なら、大丈夫かしら」

「……」


 ヴィルフレードが一緒なら大丈夫、というのが釈然としないルクレツィアであった。確かに彼は頼りになるのだが、普段の生活態度が信用できないのである。


「心配なら、『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』の騎士もホール内の給仕とかで配置しようか」

「あ、それいいですね。お願いします」


 ヴィルフレードの提案に、アウグストが飛びついた。ルクレツィアも何人か派遣しておこうと思っていたので、異論はない。


「リベルとか、ボーイできそうよね」

「……いや、できるかもしれないけど、できればやめてほしい……」


 切実な表情でリベラートは言った。その手は胃のあたりをおさえている。どうやら、緊張で胃痛がしてきたらしい。まあ、彼は平民なので仕方のない話だ。


「じゃあ、1人はリベルだね。できれば、戦闘力の高い魔術師を……」

「ヴェロニカはダメなんですか?」


 つぶやいたヴィルフレードに、アウグストが尋ねた。ヴィルフレードとルクレツィアの視線が、この状況でも腕を組んで無表情に突っ立っているヴェロニカに向けられる。数秒間をおいてから、2人とも首を左右に振った。


「無理だね」

「無理よね」

「どういう意味だ」


 2人からダメだしされたヴェロニカは、眉をひそめてそう言ったが、ルクレツィアは冷静に「あなたのその不遜な態度を見直しなさい」と指摘した。使用人に化けるには、ヴェロニカは態度が偉そうなのだ。


「……なら、いっそ、男装して貴族の中に紛れ込んでみれば? 異国の貴族だと言えば、信じてもらえそうでしょう?」


 と、提案したのはエミリアーナだ。確かに、東洋系の顔立ちのヴェロニカは、異国の貴族と言われても通じるだろう。髪は伸びてきているが、縛ってしまえば問題なく男性に見える。


「わたくしも、女性の魔術師がいたほうが安心だわ」


 王妃にそう言われては、引くことができない。ルクレツィアはヴェロニカを見上げて言った。


「生誕祭、男装だって」

「……どうなっても知らないからな」


 そう言うということは、ヴェロニカもやる気があるのだろう。そう思ってルクレツィアは微笑んだ。













ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


一応、一定の回数で投稿できている……かな? 本当は昨日の朝に投稿したかったのですが、寝落ちしてしましました(笑)


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