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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第3章 笑う肖像画
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23.14代目の死











 夜になり、15代目アルバ・ローザクローチェ仕様のルクレツィアはフィオーレ・ガレリアに来ていた。館長に快く迎え入れられ、特別展示場の前まで来た。


「できるだけ、ここから離れてください。もし魔法を使用することになれば、巻き込まれる可能性がありますから」


 フェデーレが笑顔で言った言葉に、館長とその日の警備員はうなずいた。ちなみに、フェデーレの元に最初に依頼を持ってきたのは、この特別展示場の警備員をしていた青年なのだそうだ。

 館長たちが離れたのを確認すると、3人は特別展示場に足を踏み入れた。ルクレツィアとヴェロニカが魔法の丸い光をいくつか宙に浮かべた。部屋が照らし出される。

「……ふむ。確かに少し違和感があるな。何がどう違和感があるのか説明することはできないが……」

「ああ、ヴェラにもわからないのね」

「はじめからそう言っている」

 ヴェロニカの返答に、ルクレツィアは肩をすくめた。誰もいない特別展示場を、三人でゆっくりと歩いた。

「確か、真夜中の1時過ぎに笑い声が聞こえてくると言っていたな」

「今、12時前だから、後1時間ほどか」

 フェデーレの情報を聞き、ヴェロニカが時計で時間を確かめる。それまでにある程度のことは調べておくべきだろうか。



 勢いよく振り返った3人は、それぞれ武器を構えていた。ルクレツィアは銃口を向け、ヴェロニカは杖の先を向け、フェデーレは剣の柄に手をかけた。


 だが、現れた人物に3人ともため息をついた。


「何をしているのですか、アウグスト殿下……」

 驚いて「お兄様!?」と叫ばなかった自分をほめたい。アウグストはいつものように笑みを浮かべ、護衛としてブルーノをひきつれていた。

「あなたたちがガレリアに向かったと聞き、追って来たんですよ」

 ブルーノの眼があるので、ルクレツィアはあくまで『15代目アルバ・ローザクローチェ』でなくてはならない。仮面の下で、ルクレツィアは眉をひそめた。

「理屈が通っていませんが……」

「ここでのことは、私も気になっていましたので、好奇心に負けてきてしまいました」

「……」

 ヴェロニカ、フェデーレ、ブルーノの視線を感じた。ここで判断を下すべきなのはルクレツィアである。彼女は唇の端をひきつらせた後、もう一度ため息をついた。


「来てしまったものは、仕方がありません。今日は調査の名目ですから、無事に終えてイル・ソーレ宮殿までお送りしましょう」

「さすがはアルバ様。話が分かりますね」


 アウグストが笑って称賛したが、ルクレツィアの笑みはひきつり気味だ。『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』に籍を置いているルクレツィアとは違い、アウグストはこの国の王太子である。軽々しく危険かもしれない現場に出てきていい身分ではないのだ。この辺りは後で父に言いつけて説教してもらうか。


「危険ではないのか?」


 護衛のブルーノが尋ねた。というか、護衛はブルーノだけだろうか。彼は魔法的素養がなかったはずなので、ただの剣士だろうか。もしかしたら、アウグストより彼の方が危険かもしれない。

「名目上は、危険はありませんね」

「ブルーノ。今更だよ。それに、アルバ様には丁寧に接した方がいいと思うよ」

 アウグストが諭すように言った。彼も通常の騎士団が『夜明けの騎士団』にいい感情を持っていないのは承知しているだろうが、一応、15代目アルバ・ローザクローチェの中身はルクレツィアだ。公爵家のブルーノがため口を使っていい相手ではない。一応は。


 それはともかく、だ。


「どうする? アルバ様」

 ヴェロニカが一応ルクレツィアに指示を仰いだ。ルクレツィアは少し考える。

「肖像画を調べてみましょう。わたくしが見たところ、全て本物のようですが」

「だとしたら、笑い声はどこから?」

 フェデーレに問われ、ルクレツィアは「どこからでしょうねぇ」とのんびりと答えた。ルクレツィアは特別展示場の奥に向かって歩き出す。

「まあ、絵が本物だからと言って、魔法がかかっていないということはないですが……」

 初代国王アルフォンソの肖像画の前で振り返る。そして、彼女は驚愕した。


「な……っ! どういうこと!?」


 4人がいるはずの場所には、誰もいなかった。ただただ、空間が広がっているだけ。ルクレツィアは先ほどまで4人がいたほうに向かって歩きながら叫んだ。


「お兄様! ヴェラー! フェデーレっ!」


 返事をくれそうな3人の名を呼ぶが、もちろん返事はなかった。ルクレツィアは歩みを止めると、一度大きく息を吐いた。


「落ち着いて……突然いなくなったということは、異空間に取り込まれた可能性が高いわ」


 もしくは、ルクレツィアが異空間に取り込まれた可能性もあるが、その可能性は低い。なぜなら、ルクレツィアの魔法能力の性質上、彼女は空間支配系の魔法に耐性があるのだ。だから、アウグストたちが異空間に行ってしまったと考える方が自然なのである。

