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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第4章 魔の楽譜
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33.お茶会の準備











 昼食後にフランチェスカのもとに行くと、ルクレツィアは彼女に抱き着かれた。


「お姉様ぁぁあっ! ごめんなさい! わたくしが不用意なことを言ったばかりに、怖い思いをさせてしまって……っ!」

「あ、いや、それ、もういいから……」


 半泣きでしがみついてくるフランチェスカは、姉であるルクレツィアの庇護欲をかきたてる愛らしさだった。

「でもでもっ! その後も恐ろしいめにお会いしたと聞きました! わたくしがあそこで、ダンスを勧めなければ……!」

「あの時、踊ろうと思ったのは私の意志だから、フランのせいじゃないよ」

「お姉様ぁ」

 フランチェスカは泣きながらルクレツィアにしがみついた。ルクレツィアはよしよし、と彼女の頭をなでた。


「あら、ルーチェもいたの」


 そこにやってきたのは何故か王妃のエミリアーナ。美女に挟まれてうろたえるルクレツィア。不思議そうに首をかしげるフランチェスカが尋ねる。

「お母様。どうなさいましたの?」

「ええ。サロンで来客中の方々とお茶会を開こうと思って、誘いに来たの。ルーチェ、あなたもどうかしら」

「え、えっと」

 話をふられてルクレツィアは返答に困った。ラ・ルーナ城に避難しようにも、1人で出たらそれはそれで怒られるし、出るならフェデーレを探しに行かなければならない。従者をつけてもらってもいいが、それだとラ・ルーナ城に行く理由が必要になってくる。


 フェデーレも自分の用事があるだろうし、いい言い訳が思いつかない。


「予定がないなら、参加でいいわね。ちょうどいいわ。2人ともまとめて支度しましょう。誰か、ルーチェの侍女を呼んで来てちょうだい」

「かしこまりました」

 エミリアーナの命令で、フランチェスカの侍女がカルメンたちを呼びに出て行った。ルクレツィアはため息をつく。

「どうしても出なきゃダメですか?」

「あなたはもう少し、社交界での立ち振る舞いを学ぶべきね。マナーは大丈夫だけど、経験が足りないから昨日のようなことになるのよ」

「……反論しようもございません……」

 エミリアーナの言葉は、至極まっとうである。ルクレツィアがもう少しうまく世渡りできたら、ハインリヒに言い寄られてパニックになる、ということはなかったはずなのだ。


「お姉様も一緒なのですね! 楽しみですわ!」


 こういう髪型とか、こういう化粧をさせてみたい、と妄想を膨らませはじめるフランチェスカに、彼女は母親似だな、と何とはなしに思った。


「連れてまいりました」


 フランチェスカの侍女がルクレツィアの侍女を連れて戻ってきた。来たのは2人だけで、リンダとファビオラである。残りの2人のうち1人であるイレーネはルクレツィアの影武者だし、もう1人のカルメンは侍女たちの取りまとめ役だ。何かあった時のために待機しているのだろう。

「ルーチェもフランも、好きに着飾らせていいわよ。でも、昼のお茶会だから、それを忘れないように」

「わかりました!」

 フランチェスカの侍女もリンダとファビオラも嬉々として返事をした。命令を下したエミリアーナは満足げだ。母に逆らうだけ無駄だと思っているルクレツィアとフランチェスカは、やる気満々の侍女たちの好きにさせることにした。

「姫様、是非こちらを!」

「こちらはいかがですか?」

 競い合うようにルクレツィアとフランチェスカの侍女が装飾品や髪飾りを見せてくる。ルクレツィアはもうお任せにしたが、フランチェスカはいろいろ口を挟んでいるようだ。そのためか、ルクレツィアの方が先に支度を終えることになった。


 『ルカ』として入城したときの青いドレスは脱ぎ、肩は広く出すが胸元は浅く、何枚も生地を重ねるタイプのスカート。色は菫色で、袖はなく、上に白いショールを羽織ることにした。足元のブーツは不評なのでかかとの低い靴を履いた。かかとが低いのは、単純にルクレツィアの背が高いからである。

 昼間なので、髪は上半分だけ結い上げ、東洋の『カンザシ』に似たものを挿した。銀色にサファイアの宝石が付いたもので、ルクレツィアはそのシンプルながらも見栄えのいいデザインを気に入った。

 浅く開いた胸元にもサファイアのネックレス。ブレスレットもサファイアだったが、イヤリングだけはアクアマリンだった。


 全体的に青系でまとまったルクレツィアに対し、フランチェスカは淡黄色でまとめることにしたらしい。ドレスは淡いオレンジで、ルクレツィアと同じく胸元は浅め。ドレスの裾がバルーンのように丸くなるタイプで、愛らしいフランチェスカによく似合っている。袖は五分丈だ。

 胸元とイヤリングはピンクダイヤモンドで、髪飾りの飾り止めはローズクォーツだ。ルクレツィアが簡単にカンザシを使ったのに対し、フランチェスカは顔の左右で小さな花をそれぞれ飾っていた。

