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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第5章 テンペスト
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42.嵐の中で

東日本大震災からもう4年もたつのですね。被災地の方、復興を頑張ってください。月並みなことしか言えなくて申し訳ありません。


そして、内容が少々不謹慎であるので、ご了承ください。水、地震などが出てきます。無理、という方はお戻りください。











「うおっ!」


 宮殿の結界の外に出た瞬間、ルクレツィアは少々女性らしからぬ悲鳴を上げてしまった。それだけ、雨風が強かったのだ。体が風にあおられ、ルクレツィアはよろめいた。


「姫様!」


 迎えに来てくれたのだろう。エラルドがゆっくりと近づいてくるのが見えた。ゆっくりなのは、風が強すぎるせいだ。ルクレツィアは自分に風よけと雨除けの魔法をかけた。ルクレツィアの魔法を使い、空間を固定すれば風によろめくことも少なくなる。


 なくならないのは仕方がない。それだけ風が強すぎるのだ。


 ルクレツィアはエラルドに同じ魔法をかけると、彼に尋ねた。

「その、暴れまわっているという魔術師は?」

「今、案内します……それにしても、すごいですね。姫様の魔法」

 ありがとうございます、とエラルドが微笑む。ルクレツィアは魔法でも消し切れない雨粒を全身に浴びながら肩をすくめた。

「いくら夏とはいえ、これだけ雨に降られたら風邪ひいちゃうわ。さっさと終わらせましょう」

「そうですね」

 そう言って、2人は駆け出した。今日は空中走行ではなくちゃんと地面に足をつけて走る。単純に、この暴風の中で空中走行は難しいと判断したのだ。


 いつもはにぎわっている目抜き通りだが、今日はどの店も扉を閉ざしていた。むしろ、開店している店があったらびっくりであるが……。

 その目抜き通りを、ルクレツィアとエラルドは疾走する。先を行くエラルドについて走っていたルクレツィアであるが、ふと視線を感じて立ち止った。


「どうしました、姫様」


 ルクレツィアが立ち止ったことに気が付いたエラルドも立ち止まる。少し行き過ぎたので、戻ってきた。

 ルクレツィアはエラルドに答えず、目を細めて脇道の方を見た。エラルドもつられてそちらを見る。

 腰に手を伸ばし、銃を手に取る。杖はこの風の中では邪魔になるし、弓矢はそもそも矢がまっすぐ飛ばないだろう。銃も、実弾では着弾がずれてしまうので、魔法銃だ。

 現れたのは、人だった。正確には、人に見えるもの。顔は作られたように整い、目はガラス球のよう。いや、本当にガラス球なのだろう。そして、作られたものなのだ。


 それは、人形だった。しかし、自立して動いている。見開かれたガラス球の眼がまっすぐにルクレツィアたちを見ていた。


「姫様……」

 エラルドがルクレツィアに呼びかける。銃を手に取った彼女は、何御予告もなしにその人形に向かって発砲した。


 一発、二発、三発。


 脳天、首、胸の中央。急所と思われるところに魔法弾を放ったが、人形は倒れない。立ったまま、こちらを見つめてくる。

 ややあって、人形が動きだした。それを見たエラルドが剣を抜き、肉薄すると、その人形を斬り捨てた。上下に真っ二つである。上半身と下半身に分かれた人形は、その場に倒れて動かなくなった。強い雨風を受けながら、ルクレツィアとエラルドがしばらくその人形を眺めた。

 と、エラルドがはっとして人形の側にしゃがみ、その目のガラス球をえぐり取った。


「!? どうしたの!?」


 『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』に所属する騎士たちの中では比較的常識人であるエラルドにしては意味不明な行動である。ルクレツィアは振り返ったエラルドの手にあるガラス球を見た。

