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>AIDAはその子のどこが好きなの?


「どこって言われてみるとなー」


パソコンのキーを叩きながら独り言を呟く。

俺の生活はシノにフられる前と後ではかなり変化してしまった。 まさにビフォー&アフターである。

部屋には何故か少女漫画が自動的に増殖していくし、生活スタイルも何もかもが変わってしまった。

が、大きな変化をもう一つ挙げるとすれば、この顔も声も知らない友人の存在にあるだろう。

十一月も終わろうとしている今日この頃、パソコンのチャット画面に向かい合いコーヒーを飲んでいる俺。

チャット、というかメッセンジャーというらしいこれは会話相手の『YOU』というやつに教えてもらったものである。

このYOUというやつは以前俺が投稿小説サイトで読んだ小説の作者であり、気まぐれでメールを出したところ何故か返信が帰ってきて、それからちょこちょこやりとりしているうちに何故か気があってしまったという奇妙な関係である。

しかしYOUとの関係を俺は結構気に入っていた。 YOUは俺にとっては先輩作者であり、色々と問題点を指摘してもらったり相談に乗ってもらえるからだ。

それにYOU自身、ちょっと変わったやつだがしかしいいやつであり、同い年であるらしいことから何となく親近感を抱いていたのである。

そして彼女(彼?)には何故俺が執筆を始めたか、そして現状までほぼ全て筒抜けに話してあった。

そんなこんなで執筆の息抜きをしたいと考えていた時都合よく入った誘いに乗った俺に対し、YOUはふと、思いついたように質問したのである。

シノのどこが好きなのか、といわれるとちょっと考えてしまう。

性格はアレだし、まあ他はカンペキなのだが性格はアレだし、やっぱり性格がアレだしなあ・・・・。


>・・・・自分でも情けないことに、わからないんだ


結果、俺はひどく意味不明な返答をしていた。

人を好きになるからには理由があるものだろう。 俺の書く小説の主人公にだって理由くらいある。 理由がなければその思いはなんだか安っぽくなるし、そもそも意味もなく人を好きになるなんてことがそうそうあるとは思えない。

『誰でも良かった』わけじゃない。 シノだからこそ好きになったんだと思う。 だから無謀にも告白した。

あのとき本屋で見た笑顔は殺人的なまでに可愛かった。 容姿・・・容姿、確かに容姿なのかもしれないな。


>容姿・・・・・かもしれない


かなり不安な入力だった。 見た目だけかよ! とYOUに突っ込まれる気がしたのだ。

しかしYOUは特に俺をとがめるでもからかうでもなく、ごく冷静に、


>今はそうとしか思えなくても、きっとAIDAの中にある理由に気づくはずだよ


「・・・・・・・・・・・俺の中にある理由?」


>どういうことだ?


すぐさま質問する。


>AIDAが本気でその子のことが好きなのはよくわかってる。 だから、なんの意味も理由もないってことはないと思うよ。 今はわからなくても、きっとAIDAはその子のどこかに恋をしたんだから


