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夜明けを告げる魔法使い  作者: 雲居瑞香
第2章 踊る人形
19/91

18.魔術師の印象

これで、第2章は完結です。










 そして、もう一つ。ジルダの件に関してだ。彼女が女性なので、女性の魔法研究家たちが中心となって調べたらしい。その結果、いくつかわかったそうだ。


「まず、彼女の体を元の状態に戻すことはできない」

「……」

「もちろん、あんな目立つ姿ではなく人の形にすることはできるが、魔法が染みつきすぎている。右半身の肌は黒いままだ」

「……それは見てきたわ」


 いまだに隔離されているジルダは、ヴェロニカ言うところの目立つ異形の姿ではなかったが、人の形を取っていても肌の色は黒かった。なんと言うか、日焼けしたような色ではなく、真っ黒。上からてかりのある液体でも塗ったかのような黒々しさであった。幸い、顔の部分は頬のあたりだけが黒いので、気を付ければ外出はできるのではないだろうか。


「そうなってしまった理由だが、やはり、魔法をかけられ続けたようだな。しかも、その魔法が定着するようにやはり、あの宝玉の形をした魔法道具が体に埋め込まれていた。胸の中心の下あたりだ」


 と、ヴェロニカは鳩尾の少し上を指した。ルクレツィアはうなずく。魔法を定着させる力のあるその魔法道具。おそらく、ジルダには実験として使ったのだろう。

「何故、突然変化したかだが……これについては不明。おそらく、誰かが危機に陥る、とか発動条件が決められていたのだと思うが」

「まあ、それはわかっていなくても特に問題ないわ。大丈夫」

 ルクレツィアは額をおさえて息を吐いた。なんだか頭が痛くなってきた。


 つまり、ジルダは誰かに試験用人工魔法戦士として改良・・されたというわけだ。座長に詐欺を行わせて金を巻き上げ、さらに人間を人工的に戦士に仕立て上げるとは。相手もえげつない。

「それと、当初の問題であった人形についてだが。人形自体に問題はない」

「でしょうね」

 それはかなり初期段階からわかっていた。おそらく、魔力を送ってきた側であるジルダの方の問題であるのだろう。


「ジルダの魔力は念動力系が強く、また、詐欺被害にあった人たちのことを考えていた。そのため、彼らの屋敷の方へ魔力が送られた。おそらく、自分に埋め込まれているものと同タイプの魔法道具の石がその家にあるのも、『同期』を行う手助けとなったんだろう」


 これは双子は考えることが似る、と言うのと同じ原理だと思われる。似たような魔力はつながりやすい。同じように、似たような能力を持つ魔法道具同士はつながりやすいのだ。


「そして、彼女の周囲には踊っている人間が多かった……そのため、人形が踊りだしたのだろうと結論づけた。また、音楽は最古の魔法だともいわれる。単純にして強力な魔法。そのため、単純な魔力でも増幅され、多くの人形を動かすに至ったのだろう……というのが僕たち魔法研究家の意見だ」

「なるほど……わかったわ。なんとなく」


 ヴェロニカの説明は、納得いくものであったと思う。まあ、少々ややこしいのは認めるが。


 それにしても、ジルダが改造された理由は、やはりわからないのか。わかっていたこととはいえ、治せるのではないか、と思っていたのでショックは大きかった。

「それと、彼女は王都の外の研究施設に移動させるぞ」

「ええっ? どうして?」

 ルクレツィアはヴェロニカに尋ねたが、自分でも何となく答えがわかっていた。

「王都では、彼女の姿は目立つ。それに、いつ暴れだすかわからないものをいつまでも王都に置いておけない」

「……そうよね」

 ルクレツィアは聞き分けよくうなずいた。その通りだ。魔法で改良されているジルダは、いつ暴走してもおかしくない。それがわかっているのなら、できるだけ人の多い場所からは遠ざけるべきなのだ。