 小柄なフランチェスカは、ハイヒールを履いてもルクレツィアより背が低かった。まるで妖精のような妹の姿に、ルクレツィアの頬を緩む。


「なかなかいいわね。2人とも、よく似合ってるわよ」


 エミリアーナが合格を出したので、侍女たちはほっとしたようだ。フランチェスカが嬉しそうにルクレツィアの腕を取る。


「お姉様、おきれいですわ。クールビューティーですわね!」

「……何それ」


 謎の言葉に首をかしげるが、フランチェスカは明確な答えをくれず「かっこいいと言うことですわ」と答えた。

「準備が終わったから、行きましょうか。わたくしたちはホスト側だから、準備をしなければならないわ」

「わかりました」

「……わたくしもですか?」

 笑顔でうなずいたフランチェスカに対し、ルクレツィアはこわばった表情で尋ねた。エミリアーナは「もちろんよ」と当然のごとく答える。マジか……。

 腕をフランチェスカに取られ、連行されるルクレツィアである。イル・ソーレ宮殿で一番広いサロンは、すでに使用人が入って準備をしていた。飾りや物の配置などの指示を出しているのはオルテンシアだった。


「シア、お疲れ様。1人でやらせて悪かったわね」

「お母様。いいえ。わたくしも嫁げば一人でやらなければなりませんから」


 笑顔でそう返すオルテンシアはすごいと思う。確かに、そのうちブルダリアスの王妃になるオルテンシアには必要な経験なのかもしれない。


 というか、ブルダリアスで思い出した。


「お姉様、お姉様。ちょっとお聞きしたいんですけど」


 ルクレツィアはエミリアーナに持たされた花束を持ったままオルテンシアの方に近寄った。引き続き指示を出していたオルテンシアが「何?」と首をかしげる。

「お姉様の婚約者様、今日の午前中、王都に出ていました?」

「ええ。フィオーレを見学してくると言って出て行ったわね。それがどうかしたの?」

「ああ~……」

 ルクレツィアは花束を持ったまま情けない声を上げる。オルテンシアが不審げな表情になった。


「どうしたのよ。何かあったの?」

「ひったくり犯を捕まえているところを目撃されました……」

「……何してるのよ、あなた」


 オルテンシアに半眼でつっこまれ、ルクレツィアは「だって気づいたんですから、仕方ないじゃないですか」とむくれる。

「そんな顔してもかわいいだけだわ。どの姿であったの? アルバ・ローザクローチェ?」

「いえ……ルカ・ディ・サンクティスです」

「なら、それで押し通せばいいわ。聞かれたら、わたくしからも適当にはぐらかしておく」

「ありがとうございます」

 ちょっとほっとして、ルクレツィアはオルテンシアに礼を言った。ルクレツィアは持っていた花を花瓶に生けた。ちゃんと花が正面を向くように生けていると、オルテンシアから再度声がかかる。


「そう言えば、珍しいわね。社交シーズンに入るとラ・ルーナ城に引きこもるのに」

「いえ……お兄様にフランの様子を見に行ってくれと言われまして……もしかして、これを狙っていたんでしょうか」


 これとは、ルクレツィアがお茶会に参加することである。兄アウグストはやや天然が入っているので、全てが計算だったとは思えないのだが。


 まあ、巻き込まれたものは仕方がない。隅っこでおとなしくしていよう。


 それより、このサロン、かなり広いのだが、いったい何人招くつもりなのだろうか。


 お茶会が始まる前に、アウグストとジェレミアがやってきた。国王は不参加らしい。代わりというわけではないだろうが、どこかで捕まったらしいフェデーレが一緒だった。

「あ、きれいになっていますね。さすがです、母上」

「当然よ、と言いたいところだけど、ほとんどシアがやってくれたわ」

 いつものようにニコニコしたアウグストの言葉に、エミリアーナがオルテンシアを示して言った。オルテンシアは「当然です」と胸を張って微笑んで見せた。

 アウグストは胸を張るオルテンシアを見て微笑んだ。


「すごいね、シアは」

「がんばりましたもの」


 まあ、オルテンシアのセンスがいいのは確かである。それにしても、そのセンスというやつはどこに行けば身に着けられるのだろうか。


 ルクレツィアは少し離れたところで所在なさ気にしているフェデーレに話しかけた。


「あなたはどうしてここに?」

「帰りがけにアウグスト殿下に捕まった……」

「あらら」

 どうやら、フェデーレは本当に捕まって巻き込まれたらしい。ルクレツィアを送ってきたばかりに、不運な奴。しかし、彼はこの国の有力貴族の跡取りでありながら婚約者がいないので、どちらにしろ巻き込まれていた可能性もある。


「さて、そろそろ時間ね。主催者はわたくしだけど、あなたたちもちゃんと気を配るのよ。ルーチェ、あなたもよ」

「……はい」


 どうやら隅っこでおとなしくしているのは難しいようだ。フェデーレがふん、と鼻で笑った。


「客人の前で粗相をしないようにな」

「あなたこそ、痴情のもつれで刃傷沙汰を起こさないようにね」


 2人は一瞬にらみ合い、それからルクレツィアはエミリアーナの方に、フェデーレはアウグストの方に向かって行った。















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


なんかほのぼのしてますね……。私が書くキャラは、全体的にシスコンでブラコンですね(笑)


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