なんだかものすごくいいことを言っている気がする。

しかしなんだか照れくさかったので俺は執筆途中の小説を読んでもらいアドバイスをもらうことにした。

YOUのおかげで執筆に詰まることはほとんどなくなったと言ってもいい。 YOUのアドバイスはいつも的確でわかりやすい。

心強い師匠を得たおかげでやる気も内容も充実してきている。

そして何より、自分自身小説を書くことが楽しく感じられるようになってきたのである。

それから俺は時々イオリにも執筆途中の小説をプリントアウトし読んでもらうことを始めた。

最初にイオリに小説を渡した時、


「うわーーーー! 本当に書いてるとは思わなかった!」


と、とんでもなく失礼な発言をしやがった。

しかし休み時間いっぱい、真剣な目で読んでくれたのだからまったくもっていい奴である。

思えばこいつのおかげで今の自分がある。 感謝してもしたりない気持ちを込め、コーヒーを奢る。 缶の。


「正直わけわかんないところがいっぱいあるけど・・・・」


「がくーっ!!!」


「でも、すごく一生懸命で、この主人公のことは好きかも」


「マジかっ!? ホントか!? ウソじゃないよな!?」


「う、うん・・・・・」


「そっか・・・そっかそっか、そっかあ! ありがとなっ、イオリっ!!」


嬉しさのあまりイオリを抱きしめた。

目を白黒させている親友イオリを置いて俺は屋上から教室へと駆け下りていく。

原稿を手にしたまま教室に飛び込み、本を読んでいたシノの手を引いて教室の外に連れ出す。

イオリ同様目を白黒させながらついてきたシノは『何?』といわんばかりに首を傾げる。


「と、とりあえず半分くらい出来たから・・・・読んでくれないか?」


もうここまできたら気合と根性と努力で押し切るしかない。

原稿用紙を手渡すとシノはその場で俺の書いた本を読み始める。

ものすごく大したことのない内容で、へったくそで、でもこの二ヶ月俺はこのことだけを考えてがんばって来たのだ。

出来れば認めてもらいたい。 俺の二ヶ月を。 必死でがんばった日々を。

シノの口で、がんばったねと、言ってもらいたい・・・・。



とか、考えてるとどうせロクなことにならねーんだよなー・・・・。



「ふう・・・・・稚拙ちせつ


聞きました奥さん? ふう・・・稚拙。 ですって。

そりゃないぜ・・・・そのため息やばいって。 胸を貫通し背中から飛び出していったよ。

もうだめだ、このままトイレにでも入ってそのまま出ないで引きこもりたい気分になってきた。


「まだまだね。 添削したいところはいっぱいあるけど・・・・・・・でも」


顔を上げ、少し呆れたように微笑みながら、彼女は言った。


「根性なしかと思ったら、案外がんばったじゃない」


原稿を俺に突っ返すと微笑を浮かべながら去っていく。

さて、それで俺がどうしたかというと、とりあえず廊下の壁に向かって頭突きを繰り返した。

血が流れ始めた頃友人たちがやってきて俺を止め、保健室へと連行された。

しかし寝ている気はさらさらしないので保健室を抜け出し自宅に走るとそのまま続きを執筆したのであった。



そして驚くべきことにそれから俺はシノとよく喋るようになった。

翌日、額に包帯を巻いて登校した俺に何故かシノの方から話しかけてきてくれたのだ。

それからはもういけるとこまで行ってやる! としかいえない後先考えない俺はとにかくシノに話しかけまくった。

そうして声をかけていると、意外とシノは付き合いやすいやつだということがわかってくる。

嫌な事は嫌だとはっきり言うシノは一緒にいればいるほどお互いの摩擦が少なくなっていき、気づけば何の気兼ねもなく語り合えるようになっていた。

時々辛辣な言葉が口から飛び出すがそれは事実でありいじけたり逃げたりするほどのことではない。

シノは一日中誰かと関わっているのが嫌らしい。 俺はタイミングを見計らい、一日数分間だがしかし確実にシノとの時間を増やしていった。

もっぱらシノとの話題は自作小説についてだったが、俺が一方的に喋っていてもシノは笑顔で話を聞いてくれる。

自慢じゃないが恐らくこの学校で今一番シノと仲がいいのは俺だろう。 いやこれは自慢だ。 シノ狙いの生徒は沢山いるだろうし。

まさかこんなにうまくいくなんて! とにかく幸せいっぱいの俺は必死で小説を執筆した。

俺と彼女をつないでいる絆はこの駄作な小説であり、これを出来る限り良作に近づけることが俺の義務だと思ったからだ。



そんなこんなで季節は流れ十二月。


「アイダっ」


随分と冷え込み始めた駅のホームで首に巻いたマフラーに深く埋もれていると背後から声がかかった。

なんだか久しぶりに聞く声。 俺の隣に立ったイオリはやはりチェック柄のマフラーに顔を埋めながら微笑んでいた。


「イオリじゃん。 なんか、久しぶりだな」


「なんか久しぶりだな、じゃないよー・・・・最近榎本さんとばっか一緒にいるからだよ・・・・メールもあんま返してくれなくなっちゃったし」


「え? そ、そうだっけ・・・・? あ、悪い・・・・・・いや、でも執筆が忙しくってさ・・・・・っ」


何故か言い訳している俺。 イオリはほっぺたを小さく膨らませながら腕を組んでいる。


「ねー、久しぶりにどっか寄って行かない? 駅前の喫茶店とかさ〜」


「俺、家に戻ったらすぐ執筆するつもりだったんだけど・・・・」


「・・・・いいからっ! 行くったらいくの!!」


なんだかわからないが今日のイオリは不機嫌だった。

強引に電車に押し込まれた俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべまくりながらガタンゴトンとゆられること十五分。

イオリに手を引かれ喫茶店に入るなり席に着いたイオリは俺の正面でむすっと不機嫌そうな顔をしている。


「えーと、イオリさん・・・・もしかして怒ってらっしゃいます・・・・?」


「見てわからないのかなワトソン君・・・・あたしはすごく怒っています」


と、言われてもイオリが怒るようなことはしていないと思うのだが。

全く心当たりがない分逆に不安になってくる。 もしかして気に入らないことでも知らないうちにしてしまったのだろうか?