 ルクレツィアも、魔法が制御できるまでは、魔法訓練を人が少ない場所で行った。魔法の手ほどきをしてくれたのはこのヴェロニカと先代のアルバ・ローザクローチェであるが、2人がルクレツィアよりも強大な魔法力を持っていたから付き合ってくれたのだ。まあ、今ではルクレツィアとヴェロニカ、どちらの方が魔力が強いかわからないのだが……。


 つまり、魔法は制御できなければ危険なのだ。自分自身の力であるから、自分でコントロールするしかない。他人が押さえつけることができないわけではないが、それは絶対ではない。だから、魔法が暴走するのであれば人気のないところに連れて行くしかないのだ。真っ先に危険にさらされるのは、魔法が使えない普通の人間たちだから。


 ジルダは、元に戻れないのであれば魔法をコントロールするすべを身に着けるしかない。もしも自分で制御できるようになれば、能力によっては『夜明けの騎士団アルバ・カヴァレリーア』の一員になることも可能だろう。


「姫様!」


 ルクレツィアがヴェロニカの一連の説明に納得を示したころ、エラルドがあわてた様子で走ってきた。彼は振り返った無表情のルクレツィアとヴェロニカにビビるが、すぐに立ち直って口を開いた。


「大変ですよ! 城の入り口まで、第二騎士団の人たちが来ています!」

「!? どういうこと!?」

「ジルダさんを引き渡せって。今、フェデーレ様が対応してますけど……」

 エラルドの言葉に、ルクレツィアは颯爽とスカートをひるがえした。

「すぐに行くわ。それまで持たせて」

「わかりました」


 エラルドが来た道を駆け戻っていく。グランデ・マエストロがいない以上、ルクレツィアが『夜明けの騎士団』の最高責任者だ。ただ、『15代目アルバ・ローザクローチェ』の姿に着替える必要があった。

 ヴェロニカと通りかかった女性職員に手伝ってもらい、ルクレツィアは手早く全身黒のアルバ・ローザクローチェの姿に着替えた。黒いスレンダーなドレスに黒いブーツ。肩にはマント。さらに黒い手袋に、髪は茶色から銀に戻す。そして、銀の顔の上半分を覆う瀟洒なデザインの仮面に同じく銀の長い杖。15代目アルバ・ローザクローチェは黒と銀で構成されていた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


 ルクレツィアはそう言って歩き出したが、ヴェロニカが後ろについてきた。どうやら見守ってくれるようである。何となく、ヴェロニカがいればできるような気がするから不思議である。


「何の騒ぎですか」


 笑みを含んだような声。ルクレツィアに気づき、『夜明けの騎士団』の騎士や職員たちは彼女に向かって礼を取る。『夜明けの騎士団』の一員になると、アルバ・ローザクローチェには礼儀をはらえ、と叩き込まれるのである。

 乗り込んできた第二騎士団の人数は結構多かった。総勢で50人はいるのではないだろうか。しかし、ルクレツィアが本気を出せば、1人で何とかできる人数でもある。

「閣下、お久しぶりです」

「ええ。お久しぶりですね、コルシーニ分隊長」

 ジルダの歌劇団の座長の詐欺事件の時に会った分隊長である。まあ、ジルダに用があるのであれば、その詐欺関連の話だろうけど。


 ヴェロニカによると、詐欺事件騒動は鎮火しつつあるが、未だに座長に騙されたと思っていない人物もいるらしい。どれだけうまく売り込んだのだろうか。

「用件を教えていただけます? ああ、結構です。セレーニ伯爵?」

 分隊長に発言の隙を与えずにルクレツィアはずっと対応してくれていたフェデーレに説明を求めた。彼は一度ルクレツィアに礼をしてから話しはじめた。


「こちらが保護したジルダを引き渡せ、とのことです。何でも詐欺事件に関する事情聴収を行うのだとか。それだけならば、この城で行っても良いと申し上げたのですが、何としても第二騎士団の事務所の方に連れて行くとおっしゃられまして」

