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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第3章 笑う肖像画
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26.夜明けの姫君











 アウグストにつっこまれるまでルクレツィアどころかフェデーレもヴェロニカも忘れていたが、最初の依頼は笑う肖像画についてだった。先ほどのルクレツィアの理論によると、全ての肖像画は根は同じところにつながっている。と言うことは、どの肖像画が笑い出しても不思議ではないのである。


「異空間で笑い声は聞こえたが」

「そうなの?」

「ああ」


 フェデーレを見上げると、彼はうなずいた。ルクレツィア側では聞こえなかった。彼女は少し考え、自分が一度魔法陣にとらわれたことを思い出した。確か、展示場の中央付近である。


「確か、この辺に……」


 ルクレツィアは自分が拘束魔法に捕まったあたりに足を進めた。右足を置いたところに、魔法陣が展開した。金色に発光する。



「はははははははっ!」



 笑い声が聞こえた。ルクレツィアは魔法陣が発する魔力に遊ぶ銀髪をおさえながら、叫んだ。

「どの肖像画!?」

「これだ!」

 ヴェロニカが容赦なく火炎魔法で肖像画を燃やした。ルクレツィアが眼を見開く。

「ちょっと! それ本物!」

「あ、つい」

「つい、じゃないわよ!」

「しかも魔法陣が消えてないぞ」

 フェデーレが冷静にツッコミを入れた。先ほどは気づかなかったが、ルクレツィアの魔力が吸い上げられている。そこで気が付いた。


「召喚魔法陣だわ! この絵画配置、召喚魔術の儀式と同じなんだわ」

「なるほど……わかってしまえば大したことはないな。フェデーレ、魔法陣を破壊しろ」

「いいのか?」


 ヴェロニカの少々過激な言葉に、フェデーレが首をかしげる。ヴェロニカはさらりと言った。

「問題ない。暴発しそうなら、ルーチェが止めてくれる」

「ちょっと」

 先ほどからヴェロニカから雑な扱いを受けているルクレツィアが非難するが、彼女は気に留めずに肩をすくめた。フェデーレも「いいか?」と言いながら魔法破壊を行う気満々だ。


「了解。やって頂戴」


 ルクレツィアがうなずくと、フェデーレは魔法陣に剣を突き立てた。魔法陣が破壊され、ためられた魔力が放出された。ルクレツィアはそれが暴発しないように力ずくで押さえつけ――。

 嫌な音がして、彼女はその場にくずおれた。



『はははははははっ!』



 召喚魔法陣により召喚された笑い声のみが響き渡る。どうやら、魔法陣は不完全だったようだ。わざとこの配置にしたのか、たまたまなのかわからないが、召喚魔術の儀式と同じ配置とか、ふざけているのだろうか。

「大丈夫か」

「ルーチェ、どうしたの?」

 フェデーレが膝をついてルクレツィアに尋ねるとほぼ同時に、アウグストが駆け寄ってきて彼女の肩に手を置いた。ルクレツィアは「う~」とうなる。


「またボキッていったぁ」

「……また折れたのか」


 フェデーレが左腕が再び折れただけとわかり、ほっとした声を漏らした。心配をかけたようで申し訳ない。


 どたどたと誰かが走ってくる音がした。ルクレツィアはとっさに立ち上がると、仮面を身に着けようとした。左手が動かないので片手でやろうと思ったのだが、うまくいかず、アウグストが後ろから仮面を止めてくれた。

「ありがとうございます」

「いやいや。あ、来たね」

 アウグストが言った通り、来た。

「何事ですか!?」

 フィオーレ・ガレリアの館長だった。
















 早急にルクレツィアは腕を治しに行きたかったのだが、館長が来たのでアルバ・ローザクローチェであるルクレツィアが抜けるわけにはいかなくなった。痛みをこらえつつ対応し、ヴェロニカが燃やした肖像画を復元してきた。ついでに、肖像画の配置を変えるように依頼しておく。

 簡単に館長に事情を説明し、その場は退散することとなった。アウグストとブルーノをイル・ソーレ宮殿まで送り、ラ・ルーナ城に戻った。


「見事にぽっきり折れてるな。大丈夫か? 熱はないか?」

「それは慣れてるから平気」


 ルクレツィアは戻ってきていたリベラートに左腕の骨折を治療してもらっていた。後ろではヴェロニカが腕組みして仁王立ちしている。

「慣れてるから大丈夫ってもんでもないけどな。熱がないなら大丈夫だな。一応、骨はくっつけたが、あまり無理はするな。また折れるから」

「わかってるわ」

 リベラートの注意を聞いてルクレツィアは深くうなずく。実際に一度、くっつけたのに折れたので次は気を付ける所存である。

 一応包帯を巻いて腕を固定する。治癒魔法は魔法を使える者ならば必ず習うものであるが、自分自身には効きにくいと言う欠点がある。そして、この中で一番治癒魔法がうまいのはリベラートだ。彼の魔法は完全に後方支援型で、それが彼らしいと思う。