ここは先手必勝、パフェでも奢って機嫌をとるに限る・・・・。


「イオリ、チョコパフェ食べるか? お前好きだったろ」


「・・・ダイエット中です!」


「・・・・・・・・・・・・・・杏仁豆腐食うか?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


やばい。 本格的に怒っていらっしゃる模様。

本当に理由が見当も付かないだけにかなり冷や汗モノである。

しばらくしどろもどろしながら水の入ったグラスを口にし、窓の向こうに目をやっていると、


「アイダさ・・・・・・・榎本さんともう付き合ってるの?」


「ぶふーっ!!!」


盛大にお冷を吹き出した俺。 かなり唖然としているイオリ。

何事もなかったかのように装いながらお手拭でテーブルを拭く。


「別に付き合ってねえよ。 榎本とは・・・・・友達と言えるのかどうかも怪しいな」


「そうかな・・・・榎本さんが笑ってるの、アイダと一緒にいるときだけだよ?」


「そう・・・・・・だっけか?」


言われてみればそうだったかもしれない。 俺の知っている、いや、俺のイメージの中のシノはいつもすまし顔で本を読んでいた。

しかし最近俺が知ったシノは思っていたよりよく笑う、思っていたより普通の女子高生だった。

いつの間にかなれてしまった彼女の笑顔。 少しだけ昔と今との差に奇妙な気分になった。


「でも、付き合うのは遠そうだ。 もう一度告白する勇気も、いまのところないしな」


「そっか」


いつものイオリらしくない少しだけ大人しい笑顔になんだか調子が狂う。

そういえばイオリと会うのは随分久しぶりな気がした。 一ヶ月前は毎日のように一緒に登下校していたのに。

執筆のせいで生活スタイルが狂い始め、ついでにシノと話すようになってからは一緒に話すこともメシを食うことも少なくなった。

いや、最近はめっきりなかったように思う。 シノと仲良くなることが嬉しくて俺はいつもシノの近くに居た。

だからだろう、きっと最近のイオリの姿が記憶にないのは。


「何かあったのか・・・・? なんか、元気ないぞ」


「えっ? あ、いや・・・何か・・・・・・あった・・・けど・・・・・でも、なんでもない」


「なんだよ、言えよ? 俺、お前の事本当に親友だと思ってるんだぜ。 そりゃ最近はほったらかしにしちまったけど・・・・・」


そうだ。 今の状況だってすべてはコイツの一言のおかげだ。

イオリがいてくれなかったら俺は今までがんばってくる事も出来なかっただろう。

ぜんぜんシノとは関係のないところで一緒に遊びに行くことも多かった。 バカみたいにカラオケで長時間歌ったり、深夜、ゲーセンを追い出されたり。

だから本当に感謝しているし、イオリとはこれからもずっと一緒にやっていきたいと思っている。


「何かあるなら言ってくれよ。 俺、お前のこと助けてやりたいんだ」


「・・・・・言ってもどうせ、榎本さんのとこにいっちゃうくせに」


いつになく卑屈っぽいというか、いじけた声で呟いた。

その手を取り、俺は首を横に振る。


「シノのことは好きだけど、でもダチが苦しんでるのに何もしないくらいならシノのことは諦めるよ」


「ほんと?」


「ああ。 それにシノはそのくらいで俺のこと嫌いになるようなやつでもないしな」


「ふーん・・・・・・・そっか・・・・そうなんだ」


相談してくれる気になったのか、はたまた俺の言葉がおかしかったのか、少しだけ機嫌よくわらったイオリは、


「パフェ! チョコパフェおごりね!」


「いや・・・・さっきダイエット中って・・・・」


「たったいまダイエットは終了したのだよっ、ワトソン君っ!」


ですよねー。


理不尽すぎる物言いとその後の妙なハイテンションに振り回されながらも楽しいひと時を過ごした。

家に帰るなりパソコンの電源を入れてメッセンジャーを起動する。

たまたまログインしていたYOUに声をかけるためキーボートを叩いた。


>YOU、今大丈夫か?


すぐさま画面に返答が来る。


>大丈夫だよ。 こんばんは、AIDA。 それで、どうかしたの?


>どうかしたってわけじゃないけど、友達って大事だよな。 YOUにもすごく感謝してるんだ。 ただそれが言いたくて。


>急におかしなことを言うんだね、AIDA。 でも、私もAIDAのことは大好きだよ


とにかく今はこの小説を完成させようと思った。

しかしふとキイを叩く手が止まり、天井に視線が向かう。


「俺・・・・・」


この小説を書き終えたら、どうなるのだろうか?

