00.プロローグ
がっつり魔法が出てくるファンタジーは久しぶりな気がします。
今回もコメディー目指して頑張ります!
デアンジェリス王国王都フィオーレ。その大通りでは現在、壮絶な追いかけっこが行われていた。
追いかけられている方は1人。体格からして男だろう。対して追いかけているのは3人。2人は女性で、1人が男性である。
「そこの男! おとなしく止まりなさいっ」
「言葉が変ですよ、姫!」
追いかける方の女性が仲間の男にツッコミを入れられる。シルバーブロンドを束ねた彼女は、同行している男女2人に向かって言った。
「エラルド、ヴェラ! 私は回り込むから、2人はそのまま追いかけて!」
そう言って早速2人から離れて脇道に入ろうとする彼女に、男性の方がツッコミを入れる。
「ちょ、1人で行く気ですか!? ほら、ヴェロニカもつっこんで!」
「……頑張りたまえ」
「ちっがーうっ!」
ツッコミ1人と言う過酷な状況に、彼は半泣きであった。
路地裏に入ったシルバーブロンドの女性は、自分たちが追いかけている男の行く先を予測し、曲がりくねった路地を走り抜ける。
「この辺りかしら」
独り言をつぶやくと、彼女は建物の屋根によじ登った。そこから下を見下ろす。
「あたりね」
少し離れているが、追いかけられている男と、それを追いかける仲間が見えた。彼女は口角を吊り上げると、担いでいた弓を持ち、矢をつがえた。
狙いを定める。矢じりを中心に、魔法陣が展開した。
「射抜け」
矢を放つ。その矢はまっすぐに飛び、そして、逃げる男を――貫かなかった。
その矢は男の進路の先に突き刺さり、石畳は破裂した。小規模爆発であったが、驚いた男は足を止める。その男を、ツッコミ役の仲間が確保した。それを確認してから彼女は屋根から飛び降りる。地面に軟着陸すると、仲間たちに駆け寄った。
「ご苦労様。さて、こいつを引っ立てるわよ」
「はあ。頼みますから、1人で突っ走らないでくださいよ」
逃げていた男を縛り上げながら、仲間の男は疲れた風情で言った。シルバーブロンドの彼女は笑って「ごめんごめん」と謝る。
一方、1人だけ違う方向を見ていたもうひとりの仲間の女性は、突然振り返って言った。
「何か来るぞ。構えろ」
その言葉に、それぞれ弓と剣を構える。一方の注意を促した女性は、身の丈ほどもある杖を構えていた。
ふわりと、甘い芳香が風に乗って感じられた。頭がぼうっとしてくる。
やはり、初めに気付いたのは杖を持った女性だった。パッと自分の口と鼻を手で覆う。
「2人とも、このにおいをかぐな!」
杖の飾りがしゃらん、となる音に、2人ははっとした。と、同時に強い風が吹く。足を踏ん張るのが大変なほどの風だった。
「! おい! あいつは!?」
杖を持つ女性が叫んだ。シルバーブロンドの女性と剣を持つ男は先ほどまで男を転がしていたところを見た。
「っ! 逃がしたっ!」
シルバーブロンドの女性の声が、夜の王都にこだました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。