「姫様。ただのガラスではありません。例の人工魔法石です」

「……本当だ」

 手に取って確認すると、確かに何度かお目にかかっている人工魔法石だった。エラルドがルクレツィアの手から再び自分の手にそれを戻し、言った。

「私が持っておきます。それにしても、順調に改良されているようですね」

「そのようね」

 まさか、間接的に人形を操るレベルにまで達しているとは。最初に見つけた時は、せいぜい人の姿を変えさせる程度だったのに。これでは、人間を操れるようになるには時間の問題だ。

 人形の残骸は後で回収だ。今現在でも、何かの木の板とか、明らかに家の屋根っぽいものが飛び回っているので、どちらにしろ風がやんだら掃除に来なければならない。

「……行きましょう、エラルド」

「はい」

 とりあえず人形のことは忘れることにして、ルクレツィアとエラルドは再び、暴れている魔術師がいると言うあたりに向かって走り出した。


 その時、2人の目の前に水が現れた。なんと言うか、水の槍と言うか。こちらにすごいスピードで切っ先が向かってくる。ルクレツィアは手を前にだし、右上から左下に向かって振った。不可視の障壁が現れ、水の槍は障壁にぶつかって消えた。


「水を操る魔術師か。相性が悪いわね」


 ルクレツィアはちっと舌打ちをする。ルクレツィアの魔法は基本的に具現化能力であるので、実体があることが多い。そのため、物理的な攻撃が意味をなさない水の相手は苦手だ。

 戦う方法を変えるしかないだろう。ここにはルクレツィアしか戦闘系の魔法が使える魔術師はいないのだから。

「フェデーレ! リベル!」

「ルーチェ、遅い!」

「これでも急いだわ!」

 フェデーレの文句にルクレツィアはいつものように叫び返す。途中で人形にあったりしたが、確かに急いだのだ。


「おー、よかった。俺とフェディじゃ相手にならなくて」


 リベラートがほっとした様子で言った。いや、頼られても困るんだけど。しかし、リベラートが後方支援系の魔術師であるのは確かで、フェデーレがほとんど魔力がなく、魔法破壊を主に使用している魔法騎士であることを考えると正常な反応なのかもしれない。

 ルクレツィアは水を操る魔術師を見た。雨でかすんで見えるが、男のようだ。しかも、まだ若い。もしかしたら、リベラートとさほど変わらないくらいの年かもしれない。

 男どもの前に立ったルクレツィアは、一度目を閉じ、自分を中心に『領域』を展開した。


「そこの魔術師! おとなしく投降しなさい!」


 もう少しセリフにレパートリーが欲しいところであるが、しっくりくるセリフが思いつかないので、いつもこんな感じのセリフだ。

「なんだ、お前!」

「何でもいいでしょうよ!」

 水使いの魔術師の当然の疑問に、ルクレツィアはそう叫び返した。仮面をしていると視界が狭くなる。この雨の中では危険なので、銀髪ではあるがアルバ・ローザクローチェ仕様ではないルクレツィアは、アルバ・ローザクローチェを名乗れない。名乗っても、信じてもらえない。

 水の蛇が襲ってきた。目の前に魔法陣を展開してそれを受け止め、氷に変化させて打ち返す。水使いの目の前で氷ははじけて消えた。ルクレツィアは思わず舌打ちする。

 さらに手を上げ、水使いの後方に魔法陣を出現させて、剣で串刺しにすることを試みる。しかし、これは水に絡め取られて失敗した。


「つーかお前、殺す気か!?」

「相性悪いのに手加減できないわよ!」


 本気で行かなければこちらがやられる。しかし、フェデーレの言うことももっともで、暴れまわっているだけで今のところ人の被害はないのに、その魔術師を殺すことはよくないかもしれない。