これからも小説を書いていくのだろうか? それとも・・・・。


なんとなく、全てが終わってしまう気がする。


そんな不安をかき消すため、俺は集中して執筆を続けた。





さて、さらに事態が急展開したのはそれから数日後のことだった。

慌てて帰宅した俺はいつものようにYOUに相談を持ちかける。


>YOU聞いてくれ!


>やあAIDA、どうしたの? 今日はすごく唐突だね。


>で、デートに誘われたんだ・・・・俺はどうすれば・・・・


>デートって、AIDAが好きっていう子に?


>ああ・・・・・・


震える指でキーを叩くせいで何度も誤字る。

誤字を打ち込むたびに慌てて修正し、会話を続ける。


>明日一緒に水族館に行く事になった。 かなりベタな場所だが狙ってるんだろうか。


>うーん、それはどう考えてもデートだけど・・・・なんだか急だね。


>確かに急だが・・・・・これを逃すともうチャンスがない気がする・・・・。


>そうかもしれないね。 思い切って行って来たらどう? ついでに告白しちゃえば。


>sだkfはlkrgはれgなえrlままままてまいぇまやまてそこまでするのか!?


>少し落ち着きなよAIDA。 でもいずれは言うつもりなんでしょ? 早いの越した事はないと思うけど。


ですよねー。


>わ、わかった・・・・考えてみる・・・・。


>うん、応援してるよAIDA。


くそ、YOUのやつ人事だと思っていつもと同じテンションですごいことをいいやがるぜ。

だがしかしYOUの言うとおりなのもまた事実・・・・。


「どちらにせよ明日の日曜か・・・・・・大丈夫か、俺・・・・?」



そして翌日。

駅前で待ち合わせをすることになっていたので俺は待ち合わせ時間より三十分早く駅前で待っていた。

何を着ていくか本気で迷ったが、結局かっこつけても仕方ないのでいつもどおり、普段着で来ることにした。

髪型はちょっと念入りにセットしたのは秘密である。

天気は生憎曇り。 午後からは雨が降るとの予報だったが、屋内施設だし問題ないだろう、たぶん。

しかし、実際にこうして待っていると特に緊張はしなかった。 というか最近はシノと一緒にいても緊張しなくなったのである。

何となく友達のような関係にはなっていたし、あいつも今は突然無慈悲に俺に言葉を振りかざすことはなくなった。 たぶん。

しばらく待っていると十分前にシノはやってきた。

漆黒のワンピースの上に厚手のブレザー、首には真紅の長いマフラーを巻いている。

というか黒と赤オンリーの配色である。 かなり独特の存在感をかもし出しながら優雅に歩いて来る。


「待ったみたいね」


待った? ではなくすでに推測し決め付けるあたりこの女といったところである。


「待った待った。 もう少し早く来いよな」


「それは悪かったわ。 さ、行きましょうか」


駅前から出ているバスに揺られること二十分。

たどり着いた水族館は俺が小さい時に何度か来たことのある場所で、しかし随分綺麗にリニューアルされていた。

その外観に驚いているうちに急に雨が降り出し、俺たちはあわてて中に駆け込んだ。


「いきなり降りますか・・・・前途多難なデートだな」


「そうね・・・・もしかして相田君って雨男なのかしら?」


「それはない。 俺は出かける時いつも晴れだった」


「じゃあわたしが雨女なのかしら? いつも出かけると雨が降るもの」


ですよねー。


両サイドに広がる一面の巨大な水槽の中をよくわからない魚たちが泳いでいる。

俺たちは特に何か喋るでもなく、時々その水槽の前で足を止めては自由に泳ぎまわる魚たちを眺めていた。

水槽の蒼い光に照らされたシノの横顔はいつもより割り増しで可愛く見える。

だまって肩を並べる時間は心地よく、最初は大して興味もなかった水族館そのものが楽しく思えてくる。


「イルカのショー、中止みたいね」


本来ならばイルカたちが多彩な芸を見せてくれるはずの空が吹きぬけたプール。

中央部に広がるイルカたちのステージには雨が降り注ぎ、その周囲を取り囲む客席に座ってシノはそれを眺めていた。

屋内だから大丈夫? んなわけねえ。 恐らく水族館で一番のイベントがこれでナシってことだ。 くそったれ。

とまあ、そんなことは特に気にならなくなっていた。 シノの隣に腰掛けると今日一日ずっと気になっていたことを口にする。


「どうしていきなり『デート』なんだ?」


シノは俺を誘うとき、『遊びに行こう』でも『付き合って』でもなく『デートしよう』と言った。

だから俺はあせったし混乱した。 ただ遊びに行くということであれば慌てる俺ではない。 たぶん。