「ところで、魔術師は捕まったの?」

「おー、捕まえてきたぞ。第二騎士団に引き渡してきた」


 軽い口調で言われた。そんなに大変じゃなかったのだろうか。話を聞いてみると、少なくともルクレツィアたちよりは楽だったようである。

「それで、ガレリアの方はどうなったんだ?」

「厳重注意をしてきた。肖像画の配置が召喚魔術の儀式と同じになっていたからな。偶然だと言っていたが……一応、次はないと釘を刺してきた」

 ヴェロニカが表情を変えずに淡々と言った。ルクレツィアは苦笑する。事情を説明したのはルクレツィアであるが、脅しをかけたのはヴェロニカである。

 リベラートは「へえ」と笑うと、ヴェロニカの顔をじっと見て、言った。


「ヴェラ、お前、眼鏡どうした?」

「……みんなそればっかりだな」


 ヴェロニカがため息をついた。彼女の眼鏡は溶けてしまったため、未だに彼女は眼鏡なしだ。と言うか、彼女はそんなに目が悪くない。だから、本当なら眼鏡なしでも問題なく生活できるはずなのだ。なのになぜ眼鏡をかけるのか。


「自分の魔法で溶かしたらしいわ」


 ルクレツィアが代わりに説明すると、リベラートは呆れるのではなく疑問を浮かべたようだ。

「それ、危なくないか?」

「溶けきる前に外したから大丈夫だ」

 だから、眼鏡は行方不明なのだそうだ。新しいものを手配するまで、ヴェロニカは眼鏡なしの生活になる。まあ、いつもよりその無駄に整った顔がよくわかるが、本人は生活できるので問題ないはず。

「……ならいいが、お前も気をつけろよ」

 リベラートがそう言うと、ヴェロニカは少し目を細めて、誰もが思っていたことをストレートに言った。

「リベル。君は心配性だな」

 うん。それは誰にも否定できないだろうね。ルクレツィアは心の中でそう思ったが、とばっちりは受けたくなかったので黙っていた。
















 3日後。ルクレツィアの腕が完全に引っ付いたので、彼女は再び『フィオーレ・ガレリア』を訪れていた。今回はフェデーレに加えヴェロニカも一緒である。


 このヴェロニカであるが、ドレスを拒否したので男装している。シルクハットにステッキまで持った本格的な男装だ。よく似合っており、どこからどう見ても富裕層の男性にしか見えない。


 つまり、今日も『ルカ』の変装をしたルクレツィアは、ヴェロニカとフェデーレと、2人の男性をはべらせている女に見えるわけだ。それに気づいたとき微妙な気持ちになったが、それは事実ではないのだから堂々としていようと思い直し、今にいたる。

「肖像画の配置が変わっているわ。ヴェラが燃やした肖像画も、問題なさそうね」

「お前が復元した『15代目アルバ・ローザクローチェ』も見たところ問題はないな」

 ルクレツィアとフェデーレが見てきた肖像画について簡単に意見を交わす。空間も二重だったのが元に戻っているし、大丈夫そうだ。一応事件は解決した、と言うことになる。

 だが、まだ問題が残っている。ルクレツィアが遭遇した青年だ。顔をよく覚えていないので、人相書きも作れない。これならルクレツィアの嘘ではないかと取られても仕方がないが、何しろ衣服と言う、確実に誰かが存在した証拠が残っているのだ。


 不意に視線を感じて、ルクレツィアは周囲を見渡した。隣にいるヴェロニカが「どうした?」と尋ねてくる。

「ねえヴェラ。視線を感じない?」

「……いや。僕には感じられないな」

「そう……」

 知覚魔法に優れたヴェロニカに感じられないと言うことは、ルクレツィアの気のせいなのだろうか。ルクレツィアは少し眉をひそめる。



 ――夜明けの姫君。また、お会いしよう……。



 脳内に突然響く声があった。間違いなく、あの時の青年だ。ルクレツィアは勢いよく振り返った。

「!? な、何だ?」

 館長と話をしに行っていたフェデーレが、背後に立っていた。ルクレツィアは微笑み、「何でもないわ」と答えると、たくさんいる来館者たちを見渡した。しかし、あの時の青年は見つけられなかった。彼女はふう、とため息をつく。

「すっきりしないわ」

「……まあ、そのうち相手の方から現れるんじゃないか?」

 ヴェロニカが無責任に言った。だが、ルクレツィア自身もそんな気がした。彼女は「そうね」とうなずくと、ヴェロニカの手を取り、フェデーレの服の袖をつかんだ。


「じゃあ、ついでに一般展示の方も見に行きましょう!」


















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


これで第3章も完結です。もう終わりそうな雰囲気ですが、まだ続きます……。


それと、さすがにそろそろ、併記している旧タイトルの方を消そうかと思います。

旧タイトルを消したことで混乱が起きたら申し訳ないのですが、ちょっとタイトルが長すぎるので……。

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