「なるほど。それでこの騒ぎですか」


 何度かコルシーニ分隊長が口を挟もうとしたが、フェデーレは口を挟ませずに言い切った。ルクレツィアも間髪入れずに相槌を打つ。

「我々は正当な要求を行っているだけです」

 怒鳴りたかっただろうに、我慢して冷静に訴えたコルシーニ分隊長は偉いと思う。ルクレツィアは口元に笑みを浮かべた。

「ええ。そうでしょうね。ジルダさんに事情聴収を行いたいと言うのであれば、それはあなた方の正当な要求でしょう。それは認めます」

「でしたら」

「しかし、この大人数でいらっしゃっては、セレーニ伯爵が身構えてしまうのも無理ないことと思いませんか? まるで、わたくしたちと一戦交えてでもジルダさんを連れて行くと言っているようです」


 そう。ただジルダの事情聴収を行いたいと言うのであれば、この人数は必要ないのだ。彼女が暴走することを考えても10人もいれば事足りる。それを、50人近くも集めてやってきたのだ。ルクレツィアは口調を変えた。


「あなた方には犯罪に関する調査を行う権利があるように、我等には魔法を行使する者、魔法の影響を受けた者たちを保護する義務がある。この義務が脅かされる場合、わたくし15代目アルバ・ローザクローチェはあなた方への協力を拒否する」

「もちろん、ジルダに危害を加えるつもりはありません!」

「当然です。ですが、現実としてあなた方はジルダ一人を連れて行くのに50人近くの人数を動員したのです。魔法の暴走が怖いのであれば、わたくしたちの中から誰かを一緒に派遣させます」


 ルクレツィアの言葉は彼らの心情をついたようだ。コルシーニ分隊長が唇の端を引きつらせる。ルクレツィアはため息をついた。


「魔法が怖いのは理解いたします。しかし、次からはこのような騒動を引き起こすような行動は慎んでください。次があれば、わたくしは国王陛下に正式に訴えます」

「……申し訳ありません。万全を期そうと思い、やりすぎたようです」


 コルシーニ分隊長の殊勝な言葉に、ルクレツィアは「ものは言いようだな」と思った。彼の言葉は魔法に対する恐怖をのぞかせなかった。


 ラ・ルーナ城にめぐらせてある結界と認識変化の魔法により、この騒動は王都の住人には気づかれなかったようであるが、あまりよくないことであるのは確かだ。『夜明けの騎士団』とその他騎士団の関係の悪さが改めて突き付けられたからだ。


 結局、ルクレツィアは数人の魔術師をつけてジルダを一度、事情聴収に送り出した。とはいえ、彼女は座長が犯罪に関わっていること以外はほとんど何も知らなかった。それはすでに確認済みである。おそらく、記憶操作の類であろうが、自分がどうして魔法による身体変化を行うに至ったのかも覚えていないのだ。

 ジルダにつけた魔術師は、彼女が暴走したときのためのストッパーであり、そして第二騎士団から彼女を護るための保護役でもある。最終的に、ジルダは少々憔悴しているものの、無事に帰ってくるのだが、この時はまだわからなかった。


「……やっぱり、魔術師に対するイメージを何とかしたいよね」

「突然何を言い出すんだ、お前は」


 仮面は取っているが姿はアルバ・ローザクローチェのままつぶやくと、そばにいたフェデーレからツッコミが入った。魔術師、魔法使いたちへの偏見があるのは事実で、それは『夜明けの騎士団』の全貌が見えないのが理由の一端を担っているのではないか。ルクレツィアはそう思っていた。


「まあルーチェはそんな事を心配するより、自分のことを心配すべきだろう。もうすぐ社交シーズンだ。ちゃんと新しくドレスは作ったか?」

「うるさいわね、余計なお世話よ、わかってるわよ、このままラ・ルーナ城に泊まり込みたい」

「それはさすがに無理だな」


 自分から聞いてきたくせにそんな返答をするフェデーレは、やはり意地悪だと思った。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


無事に第2章が完結しました。次は第3章です。

第3章では恋愛要素を増やせるといいなぁって思っています。


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