相変わらずすました顔で雨が作り出す無数の水面の波紋を眺めているシノは、ゆっくりと口を開いた。


「してみたかったのよ、デートが」


そりゃまた安直な。


「相田君、わたしのことが好きなんでしょ?」


「ごっほ!! ぶほっ!!!」


口にしていたコーラを吹き出す・・・のは必死で堪え、思いっきり咽る俺。

シノはあの時と変わらない強気な瞳で俺を見ている。


「二ヶ月前、そう言ってたわよね」


「ああ・・・・・二ヶ月前はな・・・・二ヶ月、前はな・・・・・・・・」


何故か二度繰り返した。


「今はどうなの?」


ですよねー。 そう聞きますよねー。

ってどういう意味だ? もしかして嫌われてるのか?

なんだかまずいことでもしたのだろうか? しかし最近はいたって普通の友達づきあいだったし、それに仲もよかったし・・・・。


「ねえ、どうなの?」


YOU!! YOU〜〜〜〜!!! 助けてくれー!!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・好、き・・・・だよ。 二ヶ月やそこらで、嫌いになれるわけ、ねえし・・・・」


あーあ、言っちゃったよ・・・・。


「あんなに酷いこと言われたのに?」


「正直落ち込んだよ。 泣くかと思った。 でも、言われるままってのは悔しかったし、見返してやるって意味でも・・・・」


「がんばって小説書いたのね」


「そうだよ・・・・・それがどうかしたのか?」


「ううん、ただ、バカだなあと思って」


平然とそんなこと言わないでほしい。 泣きたくなってくるから。


「人を好きになるのって、どんな気分?」


どこか寂しそうに、悲しそうに、しかし理解できないとでも言うように、シノは眉を潜めていた。

隣に座ったまま、俺はシノの顔ではなく降りそそぐ雨を眺める。


「俺も最近までは知らなかった。 苦しかったり、悲しかったり、悔しかったり、でもちょっとしたことで嬉しかったり、がんばろうって思えたり、バカみたいに周りみえてなかったり、でも・・・・・」


「でも?」


「楽しいし、生きてるってカンジがする。 それを俺に教えてくれたのは、四月のシノだった」


桜の花びらが舞い散る中、それを見上げながら憂鬱な表情をしていたシノを今でも鮮明に思い出せる。

その瞳の向こう、シノが何を考えているのか知りたいと思った。

ああ、そうなのかもしれないと、ようやく気づく。

シノの目はいつも不安そうで、寂しそうで、人との関わり方がわからないと語りかけてくる。

結局彼女の強気は発言も全ては自分を傷つかせないための防衛手段なのかもしれない。

なんとなく、知っていたのかもしれない。 俺は・・・。

彼女が、本当はかなりの寂しがり屋で、いつも誰かと関わりたいと思っているということに。


「そう・・・・・相田君、思いのほかかっこいい人だったのね」


「今頃俺の魅力に気づいたか」


「調子に乗らないの」


下らないやり取りで笑いあう。

ため息をついて無人の水槽を眺めていると、隣に座っているシノが俺の手を取っていた。


「今度は相田君が教えてくれる?」


「何をだ?」


「人に恋するってことがどういうことなのか」


顔を寄せ目を閉じ、シノは微笑んだ。

いくらなんでもうまく行き過ぎていると、このときの俺は心のどこかで気づいていた。

けれどシノが本当は寂しいやつだってことも、俺がシノを好きだってことも、多分ウソなんかじゃないから。


その肩を抱き寄せて、唇を奪った。





真冬の屋上はいつもどこか乾いた風が吹き抜けていく。


あれから俺たちは付き合っているでもなく、しかし友達でもなく、不思議な関係になっていた。

シノは最後の最後の部分で俺を拒絶しているように思えた。 しかしそれでも構わなかった。

俺に笑いかけるその姿が、彼女の中に僅かでもいい、笑顔が続くのならば。

冷たい風が吹き込む中、黒髪を揺らしながらシノはフェンスに指を絡ませる。

どこか遠い場所、ここではない何か、いつもシノが見ているのはどこか遠い場所だった。

その手を取り、肩を叩く。


「そろそろ戻ろうぜ」


「そうね」


俺のことは置いてさっさと階段へ向かって歩いていく。

相変わらずそっけないなあと思いながらため息をついて振り返ると、シノは扉の前で腕を組んで待っていた。


「・・・・おいていくわよ?」


「へいへい」


少しくらいは変わったのかもしれない。

これからも変わっていく。

きっといい方向へ。


少なくとも俺は、そう信じていた。



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