 ルクレツィアは目を閉じた。やはり、まだ空間は二重に重なっているようだ。姿は見えないが、重なった空間の異空間の方に、4人の存在を感じた。知覚魔法の能力が弱いルクレツィアであるが、空間把握能力を使えば、存在は把握することができる。


 とりあえず全員の無事を確認したルクレツィアは、そっと目を開いた。そして、目の前に20代半ばほどの青年が立っていることに気が付いた。思わず杖を抱きかかえて身を引く。

「だ、誰」

「……」

 青年は沈黙したまま、ルクレツィアの方に手を伸ばした。その手が、彼女の仮面をそっと外した。仮面を外されたルクレツィアはおびえた表情をしていたが、自分では気づいていなかった。


「……君が、15代目?」


 青年が手放した仮面が音を立てて床に落ちた。ルクレツィアは足を後ろに引く。追ってきた青年は、彼女の顎に指をかけて上向かせた。

「……君なら、よさそうだ。君なら……」

「っ!」

 そこで、ルクレツィアの恐怖が臨界点を突破した。杖を上から振りかぶり、床を強く蹴って距離を取る。青年がいた位置に魔法の槍が突き刺さり、煙を巻き上げた。

 両手で杖を握りしめ、肩で息をするルクレツィアはそのまま自分の背後に三つの魔法陣を出現させた。ルクレツィアの召喚系魔法である。

 煙が落ち着いてくると、青年が元の場所で平然と立っているのが見えた。


「……っ!」


 もしかして、魔法攻撃が効かないのだろうか。白兵戦は苦手だが、いざとなれば仕方がない。青年は攻撃が堪えた様子はなく、むしろ感動したように口を開いた。


「この魔力。やはり君こそ、アウローラの依り代にふさわしい……」

「……アウローラ?」


 アウローラは曙の女神の名である。つまり、突き詰めていけば『夜明けアルバ』と同じ意味なのだ。もしかして、『夜明けの騎士団』の関係者だろうか。

「初めて見た時から、君ならアウローラの依り代たり得ると思った……そのために、十四代目を殺したと言うのに、あの男は、私の力を封印した」

「!」

 ルクレツィアに魔法を教えてくれた14代目アルバ・ローザクローチェ。最後は、殺された。犯人は不明でここまで来ていたけど……。


 この男が犯人ならば。仇を取らねばならない、と思った。


「その力強い眼。素晴らしい……3年を経て力を取り戻した私は、ついに、アウローラをよみがえらせることができる……」

「やめて! 近づかないで!」

 ルクレツィアは杖を持った右手を前に突き出し、いつでも魔法を使用できる構えを見せた。しかし、近づいてくる青年に押されて後ろにもさがる。そして、ちょうど真ん中あたりに来たとき、ルクレツィアの魔法陣が掻き消えた。

「どうして!?」

「無駄だ……君はアウローラの依り代になるのだから。心配しなくていい。恐怖など、すぐに感じなくなる」

 青年が言葉を発しながら右手を上げる。ルクレツィアの足元に拘束用の魔法陣が浮かび、そこから伸びた金色の魔法文字が彼女の周囲をらせん状に包んだ。

「っ! このっ!」

 ルクレツィアは力づくで拘束魔法陣を破ると、青年に肉薄した。先ほどまでは怖くて近寄れないと思ったのに、怒りと言うのは恐怖を忘れさせるらしい。

 間合いを詰めたルクレツィアは杖を剣のように振り下ろした。少々不安はあるものの、剣術の訓練は一応受けているのだ。


 だが、魔法で強化してあるはずの杖は青年によって片手で受け止められた。代わりにルクレツィアの左腕がつかまれる。強い力で握られ、ルクレツィアは顔をしかめた。

「あまり調子に乗らない方がいい……。君は最高の依り代だが、唯一の依り代ではないんだ」

「意味が分からないわよ!」

 怒りに任せてルクレツィアはつかまれた杖を右に振り払った。同時に展開した重力魔法により、青年は壁に叩きつけられる。ただ、握られていたルクレツィアの左腕も嫌な音を立てて折れた。

 ルクレツィアは壁に激突した青年に向かって杖を向けた。そして、勢いのまま吐き捨てた。


「あなたが14代目を殺したのなら、私は絶対にあなたを許さないわ!」


 ルクレツィアは彼に向かって容赦なく自分の召喚系魔法による攻撃を叩き込んだ。今度は、ガラスの刃だった。再び、煙が巻き上がり、青年を包み隠したが、今度は確かに手ごたえを感じていた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ルクレツィア、問答無用です。もう少し人の話を聞きましょう(笑)


ルクレツィアが15代目なので当たり前ですが、14代目はすでに亡くなっています。


そして、必ず持ち上がるストック切れ問題……今回もちょっとまずいな……。

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