「ええいっ」


 ルクレツィアは右足を地面にたたきつけた。ルクレツィアを中心に金色の魔法陣が浮かび上がり、光を発する。そして。

「うわっ!」

「なんだ!? 地揺れ!?」

「危ないっ」

 地面が大きく揺れた。ルクレツィアの魔法である。これは被害が大きいのであまり使用しないが、局地的に地震を起こす魔法だ。さしもの水使いもバランスを崩した。

 突然のことだったのに、空気を読んだようにフェデーレが飛び出した。彼は一直線に水使いの方へ向かって行き、剣を振り上げた。しかし、その剣は水に受け止められ、さらには水球がフェデーレの顔を閉じ込めた。息ができないフェデーレが苦しげに首元をおさえる。


「フェディ!」


 ルクレツィアの背後に控えていたリベラートが指を鳴らすと、魔法により水球が霧散した。よかった。ルクレツィアがやると爆発するので、フェデーレを傷つけてしまうところだった。つまり、助けるためにやろうとしたのだ、一応。リベラートの方が速かっただけ。


「フェデーレ! 離れて!」


 ルクレツィアは叫ぶと、間髪入れずに水使いに向かって雷を召喚した。水で防ごうとするが、水は雷を通しやすいので少々感電した様子。

 と、あわてて後ろに跳び退ったフェデーレから苦情が来た。


「おい! 警告から行動までの時間が短すぎだ!」


 つーかほぼなかったぞ! と苦情が来るが、フェデーレがよけられると思ったからやったんだよ。言わないけど。ルクレツィアはフェデーレを無視して次の攻撃に備える。


 が。


 なんだか、ルクレツィアが地震魔法を使っているわけでもないのに振動が体に感じられる。

 水路から、水が浮き上がった。そう。文字通り、浮き上がった。それらが超高速でルクレツィアたちに向かって迫ってくる。

「つぶれろ!」

「水死するわよ!」

 水使いの叫びにツッコミを入れ、ルクレツィアは前方に強力な障壁を召喚させた。リベラートが障壁の強化を行ってくれるので、水と障壁の力は拮抗した状態だ。ややこちらが押している。

「ルーチェ。俺とエラルドで方をつける」

 ルクレツィアは囁いてきたフェデーレをちらりと見た。先ほど、フェデーレが水使いを仕留めきれなかったのは、1人で突っ込んで行ったからだ。彼がルクレツィアの思惑を理解でき、エラルドが理解できなかったから生まれた状況であるが、あの時、2人で突っ込んで行けばおそらく、今頃水使いは捕まっていた。


「……わかった。リベル! 合図したら、強化魔法を解いて!」

「了解!」


 三、二、一! とリベラートが強化魔法を解き、ルクレツィアはホルスターから取り出した銃で障壁に向かって魔法弾を撃ちこんだ。水が爆散する。その爆散した水の中に、フェデーレとエラルドが突入していくのが見えた。


 リベラートの魔法が『霧散』であるのに対し、ルクレツィアの魔法は『爆散』だ。威力が大きく、その威力を相殺しきれないために起きる現象である。だが、直撃を受けなければ問題ない。しかも、今回爆散したのはただの水。


 ややあって。


「捕らえました」


 エラルドの声が聞こえた。水使いの魔術師がエラルドに後ろ手に拘束されているのが見えた。フェデーレは何故か頬にひっかき傷を受けている。

「お疲れ。今、拘束魔法をかけるわ」

 そう言うが早いか、ルクレツィアは水使いに拘束魔法をかけた。魔法を使えなくなった水使いは、しょぼん、と顔を伏せた。こうなってしまえばおとなしいものだった。ルクレツィアは苦笑し、素朴な疑問を覚えた。

「フェデーレ。頬はどうしたの?」

「……引っかかれた」

 どうやら、取っ組み合いになって引っかかれたらしい。爆散の影響で視界が悪かっただろうし、まあ特にツッコミは入れないことにする。しかし、ひっかき傷と言うのが、痴話喧嘩の果てにやられたような感じがするのは否めなかった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


魔法をばんばん打ち合っているのを想像していただけると助かります(笑)


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